48話 敵の敵
男は掲げていた手をゆっくりと降ろし、近くでアキハを抱えて佇む大男を睨む。
大男は片手でアキハを抱え、もう片方の手に握っていた棺桶型の箱を地面に突き立てる。アキハを優しく降ろし、咳き込む彼に対して「大事ないか。少年。」と静かに尋ねる。
アキハは苦しそうな表情のまま、「ええ…。助かりました…。」とか細い声で答えてゆっくりと目を閉じる。
大男はその様子を見送り、ゆっくりと立ち上がる。
大男はローブの男を睨み、「ダンさん。あんたはそんな人じゃなかっただろう」と嫌悪したような口調で話す。
ダンと呼ばれたローブの男はその言葉に反応する素振りも見せず、大男に迫る。大男は突き立てていた棺桶型の箱を叩く。すると、突き立てられた箱の左右が開き、幾つもの武器が姿を現す。
大男はその中から大剣を選んで抜き取る。抜き取られた大剣は淡い白銀を纏う。
ダンは勢いを乗せた一撃を大男に向かって叩きつける。大男は大剣で簡単に受け止めるが、溢れ出る力が彼を避けるようにV字の衝撃となって弾け飛び、地面を大きく抉る。
大男は狂気が滲んだようなダンの連撃を静かに受け流し続け、その場に留まる。大男はダンの動きの中から隙を見つけ、おもむろに大剣を振りぬいて彼を打ち上げる。ダンは、高く宙返りするように飛び上がり、大男がすぐさまそれに続いて飛び上がる。大男は体勢が整っていないダンに向かって力を込めた一撃を振るう。ダンは咄嗟に両手で剣を構えてそれを受け止め、衝撃を受け止めながら着地する。ダンは氷上で滑るように地面を抉りながら数メートル吹き飛ぶ。
彼は苦い表情で顔を上げ、数メートル先で睨みを利かせる大男を睨む。男は剣に手をかざし、紫に光る雷を纏わせる。静かに立ち上がって姿勢を低く取り、音速を超えるような速さで大男に迫る。
大男は驚く様子も見せずに静かに両手で大剣を構えて振り下ろす。直後とてつもない衝撃が辺りを掌握し、紫電が花火のように周囲に枝を伸ばすようにして爆発する。
続けて、金属音と紫電の交わる光が轟き、誰にも近寄れない必殺領域を展開する。
幾重もの剣戟が響き、一際大きい衝撃が轟いて大男が離れる。大剣が大男の手を離れて近くに突き刺さり、砕けてひび割れたその刀身が剣戟の過酷さを物語った。
ダンは剣を構え、丸腰となった大男に向かって飛び掛かろうとする。しかし、動き出した瞬間氷を踏むような音が響き、すぐさま紫色の照射が彼を覆う。
大男の数メートル後方に、傷が治りきっていない状態で息すら整えられていない状態のレイナが片手を前に突き出して立っていた。「援護しますッ!」と限界を超えて意識を保つことすらギリギリの状態のレイナは大男に言い放つ。
大男は一瞬驚いた表情を見せた後、口角を上げて「いい生徒を育てたな…」と呟いて棺桶型の武器庫に向かって大太刀を引き抜く。
照射をまともに受けてよろめく男の前に立ち塞がり、静かに大太刀を構える。彼の体には金色の光が付与され、何倍もの気迫を放っていた。
その様子を気にすることもなく、ダンは焦げ付く左手を諦めて右手に剣を移し、軽く剣を振るって炎熱の光を纏わせる。地面蹴って大男に迫る。
橙色の光と白銀の刃が交差し、2人の剣から火花が散る。ダンは体を捻って軽く飛び上がり、大男に向かって体重と勢いを乗せた一撃を振り下ろす。大男はその一瞬で納刀して深く構えなおし、インパクトの一瞬に合わせて抜刀する。
今までとは違う圧倒的な衝撃波が波紋のように響き渡り、大男が立つ地面が陥没する。一瞬の隙を逃さず、ダンは橙色の光を煌めかせ、その場で爆発させる。
大きな黒煙が上がり、その後ろで軽やかにダンが着地して息を整える。
黒煙が晴れると、そこには至る所が燻り、明らかに大きなダメージを受けて膝をつく大男の姿があった。
ダンはそれを見て地面を蹴ろうとしたが、急に頭を抱える。
ダンの頭に「任務失敗だ。アトラクタの増援がそちらに向かい始めた。直ちに撤退せよ」と響き渡る。ダンは苦しそうに片手で顔を覆い、地面に零れ落ちた剣が霧散する。
彼は静かに後退し、その場を後にする。
残された生徒会メンバーは、緊張を緩めずに大男の方を見る。
大男はその様子を気にする素振りも見せず、レイナの方を向き「警告だ。アトラクタとゾディアックに関わるのはやめろ。次も生きていられる保証はないぞ」とだけ伝え、棺桶型の武器庫を閉じて担ぐ。口を開こうとするレイナを待たずに地面を蹴り、その場を去った。
彼が去った後、生徒会メンバーはアキハの元に急ぐ。密かにカールが治療していた事が功を奏し、アキハの呼吸は安定し、危機的状況を乗り越えていた事が察せられた。
アキハを見つめるメンバーを優しく避け、アトラが彼の近くに座り込む。「なんて無茶なことをするんですか…。貴方が居なくなったら私は…私は…ッ!」と涙を浮かべながら声を詰まらせる。
そんな声を聞き取ってかアキハは静かに目を開き、「僕が居なくなったらどうなるんですか…?アトラさん」と優しく笑う。
アトラの表情がパッと明るくなるが、咄嗟にそっぽを向いて「もうッ!アキさんッ!心配させないでくださいッ」と照れ隠しのように怒鳴りつける。
アキハは頭を掻きながら体を起こし、「あっれ…おかしいなあ。このシチュエーションだったらキスの一つくらいありそうなものだと思ったんですが」とへらへらとしている。
アキハのいつもの様子を見て、カールは溜息を吐き、「そりゃ、アキさんですからねえ。ビンタの一つくらいならそろそろ来ると思いますよ」と続ける。
アキハが「えっ?」と言った瞬間、アトラのスナップの利いた右ストレートが腹部を貫く。アキハは大袈裟に吹き飛び、「アトラさんッ!?僕本当に死んじゃいますって!止め刺されちゃいますって!?」と冗談を口にする。
アトラはそっぽを向きながら立ち上がり、「もう、知りませんっ!そんなに元気ならもう帰れますよねっ!行きますよ!」と言って立ち上がる。
皆もそんな様子を笑いながら立ち上がり、任務が終了する。




