師弟
今日はアーツの習得のために、道場に向かうことにした。
剣士の『剣術』や弓使いの『弓術』のような、固定の初期スキルの道場は第1層にあるけど、それ以外の物理攻撃スキルの道場は第2層にある。
クエスト報酬でアーツを教えてくれるNPCなら第1層にもいるのかもしれないけど、今のところナイフと鞭の人は見つかってないので、大人しくこっちに来た。
「まずはナイフの方でいいか」
ここで覚えられるアーツは『パリィ』
定番の受け流し技だ。成功すると、その後一時的に攻撃力が上昇する。しかも連続成功で効果が上昇していく仕様。
確かどの武術系スキルも、最初はパリィだったはず・・・鞭で受け流しってどんなんか想像つかないな。
覚えるのは簡単らしいし、ま、ちゃっちゃと習得しますかっと!
そう思ってたのに・・・!
「お主に修行をつけるのは・・・・・・うぅむ」
なんで!?
なんか道場主NPCにめっちゃ渋られてんだけど、なんでだよ!?私なんかした??
えぇ、NPCの好感度落とすようなことした覚え無いんだけど。ほんとなんでぇ?
「お主は強き力の持ち主じゃろう。優れたナイフ術を納め、それだけでなく別の武術も習得しておるようじゃ」
レベルーーー!!!
基礎レベル40、ナイフ術Lv10ついでに鞭術Lv10が仇になったか!?
でもスキルマしてから来たって話は普通に聞いてたのに!対応のスキルだけじゃないから!?
「ふむ・・・この後別の道場にも行くつもりかのう?」
「えっと、鞭術のところへ」
「では儂も同行しようかの」
なぜ??しかも結局パリィ教えてくんねーし。
というか、この流れだと鞭行っても同じことになんないかな。
「この道場では、お前に満足な修行をつけてやるには力不足じゃ」
やっぱりじゃん!
道場主2人でなんかコソコソ話し合い始めたし、もーどうしよ。
「儂らでは教えるには力不足。故に、知人への紹介状を書こう・・・お主であれば、あの者の求める弟子になり得るやも知れぬ」
これは、指導者キャラへの紹介だ!
指導者キャラとは、非常に優れた技能を所持し、プレイヤーとの師弟関係を結ぶことができるNPCのことだ。
関係者に紹介してもらったり、好感度を上げて弟子入り志願したりと弟子入り方法はさまざま。
弟子入りするメリットだと、流派の相伝とか特別な技術を教えてもらえることだ。
でも同ジャンル内で弟子入りできるのは1人まで。武術の師と調合の師は両立するけど、武術の師×2は不可能になっている。
それに一度弟子入りすると破門にされなくちゃ関係が切れなくなってしまう。
そして破門になると、NPCからの好感度にマイナス補正が付くうえ、現状新たな師匠に弟子入りする方法は見つかってない。
まぁ私は弟子入りしたい指導者がいるわけじゃないし、せっかくなら紹介して貰おう。
「ニカイラ島のハープ岬から見える『名前のない島』そこにいる者にこの紹介状を渡すのじゃ。さすれば其奴が、お主を教え導くであろう」
という道場主たちの言葉に従って、私は『名前のない島』までやってきた。
乗せてくれる船も無かったから、島まで泳ぐ羽目になったのは想定外だったなぁ。
思ってたより遠かったし、近くで見たら島は想像以上にデカいしで、色々意外だった。
『名前のない島』はいわゆる侵入禁止エリアというか、まだプレイヤーは入ることができないフィールドになっていた。
だから情報屋とかが侵入方法を探してたけど、まさか指導者キャラへの紹介がフラグになるとは。
岬のNPCは危険な島だと話していたし、強い武術家の修練場みたいな所なのかも。
「実際、出てくるモンスターみんな2層の平均レベルより高いもんね」
さて、この思ったより広かった島の中の一体どこに、私の師匠になってくれる人がいるのか。
とりあえず適当にほっつきまわるか・・・そこの川を辿ってみよ。
長期の滞在なら水場に痕跡があるはず。
小1時間ほど島を歩き回り、くだんの人物は見つかった。
「ふむふむ、アヤツらから紹介状とはな。お前を、ワタシの弟子に」
橙色の髪を三つ編みにしていて、服装は赤いチャイナ服。金色の瞳を浮かべた性別不詳の凛々しい顔立ち。頭には鹿みたいなツノが生えているから、鹿獣人なのかもしれない。
そんな彼?は逆立ちで片人差し指腕立て伏せしながら、反対の手で渡した手紙を読んでいる。
わ、わっかりやすく強キャラ〜〜〜!!!
絶対強い人だコレ、漫画なら銃弾を指でキャッチするタイプだよ!
「ふむ、確かに強い力は持っているようだな。アヤツらには荷が重いのも理解できる。ワタシが求める人の条件にも合致している。しかし、この手紙1つで簡単に認めるのは癪だ」
癪?
「試験をしよう。今からワタシが教えるアーツを日が沈むまでに修得すれば、弟子入りを認めよう」
あ、弟子になる前にアーツ教えてくれるんだ。
日が沈むまでってことは、だいたい後2時間くらいかな。
「ナイフでも鞭でもなんでもいい。ワタシに向けて攻撃しろ」
「え、あっはい」
身をもって教えてやるタイプか。
よし、ナイフを構えて走りこんでった。
「はあ!・・・うわあ!?」
振りかぶったナイフはガキンッ!と音を立てて、彼?の持つナイフに防がれる。
その直後、身体が固まって動かなくなった。
無防備なまま固まって、慌ててたら腹に蹴り入れられてしまった。
めっちゃ痛い。
「今のが『カウンターショック』だ。敵攻撃の受け流しに成功すると、その後一時的に攻撃力が上昇、連続成功でさらに効果が上昇する。なにより、受け流し直後に敵の体を1秒間麻痺されられる。『パリィ』の上位互換アーツだ」
すごい使えるアーツじゃん!
「えっと、じゃあどうすればいいんですか?」
「ワタシがお前に攻撃をし続けるから、お前はそれを受け流し続けろ。10回連続で成功させれば合格だ」
「え"」
「ではいくぞ」
嘘でしょ待って脳筋過ぎるって本気ですかちょっとタンマタンマッ!
「みぎゃーーー!!!」
「ぜはーっ、オエ・・・も、むり・・・死ぬ」
「ふむ。まぁギリギリ間に合ったか。よし、お前を弟子と認めてやろう。名はなんという?ワタシはフーリンだ」
地面にぶっ倒れる私の横で、息一つ切らしていないフーリン師匠が言っている。
この人もずっとワタシに攻撃しっぱなしのはずなのに、全然疲労が見えない。なんなのこの人。
正直途中で心折れかけてたし、もう師匠はこの人じゃなくてもいいんじゃないかって思いかけてたよ。せめて最後までちゃんと頑張ろうと思ってたら、やりきれたけど。
でもコレでレアっぽい指導者キャラへの弟子入りができたんだから頑張った甲斐があったな。
うつ伏せだった体をゴロリと動かし、フーリン師匠と目を合わせた。
「コヒナです。よろしくお願いします」




