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52話 束の間の休息

 エーデルコード 東


 煙草を咥え、雪の積もる白い雪景色を見つめながら、「クソッ…。なんでよりにもよって奴なんだ…」と小さく呟く。

 スィフィルの到来により撤退したアラタ達は、エーデルコードの端にある小さな村に身を寄せていた。


 屋上に足音が響き、「アラタ。ここに居たのね」とセリアが顔を出す。


 アラタは煙を吐きながら振り返り、「ああ、セリアか。あいつら、これが嫌いだからな」と煙草を見せる。

 

 セリアはふふっと笑い、「嘘ばっかり。どうせ、あの機械兵の事を考えてたんでしょ」と横に座りながら話す。


 アラタは煙草を咥えながら口角を上げ、「バレバレだな。まあ、奴の出現は想定外だったな」と軽く返す。


 「そうね。あいつは東南最前線の最初の敵。星の民の兵器、ハウンドのプロトタイプ3体のうちの1体。中央の最前線に現れたといわれるダーインスレイヴの他にも出てきていたなんてね」と空を見上げながら、セリアは呟く。


 「ああ。殺戮に特化したダーインスレイヴと違って人に近しい存在として作られ、対話を可能とした個体。その一機目、名はスィフィルだったか…。議長の講義が役立つ日が来るなんてな…」とアラタも返す。


 「それで、これからどうするの?スィフィルなんて規格外の敵が居たんじゃターゲットは倒せないわ」とセリアはアラタの方を見る。


 アラタは煙を吐き、「そうだなあ。ハヤテに見てもらったが、あの場所には二人の遺体はなかった。つまりはターゲットは死んでないし、スィフィルが何らかの理由でターゲットに協力している可能性が高いってことだ。まあ、あの二人に加えてスィフィルまで加わったんじゃあ俺達なんて瞬殺よ」と軽く答え、「だがな、俺たちは失敗できない。これで、議長に無理でしたーなんて言ったらどうなると思う?」とセリアの方を見る。


 セリアは溜息を吐き、「そうねえ。甘く見積もっても、私達は帰り道なしの分断地探索の刑かな」と笑う。


 「そういうこった。まあ、今はターゲットが動き出すのを待つしかない。議長の連絡がないってことは作戦は継続してるが、どれだけ探しても痕跡一つないんだからな」と言って煙草を捨て、アラタは立ち上がる。

 「もどろうぜ。こんなとこで風邪でも引いたらトーマにどやされちまう」と笑いながら歩き出す。


 セリアも笑いながら立ち上がり、「そうね」とアラタに続く。




 楽園


 次の日、アインは身体を動かせるほどに回復していた。


 「サラーサ、スィフィル。おはよう」と二人に声をかける。「アインお兄さんっ!もう大丈夫なんですかっ」とサラーサがパタパタと近寄ってくる。


 アインは優しく笑い、「うん。もう大丈夫みたい。2人のおかげだよ、ありがとう」と身を屈めて伝える。


 サラーサは照れるように少し視線を逸らし、「いえ、お力になれたならよかったですっ。えへへ」と答える。

 アインはそんなサラーサの頭を優しく撫でる。サラーサは照れながらも嬉しそうにそれを受け入れた。


 スィフィルが近づき、「スキャン開始。損傷個所の回復を確認。もう大丈夫のようだな、アイン」と話してくる。


 アインは顔を上げ、「うん。スィフィルもありがとうね」と伝える。


 「我は何もしていない。サラーサがアイン達を助けたのだ」と淡々と返答する。


 アインは困った表情を見せながら、「そんな事はないよ。スィフィルが居てくれたからサラーサの元に僕達は辿り着けた。君が居なかったら今の僕達はないんだよ」と答える。


 スィフィルは数秒沈黙し、「肯定。あのままではアイン達は損傷個所の出血により死亡していた。我の行いにも意義があったようだ」と納得したように頷く。


 傍らで静かに座っていたサジが、「それで、これからどうするんだい」とアインに尋ねる。


 アインはサジの方へ視線を移し、「サジさんはもう大丈夫なんですか?」と尋ねる。


 サジは頷き、「あれでもあんたよりはマシな方だったんでね」と返答する。


 「では、予定通り北東の分断地に向かいます。ここに長居するのもよくないからね。万が一他の人間に知られちゃ、僕達はサラーサ達に顔向けできないよ」と言って立ち上がる。


 サジも「流石だね」と口角を上げながら静かに呟き、立ち上がる。


 「スィフィル、僕達は行くよ。ここに居続けることは2人にリスクを背負わせてしまうことと同義だからね。出口まで案内してくれるかな」


 スィフィルは決断を委ねるようにサラーサの方へ光を向ける。サラーサは寂しそうな表情を見せ、「お二人の気持ちは嬉しいです。サラーサもここが誰かに知られることだけは避けたいと思っています。ですが、それでも…サラーサはもう少しお二人とお話ししたかったです…」と声を小さくして伝える。


 アインはサラーサの方へ近づいて目線を合わせ、「そんな顔しないで。また会いに来るよ、サラーサ」と優しく微笑む。


 サラーサは寂しそうな表情のまま、「はい…。また、お話ししましょう。」と呟く。


 スィフィルはその様子を見て、「サラーサにとっての初めての友人だ。我にとっての二人目の友人でもある。我の最初の友人はもう何年も姿を見せていない。アイン達には無事に戻ってほしいと、我は考える」とアイン達に声をかける。


 サジはスィフィルの方を見上げ、「最初の友達ってのはどんなだったんだい?」と話しかける。


 スィフィルはサジの方へ光を向け、「初めて信頼に値すると認識した人間。出会ったのは10年前。傷つきながらもエーデルコードに流れ着いた者であった。名をギルバートといった。彼は、最前線にほど近い場所に存在していたホワイトアーツという小さな村の出身者。ホワイトアーツの出身者は、古くからこの北東の大地を魔物の襲来から遠ざけていた。彼らは自身の為に行っていたようだが、古くからの習わしを尊重して広範囲を長い間守護してきた。これにより、エーデルコードには長らく平穏が続いていた」

 「だが、そんな状況にも綻びが見え始めて長い時が経ち、エーデルコードの村々の90%以上が崩壊を続ける中、彼は我の前に現れた。北東の守護者として名を馳せたホワイトアーツだったが、戦えるものの減少と激しくなる魔物達の進行、エーデルコードの事実上の壊滅により限界を迎えていた。ホワイトアーツは村の放棄を決定し、戦えない者達を西へ逃がしたのだという。ギルバートは村の決定に従い、殿という名の生贄の部隊のリーダーとなった。しかし、決死の抵抗空しく部隊は壊滅し、西に逃がしたものにも魔の手が伸びようとしているという。我は縋るように話す彼の言葉を聞き取り、協力を惜しまない事を彼に伝えて静かにその集団を魔の手から守った。この地を抜けた後の事は分からぬが、ギルバートは確かに感謝していた。その一件の後、彼はただ一人でエーデルコードを守り、人々が完全に去った数年前に静かにこの地を去った。人々との交流を避け、その最後を見守っていただけだった我は、彼の行いを引き継ぐことにした。そうして数年後にサラーサを拾い、現在も楽園を拠点にしてエーデルコードを守り続けているのだ」と淡々と話した。


 サジは感心したように唸りながら頷き、「ギルバートってのは運が良かったね。あんたと会えて、本当に守りたかったものを結果的に守り抜いた。それに、彼は義理堅くホワイトアーツの掟を守り続けた。大した奴だね」とスィフィルに返した。


 スィフィルは頷き、「肯定。ギルバートは多くの人が去った後のこの地を守り抜いた。彼の行動がなければサラーサを育てることも出来なかったと推測する。彼は我が誇れる友である」といつもの淡々とした口調の中に、誇らしげな音が混じったようだった。


 アインは静かにその話を聞き、頷く。「スィフィル、ありがとう。その話、僕は聞いたことがあるよ。その集団は確かに、安全な場所に辿り着いた。改めて感謝を。スィフィル」と丁寧に頭を下げる。


 スィフィルはその光景を不思議そうに見つめ、「疑問。なぜアインが礼を言う。ギルバートと我が遭遇した時、アインは現在のサラーサと同年齢であったと推測する。アインはホワイトアーツの出身者ではないと認識しているが」と淡々と返す。


 アインは困った表情を見せ、「僕じゃないよ。ホワイトアーツの出身者が一人、僕の友達に居るんだ。君が居なかったら、彼女と僕は出会うことがなかった。だから、本当にありがとう。スィフィル」と返した。


 スィフィルは納得したように頷き、「……不思議なものだ。たった一つの事象が繋がり、こうして続きを聞けるのだから。友、ギルバートにもこの話が出来ればいいのだが」と言った後、数秒沈黙し、「自己診断終了。回路の温度上昇を検知している。故障部位検知がないはずだが…」と声色の変わらないはずのスィフィルの声が淡々と響く。


 サラーサはスィフィルの方を見上げ、「ふふっ。それが嬉しいってことだよ。スィフィルっ」と嬉しそうに伝える。


 スィフィルは混乱したように自己診断を繰り返し、「我に感情という単語は存在しない。……だが、不思議と納得いく回答だ。これが感情というものか。存外、悪くない感覚である」と静かに自己診断を止めてサラーサの方へ光を向ける。


 サラーサはニコニコとしながらスィフィルを見つめていた。


 スィフィルは静かに顔を上げ、「長話をしてしまった。アイン、サジ。出発するのであろう。であれば、横道を使うといい。ここを抜ければ、エーデルコードの北東の村へ抜けることができる。その村から十キロ程度先に分断地がある」と指さしながら淡々と告げる。


 アインとサジは立ち上がり、「ありがとう。サラーサ、スィフィル。また、会おうね」と言って横道へ入っていく。


 サラーサは周囲で跳ねる鉱石ハミ達と共に手を振って見送り、スィフィルも静かに腕を組んで二人を見つめていた。



 エーデルコード 東


 アイン達が横道を抜けると、そこは自然にできた縦穴洞窟の底だった。上からは光が差し込み、段々に突き出た岩が、地上までの道を作っていた。

 そして、その光景を目にした時、2人の耳に戦闘音が届いた…。



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