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お待たせしました。本日分の更新になります。 お楽しみください。


現在、更新時間は迷走中です。 面白ければ、ブックマーク、評価、布教をお願いします。(拝礼)

「本当に申し訳ない。リルには迷惑ばかりかける」

「いや、カイル様。ちょっと待ってください」


 平民のリルに賢者が頭を下げる――それだけで胃が痛くなる状況だ。頭を下げているカイルは専属護衛を胃潰瘍にした前科がある。その哀れな専属護衛に薬を卸していたのはリルだ。

 リルがエトゥールの聖堂にいるカイルに面会を申し込んだのだが、金髪の賢者は会うなりリルに土下座で詫びてきた。これはあってはならない下剋上だった。


「カイル様、人目もありますから――」

「ファーレンシアから事情をきいたよ。東国の茶菓子の件で、シルビアが暴走したって。本当にすまない」


 あ、ファーレンシア様経由で報告があがったのか――リルは納得したが、この賢者の土下座をどうにかしなければならない。

 だが、聖堂内にいる専属護衛も侍女も、あろうことかファーレンシア姫までが、カイルの詫び姿を見て、笑いをもらしている。

 誰も止めようとしない。


「ファーレンシア様……」

「最近、カイル様が天上のメレ・アイフェスであるディム様に正座をして説教を受けているのが、日常茶飯事になっているので、誰も気にしませんよ」


 いいのか、それで……?

 突っ込みが顔に出たのか、エトゥールの妹姫は微笑んだ。


「彼等はとても遠い国からきた異国人であって、私達がもてはやす『精霊の御使い』とか、『導師』とかである前に一人の人間ですから。カイル様がリルに詫びたいと思う気持ちは、理解できます」


 リルは、目の前で正座している金髪の賢者を見つめた。

 

「えっと……カイル様、()()()()()()()()()、とりあえず立ち上がっていただけないでしょうか?相談したいこともありますし」


 リルの言い回しは功を奏した。カイルは立ち上がると、リルに椅子をすすめて、向かいに腰をおろした。伴侶であるファーレンシアも手招きして、同席をさせた。


「シルビアの件だよね?」

「はい。クトリ様がシルビア様の要望を聞き入れて、「くーらーぼっくす」や「あいすべんだー」とやらを作ると言うのですが、そんな技術が世に出たらまずいのではないでしょうか」

「ああ、なるほど。便利すぎて流通革命に等しい混乱を引き起こすということだね」


 話がすぐに通じて、リルはほっとした。


『いや、作るべきだ』


純白な猫姿の聖霊獣が、3人が囲む円卓の中央に颯爽と出現した。3人は、ぎょっとした。

 驚くべきほどの瞬間技で、カイルがその猫の首を鷲掴みにして捕獲した。動物虐待に等しい荒技だった。


「……ロニオス、邪魔しないでくれる?」


 そのままカイルは精霊獣を自分の前に引き寄せて、笑顔で話しかける。いつもは温和なカイルの顳顬に青筋が見えるのは、気のせいだろうか。しかも目が笑っていない。

 だが、捕獲されている白猫も、まったく動じていない。


『邪魔はしていない。意見を述べている。保冷箱と製氷機は、必要だ』

「どうせ、酒がからむ目的だよね?」

『当然じゃないか』


 リルにはカイルの血管がぷちりと切れた音が聞こえたような気がした。


「リル、ちょっとこのウールヴェを城壁に吊るして来るから、待っていてくれるかな?」

「はい?」

「はいはい、御二方ともそこまで」


 慣れた調子でファーレンシア姫が仲裁して、カイルの手から猫型の精霊獣を引き取ると、なぜかリルの手に預けてきた。


「ファーレンシア様?」

「ロニオス様はリルの手元にいた方が安全なので」


 偉大な精霊獣を膝の上に預かることになって、リルは緊張のあまり硬直した。ファーレンシアは、伴侶に何事か話しかけて落ちつかせようとしている。


『サイラス・リーの養い子よ』


 リルはその呼び方にドキリとした。サイラスはもういない。だが聖霊獣は頓着しなかった。


『いつも東国から酒を仕入れてくれて感謝している。おかげで私の隠居生活は順調だ』

「あ……いえ、いつも注文をありがとうございます」


 なんといってもロニオスは大口の注文主であった。例えそれが東国の米の発酵酒だけであっても。


『で、先ほどの話だが、保冷箱と製氷機は必要だ。だが、そんな技術が世に出ることを君は問題視しているのだろう?』

「は、はい。そんなものが目撃されて、噂になったら……」

『とても聡明な意見だ』


金色の瞳をもつ精霊獣は、リルを褒めた。


『目撃させなければ、いいのだろう?』

「そんな珍しいものがあれば、目立ちます」

『ふふふ』


 猫は笑った。


『君達、商人は酒の入った瓶を割らないように木箱につめるとき、布に巻いたりして保護するだろう』

「ええ、道が悪いので」

『その布に冷蔵機能を持たせてもいいし、水のような液体形状も可能だ』

「……………………」

『普段、使うものに擬態させて、君だけがこっそり使えばいい』


 リルは言われた言葉の意味を必死に理解しようとした。


「えっと、運搬箱ではなく、布をまいただけで冷えるんですか?」

『そういうことも簡単だ』

「水のような液体も?」

『簡単だ』

「重くなるのでは」

『空気のようにほぼ比重を軽くすることもできる』

「えっと……」

『それよりも、荷馬車の改良はどうだね?例えば、悪路の影響を受けないような乗り心地もよくできるが?』

「え?あの……」

『酒瓶が割れるような事故を未然に防ぎたい。そのための開発及び改良に全力を尽くすことは、厭わない』

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