(15) 改良案
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そしてメレ・アイフェス達が全員、精霊獣に宿れるわけではないことをリルは知っている。
サイラスも精霊獣に宿ることができるのかと思ったら、サイラスは全力で否定をしたのだ。
「俺をあんな規格外達と一緒にしないでくれ」
エトゥール城の城壁を軽々と跳躍で越えられるサイラスは、規格外に入らないのか、と当時のリルは突っ込みたかったが、賢明にも黙ることにしたのだ。
そもそもサイラスは自身で5体のウールヴェと絆を結んだくせに、その世話はリルを初めとする関係者に丸投げしていた。
多分、地上で初めて遭遇したのが、体高15メートル以上の巨大猪に等しい野生のウールヴェだったことがサイラスの心的外傷になっているらしかった。
リルもその場に居合わせたが、全てをなぎ倒す害獣である巨大ウールヴェが突進してきたら恐怖を感じない者はいないだろう。
全てを破壊する野生のウールヴェは、唯一例外のように精霊獣の扱いがされない大陸共通の害獣なのだ。
手のひらに乗る毛玉サイズのウールヴェの幼体が、成長して狼型になったり、鳥型になったり、可愛い兎型や鼬型になったりすることが、サイラス曰く「いでんしりろん」を無視して不気味すぎる、と毛嫌いしていた。
精霊獣は元々、精霊である『世界の番人』と『御使い』や加護と呼ばれる特殊能力を持つ貴族が使役する生物という位置付けだった。
大災厄前は、東国の商人が白い毛玉のような精霊獣の幼体を大量に仕入れて、市がたてば必ず屋台がでた。
愛玩動物に金貨数枚を支払えるのは、貴族か金持ちだけだ。
その成長後の姿は、主人たる使役者の絆と加護の力量次第と言われており、いろいろな動物種に成長するのは常識的な話だった。
それをサイラスに説明したが、彼は頑固に首を振った。
どうやら、精霊獣というものは、メレ・アイフェス達の国には存在しないらしい。リルには、勇敢なサイラスが精霊獣に怯える理由が理解出来なかった。人間を襲う「四つ目」という目が4つある黒豹のような魔獣の方がマシとは、暴言すぎた。
むしろ、成長したウールヴェにまたがって、空間を跳躍したり、憑依したりする彼等の方が特異な例のはずだったが、その点については、見事にメレ・アイフェス達は棚上げをしていた。
たびたび、カイルとロニオスの荷馬車改良の提案は脱線した。
馬が不要の荷馬車など、『荷馬車』ではない、と当たり前のことをリルが賢者と猫に指摘をし、暴走を食い止める必要があった。
自走の『荷車』って、すごそうだ、とリルも正直に言えば、興味が引かれたが、明らかに『冷える輸送箱』とか『氷をたくさん作れる仕掛け箱』同様に世間を混乱させるに違いなかった。
リルが却下すると、カイルは残念そうに『動く砦』の絵の下に、『自走の荷車』の図面をすべりこませた。
こっそり開発するつもりだろう、とリルは諦めの悪いメレ・アイフェス達の様子に頭が痛くなった。サイラスも時々、子供っぽいところがあった。メレ・アイフェス達は、そういう特徴を共通で持っているのかもしれない。
再び養い親を思い出して、リルは切なくなった。
結局、荷馬車改良案は結論までたどりつかなかった。
「悪いね、リル。明日も来てくれるかな?」
「はい、もちろんです」
「明日の朝までには、基本計画の図面を仕上げて――」
カイルの失言は、ファーレンシアの微笑に遮られた。
その完璧な微笑から放たれる、エトゥール王並の威圧に、少女と金髪の賢者と猫の精霊獣は、ガタガタと震えた。
「し、仕上げるのは無理だから、もう少し時間が欲しいかな」
「も、もちろんです」
『て、徹夜など、論外だな、うん』
「おわかりいただいて幸いですわ。高級紙没収とお酌禁止令を出すところでした」
さらにファーレンシアは、恐ろしいことを言った。
今、暫定的にリルの専属護衛である東国出身のアッシュは、それを目撃し、ボソリと感想を述べた。
「さすが兄妹と言うべきか、威圧の仕方と恐喝が鬼畜王とそっくりですね」
ファーレンシアに睨まれても、東国出身の元暗殺者は平然としていた。