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(16) 養い子

お待たせしました。本日分の更新になります。 お楽しみください。


現在、更新時間は迷走中です。 面白ければ、ブックマーク、評価、布教をお願いします。(拝礼)

 御者台のアッシュが、二頭の角の生えた馬を器用に操り、手慣れた様子で荷馬車を旋回させる。それを確認したリルはその前方にある城壁に目立たないように組み込まれた小さな金属板にふれた。


 次の瞬間、積み石で構築された城壁は幻の様に消えた。


 代わりに金属の扉が現れて、それが音もなく上に巻き取られてく。

 ありえない仕掛けで、それはエトゥールの城門にある落とし格子に似て、非なるものだった。そこには荷馬車が通れるだけの小さな空間と、城外の街へと繋がる道が現れた。


 リルが簡単に仕掛けに満ちた裏口を出現させるのを見ていたアッシュは、呆れたような深いため息をつき、珍しくがくりと肩を落とした。

 東国出身の専属護衛は呻いた。


「…………メレ・エトゥールが、簡単に許可するから、あの人達はエトゥール城をどんどん魔改造をしてしまう」

「あはははは……」


 リルは、虚な笑いで同意した。魔改造――その表現は正しい、とリルは思った。


「…………なんですか、これは」


 アッシュの半眼の視線は、完全にリルを魔改造の共犯者としてみなしている。誤解です――リルはそう言いたかった。


「えっと…………私の荷馬車が城下町に行きやすいように、カイル様とクトリ様が作ってくれた裏口。ほら、いちいち荷馬車を通過させるために、城の正門の落とし格子を開けるのは、人手がいるでしょ?私のわがままのために、そんな労働が発生するのが申し訳なくて、カイル様に悩みをポロリとこぼしたら、カイル様達が即……その……ね?」

「その時の情景が不思議と目に浮かぶようです。……まあ、貴方が彼等にふりまわされている日常の対価と思えば、まだまだ足りませんが……」

「いやいやいやいや」


 専属護衛の賢者への酷評に、リルは手を左右にふって、擁護した。


「過剰なほど、世話してもらってますってば」

「エル・エトゥールと同様に彼等を甘やかしすぎでは?」

「甘やかしていないし、逆にこんな風に甘やかされている立場です……」

「養い子だから、当然でしょう」


 リルは苦笑する。

 養い親が死んだ現在、養い子と名乗っていいのだろうか?


「……しかも、変な形状の落とし門だ」

「『しゃったー』とかいうカイル様の国の防火機能のある鎧戸だって」

「『鎧戸』と言う割には、布のように巻きとられてますね」

「薄い布みたいに見える金属だけど、エトゥールの城門の落とし格子より頑丈だとカイル様が言ってた」

「…………」


 追求することを諦めたアッシュが身振りで通っていいか、と聞いたのでリルは頷いた。

 馬は出現した城壁内のトンネルにたじろぐことなく、荷馬車を素直に引いていく。荷馬車が街側に出たことを確認したリルは自分もトンネルを抜けて、道にたどりついた。

 再び、反対側の城壁にも組み込まれている小さな金属板に触れる。


 上の空間に収納されていた金属板がするすると降りてくる。完全に下まで薄い鎧戸が降りると、金属扉は周囲と同じ城壁に擬態された。


「……これは、どういう仕掛けで?」

「視覚と触覚の擬態って、カイル様が言ってたけど、よくわかんない……」


 リルは正直に答えた。

 アッシュは、御者台から飛び降りると、先ほどまであったはずの金属扉を覆い隠した城壁部分に触れた。


「なるほど、触れた感覚は城壁の石部分に思えるし、扉部分の境目がわからない」


 アッシュはぶつぶつとつぶやいて検分する。


「アッシュ様?」

「音もなかったし、これを使って侵入できれば、簡単に仕事を完遂できそうですね」


 メレ・エトゥールを暗殺しにきた元刺客である東国人は真顔で言った。

 アッシュの経歴を知っているリルは、冷静に突っ込みをいれるのを忘れなかった。


「メレ・エトゥールはアドリーだし、そもそも私にしか開けない設定になっているし、アッシュ様はちゃんと別の侵入路を確保しているし、今は仕事を完遂しなくていい専属護衛になったでしょ?」

「おお、そうでした」


 アッシュは、指摘にぽんと手をうって、現在の任務を思い出したように御者台に戻った。リルもその隣に乗り込む。

 荷馬車は静かに城下町に向かって動き出した。

 リルの予想通りアッシュの方が話題を振ってきた。


「…………ところで、アドリーの店舗の方に、移住される予定は?」

「やっぱりその話だよね……」

「リンカがしつこいほど、聞いてくるので」


 リンカは、リルが雇用主の立場である東国人の店員で、アドリーの店舗をまかしている30代の女性だ。アッシュと同郷の昔馴染みで、二人は大災厄後に縁を結んでいる。リルはアッシュの正確な実年齢を知らないが、リンカの話から察すると十歳以上の年齢が離れている歳の差婚だ。


「アッシュ様も奥さん(リンカ)には弱いんだ」


 ここぞとばかりに、リルはアッシュをからかった。養い子はそれぐらいは許される立場だった。


「…………その『も』という表現はなんですか」

「私の周りの大人で、奥様に勝てる御主人は、一人もいないような気がする」

「…………………………」


 専属護衛は沈黙をもってその事実を認めた。


「…………それで、アドリー移住の件は?

「もう少し、心の整理がついたら考える」


 リルは簡潔に答えた。


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