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【新連載】【エトゥールの魔導師2】エトゥールの養い子〜貴方と手を繋ぎたい〜  作者: 阿樹弥生
第2章 貴方に名前を呼ばれたい

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(50) 第2回メレ・アイフェス集合会議⑩

お待たせしました。本日分の更新になります。 お楽しみください。

現在、更新時間は迷走中です。 面白ければ、ブックマーク、評価、布教をお願いします。(拝礼)

「なんか、あったのか?」


 サイラスの問いにカイルは答えなかった。

 カイルの言葉も理解できる。中央(セントラル)の取るに足らない汎用技術も、未開の文明にとっては奇跡の御業(みわざ)なのだ。

 エトゥールだけが大災厄後の恩恵を預かっていれば、混乱の最中である周辺国の不満は高まる。救世主である賢者の身柄を欲するのは当然のことでその機会を狙っている――そういうこともあるのか、とサイラスは状況の説明に納得した。それとともに、カイル・リードの様子に違和感を覚えた。


 観測ステーションにいた時のカイルは、「お人好し」の称号が相応しい稀有な人物だった。研究馬鹿達の過剰な協力要求にいちいち応じていたし、騒動に発展した時はその責任を共に被ったりしていた。

 それはディム・トゥーラが影で研究依頼を管理するまで続いていた。

 昔のカイルなら、情や縁に左右され、むしろ罠のど真ん中を歩いて引っ掛かるタイプだった。

 それが意外にも周辺国に対してドライを超えて冷淡な反応にサイラスには思えた。

 

「えっと……ハニートラップについて、アードゥルの娼館の女達は数に入らない(ノーカウントだ)よな?」

「確認するところはそこ?」


 カイルは呆れたような視線を向けた。


「いや、重要な問題じゃね?」

「まあ、確かにアードゥルの管理下にある女性達はある意味安全だけどねぇ。エトゥールの賢者が放蕩三昧状態なことが大問題といえるよ」

「俺にモラルを期待しないでくれ。それに最近は控えている」


 ふっとカイルは笑った。

 サイラスには、なぜカイルが笑ったのか理解できなかった。

 カイルは再びサイラスの腕をつかみ、談話室から出た。本気で、離れの平屋でまつ養い子と対峙させるつもりらしい。

 このまま、連行をうやむやにしようと思ったサイラスの企みは失敗に終わった。


――うやむや、ダメ。ちゃんと、話す。


「うるせーよっ!!」


 カイルの精霊獣にまで釘をさされ、サイラスは思わず怒鳴り返した。

 人の気も知らないで、なんて犬野郎だ。


――犬じゃない


 こちらも筒抜けだった。

 カイルとともにディム・トゥーラまでが、そのやりとりに笑いを漏らしていた。


「ファーレンシア、ちょっとロニオスのところに行ってくる」

「まあ、いってらっしゃいませ」

 

 カイルが声をかけたファーレンシア姫は

立ち上がり、カイル達に承諾の意をこめて、華麗に一礼をした。

 聖堂が改造された居住区では、姫と侍女達に見守られた愛らしい幼子が玩具で遊んでいた。姫が産んだというカイルの子供だろう。

 サイラスはギョッとした。

 幼児がクッションがわりに背にもたれているのは、大きなぬいぐるみではなく生きた白い虎だった。


「と、虎がいるぞ?!」

「平気、平気。あれがディム・トゥーラの精霊獣だよ」

「はあ?!!」


 サイラスの動揺と問いかけるような視線をディム・トゥーラは予想していたらしく、完全無視を貫いた。





「それでですね。サイラスは未だに名前で呼んでくれないんですよ」

『ほうほう』

「そんなに名前を呼ぶことが、嫌なんですかね」


 リルは吐息をついたが、聞き役の白い猫はケラケラと笑い飛ばした。


『彼は名前を呼ぶのが嫌な人物と行商したり、護衛したりするタイプとは思えないが』

「そうでしょうか?」

『サイラス・リーは面倒なことから全力で逃げ出し、己の欲望に忠実な性格だろうな』

「………………なぜそう思うんですか?」

『私と同じ気配がするからだ』


 純白の猫型の精霊獣がキッパリと言った。

 リルはどこから突っ込んでいいかわからなかった。代わりに、ぷっと吹き出したのは、同じく縁側に腰を下ろしている専属護衛のアッシュだった。

 東国の中年男は、ロニオスの言葉がツボに入ったらしく、笑いをこらえて肩をふるわしながら耐えていた。

 アッシュがこんな反応をするのも珍しい。


「己の欲望に忠実ではないメレ・アイフェスがいるのですか?」

『……………………いないな』


 猫の精霊獣は、専属護衛の非礼とさえも言える突っ込みを否定しなかった。


『そもそも、己の欲望に忠実すぎるから、昔は統率に苦労した。いや、そもそも統率しようとするのが間違いだったな』


 あ、微妙に愚痴が混じっている、とリルとアッシュは察した。初代であるはずのロニオスもいろいろと苦労したらしい。


 リルは城内の一角に構築された東国式の平屋の縁側に腰を下ろし、ロニオスに現状を報告していた。東国の酒蔵の報告から、いつのまにかリルの日常生活に話題はうつっていた。

 リルの最大顧客である精霊獣姿のロニオスは聞き上手と言えた。どこか西の民の占者であるナーヤ婆の雰囲気が似ている。

 リルは酒が減ったロニオスの器に、酌をした。


『ありがとう』


 ロニオスは礼を言い、身を乗り出すと酒をすすり、満足そうに喉を鳴らした。

 どっから見ても猫の反応だった。

 違いは尻尾が複数あることだけで、その尻尾もゆっくりと左右に大きく振られている。

 ご機嫌らしい――猫と同じで解釈するならば。



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