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(13) 荷馬車

お待たせしました。本日分の更新になります。 お楽しみください。

現在、更新時間は迷走中です。 面白ければ、ブックマーク、評価、布教をお願いします。(拝礼)

 荷馬車は、それを専用に取り扱う商人から購入することが普通だ。彼等は代々付き合いのある馬車大工と深い繋がりがある。おそらくこの図面は、その秘匿技術を簡単に暴いている。

 メレ・アイフェスはいまや、『魔導師』などとあだ名されているが、『魔技師』の方が似合っているかもしれない。

 カイルはリルの視線に気づいて微笑んだ。


「馬車大工と利権は衝突しないようにするよ」


 カイルはリルの懸念を完全に理解しているようだった。


「どうやってですか?」

「外観はそのままで、王家の紋でもいれて、文句が言えない状況にするとか、いろいろ手段はあるよ」


 予想外のとんでもない提案で、かくりとリルの顎が落ちた。


『エトゥール王家の紋で、かえって盗賊どもの標的になるのではないか?』

「襲撃はセオディア・メレ・エトゥールへの宣戦布告に等しい行為で、襲撃の抑制の方向に働くと思うけど?」

『…………一理あるな』

「でも、その盗賊ごときは撃退できる仕様にしたいな。いつも、アッシュが専属護衛についてるから心配はしていないけど、非常時には籠城できるくらいの防御力は設定したい」

『ふむ』

「…………籠城……あの、荷馬車の話ですよね?」

「もちろん荷馬車の話だよ」

「砦でも作るのかと思いました」

「馬でひける車輪つきの砦かい?なかなか面白そうだ」

『できないこともない』

「ごめんなさい。冗談です。荷馬車でお願いします」


 描いている設計図の片隅に、カイルが巨大な砦に車輪をつけて16頭の馬がひいている絵をサラサラとかきだしたのを見て、リルは慌てて詫びた。

 リルの制止がはいり、白猫とカイルは、揃ってすごく残念そうな顔をした。


 止めなければ、移動する砦を開発検討する気だったのだろうか――リルは不安になったところで、そばにいるファーレンシアと目があった。

 全てを心得ているとばかりに、賢者を御せる偉大な人物の一人であるファーレンシア・エル・エトゥールは、リルに強く頷いてみせた。


「カイル様、動く砦は兄向けの道楽にして、今は優先的にリルのための荷馬車を作ってあげてください」

「そうだね」


 そう頷いたが、動く砦のラフ絵の紙だけは、引き抜いて仕分けされた。おまけにそこに一緒に描かれていた馬車図面は、改めて清書しているのをリルは見逃さなかった。


 将来的に『エトゥールの動く砦』みたいなものが出現するような悪い予感が、リルの中で生まれた。メレ・アイフェス達が、無邪気にとんでもないことをすることは養い親で経験済みだ。


 カイルは中断していた荷馬車の改良設計を再開した。


「軽くて丈夫な材質にして、馬の負荷も軽減しよう」

『いっそうのこと馬の品種改良もすればよい。本職のディム・トゥーラに相談すればいいだろう』

「あ〜〜、いいアイデアなんだけど、馬狂いの人物が飛んできそうで怖い……」

『誰のことだ?』

「カストの大将軍」

『は?』


 猫の精霊獣は、怪訝そうな顔をした。


『なぜカストの大将軍が出てくる?かの有名な隻眼のガルースことだな?』

「あの人、ディム・トゥーラと意気投合しちゃって、精霊獣を馬型にしちゃった……」

『――』


 猫は首を傾げた。


『カストはエトゥールの敵国で、反精霊信仰のはずだが?精霊獣は悪魔の使いという扱いの位置だったと記憶している。なのに、カストの大将軍が精霊獣と絆を結んだと?』

「そうだよ」

『それが、どうしてそんなことに?』

「詳しくは、弟子(ディム)にきいてよ」


 カイルは面倒な説明を回避した。


「リル、何かリクエストはあるかい?」


 問われてリルは考えた。


「防水性能が欲しいかもしれません」

「防水?」

「最近、天候の急変が酷すぎて、雨が荷馬車の中まで降り込んだり、幌の布目から雨漏りしたりするんです。養生が甘いと、書物や高級紙が全滅しそうで――」

「すぐに対策するよ」


 書物と高級紙の世界最大の消費者であるメレ・アイフェスは真顔で即答した。


『紙を死守するなら、酒の品質も死守してくれ』

「酒は貴方の個人的な範疇でしょ?」


 カイルはつれなかった。


『高級紙も個人的な範疇だろう?』

「僕は博物誌の挿絵という世界の文化発展に貢献しているんだ。飲兵衛と一緒にしないで欲しい」

『何を言う、酒は古代から存在する向精神薬の薬学文化の一つだぞ。私も絶大な文化の発展維持に貢献している』

「…………物は言いよう……」


 カイルは呆れたような視線を精霊獣に向けた。


『酒は繊細な薬物だ。温度管理が出来ないことで、どれだけ酒の風味が失われると思っているのだ。高温の影響で香りも失われているのだぞ』

「そうなんですか?」


 リルはその情報に驚いた。飲酒をしないリルには風味などは理解できない。


「東国の酒の輸入も、劣化防止のため冬場だけの商いに徹するべきですか?」

『そんな恐ろしいことを言わないでくれ』


 品質保持のための提案のはずなのに、ウールヴェの思念は絶望の悲鳴の調子でリルの脳に伝わった。

恋愛ジャンルに登録しながら、なかなか恋愛ネタまで辿り着けない件について(土下座)

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