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(12) 願いごと

お待たせしました。本日分の更新になります。 お楽しみください。


現在、更新時間は迷走中です。 面白ければ、ブックマーク、評価、布教をお願いします。(拝礼)

 どこまで本気だろうか――リルは精霊獣の主張に困惑した。

 カイルは椅子から立ち上がると、リルの膝の上を占拠している猫をつまみあげた。


「ロニオス、僕同様に地下拠点に入れない癖に無責任な提案をしないでくれる?」

『私達の代わりに、エルネストもアードゥルも気象研究員も入れるだろう。なんだったら、私が馬車改良の設計図を描いてもいい』

「羽根ペンも操れないくらいに能力が枯渇している癖に何を言ってるのさ」

『もちろん、私が君に図面を思念投射するんだ。描き起こすのはペンを握れる君の仕事だ』

「……………………」

『立っている者は親でも使え、というなら、実子を使ってもいいはずだ』


 カイルの口元がピクリとひきつった。


「…………………………………………」

『だいたい、私はこの若き商人の労働環境をよくしようと思っているだけだ。まさか、それに反対するということは、あるまい?冷蔵技術はともかく、なぜ、荷馬車の改良がいけないのだ』

「…………………………………………」

『交易路を整備するという手もあるが、東国国内から街はずれの屋敷までで、他国(イストレ)の管理の範疇だろう?だったら懸架装置(サスペンション)を作った方が効率がいいだろう?』

「さすぺ……?」


 メレ・アイフェスの会話に、また知らない単語がでてきて、リルは首を傾げた。

 カイルは翻訳する説明の言葉を考えた。


「えっと、道の凹凸を馬車本体に伝えない緩衝装置と言えばいいかな。乗り心地はよくなるよ」

『何を言う。陶器類を布に巻かなくても割れないくらいの衝撃吸収は確保するぞ』

「それは結局、酒瓶運搬のためだろう?!」

『だから、そうだと言ってるだろう』


 陶器類を布で保護する必要がない――リルは、その技術に、軽く口を開けた。つまりは繊細なガラス細工などの調度品も扱えるということだ。


「…………ほ、本当に?」

『お茶の子さいさいだ』


 白い猫は、にやりと笑った。


「…………商品が割れないし、お尻も痣にならないってこと?」

『加えて長距離輸送の疲れは、なくなるだろう』


 リルは白い猫とともに、キラキラした目でカイルの方を振り返った。


 その反応にカイルは、少女であるリルにお尻が痛くなる苦行の運搬業をやらせていたという事実に気づき、大いに反省をした。


「…………もっと早く気づいてあげるべきだった……ごめんよ」

「ううん、いつもはサイラスが御者をやってくれて――」


私は荷馬車の中で休ませてもらったから、楽だったの――と言いかけた言葉は、リルの口の中で消えた。




 サイラスは、もういない。




 不意に襲われた悲しみの波に溺れないようにリルは唇を噛み締めた。


「リル」


カイルは優しくリルの頭を撫でた。なんとなく、その手のひらから癒しの波動を感じた。


「カイル様……」

「大丈夫、リルの願いは叶うよ」


 願い――リルが望む願いごとは、ただ一つだ。

 もう一度、サイラスに会いたい。


 リルは耐えきれず涙をこぼした。


「……クトリ様は……サイラスが帰ってくるって、言ったけど……」

「うん」

「私がお婆さんになる前に、帰ってきてくれるかなあ……?」

「大丈夫だよ」


 カイルは、泣いているリルを軽く抱きしめて、慰めた。




 泣いてしまったリルをファーレンシアと侍女達は、甘い果汁と大量の菓子で慰め、甘やかした。

 さらにリルを慰めたのは、多数の精霊獣達だった。かわるがわる顔をよせてくる精霊獣達は、『泣かないで』『大丈夫』と言っているような気がした。


 一方、白い猫とカイルは、すごい勢いで荷馬車本体から、細かい部品一つまでの図面を描き始めた。

 賢者って、荷馬車大工にもなれるんだ――と、リルは唖然とした。


 記憶力のいいカイルは、何度か見たリルの荷馬車の外観を全て覚えていて、精霊獣のロニオスは見えない部分の構造を全て理解しているのだろう。

 リルの方が、図面に描かれた荷馬車の構造の詳細に驚いた。


「こんな風になっていたんだ……知らなかった……」

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