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46話 選択した道

連合議会 会議室


 議長が席に着き、席の前に設置されたディスプレイが起動する。


 議長は顔を上げ、「定例会を始めます」といつになく重たい雰囲気で口を開く。


 ディスプレイに映し出された人々の表情も悩みの種があるといった様子であった。


 そんな雰囲気を気にする素振りを見せず、議長は続ける。「今回の議題は二つ。アインツマイヤーの甚大な被害についてと学園生徒の今後についてです」


 議長がそれを口にした途端、角刈りの強面の男が口を開く。「議長。今回の事件は彼らの仕業であると噂されているが、情報統制はどうなっている」と不満のある様子だ。


 議長は表情一つ変えず、「ハベル代表、ゴートレス様。はい、抜かりなく行っております。まず民間人の方についてですが、人を失った喪失感や悲しみを受けながら、帰る場所を失って苦しい生活を余儀なくされています。彼らは今、その鬱憤をぶつける相手を探しているようです。その標的となっているのがゾディアック達でしょう。ですが、一般的にゾディアック達の事を知るものは多くありませんので、最後に顔を見せた女王様に全てを押し付けられるように動いております。次に、学園生徒についてですが、こちらも同様です。彼らはまだ、ゾディアック達と女王との相違性をしっかりと理解できていない。ですので、こちらも女王様へ矛先を向けるよう仕向けております」と答える。


 それを聞き、ゴートレスは納得したように頷き、「そうか。流石は議長。手回しが速いのは評価できる。それで、今回の事件はどういった結果を生んだのかな?」と次の質問を投げかける。


 議長はニコッと笑い、「それを話すためにこの会議を開いたのです。順に説明させていただきます」とゴートレスの方を見下す。


 ゴートレスはその表情に口を噤み、「申し訳ない。続けてくれ」とだけ答える。


 議長は咳払いしたのち、「では、今回の事件の結果について報告いたします。まず、アインツマイヤーの被害について。アインツマイヤー中央街に投下された大きな衝撃波により、中央街の7割以上の家屋が倒壊。この時点で、民間人の被害はアインツマイヤー全体の人口と比較して4割ほど失われたと推測されます。その後、魔物の介入によりさらに民間人に被害が生じました。結果的にアインツマイヤー内の失われた民間人の命は総人口の6割程度となっています。現在、各地の心臓兵器使いなどの人員を動員し、復興作業と避難民への支援を開始しております」

 「続けて、ノーツコア学園について。学園の生徒は、学園演習場に展開された魔物の襲来により、1割程度の生徒の命が失われました。その後、中央広場での激しい戦闘により校舎は全損。学園演習場側では、主力の生徒達による防衛の甲斐があり、主力生徒3名の損失のみに留まっています。ですが、アインツマイヤー中央街に展開された主力生徒達も3名損失が出ています。よって、ノーツコア学園の戦力は大きく削られ、学園は実質的に崩壊となりました。現在、残された学生はオーブのスターコア学園への編入が進められています。これに関してはオーブ代表、ティア様に一任しております」と議長はディスプレイに映し出された一人の女性に視線を向ける。


 視線を向けられた女性がはいと返事をし、「議長がお伝えくださったとおり、現在オーブではスターコア学園への編入手続きを行っております。心臓兵器が見出せていない、又は戦力としては未熟な生徒達はノーツコア学園と同じように講義と演習に参加いただき、戦力となっていた生徒達に関しては生徒会に推薦しております。現在、第一αに所属していた4名が生徒会への加入を承認しております。残った主力生徒は特別クラスを制定し、合同で実践的な講義を行っております」と説明する。


 議長は満足したように頷き、「ティア様、ありがとうございます。今回の事件により、主力生徒の大半は生徒会に加入しました。後は、最初に私がお話しした通り生徒会の矛先を彼女達に向けるだけです。民間人の方は期が熟し次第、私が声明を出すことで完全な統制ができます」と続けた。


 静かに聞いていたヴァストが口を開き、「ふむ、議長の理論は完璧と見える。だが、生徒会の人間がそう簡単に制御できるのかね。私は不穏分子は嫌いだ。議長は彼らを見逃し、統制するといった方針を取られるようだが、もし彼らの中に真実に気づくものが現れたり、女王側に接触した場合はどうするおつもりで?」と尋ねる。


 議長はヴァストに視線を向け、「ヴァスト様はいつも慎重な方針を提示なさる。その不安に関しましては私も理解しております。もちろん、ヴァスト様がおっしゃられたような、勘のいい方が現れた場合は特別任務を提供させていただく予定です。ですが、そのようなことにならないよう、女王側の動きとゾディアック達の動きを監視しつつ、今まで通りの勢力図の維持を目指していく予定です」と答える。


 ヴァストは「ふむ」と顎髭を撫で、「わかった。議長の事だから手は回しているのだろう。回答に感謝する」と納得したように答える。


 議長は口元を緩ませ、「ご信頼いただきありがとうございます。ご期待には応えさせていただきますのでご安心ください」と丁寧に返す。


 そんなやり取りを静観していた男が口を開く。「議長。緋色の剣士はどうする。彼は女王に引き抜かれてしまったのであろう?君の推定では今回の事件に合わせて抹消する予定ではなかったのかい?」と静かに尋ねる。


 議長は一瞬ピクッと表情を変えそうになるが、それを抑えて「はい。そちらの方ですが、現在彼を始末することは容易ではありません。ですので、部隊を使おうと思案しております。近いうちに良い結果をお伝えできるかと」と淡々と答える。


 男は静かに腕を組み、「そうか」とだけ呟く。


 議長は静かにマップに視線を落とし、緑の範囲が縮小し、中央のやや左までがオレンジ色に近づいた現状を汚すように描かれた、北側の狭い範囲に広がる緑の地帯を睨む。


 議長はすぐに顔を上げ、「今回の報告は以上です。貴重なお時間を頂きまして感謝いたします。」と頭を下げる。


 各々は静かに目を閉じ、ディスプレイが閉じていく。




半年後 寒い時期が過ぎ、気温が上がり始めた頃。


 天誅事件の後、ノーツコア学園とアインツマイヤーは壊滅的な打撃を受け、学園は事実上の廃校となった。アインツマイヤーは連邦議会の指示の元復興が進められ、ゆっくりと日常が戻りつつある。失った人々は数多くあったけど、皆前を向いて歩き出していた。


 ノーツコア学園の学生は、ノーツコア学園の姉妹校的存在であったオーブのスターコア学園に編入となった。私達第一αのメンバーは、天誅事件での活躍が認められて学園生徒会への参加が認められた。その推薦を受理したのは、アリサ・レイナ・ソーン・カールの四人。後のメンバーは第二αと合併して講義を受けることとなった。

 学園生徒会の方も迅速な対応が評価され、アストリア会長が最前線メンバーに抜擢。3年生となったアトラさんが生徒会長を引き継ぎ、三年生のアキハさんとユイカさん、二年生となった私達元第一αのメンバーが加わり、7名で活動することとなった。

 生徒会の仕事は、普通の学生と同じように講義を受けながら、連邦議会が依頼する危険度の高い任務を秘密裏に遂行するという役割を担っていた。今回の事件まで私達が生徒会の存在を知らなかったのは、学生の前に立つという本来の仕事よりこういった極秘任務を遂行する関係で表舞台に出てこれなかったのが要因だったようだ。



 私達7名はいつものように任務を遂行し、帰還指示を待っていた。そんな時だった。アトラクタという組織の壊滅が指示されたのは。



 アトラが席に着く。他6名はいつものようにアトラの話を待っていた。


 「ねえねえアトラさん。今回はどんな使いッ走りですか?」とアキハがいつものようにアトラをからかう。


 アトラはため息をつきながら「アキさんは黙っててください」とキッとアキハを睨む。


 「わーアトラさんが怒ったあー」とアキハが大げさに傷ついたような仕草で答える。


 アトラはそれを完全に無視し、「今回の依頼ですが…。これまでとは大きく異なるようです」と前置きをしたうえで話し始める。「連邦会議は、アトラクタという組織の壊滅を依頼してきました。これは…いつものような魔物の始末の依頼やならず者の始末ではありません。アトラクタはゾディアックのメンバーが所属する小規模の組織だそうで、1年前のあの事件を指導したものがいる…。とのことです」


 ユイカはそれを聞いて驚いた表情をして体を乗り出し、「それって、アストリア会長が戦った人より強い人と戦うってことじゃないですか!?」と大きな声で尋ねる。


 アトラはその様子を見て「そうですね…。」と口籠り、「ユイカの言う通り、この依頼の危険度は今までとは格が違うと推測されます。ですが、この依頼は勝算があるからされているものだそうです」と続ける。


 ユイカは首を横に振り、「勝算なんてあるはずないです!あの会長でも、アトラさんとアキハさん

が二人で戦ってもどうにも出来なかった人達が相手ってことですよね!?そんな相手…」と漏らす。


 他のメンバーも神妙な面持ちを見せる中、「いやー、どうですかね。まずは話を最後まで聞いてみましょうよ。アトラさんの言い方から見て組織に真正面から挑むわけじゃないんでしょ?6対1とか最悪でも3対1くらいなら勝算はあるんじゃないですかね?」とアキハが軽い口調で話す。


 アトラはその発言に頷きながら、「アキさんの言葉に頷くのは癪ですが、そういう事です」と話す。

 アキハが「その言い方は酷くないですか…。アトラさん…」とショックを受けているのをよそにアトラが続ける。

 「今回の依頼内容は、組織壊滅に乗り出す第一歩です。組織のメンバーと思わしき人物が単独で動くという情報が手に入り、その人物を探し出して始末せよとのことです。つまり、アキさんが言ったように6人で1人に挑める上に奇襲もかけられます。勝算は十分あるでしょう」と話す。


 静かに聞いていたアリサが口を開き、「その人物の特徴や用いてくる心臓兵器などの情報はありますか?」と尋ねる。


 アトラは首を横に振り、「いえ、ターゲットの情報はたった一つです。身長より大きなサイズの棺桶型の鞄を肩にかけている人物だと」と答える。


 アリサは神妙な面持ちで、「そうですか…。そんなに目立つ特徴があるなら、ターゲットの発見は楽にできそうですね。」と返す。


 アトラは頷き、「そうですね。確認された場所も復興が中止状態のトート周辺です。人混みに紛れたり追加の情報を得るのは難しいですが、派手な戦闘や待ち伏せにはうってつけの場所ですね」と続ける。


 ソーンが手を挙げ、「作戦日はいつですか」と尋ねる。


 アトラは「そうね…。」と少し悩んだ後、「学園からトートまでは遠くはありませんが、オーブを抜けた後の戦闘を加味すると二日ほどかかるでしょう。なので、週末の講義を欠席して次の週までに帰還する予定とします。ですので、急ですが出発は明日ですね」と答える。


 各々が了解の返事を答えて席を立ち始める。




 アトラは皆を見送り、書類の整理と地形の地図を睨み続けながら席に居座っていた。


 その様子を静かにアキハは見つめていた。


 時間が経過し、アトラは疲れたように地図を机に置いてうーんっと伸びをする。そしてそこでアキハがずっと残っていたことに気が付く。「何してるんですか!?」と飛び上がりながらアキハに尋ねる。


 アキハは笑いながら、「いやー、あんまり集中してたんで邪魔しちゃ悪いかと思って」と答える。


 「答えになってません!なんでいるんですかー!」とアトラはプクーッと怒った表情を見せる。


 アキハは頭を掻きながら「いやーアトラさんがあまりに可愛かったもんで時間を忘れて見惚れちゃってただけですよーハハハ」とへらへらと答える。


 アトラは顔を真っ赤にしながら「何言ってるんですか!全くアキさんは…。困った人です…」とブツブツ言いながら書類をまとめ始める。


 アキハはその様子を見つつ、「あれ、もう行っちゃうんですか」とへらへらとしたまま尋ねる。


 「ええ。貴方に見られてたのでは集中できないので」とプンプンとしながら書類をトントンと机に叩いて揃える。


 そんな様子を見ながら、「アトラさん。大丈夫?無理してないですか?」と真剣な表情で尋ねる。


 アトラは手を止め、驚いた表情でアキハを見る。


 「いやね、最近のアトラさんってずっと気張ってるみたいだからさ。ここ数日眠たそうにしてたのも、本当はそれをどうするか悩んでたんでしょ?ユイカさんが言ってたみたいに無理難題なんじゃないかってね」と淡々と尋ねる。


 アトラは静かに俯き、「なんでこういう時は真面目なんですか…」と呟いた後「そうですよ。悩んでたんです。この依頼をどうするか。さっきは大丈夫って言いましたけど、そんなわけありません。彼らの力は桁が違う。私達はゲームをしているのではなく命を懸けて任務に赴いています。ですが、今回のこれは訳が違います。こんなものは死んで来いと言っているようなものなんですよ…」と涙を浮かべながら思いを口にする。


 アキハはそんなアトラの頭をなで、「やっぱりいろいろ考えてたんですね。全く…アトラさんは一人で背負いすぎなんですよ。別に会長だからといって全てを一人でする必要はないんですよ。頑張り屋なのはいい事ですが、無理はしないでください。それに、そんなに不安にならなくとも大丈夫ですよ。なんてったって僕たちも成長しましたから。まあ、勝てはしないかもですが、誰も死にはしませんよ」と優しく伝える。


 アトラは恥ずかしそうにアキハの手をゆっくりと避け、「こういう時だけ優しくするのはズルいです。」と真っ赤な顔で拗ねる。


 アキハはその顔を見て微笑み、「ほら、やっぱり可愛いじゃないですか」と笑う。


 「またそうやって軽口ばかり口にする!もういいです!」と言って書類をまとめて教室を出る。扉が閉まる直前彼女は振り返り、「ですが、ありがとうございます。ちょっと元気が出ました」と呟いて出ていく。


 アキハはその姿を見送りながら、「アトラさん!何か言いましたか!?」と大きな声で聴き返す。


 遠くから「何も言ってません!」というアトラの声だけが響いた。



 アキハは窓の外を眺めながら任務について考える。「はあ。こりゃ厳しい。ハイアー先生とか…助っ人が来てくれても全滅かもしれませんね…」

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