ビバ!海
「海だ〜〜〜!!!」
第2層は4つの大きな島を中心に、複数の小島が集まった諸島になっている。
私はそのうち1つ、マナロイ島の海辺『マナロイ・ビーチ』に来ていた。
「ほんと久しぶり、潮風気持ちー!」
昔修学旅行で沖縄に行った時以来じゃないかな?私内陸住まいだし、用がないと行かないしなー。
明るい翠がかった海は、底まで透き通ってる。砂浜は白くて、サラサラで柔らかい。星の砂ありそう。後ろに並んでるヤシの木が風情です。
ハワイをモデルにした島なだけあって、観光地感あって最高!
そんな南国ビーチで、私はいつもと違う服装で仁王立ちしていた。
「まさかゲーム内に水着が売ってるとは」
装備すると『水泳』Lv1がつく水着が至る所で売っている。
基本はおとなしめのが多いんだけど時々際どいのも売ってるとこがあって、多分プレイヤーメイドをプレイヤー商人の店で販売してるんだと思う。
装備としての性能は低いけど、ビーチと名のつくフィールドは整備されてるし、レベルの低いモンスターしか出ないから安全なのだとか。
そんな観光客みたいなプレイヤーの溢れるフィールドで、私は人の目を引いていた。
別に際どい水着を着てるわけじゃない。むしろ肌の露出は最低限。手と足と頭以外を、クールな黒に包んでいる。
そう、私はウェットスーツを装備していた。
別に水着を着るのが嫌だけど、普段の装備で水に浸かるのも嫌だったからなんて理由ではない。それはちょっとくらいだし。
水着と違って、ウェットスーツは『潜水』Lv1の装備品になってる。
装備効果のスキルをすでに自分が所持してる場合、そのスキルのレベルが+効果レベルになる。
つまり今の私は実質『潜水』レベル4になるわけだ。これだけあれば、そこそこ深いところまで集めに行けるだろうな。
今回は遊びじゃなくて、海の中でしか採れない素材確保のために来たのだから。
「じゃあ今回はリリスと一緒に潜るから、レティはこの浮き輪をつけて泳ぐ練習しててね。ルディはレティのこと見守ってて、1人ではしゃぎまわんないようにね」
「キュッキュ!」【 楽 】
「チゥア」【 楽 】
「ワフン!」【 奮 】
無機物憑依の霊体ゆえに呼吸をしないリリスは、私と一緒に水中採取班だ。
水中系スキルを持ってないレティには、浮き輪(『水泳』Lv1+AGI -30)を渡してスキル獲得を目指してもらう。
ルディはレティの保護者しつつ自由行動で。
『リンク』別れた2人の様子も確認できるし、いざとなれば従属魔法Lv9の使い魔の位置を入れ替える呪文『チェンジ』もある。
二手に分かれても大丈夫だろ。
「じゃ、行ってくるねー」
手首に紐で括り付けたナイフで、時折やってくるモンスターを仕留めつつ採取を進める。
海藻、貝殻、海藻、海藻、貝殻。鑑定で見つけたアイテムは、片っ端からゲットだぜ。
海藻はシャンプーの原料になるし、貝殻も砕くと使い道がいっぱいある。そのままでも綺麗だしね。
あっシーグラスだ!
ちょくちょく拾うんだよなシーグラス。きれー。
リリスと離れすぎないように気をつけながら、海底を這い移動していた。
ポイントの使い道、どうしよっかなぁ。
とりあえず使い魔用の用品はあらかた交換して、これだけで3万ポイント近く使ったっけ。今後テイムするかもとか思って、いもしないモンスター用のアイテムとか貰っちゃった。
余裕が有り余ってると無駄遣いしちゃう。
あとローブと武器以外の装備品も新調したな。
3層で上級装備品が手に入り始めるからか、交換できるアイテムにも少しだけ上級があった。バカ高いけど、私には安い範囲だったな!
そんで調合師用のレシピがいくつかと素材をたくさん。何に使うのかよくわかんないやついっぱいだった。
これで残り2万ポイントと弱。
なんに使お・・・拠点のインテリアかなー?
今度ウィステリアちゃんに相談するか。部屋のイメージと違うやつ揃えちゃって、後で使えなくなったらもったいないし。
〈潜水Lv4がレベルアップしました〉
お、レベルアップ。
時間もそろそろだし、一旦上がるか。
従属魔法『コール』でリリスに声をかけ、上へ向かった。
砂が足に引っ付く、気持ち悪いなぁ。
海、入るのは気持ちよかったけど上がったあとダルい。髪がベタベタする。
「あの!ちょっとよろしいでしょうか?」
誰だお前?・・・あのアイコンは、NPCの人か。
「なんですか?」
「もしかして、高い潜水スキルをお持ちなのでしょうか?」
「ありますけど」
急になんなんだこいつは?
E・OのNPCには、まるで本当の人間みたいに感情や人格がある。記憶や経験を蓄積し、ゲームと一緒に成長していく。
でも、初期設定から大きく逸脱していくことはない。そんなバグを許さないNPC管理AIがいるから。
だから悪人キャラでもなければ下手なプレイヤーよりよっぽど安心できる、はずなんだけどな。
「あっ!失礼しました。僕はケインと申します。コレクターをしているものでして、海中の採取品なんかも集めているんです」
「はぁ、冒険者のコヒナです」
コレクターっていうと、これはアレか?
「僕自身は泳げないのですか、よろしければコヒナさんの採取品を見せていただきたいのです。あわよくば買い取らせていただきたい!」
〈クエスト『ケインのお宝集め』
受注しますか? yes no 〉
フリクエだー!!
NPCからのクエスト依頼、なんだかんだ私これが初めてじゃん!
一定以上の潜水と採取スキル持ってると声をかけられる感じかな?
もちろんyesだ。
調合に使わないやつは全部見せよう。
「いいですよ、ちょうどさっき取ってきたところなんで。出しますね」
「ありがとうございます!」
おお、物色しとる。
目ーキラキラじゃん、ほんとに好きな人のやつだ。ちっちゃい声で「ふわぁ」とか「はわ」とか聞こえる。オタクの解像度高いな。
・・・あっこれ、時間かかるやつだ。
1時間ぐらい経っただろうか。
ペカーッなんて擬音がつきそうな輝ける笑顔で、ケインさんが腰を90度に折った。
「ありがとうございましたー!!」
「いえ、それほどでも」
なんだろう、何にもなかったけど疲れた気がする。
「機会があったらまたよろしくお願いしますね」
報酬として差し出されたCの入った麻袋を受け取って、私の初めてのフリクエは終わった。




