火山
『名前のない島』は、武人たちの武者修行の場。そもそも正確には島ではなく、大部分が海に沈んだ山らしい。
フーリン師匠に聞いた話を思い返した。
あの後構えや足捌きなんかも指導してもらって、最後に金属飾りをもらって解散した。
火を固めたみたいな、特殊な金属から作られた飾り。コレが島を出入りする許可証になると言ってたっけ。
アイテムとしての扱いはギルドカードと同じになってた。
あと、師匠はおっぱいがついたイケメンだった。
そして今日は、自由に出入りできるようになったので、島の探索をするとこになった。
「はー、ほんとに来れたぜ」
さくたろーと一緒に。
島に行ったことをさくたろーに話したらすごい興味を持たれて、何があったのか話したら俺も試してみる!と言われた。
「俺はもうすでに師匠がいてさ、とりあえず島のこと聞いてみたら、お前の実力なら問題ないだろうって許可証貰えたわ。話題に出す必要があったみてー」
「よかったね」
「この情報、情報屋に売らねぇの?伝手が無いなら紹介するぞ」
あぁ、考えたことなかったな。
「ベータテスターとか考察大好きな連中の集まりは元々あったんだけど、それが正式にクランになってな。名前は『暁天ニュース』」
「その名前はダメなんじゃないかなあ!!??」
「私はいいからさくたろーが売ってよ。対価はクランの利益にってことで」
「了解・・・クランといえばさ、新人の加入とかって考えてんのか?」
新人か。そもそもホーム獲得と、後のイベントのために作ったクランだし、人増やすとか考えてなかったな。
「あんま細かい方針とかなしに、各自がゲームを楽しむのが最優先。誰かを故意に陥れたり、揉め事を起こすような奴はダメ。私の使い魔に不満を抱く奴もダメ」
条件はこのくらいでいいか。
「ここを守れるなら知り合い誘っていいよ。そんで加入には、メンバーの推薦とクラマスの承認が必要ってことで。ウィステリアちゃんは大歓迎ね」
どうせ誘いたいのはあの子だろ。
ウィステリアちゃんは私も結構好きだ。騒がしいしうるさいけど良い子だったし、なによりリリスたちを可愛い可愛いと褒め称えていた。
うちの子の良さがわかる人は悪い奴じゃない!
「あー・・・うん。じゃあ今度誘うわ。アイツもお前に懐いてたし」
「いやなんで?」
特に好感度稼いだ覚え無いんだけど。
「もともと俺の従兄弟ってだけで好感度高めだったけど、話してさらに上がったんだろ。信じられる的なこと言ったり」
「チョロくない?」
「俺がいたからそんな感じなだけで、普段はもっとしっかりしてっから」
コイツマジであの子に何してあげたんだよ。リアルの後輩っていったって、どうしたらそこまで懐かれるんだ。
「あーあーその目やめろ。不審者見る目を俺に向けんな・・・ほら!モンスター出たぞ!!山オークだ!!!」
誤魔化したな。
「あれ山じゃないオークもいんのかな」
「3層の樹下には森オークがでたぞ。耐久高いし、しつこい癖にロクな物落とさないから、みんなの嫌われ者やってる」
「オークって、どんなゲームでもそんな感じの扱いだよね」
「ゴブリン系列は大抵なー」
山の頂上に到着した。
「へえ、あれマグマだよな」
「フーリン師匠活火山って言ってたけど、下すごいボコボコ言ってんね」
火口を覗き込めば、奥深くに煮えたがるマグマが見える。落ちたら即死だな。乗り出し過ぎないよう、気を付けないと。
流石ゲーム。現実ではこんな光景見られない。
「チー?」【 疑 】
「どしたの?・・・何してんの!?」
一緒に覗き込んでいたレティがコテリと首を傾げたあと、ぴょいっと穴に飛び込んだ。
あの子は自前の羽で飛べるけど、一瞬心臓止まるかと思った。
「レティ?レティー!どーしたんだーい!!」
「ガンガン降りてくけど大丈夫なん?あれ・・・目が良い使い魔なら何か見つけたのかもしんねぇぞ」
なるほど、遠視で私達にはわかんないとこまで見えてたのか。
あの子に視界を共有してっと、・・・・・・んん?なんか、ある?
「ぼこぼこした壁面に、穴?が、空いてるようなとこがあるように見える」
だいぶマグマに近い位置だ。
「抉れてるだけじゃね?」
「ん〜、いや、人1人入れそうなサイズ」
「へぇ・・・レティちゃんってさ、人抱えて飛べる使い魔?」
「私は平気だったし、多分お前のサイズも飛べると思うけど。てかレティのことちゃん付けで呼ぶなよ気色悪いな」
「呼び捨てにしてもキレるだろ、お前。俺をあそこに連れてって欲しくって」
「ちっ」
しょうがない。
リンクを切ってコールしてやるか。違う魔法は同時に使えないの、こういう時に不便だな。
くそっ!しょうがないけど、まるでレティがヤツに後ろから抱き付いてるみたいに見える。ムカつくな。
そのままギリギリまで降りて足マグマに浸けてしまえ!
「むぅ、無事に穴に入ってく」
さくたろーを置いてレティだけが戻ってきた。このまま私たちだけで帰っちゃダメかな。
「おっ!レティどしたの?可愛いね」
戻ってきたレティが私に後ろからキュッて抱き付いてきた。
キャワゆいな〜愛らし愛おしき〜
「あれー?」
地面から足が離れていく。え、飛んでる?
「待って待って待って!あ、速い。降りるの速い。これもう落ちてる勢いでしょマグマ近いぃぃぃ!!」
必死になって、穴の中に入り込む。冗談抜きに、足滑らせたら死ぬ。
「来たか」
「来たか、じゃねぇんだよお前ぇ!何レティに変なこと吹き込んでんだゴラァ!!」
思いのほか広かった奥では、さくたろーが胡座で寛ぎながら私を待っていた。
ぶちのめしてやろうかクソが。
「それよりマップ見てみろよ!」
「はあ?」
妙にテンション高いな。なんだコイツ。
しょうがないから言う通りにして、何故かすぐに理解した。
ダンジョン『◻︎◻︎の試練』
かつて、私が沼の底で見つけたものと同じ。
「此処、隠しダンジョンだぜ!」




