5話 新しい生活
次の日。僕は朝早くに目が覚めた。太陽が出始めたばかりでまだ薄暗い。僕は、日課のランニングや剣術のトレーニングなどを行ないながら過ごした。僕の知らない生徒も、何人か同じような日課をこなしていた。この学園に来る人達は皆、やる気に満ち溢れているように見えた。これからが楽しみだ。
朝になり、学園に急いだ。講堂に着くともう生徒達がほとんど集まっており、自分の席に着くころには始業式が始まった。
知的な雰囲気の女性が壇上に上がる。彼女は、この学園の学園長であるメード・ストラスだ。
メード学園長は壇上に上がり、一呼吸置く。講堂が完全に静まり、学園長が口を開く。
「この学園では、心臓兵器の研究、発展を先導し、ひいてはこの国のさらなる繁栄の一助となれるような人材の育成を目指す場所です。皆様におかれましては、波乱の入学試験を乗り越えられ、仲間との出会いや協力して臨む事の大切さ、心臓兵器の危険さなど多くの事を学ばれた事と思います。今後はその力の振るい方や仲間の大切さなど、多くの学びを皆様に与えられたらと思います。この学園で大いに成長してくださる事を願っております。これにて、終わります。」と簡単な挨拶をして彼女は壇上を降りた。
始業式は、入学生徒の代表や支援者方のお話に続いた。
一通りの話が終わり、それぞれが教室を指定される。事前説明によると、入学試験のグループだったメンバーは同じ教室になるのだという。教室の数は3つ。メンバーはそれぞれ12人となっている。僕たちはαクラスとなった。
教室に着くと、すでにほとんどの生徒が居た。カールとアリサもおり、僕に気がつくと手を振ってくれる。どんな授業がこれからあるんだろうと期待に胸を膨らませながら、2人とたわいない話をしていた。
しばらくすると先生が来られ、全員が着席する。オリエンテーションが始まり、これからの流れについて説明される。
まず、心臓兵器について基礎から少しづつ教えていく事。加えて、心臓兵器の更なる強化、発展のために演習を行なっていく事。
演習は入学試験と似通った事を行う。ペアを変えつつ、お互いに仲を深め、刺激を与えられるように随時行うとのことだ。ここで心臓兵器の継承を行う学生が多いのだそうだ。
その後、実地演習がカリキュラムに加わる。実地演習は普通の演習とは違い、各地域への遠征となる。当学園卒の第一線で働く先輩方に指導されながら、地域性や危険度、自分達の必要性などを肌で感じながら学ぶのだそうだ。遠征は4人1組が原則となっている。クラスメイト達と組み方をシャッフルしながら行っていくようだ。
簡単な説明が終わり、今日は解散となった。
荷物を片付けていると、カールが近づいてくる。
「アイン!食堂行こうぜ!ここの学食はとんでもなく美味いって噂なんだよ!気にならねえか?!なるよな!な!」と興奮気味にカールが声をかけてきた。
「う、うん?そうなんだ?そこまで言うなら、試してみないといけないね!ね、アリサ!」と近くで荷物をまとめていたアリサに向かって声をかける。
「はい?食堂ですか。ちょうどお昼時ですし一緒に行きましょうか」と賛成してくれた。
学食の真実を探るため、僕とカールは目を輝かせて食堂に向かっていた。後ろからアリサの視線が若干冷たいのは気にしないでおこう。
食堂に着くと、とんでもないマッチョなコックさんが仁王立ちしていた。恐る恐る近づくと、マッチョコックが「AランチかBランチ。どっちでいくんだ。」と淡々と尋ねてきた。何故か殺気が含まれているような…そんな気がするほどの威圧感だった。震え上がる僕とカールは、アリサの方を振り返った。するとアリサは、「Aランチ3つでお願いします」とサラッと注文した。僕とカールは目を丸くしながらお互いとアリサを交互に見る。アリサは呆れた顔で「早く座りますよ…」と席の方へ歩いていった。慌てて僕たちも続く。
席に座ると、アリサはプクーッとむくれながら話してくる。「あのですね。あのコックの方は凄い方なんですよ!雰囲気は少し怖いかもしれませんが、とっても優しくて料理が上手と評判の方なんですからー。なのに、2人ときたらなんですかあの態度は。子犬が2匹でてきたのかと思いました!情けないですよ!」と説教されてしまう。
「アリサ、詳しいんだね…もしかして、ここの食事楽しみにしてたの…?」と恐る恐る尋ねてみる。
すると、何故かアリサは動揺しながら「お、美味しい料理が出てくると聞いていたので、気になってただけですっ!そんな、私がこれを楽しみに今日ワクワクしていたなんて口が裂けても言えません!……。」とアリサは言い放ち、一瞬の沈黙が過ぎた。
「あ、あーーっ!違うんです違うんです!違わないけど違うんですこれはっ!」と自分の発言を振り返ってしまったアリサは、顔を真っ赤にして俯いてしまう。
すかさずカールが「アリサさーん?えらく楽しみにされてたんですねえ?アリサは食いしん坊さんって覚えておく事にしましょうかね!あれだったらBランチも頼もうか!」とニコニコと話す。
アリサはさっきよりもプクーッとむくれてしまい、そっぽを向いてしまった。
「カール、言い過ぎだよ。食事が楽しみなのはいい事じゃないか。アリサの可愛い一面も見られたんだし、来てよかったよ」
「アインまでーーっ!もう知らない!」と本当に怒ってしまった。
「あー…ア、アリサ?ここはカールが責任を持って全額払ってくれるらしいし、今日はなんでも奢ってくれるらしいから機嫌なおして…ね?」と恐る恐る伝えてみる。カールが犠牲になるが背に腹は代えられない…うん。
「そうなんですか?カール?」と凄い威圧感と共にアリサがカールに微笑みかける…
「も、もちろん!どんな物でも奢っちゃうぞー!ハハハ!」と震え上がったカールは引き攣った笑顔のまま答えた。
その反応を見て、「ふふふ」と皆が堪えきれなくなり笑ってしまった。
皆でそうやって盛り上がってるとランチが届けられ、とんでもなく美味しい料理を堪能した。幸せすぎて自然と皆が笑顔になっていた…
ランチを終え、午後は授業もないため自由行動になった。僕は2人と別れて図書館へ向かう。あの伝説について調べるためだ。それは、ノーツコア学園の起源ともいえるシュバルツ・ラインハルト達の英雄譚。「赤涙戦争と二人の英雄」だ。僕は、この歴史に違和感を覚えていた。何故かはわからないけど、この本を読むとそんな気がする。故郷で読んだこの本が何か違う内容だったのではないかという、あるはずもない疑問を解消するために、何度も読んだことのあるこの本のページをめくった。
すべてのページを読み終わり、顔を上げると日が暮れ始めていた。僕の疑問は結局解決しなかったが、今まで気づかなかった違和感が一つ増えた。それは、この伝説を誰が書き残したのかだ。彼らは多くの時間、彼らしか辿り着けない場所で戦っている。それを事細かに記載できた人物とは一体・・・
そんな事を考えていると、外は完全に日が暮れていた。僕は急いで図書館を後にして寮に急いだ。