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(10) 謝罪

お待たせしました。本日分の更新になります。 お楽しみください。

現在、更新時間は迷走中です。 面白ければ、ブックマーク、評価、布教をお願いします。(拝礼)

「ちょっと、クトリに相談してきますから、待っててくださいね」

「お待ちください、シルビア様――」


 止める間もなかった。シルビアは淑女らしからぬ勢いで、部屋を飛び出し、アドリーに滞在している同僚を拉致するために消えた。


「…………『芸術的生菓子』なんて聞いたら、シルビア様ならこうなるような気がしました」


 義姉の性格を理解しているファーレンシアが静かにお茶を飲みながら、リルにぽつりと言った。


「ファーレンシア様……」

「巻き込まれたクトリ様は気の毒ですが、仕方ありません。甘味がからんだお義姉様を止めるのは兄でも無理です」

「……………………」


 「シルビアの甘味に対する執念は、明後日の方向に暴走するから気をつけてね」という忠告を過去にカイルから受けたことを、リルは思い出したが、遅かった。

 あとでクトリ様に謝りにいこう、とリルは思った。





「リルが謝ることじゃありませんよ」


 少年姿の賢者(メレ・アイフェス)が、寛大な慈悲の心でリルの過ちを許した。


「でも……」

「シルビアの甘味に関する暴走は今に始まったことじゃありませんし、むしろ毎回リルを巻き込んでごめんなさいと詫びるのは僕達です」


 リルは、クトリが西の民であるナーヤ婆の元に日参していることを知っていたので、翌日に移動装置(ポータル)を使って遠く離れた西の地に飛んだ。


 クトリはナーヤの(いおり)で、クコ茶を堪能していた。少年賢者はすっかり占者ナーヤの茶飲み友達におさまっている。

 ナーヤ婆は相変わらずで、先見の力を失ったという割には、リルの訪問を予想していたかのようにリルの分のお茶が入れられていた。


 占者ナーヤは本当に、先見の力を失ったのだろうか。


「先ほどクトリ坊が、治癒師の無茶ぶりを語っていたからのう。東国の茶菓子を仕入れるのはリル嬢で、傷みやすい茶菓子の話をしたのもリル嬢じゃろ?止められない治癒師の行動について、クトリ坊に詫びにくる商人の律儀さを持ち合わせているのもリル嬢じゃ。こんなものは先見の力がなくても予想ができるわい」

「――」


 ナーヤはリルの思考を読んだかのように言った。

 ナーヤ婆の対面(といめん)で、うんうんと頷きながらクトリがその言葉に同意する。

 リルもナーヤ婆に勧められるまま、クコ茶を口にした。


「それにね、運搬用保冷箱(クーラーボックス)の製作は難しくないから安心してください。たいした手間じゃありませんから」

「くーらーぼっくす……?」

「えっと……箱の中身が冷えた状態を維持できる技術、で理解できます?」

「……………………」


 リルは、しばらくその言葉の意味を考えてみた。確かにシルビアがそんなことを言ってた。保冷が維持できる箱など聞いたことがなかった。

 だが、リルはその技術がとんでもないことに気づいた。


「えええええ?!」


 リルは驚きの声をあげた。


「それって、冬にしか運べない生魚とかも運べちゃうってこと?!練り切り菓子の運搬どころじゃない、もしかしてすごい話では?!」

「あ、やっぱりそうなんですね?普段は川魚料理で、冬しか海魚料理を見ないと思っていました」


 クトリはクトリで、エトゥールの食料事情をようやく理解したらしい。


「だって、エトゥールは内陸だし、移動装置を使っても夏はすぐに腐るもの。北国のような氷室もないし」

「そういえばエトゥールは大陸の中心でしたね」

「西の地も川魚が中心じゃな」


 ナーヤが言うには、西の地も似たような状況らしい。

 

「あとは、塩漬けか酢漬けしか干物になるけど、やっぱり真冬しか運搬できないし、どうしても高価なものになっちゃうの」

「冷凍は?」

「どうやって凍らせるの?」

「保冷箱の温度を氷点下にすれば」

「――」


 リルは目眩を覚えた。メレ・アイフェスはこともなげにいうが、これはとんでもない技術だった。


「クトリ様、作っていいか、メレ・エトゥールとカイル様に相談してもいいかな?いろいろ問題が起こりそうな気がするの」

「そう?」


 クトリは、わかっていないようで、首を傾げる。


「じゃあ、試作品は小さいものにしておきますか?シルビアからの注文は、芸術的なお菓子が100個入るものだったけど……」

「100個……」

「多分、半分はシルビアが食べるつもりだと思う。永続保存がきくタイプが作れるか、とも聞いてきたから」

「シルビア様……」


 エトゥール王妃になったはずの異国の賢者(メレ・アイフェス)の壊れっぷりが酷すぎた。


「僕達もその芸術的なお菓子とやらを食べてみたいですよね、お婆様」

「食べてみたいのう。西の地専用の保存箱も作れるか?」

「作りましょう。あ、製氷機(アイスベンダー)も作ってみますか?」

「あいす……?」


 また変な言葉が出てきた。クトリ様もシルビア様同様、暴走していないだろうか、とリルは不安になった。

 メレ・アイフェスの常識は、エトゥールの非常識――とは専属護衛達がよく言う言葉が頭をよぎる。


「氷を作り出す装置です」

「……冬でもないのに?」

「作れますよ」

「……どうやって?」

「水を氷点下まで冷やすだけ」


 リルはカイルに相談する決意をした。

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