図書館の学者さん
右を見ても、左を見ても、本本本。どこもかしこも本だらけ。紙とインクの匂いがする。
「はわ〜〜〜」
まさしく圧巻、だ。
第1層大都市ランスにある『ノレンス大図書館』
今ある図書館の中では、最も大きく蔵書数の多い図書館だ。
魔導書やモンスター図鑑などゲームならではの本はもちろん、文学作品など現実の書籍のデータをゲーム内にダウンロードして本の形に保存した物まで所蔵されているらしい。
あといくつかの出版社の本は、課金することで個人所有の本としてアイテムがすることができて、その手続きもノレンス大図書館でやっている。
・・・運営の趣味を感じるな。多分かなりの本好きがいるに違いない。
それにしてもこの光景、本はあまり読まないけど、なんか感動する。
「今日はさっさと用事済ませて、また今度ゆっくり見て回ろう」
さぁ、司書さんにでも聞いてみるか。
ことの始まりは、2層であったNPCケインさんのクエストだった。
海の採集物の買取金額がギルドより高いから、暇な時に彼の依頼を何度か受けていたら、10回を超えたあたりで今までとは違うお願い事をされた。
内容は、買い付けた骨董品の回収。
件の品物は、ケインの住むマナロイ島からはかなり遠い、モアラ島の逸れにある孤島の村の住人が持っているらしい。
以前の取引の際には護衛を連れて行ったけれど、どうにも最近道中に強いモンスターが多くて危険。なので旅人の私に、代理人として品物を持って帰ってきて欲しい。
というお願いだ。
取引自体はもう成立していて、あとはお金を渡し骨董品を受け取るだけみたいで、簡単そうだし受諾した。
・・・・・・そこからが、長かった。
まず道中のモンスターが通常より強い。まぁ所詮2層レベルだし、そこはあまり問題ではなかったんだけど。
孤島には泳ぎじゃ行けず、船が必要だ。
しかし定期便はなく、漁師に頼んで連れて行ってもらう必要がある。
見ず知らずのヤツを乗せてくれる人はいなくて、私は彼らの信頼を得るためにお使いだのなんだの、走り回ることになったわけだ。
多分ギルドランクがもっと高ければ、こんなことしなくて良かったんだろうな。
今後はもうちょっと、真面目に冒険者活動しておこう。
やっとこさ孤島に着いたら、品物の引き渡しとかそれどころじゃなくない。
複数のオークが率いる大規模なゴブリンの群れができていて、村はピンチに陥っていた。
村の戦士たちと合流して、毎日毎日ゴブリン退治。時々オーク退治。倒せる相手だけど、兎に角量が多いのが辛かったよ。
ついに村の危機が去り、やっと私のようが果たせると思ったらまた問題発生。
戦いのドサクサで、骨董品とそれのレプリカがごっちゃになってどっちかどっちか分からなくなっちゃったと。
思わず「なっちゃったじゃねーでしょ」って言ってしまった。
通常の『鑑定』スキルでは、2つとも同じテキストがでて来るため、専門家に助けを求めないといけない。
そして持ち主だった男が、大図書館にいるという学者先生なら見分けがつくかもしれない、と言っていた。
なので2つの骨董品?を待って、図書館までやってきたわけだ。
いやあ長かった。マジで。
ここまで来るのにだいぶかけた。でももうそれも終わりだ。
「あっすみません、司書さん。私大図書館に居られるという、学者先生を探してまして」
「学者先生?・・・もしや彼の方でしょうか。しかし簡単にお教えする訳には」
またかよこの流れかよお!!
くそぅ、今度はどんな雑用だ?やってやんよ!
「あのー」
「へ?」
「お弟子さん?」
誰だお前、急に話に入ってきて。弟子?
「ボク、あなたが探してる学者の弟子なのですよ」
「マジですか」
「では改めまして、自己紹介を。ボクはアッシー、プレイヤーです。サブ職が『学者』で、君が探している大図書館の学者先生に弟子入りしている者だよ」
「私はコヒナ。クエストの関係で、骨董品の真贋の鑑定ができる人がいるって聞いて来た」
館内で話すのはよくないって、司書さんが奥の会議室の1つに案内してもらい、そこで学者の弟子アッシーと話をすることになった。
ボサボサの黒髪に眼鏡をかけている男。話し方は丁寧で、今のところサブ職らしい理知的な印象だ。
ロップイヤーの兎獣人か。兎自体男では見かけないのに、ロップは初めてみた。
「へぇ骨董品。確かに先生なら見破れるだろうね」
「本当に!?それで、紹介は」
「構わないよ。代わりに、ボクにもその骨董品を見せてはくれないだろうか」
「ぜんっぜんオッケーありがとうございます!」
見せるだけなら何の問題もないだろうし。
それより、これでようやく終わる!
正直ダルいし途中で辞めようかって何度も思ったけど、頑張ってきて良かったー。
「先生は奥に研究室を持っていて、そこに居られるよ。行こうか」
「はい」
アッシーさんに連れられて行った先にいたのは、如何にも偏屈そうなお爺さんだった。
私の顔を見るなり眉間に皺を寄せて正直怖かったけど、アッシーさんが私がした説明をそのまま伝えてくれて助かったよ。
その後の展開は少し予想外だったな。
お爺さんが自分に見せる前に、アッシーさんに鑑定してみるように言ったから。
確かにサブ職『学者』だし彼もできるのかもしれないけど、教材にされるとは。
2つの品物を見比べながら出したアッシーさんの答えに満足そうに頷いてたし、仲のいい師弟なんだろうな。
よし、もう要件は済んだし出発しよう。
随分とケインさんを待たせてる訳だし、急ぐか。
「じゃあ依頼人のところに持って行くね。ありがとうございました」
「気にしないで」
「何他人事のように言っておるのじゃ。主もこの娘と共に行かんかい」
「「え」」
何言ってるはあんただよ爺さん。
「当たり前じゃろうが。自分の仕事の責任は最後までおわんか!!」
結局、アッシーさんは私とパーティーを組んで一緒に行くことになった。
爺さんの圧がすげぇ。
「あの、すまないね。先生が。でも本当にいいのかい?断れなかったなら、今ボクに言ってくれ。少し怒鳴られるだろうけど、そんなのいつもの事なのだし」
「いや、別にいいよ」
アッシーさんはいい人そうだし、ちょっと行動するくらい問題ないでしょ。
・・・次会う時までに自力でフレンドの1人でも増やして見せないと、また朔夜くんが兄貴面し始めるかもしれないし。
「・・・ありがとう。では、呼び捨てにしてくれ。少しの間だが対等な仲間になるのだから」
「そう?じゃあ改めて、よろしく、アッシー」
図書館には入らなくて、外で待ってもらってたキャワユい使い魔ちゃんたちをアッシーにも紹介してあげて、雑談をしながら移動し始めた。
「アッシーはいつも大図書館にいるの?」
「大体はね。でももうアソコの蔵書は全て読破したから、今は大図書館にもない本を探しているのさ」
「マジかよすごー!本好きなんだぁ」
「ああ!E・Oをやってるのも、拡張された時間の中で読書ができるからだったからね」
おおぅ。ガチの本狂いだ。
「もともとゲームはやらない方だったのだけれど、ストーリーの元ネタに古典名作が使われている物をプレイしたのをきっかけに遊ぶようになったのさ」
「へぇ」
「でも下手すぎて全然進めていなかった時に、手助けしてくれたのが人がいた。彼は良い友人だよ。彼もE・Oをしていて、ココでもいつもボクを助けてくれるのさ」
ずいぶん良いお友達だな、その人。
「じゃあクランは、そのお友達と同じところがいいの?」
「できればそれがいいけど、そんな理由で希望するのもね。彼もまだなら2人で作る事も提案できたのだろうけど、もうすでに所属しているみたいで」
うわぁ、地雷踏んだか?すごいどんよりしたオーラを放ち出したぞ。
というかアッシーのお友達、ちょっとこの人の気持ちを汲んでやれよなぁ。
「コヒナはどこかのクランには所属しているのかい?」
「あ、うん。リアルの知り合いと2人で、私がクラマス。『新月の水鳥』っていう名前」
「え"」
「ん?」
どうしたアッシー、なんかすごい音が今喉から出てきてたよ。
大丈夫か?
「君、さくたろーの身内の人?」
「・・・ひぇ」




