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(17) 無人の王都

お待たせしました。本日分の更新になります。 お楽しみください。


現在、更新時間は迷走中です。 面白ければ、ブックマーク、評価、布教をお願いします。(拝礼)

 リルは無人になった広大な王都の中で、(かたく)なに自分の家から離れようとしなかった。エトゥール王の命令で、大災厄後、住人全員がアドリーに移住している。その中で、無人の王都の管理人という口実に飛びついている。

 

 理由はただ一つ、サイラスとの思い出の詰まった場所を離れたくなかったからだ。


 エートゥールでサイラスと共に手に入れた家を離れれば、思い出が少しずつ消えていくような気がしてならなかった。それは無人の家に埃がゆっくりと知らぬ間に降り積もることに似ていた。


 一般の住人と違い、リルだけに密やかに滞在の許可が出ているのは、リル自身が物流の担い手であり、生活の維持を自己完結できること。リルがメレ・アイフェスの養い子であること。『世界の番人』という精霊の代表格である存在を身に宿すことになりエトゥール城に引きこもり生活をせざるを得ないカイルと、それに付き合うファーレンシアとその娘、侍女や専属護衛達に対して専任の御用聞きは必要だったことも、理由としてあげられる。


 いまや、あれだけ繫栄し、住人と訪問者でにぎわっていた広大で美しい王都は無人だった。街は封鎖され、人気が全くなく、遺構のように静かだった。

 かつての住民が家財道具を持ち出す時だけ、第一兵団の同行で一時的に訪問が許された。帰郷は許されていない。

 民は嘆きつつも、孤立している機能が麻痺している王都での先の見えない暮らしよりも、与えられた新都アドリーでの新居生活を始めていた。


 アッシュの質問に答えつつも、本当にいつか心の整理がつき、アドリーに移住する日がくるのだろうか?

 リルにもわからなかった。


「ほら、ウールヴェが貴重種になったから、今の無人の王都の方が、強奪される心配ないし」


 リルはおどけたように専属護衛に言ったが、これも口実の一つにすぎない。

 ウールヴェは、セオディア・メレ・エトゥールが管理し全てを把握している。エトゥールの民が新しくウールヴェを発見したら、すぐに報告をあげるべき貴種になっている。強奪をたくらむとしたら、それは他国の人間になるだろう。

 アッシュは、リルが絞り出した苦しい言い訳には、何も突っ込まない。


()()は眠ったままですか?」

「……………………うん」


 彼等とはサイラスが所持していた肩に乗るくさいの大きさの5匹の仔竜型の精霊獣のことだった。過去にアッシュもサイラスからその世話を押し付けられた一人だ。


 5匹の精霊獣は、サイラスが死ぬと同時に、消失するわけではなく深い眠りについた。その姿は重さのない彫像のようで、リルは今まで動いていたことが夢幻じゃないか、と不安になった。

 リルの3匹のウールヴェは、動かない彼等を守るかのように仔竜のそばから離れない。だからいつも留守番をさせている。


「早く、サイラス様が戻ってきて、叩き起こして欲しいものです。世話を押し付けられた時は、どうしようかと思いましたが、今は伝言の運び手がいなくて不自由しています」

「――」


 アッシュは平然と重大な発言をして、リルは思わず隣にいるアッシュの顔を見つめた。


「アッシュはサイラスが戻ってくると思っているの?」

「当然です。メレ・アイフェス達がそう言ってますから。そもそも、主人が死ねば消失する精霊獣がこの世に残っていることがその証ですよね?」

「でも……でも……」


 メレ・アイフェス達は口をそろえて言っていた。サイラスについては大丈夫だ。ただ、地上に戻ってこれるかは、未知数だが――、と。

 導師ディムのように地上と天上を行き来できる存在は特別中の特別で、カイルやイーレ達は一度、天上に戻ると二度と戻ってこれない可能性があるそうなのだ。

 だから一度、天上に戻った扱いになるサイラスが、もう一度、地上に降りることが許されるかわからないと言う。

 彼等は、一度死んだサイラスがまるで生き返るような口ぶりだった。


 記憶にはないが、リル自身が全身に火傷を負ったらしい。治療された記憶が一切ない。だが古傷がなくなっている綺麗な肌が、彼等の言葉の正しさを証明していた。

 メレ・アイフェスには可能なのかもしれない。


「本当にサイラスは戻ってくるのかなぁ……一度、死んだのに……」

「あの人はしぶといですからねぇ。大量の四ツ目相手にも生き残るし、案外熱湯をかけても死なないタイプなのでは?」


 サイラスが害虫扱いされている……。いや、生命力の比喩だ。


「………………アッシュ様……」

「おっと、失言失言。メレ・エトゥールには報告しないでください」


 東国人の専属護衛は、しれっと詫びた。

 寡黙のようなふりをして、この東国人の口が悪いことは、リンカに聞かされていた。寡黙なふりをしていればエトゥール語の理解が乏しいのだろうと周囲は解釈し、様々な会話が目の前で展開され、情報収集には事欠かないらしい。

 もう、それは立派な間者だろう、とリルは思った。

 リンカは、アッシュの口が悪い時は、相手に対して心を許している時でもある、とも言っていた。

 

「あの人は何でもない顔で地上に戻ってきて、私に『手合わせしようぜ』と言いそうで、恐怖におののいているだけです」


 アッシュの次の言葉に、リルは思わず噴き出した。

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