修練場と初使い魔
広々とした、運動場みたいな空間。真ん中あたりに、的のついた丸太みたいなのがいくつも設置されている。
「あれで武器の練習とか出来るのか」
丸太には『修復オブジェクト』とある。壊しても、もと通りに直るのだろう。
「じゃあまず、プレゼントボックスをっと」
このゲームでは、初回ログインボーナスで配布されるアイテムがいくつかある。
そのうち1つがこれ、
『本職ガチャチケット』
文字通り、各自の本職に合わせたラインナップのガチャを、1回回せるチケット。何よりこのガチャ、最低でも第2層以上で手に入るアイテムが保証されてる。つまり、序盤を強いアイテムで舐めプできるのである。
そしてテイマーのガチャは、高確率で卵が手に入る。つまり、危険な目に遭わずとも、使い魔を1匹獲得できるのだ!最初の1匹が難しいテイマーにとって、舐めプできないのとは引き換えにならないメリットだと、私は思ってる。
チケットの使用を、迷わず選択した。
目の前に現れたのは、望み通りのダチョウぐらいのサイズをした卵。
思わず目が潤む。ずっと、ずっとこの時を夢見てきた。
幼い時から生き物が好きで、将来は動物園や水族館の飼育員になりたかった。でも小学生の時に、動物と魚アレルギーになり、夢を諦めざるをえなかった。
他の生き物を飼おうとしたこともあったけど、虫は母がダメ、蛇やトカゲは姉がダメ、カエルは父がダメと、実家では飼えない。
いつか実家を出たらペットを飼おうと決めた時に、このゲームを知った。本物同然の世界で、感情を持つ生き物を使い魔にすることができる。アレルギーも気にせず触れ合える世界。
ゲームの中で生き物たちと触れ合う、それが私が、このゲームを始めた最大の理由だった。
「あ、待ってる間に別の事しとこう」
卵が孵るまで30分の時間がある。普通卵が孵るまでの時間は、それぞれで違うらしいのだが、このガチャでの入手に限り、一律30分に決まってるらしい。
「よし、SP使って何かスキルを習得しよう」
SP。初期値で5、以降はレベルアップにつき2ずつ手に入るポイント。これを使って、現在所持してないスキルを獲得できる。
必要ポイントは、それを獲得するまでに必要な熟練度でプレイヤーごとに違うらしい。それに獲得条件を満たしてないスキルも、入手は出来ない。
とりあえず1使って『鞭術』2使って『鑑定』を入手した。
あとはひたすら、的に向かって鞭の練習をしていた。
30分で設定していたタイマーが鳴る。と同時に、卵からパキパキと音がした。
「え、産まれる!」
急いで駆け寄ると、全体にヒビの回った卵が光り、その場に別のものが現れる。
「これは・・・ハンカチ?」
現れたのは、ハンカチみたいな正方形の布だった。縦横20センチくらいだろうか、端が少しボロっとしている。
「なにこれ?」
突然ハンカチの真ん中あたりにマジックで書いた目のようなものが現れ、ピョンッとその場で飛び跳ねた。
「動いたあ!」
慌てて手を差し出しキャッチする。
「キュ」
「鳴いたあ!!」
どこから音出してるんだろう。いや、というかこの子が卵から生まれたモンスターでいいのかな。
目っぽいのがあるあたりが盛り上がって、私を見つめていた。
『ミニマム・クロスゴースト』
種族名から死霊系モンスターであることがわかる。クロスって十字じゃなくて、布の方か。ちっちゃい布のお化け?
死霊系ってまだ、夜の時間帯にごく稀に現れるだけなんだっけ。
「そうだ!テイムしないと」
卵から産まれたモンスターも、テイムして初めて自分の使い魔にできる。
「よし、『テイム』!」
従属魔法で最初から使える魔法を使用する。
〈ミニマム・クロスゴーストをテイムしました〉
まあ、当然成功だな。
「キュイ」
布にマジックの目だけじゃ、なに考えてんのか、全然わかんないな。
あ!そうだ、あのスキルを使ってみよう!
「『感情視』!」
【 喜 】
・・・・・・?布お化けちゃんの横に吹き出しが現れ、漢字1文字だけ表示される。え、これ?・・・とりあえず、テイムされて喜んでるってことでいいのかな?じゃあ、いいか。
「あ、名前もつけなきゃ」
どんな名前にしよう。一回決めたら変えられないし。性別は・・・無いのか。うーん、布お化け。でも将来布じゃなくなるかもだしぃ。
「よし決めた!君の名前はリリスだ。悪魔みたいに強くなってくれ」
「キュキュイ!」【 喜 】
「お、気に入ったんだ!」
よかった。仲良くなれそうだ。
そうだ、この子のステータスはどんなものかな
リリス
種族 ミニマム・クロスゴースト LV1
特性 擬態 性別 無
HP 6 MP 14
STR 3
VIT 3
DEX 6
INT 7
AGI 6
スキル 跳躍LV1 闇魔法LV1 魔力感知LV1
へー、魔法使えるんだ。闇魔法、ちょっとカッコいいな。紙、というか布装甲だから気を付けてあげないとな。
・・・特性の擬態ってなんだろ?
『擬態時、種族的特徴を無視する』
そういえば、死霊系モンスターは日光に当たるとダメージを受けるってあったな。じゃこれは、それを防げるのか。
「リリス、ちょっと擬態してみて」
「キュ」【 楽 】
なぜ楽?
リリスは私の手の上でペタリと力を抜いている。目も見えなくなった。
これは・・・ハンカチに擬態してるのだろうか。
「そうだ!」
リリスを手首に括ってみる。
「結んだけど、苦しくない?」
「キュイ」【 喜 】
「寧ろ喜んでるな。移動の時はこうしてよっか」
「キュー!」【 喜 】
じゃあ、そろそろ修練場を出よう。そして早速、依頼の受注だ!