(18) 専属護衛
お待たせしました。本日分の更新になります。 お楽しみください。
本日の腎炎を発症しているかどうかの検査をクリアしまして、8月の溶連菌騒動から解放されました。(わーい)
現在、更新時間は迷走中です。 面白ければ、ブックマーク、評価、布教をお願いします。(拝礼)
東国で重傷を負ったアッシュに、療養中にリハビリと称して手合わせを強要したのは、同じく重傷を負ったサイラスだった。
二人は治療担当だったシルビアにこっぴどく怒られている。
その頃、同じく怪我をしていたカイルも、病室を抜け出し行方不明になって大捜索になり、王族と専属護衛達によって『三大問題児』の称号を得ていた。
「あの時は……本当にひどかったものねぇ……」
リルは顔を伏せて、思い出した光景の笑いに耐えた。
「私はサイラス様に巻き込まれた被害者のはずなんですが……?」
やや恨めしそうに、専属護衛は守るべき平民の主人を見つめた。
専属護衛がメレ・アイフェスの誘いを断るのは、不敬にあたる。サイラスには強制の意向はなくとも、周囲はそう判断しない典型例だった。おまけにサイラスは、そういうことに無頓着だったことをリルは知っている。
「サイラスは本当にアッシュとの手合わせを楽しんでいたから」
「――」
「若長ハーレイ様とイーレ様しか練習相手にならないって愚痴をこぼしていたところに、アッシュ様が現れちゃったから、もう喜んで喜んで――飛鋲をもらった時なんて、1日中ニヤニヤして子供みたいだったよ」
「養い子に子供と評される大人はいかがなものか……」
「だって、本当にそうだったもの」
なんとも反応に困る逸話だ、とアッシュは短い息をついた。
対等な鍛錬の相手がいなかった、という当時の状況は理解できた。それほどサイラスの武術の腕は飛び抜けており、第一兵団の教官として、セオディア・メレ・エトゥールから推挙されている。
そのメレ・アイフェスに対等な訓練相手としてお眼鏡にかなうとは、名誉なこととも言える。
だが、専属護衛からメレ・アイフェスへの贈答品が、飛鋲のような東国製の暗器であったことがバレれば、その非礼を断罪されアッシュの首が飛びかねないのだ。
「あれは一応、暗殺用に隠し持っている携帯武器なんですが……」
「うん、サイラスが暗殺者になりたくてアッシュの元に入門したいのか、って焦っちゃった」
アッシュは苦笑した。
「サイラス様はイーレ様の弟子ですよね?」
「うん、そう」
「サイラス様はイーレ様の弟子をやめる気で?」
「え?なんで?」
「多分、イーレ様と私は対極にいます。光と闇と言ってもいい。イーレ様は、理不尽な殺人や暴力を許さないタイプでしょう。サイラス様が私のような汚れ仕事をすれば、間違いなく破門にするのでは?」
「破門にされても再入門試験を受けると思う」
「……………………破門の定義とはいったい……」
アッシュは突っ込みをいれた。
「サイラスがやらかすと、イーレ様が反省を促すために破門にして、再入門にめちゃくちゃ難易度の高い試験を課すって言ってた。過去に5回ほど破門されているって」
「は?」
「再入門試験で、裸・武器なしで猛獣が跋扈する密林に突き落とされたりしたって……四つ目使いのアードゥル様の方が、武器を持たせてくれただけ、イーレ様より善良だって言ってたよ」
「……………………善良……」
さすがに東国のダカンの屋敷で死にかけたアッシュには賛同しかねる判断基準だった。
あの時のアードゥルは殺人鬼に近く、事実、ダカンの屋敷の生存者はリンカをはじめとする30名の下働きだけだった。
その殺戮者アードゥルが善良扱いされるとは、サイラスの師匠であるイーレは悪鬼羅刹の女帝なのだろうか?
今後は逆らうのはやめておこう、とアッシュは密やかに思った。
リルが所有する王都での店舗は、いまや完全に住居の用途でしか使われていない。商売の中心は、いまやアドリーに移行している。
アドリーの店舗は完全に従業員にまかせ、リルは専属護衛と共に、こっそりと移動装置を使って、東国から必要なものを仕入れてアドリーに送る毎日を送っている。
リルはカイル達が設置した移動装置を使って、必ず王都にある店舗兼自宅に戻るようにしていた。
アッシュに送ってもらい、家にたどりついたリルは、裏庭に荷馬車を納め、アッシュが城に戻るのを見送った。
住人が存在しない城下町は、夜になると灯がなく闇につつまれる。なるべく太陽が完全に沈む前に、リルは家に戻るようにしている。
アッシュの送迎も手間がかかることを考えて辞退したのだが、それはカイル達が許さなかった。
過保護だ――過保護はもしかしたら、メレ・アイフェス達の専売特許かもしれない、とリルは思った。
リルは裏口から閉鎖されている店内を抜け、階段をのぼっていく。
「ただいま」
サイラスが使っていた部屋をのぞくと、寝台に固まっていた存在が反応した。白い耳の大きな子狐が3匹ほど寝台から転がり落ちるようにかけだすと、揃ってリルの腕の中にダイブしてきた。
3匹もいるが、重さは感じず、負担にはならない。精霊獣の心配りかもしれない。
お帰りなさい
留守番をちゃんとしたよ
今日も変わりがない
言葉ではない心象が伝わってきた。
リルは彼等とは違い、寝台から動かない寝たままの仔竜姿の精霊獣達を見つめた。
サイラスの精霊獣だ。