VSイビルドッグ群団
まず最初にレティと彼女に引っ付いたリリスが、一気に天井付近めがけて飛び出す。
そして2人が気を引いてる隙に、私とルディもテントから素早く退出。テントは即座に回収した。
あとはただ、目の前の群勢と戦うのみだった。
鞭を使い近づけないようにしながら、ルディにアシスト・アップを使った。
正直初心者の鞭じゃ、どれだけ私の攻撃力上げてもダメージは与えらんない。ただ私が死んだら全員お終いなのでナイフ使って無理に戦うより、自身の生存と補助を優先するつもりだ。いつも通りではあるけれど。
上からそそぐ音波の飽和攻撃で動きの鈍ったヤツを、ルディが噛みつき切り裂き仕留めていく。
光の弾丸は体の大きいラージを中心に、コマンダーとリーダーに乱射されていた。そのおかげで地上組はある程度自由に動けている。
呪いの効果も多少はあるのだろうか?
進化したリリスの新スキル『呪い』
実にゴーストらしい力だ。ミニマムが取れて、死霊として成長したってことなのかな?
効果は『攻撃でダメージを与えた際に、相手のステータスを一定時間低下させる』もの。
レベル1では効果は低いし、連続発動ができないリキャストタイムのあるスキルだけど、少しでもあの強い連中の足引っ張れてるならありがたい。
「いだっ!」
油断した!
左腕に噛み付いたイビルドッグの口の隙間に横から鞭の持ち手を突っ込み、腕を引き抜いたあと蹴り飛ばす。反動を使ってさらに私も反対方向に飛び退いた。
私がさっきまでいた場所に、別の個体が突っ込むのが見えた。
「あっぶなぁ」
みんなの様子を見過ぎて、自分の方が疎かになってた。ダメだな。集中しないと。
隙を見て低級HP回復ポーションを飲み回復する。地下3階に降りてから回復タイミング、随分良くなった気がするや。
消耗が激しい。肉体的にも、物資的にも・・・何より精神的に。当然だ。常に追い詰められながら連戦してるんだから。
それでも、少しずつだけど確かに削れてる。ちょっとずつら勝利に近づいている。
そう思ってた時だった。
「グア"オ"オ"ン!」
「ひっな、何ー!?」
地響きみたいに低く轟く唸り声。ラージが、こちらを睨み付けている。
やばい、狙われてる。
ライトアローも意に介さず、私目掛けて突進して来た。
「こっち来んなよぉ」
我ながら情けない声を上げながら逃げようとしたけど、足に何かがぶつかって来て派手に転んだ。
「ダーティドッグ!まだ生き残りいたの!?」
ラージにばかり目があって、小柄な敵に気付かなかった。これも奴らの作戦なの!?
急いで立ち上がっけど、もう目の前にまで迫ってる。
「いや、無理だって・・・・・・がはっ!?」
目の前が真っ暗になったと思ったら胴に大きな衝撃が走り、肺の空気が強制的に吐き出さされる。そして数秒中を舞った後、地面に叩きつけられた。
「ぐぅぅ」
すぐ収まるとはいえ、とにかく痛い!ゲームのリアリティが今だけ憎い!
でも、思ったよりも、マシな気がする。というか、なんか地面も柔らかいし・・・・・・は?
「リリス?」
「ギュゥゥ」【 苦 】
「へ?あ、なんで?いや、待ってHPやば、リリスが死んじゃう」
私の上半身を覆うように、リリスが巻き付いていた。
ラージがぶち当たる直前の暗闇は、間に滑り込んだこの子だったんだ。私を助けようとして。
そのおかげで私へのダメージは少なかった。でも、その分リリスが危ない。
「『アシスト・ヒール』!『アシスト・ヒール』!『アシスト・ヒール』!」
動けない体を両手で抱えながら、魔法を重ねがけしてどうにか回復させる。
わかっている。これはゲームだ。この子は実在しないし、仮に死んでも復活する。こんな必死になる意味なんてない。ただのゲームに本気になるなんて、馬鹿らしいだけだ。
それでも、嫌だった。
初めての、産まれた時から私だけの使い魔。長年夢見た念願のペットで、だから家族で、大切な、常に私と一緒のリリス。私が初めて名前をつけた、私のリリス。
「キュ」【 哀 】
「あ」
さっきまで弱々しく震えていたはずのリリスが、心配そうな声をあげて私の頬を撫でてる。わずかに湿った布を見て、自分が泣いていたことに気付いた。
どうやら、十分に回復させれたことにも気付いていなかったみたい。
助けようとしたはずなのに、逆に慰められちゃうなんて。
「ガウ!」【 警 】
「ルディ、いつの間に」
私たちを庇うように、黒い大犬とコウモリがそばにいた。
そうだわ、私たち絶賛戦闘中で敵陣のど真ん中にいたんだったわ。2人が庇ってくれてたんだな。2人にも回復したげないと。
「ルディありがと」
「ワン」【 喜 】
「レティもありがとー」
「チー!」【 喜 】
「もう動ける?戦えるかな、リリス」
「キュイ!」【 怒 】
「あはは!そうだね、アイツらにやり返してやろう!」
よくもやってくれたな。私たちで全員倒してやる!




