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(14) 東国の酒

お待たせしました。本日分の更新になります。 お楽しみください。


現在、更新時間は迷走中です。 面白ければ、ブックマーク、評価、布教をお願いします。作者の励みになります(拝礼)

 激しすぎる絶望感の伝播にリルは若干、身をひいた。


「あの……ロニオス様?何を嘆いていらっしゃるか、わかりません。風味が落ちないためには、冬場ぐらい気温が低ければいいんですよね。冬の運搬はダメですか?」

『残りの期間を酒なしに過ごせと?』

「ああ、なるほど、問題はそこですか。でも冬場に1年分を仕入れても、結局、現状は変わりませんよね。保管倉庫の確保と温度の管理はできませんし……」

「ちなみに、1年の量を保管すると仮定して、必要な倉庫の大きさはどのくらいだい?」


横からのカイルの質問にリルは考え込んだ。


「……………………エトゥール城の敷地ぐらい…………?」

「……………………」

「……………………」


 リルの返答に、カイルとファーレンシアは、揃って白猫を見つめたが、猫の方は露骨にその視線を避けた。


「ロニオス?この酒量はどういうことかな?僕は、こんなに注文した記憶がないけど、不思議だなあ。1年でそれだけなら、リルの東国の倉庫を1ヶ月分でも圧迫しているよね?」

「あ、週3でこちらに運びこんでいるので、それほどでも――」

「つまり、週3回はリルは移動装置を起動して東国に行っていると?ロニオスの酒だけのために?」

「……そ、そうとも言いますね……」


 リルは、ちらりとロニオスを見て、思念をこっそり送ってみた。


『ロニオス様、注文の追加分は、もしかしてカイル様の了承なしで……?』

『うむ』


 これは怒られるパターンだろう、とリルも視線を彷徨わせた。


「ロニオス?」

『ほ、保管場所が問題なら、地下拠点に保管すれば……』

「誰がそんな量をそこに運び込んで管理するの?僕もあなたも入れないし、アードゥルやエルネストに頼めば、小間使い扱いに酒を破棄する方を選びそうな気がするよ」

「お義父様、人でしたら病気になる酒量ですわよ。精霊獣のお姿とはいえ、いささか心配になりますわ」

「能力が枯渇していて彼は手酌ができないからね。ファーレンシアと侍女がお酌を控えれば、自然に節制になるよ」

「ああ、なるほど、そうですわね」

『なんて助言をするんだっ!』


 衝撃を受けたように白猫は、尻尾を太くして、涙目でエトゥールの妹姫を見つめ、同情を買おうとした。

 その魅了作戦にファーレンシアが負けた。


「……変わらず、お酌をさせていただきます」


 猫そのもののように、ロニオスはファーレンシアの返答に満足げに喉を鳴らした。


「ファーレンシア、甘やかしすぎ」

「カイル様と同じ金の瞳なので、ついつい甘やかしたくなってしまうのです」


 絶妙の応答に、カイルはぐっと詰まり、少し顔を赤らめた。

 それを見守っていたリルは、これがイーレ様がよく言う『夫を手のひらの上で転がせ』に違いないと、頭の片隅にメモした。


「えっと、今後はどうしたらよろしいですか?」


 リルは恐る恐る尋ねた。大口顧客の消失の危機でもあった。

 カイルもそれを察していた。


「リルの負担には、なっていない?」

「大丈夫です」


 カイルはちらりと猫を見た。

 猫は先ほど、妹姫を口説き落としたものと同じ懇願の視線をカイルに照射していた。

 カイルはその視線に負けて、天井をふり仰いだ。


「……とりあえず継続で」

「では、今までと変わらず、手配しますね」


 リルは、ほっとした。

 カイルは逆に心配そうに、リルを見つめた。


「何か他に問題ない?ロニオスが迷惑をかけてない?」

『失礼な』

「貴方は酒に関して問題児じゃないか」


 カイルは、ロニオスを睨んだ。


「あ……最近、東国の造り酒屋が揃って値上げの動きが見られます。足元を見られている可能性があります」

「東国が潤うばかりで、大災厄後のエトゥールに不利になるような取引は、問題だな」


 カイルは血縁者がひそかに引き起こしていた問題に、吐息をついた。




 このロニオスという名の精霊獣は、リルにとって不思議な存在だった。白猫の精霊獣の姿をしているが、中身は500年前に地上に降臨した導師(メレ・アイフェス)だという。


 もともとカイルなどは絆を結んだ精霊獣のトゥーラに精神を宿し、空間を跳躍することができて、どこにでも出没していたし、リルも目撃したことがあった。

 だからメレ・アイフェスが精霊獣を自由自在に操れることも理解しているつもりだった。


 だが、理解にいきつくまでの行程に問題がなかったわけではない。いろいろあった。


 最大の混乱は、大災厄の時にいつのまにか、地上に現れていた茶髪の長身の導師が、『精霊様』と同じ声で喋った時だった。


 リルは卒倒しそうなくらい混乱した。

 この人は、人型の精霊なのか?それとも導師なのか?


 カイルは混乱しているリルに後者だと説明した。


 リルが『精霊様』と思い込んでいた導師ディムは、最初は声だけだったり、白い虎型の精霊獣で出現したりもした。

 だから、リルは世界の番人の使いである『精霊様』だと、長い間勘違いしていた。養い親のサイラスが、リルの勘違いを知っていながら否定しなかったことが、最大の原因でもあった。

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