45話 天誅 ⑦ 別れ
ソーンとアリサはカールとランド、テッチが待つ街の東の広間に辿り着く。
しかし、先ほどのように避難者の姿はなくその場はひどく静かだった。
二人は驚きながら、ゆっくりとアリサを降ろしてソーンが辺りを見回す。すると、近くの半壊した家屋からうめき声が聞こえる。
ソーンがアリサに声をかけ、ソーンが槍を構えて家屋に近づこうとした時だった。急に人影がこちらに姿を現す。「やらせねえぞ!」と言って姿を現したのは、血だらけのカールだった。
二人はその光景に目を見開き、ソーンがすぐさま駆け寄る。「カール。その傷は?!何があったの!」と動揺しながら尋ねる。
二人を認識したカールはクロスボウを下げ、近くの壁を背もたれにしてゆっくりと座り込む。「何だ、お前らか。助かったぜ…。」と明らかにぐったりと虚ろな目を二人に向ける。
「あー、何があった…っだっけ?すまねえ、頭が回らなくてな。それよりも先に、ほら。」と言って二人にクロスボウを向け、治癒の光で包む。
ソーンの傷がゆっくりと塞がり始め、アリサも辛うじて動けるようになる。アリサもふらつきながらカールのもとに急ぎ、「カール!早く自分も治して!そのままじゃ貴方!」とすぐに伝える。
カールは乾いた笑みをこぼし「ああ。そうしたいが、意味がねえんだなこれが。俺はさ、光栄な事にあの女の子に直々に攻撃されちまってよ。優先始末対象なんだとさ。俺」と話す。
アリサは明らかな焦りと動揺を見せ、「どういうこと?!私達もその女の子から攻撃を受けたのよ!?どうしてカールだけ?!」と今にも泣きそうな表情で話す。
「おいおい、まじか。それって一つ結びの女の子だったか?無口な、紫の鎌を持ったさ」と穏やかに返す。
「いいえ・・。私達の元に現れたのは二つ結びの女の子。金色の鎌を持ってたけど…。」とソーンが暗い表情で答える。
カールは合点がいったように頷き、「なるほどな…。じゃ、こっちのお嬢さんの鎌は毒かなんかの属性だったんだな…。そりゃあ、治せねえわけだ。俺のはあくまでも自然治癒の範囲しか治せないんだわ」と答える。
アリサは「諦めてる場合じゃないよ!今、学園にはアリアさんがいるわ!あの人なら何とかしてくれるかもしれないよ!ほら、早く行こう!」と言って手を差し伸べる。
カールは首を横に振り、「勘弁してくれ。俺はもう動けねえんだ。もう視界も歪んでてはっきりお前らも見えてねえ…。それに、この家にはさっきの女の子もいるんだ。ほっとけねえだろ?」と言ってアリサの手を取らずに答える。
アリサはその言葉を振り切って無理やりカールに肩を貸してゆっくりと立ち上がり、「ソーン、あの子をお願い!私は学園に行くわ!」と言ってよろよろと歩き始める。
ソーンは頷き、周囲に集まり始めた魔物を睨みつつ「行って、カールを助けるのよ」と冷静に答える。
アリサは頷き、「おいおい、お前だってフラフラだろ…。無理すんなって…。」と否定的なカールと共に歩き出す。
背後から戦闘音が響き始め、アリサとカールは歩を早める。
ノーツコア学園 広間
歩いていくうちにアリサの傷が塞がったおかげで、数分で広間に到着する。そこは想像を絶するような無残な光景になっており、戦闘音は静まっていた。
空に魔法が打ち上げられ、人が入っていくのが見えた。そして、静寂の後に大きな歓声が上がり、戦闘の終了を告げていた。
アリサはその歓声に安堵しながら、広間の階段を下った場所で生徒の治癒を行っていたアリアを見つけ、彼女の元に急ぐ。
アリアは2人の到着にすぐに気づき、カールの様子を見て驚きの表情を見せる。「大丈夫?!すぐに治療を!」と言って治癒の光を施す。
しかし、カールの容体は一向に変化が見られない。
アリアは驚きの表情を見せ、「どうして…。アリサちゃん、カール君に何があったの!」と困った様子で尋ねてくる。
アリサは簡単な事情だけ伝え、それを聞いたアリアはさらに表情を暗くする。「ダメ…。それじゃあ私の治癒でも…。」と声を漏らす。
カールは苦しそうな表情で咳き込みながら、「もう…。大丈夫ですよ…。アリアさん…。俺はもう、大丈夫ですから…。貴方のおかげでだいぶ楽になりました。ゆっくりしとけば死にはしませんよ。それより、他の生徒を…。」と小さな声で伝えてくる。
アリアは首を横に振り、「ダメ、貴方がこの中で一番深刻よ。大丈夫。何とかしてみせるわ」と真剣な表情で考えながら、治癒を続ける。
カールは優しく笑い、アリアの手をゆっくりと退けようとする。「大丈夫。大丈夫ですって。ほら、手を退けても…。話せてるでしょ…?」と口角を上げる。
アリサは動揺し、「なんで?!ダメ!治療を止めたらさらに悪化しちゃうっ!カールっ!」と取り乱し、アリアに助けを求める。
アリアは困りながら、治癒を継続しようと手を向ける。その時だった。「大丈夫。よく頑張ったね。私が治すよ」と。
三人は驚き、その声の主に視線を向ける。そこには、先ほど戦闘を鎮圧した少女が静かに立っていた。
少女はおもむろに手をカールに向け、白銀の光で包む。「ほら、合わせて治療してみて。それで安定するはず」とアリアに指示する。
アリアは驚きながら頷き、カールに治癒を施す。驚いたことにカールの傷はゆっくりと塞がり始め、呼吸が安定する。カールの顔色も見る見るうちによくなり、窮地を脱したことが見て取れた。
カールは驚きつつ、「お嬢さん、ありがとな。だが、あんた…。何者だ?」と尋ねる。
少女は表情を変えず、「私はポラリス。間に合ってよかった」と返す。「さて、私はこれで失礼するね。またいずれ会うこともあるはず。その時には敵とならない事を願ってるよ」と言って広間の方へ向かい始める。
アリアは咄嗟に「あのっ!ポラリスちゃんは何処に行くの?」と尋ねる。
ポラリスは振り向き、「私にちゃん付けするのは止めて…。でも、その問いには答えられないな。私達の居場所は誰にも知られるわけにはいかない。特に、緋色の剣士も連れていくなら尚更ね」と答える。
アリサはその言葉に反応し、「待って!緋色の剣士って…。アインの事だよね?!アインが来てるの!?」と問いかける。
ポラリスは頷き、「そうだ。私は行くなって言ったんだけどね。あいつは自分で守りたいって聞かなくて」と淡々と答える。
アリサは驚きながら立ち上がり、「アインは、まだ居ますか?話を…させてほしいです」と声をかける。
ポラリスは頷き、「いいよ。一緒に来て。あいつは上でシンと一緒だ」と言って歩き始める。
アリサは頷き、2人に目配せしてからポラリスに続く。
ノーツコア学園 広間
ポラリスとアリサは広間の中央で待っていたアインとシンの元に行く。
シンはポラリスに「もういいか。行くぞ」と静かに話しかける。
ポラリスは首を横に振り、「もう少しだけ待って、シン。彼女が彼に話したいって」と言って道を開ける。
思いつめた表情のアリサが暗い表情のアインの前に立ち、ゆっくりと口を開く。「アイン…。よかった…。無事だったんだね…」と震えた声で静かに尋ねる。
アインはゆっくりと顔を上げ、「ごめんね。アリサ」とだけ静かに呟く。
アリサは首を横に振り、「いいの…。こうしてまた会えた…。だから行かないで…。また居なくならないで…お願い…」と今にも泣いてしまいそうなか細い声で尋ねる。
アインはアリサにゆっくりと近づき、彼女の頭を撫でて「ごめん、それは出来ないんだ。僕はもっと強くならなくちゃいけない。皆を守るためにはもっと力が要る。フレッドも、先生も、街の人達も…。誰も…。僕が弱いから、皆目の前で居なくなった。二度とそうならないようにするために、僕は強くなる。その為には、彼らに付いていかないといけないんだ」と優しく説明する。
アリサは納得できない様子で「なら、私も…。私も行く。アインとならどこだって行ける。本当だよ…?」と泣きながらアインの顔を見上げる。
アインは困ったように笑い、「それはダメなんだ。僕一人じゃないと…。ごめんね。必ずまた会いに行く」と言って彼女の元からゆっくりと離れ、近くで待ってくれていた二人の方へ歩き出す。
アリサは咄嗟に手を伸ばそうとするが、迷ったように手を止めてもう片方の手で抑えて胸に当てる。去っていくアインを見つめながら…。
三人が去り、静寂が訪れる。アリサは涙を流しながら俯き、その場で立ち尽くしていた。
???
豪華な装飾のされた扉をノックする。「入れ」と聞きなれた声が響き、扉を開ける。
「失礼します」
部屋の奥で座る男。テイルダム・ラインハルトはいつものように恐ろしい気迫でこちらを見つめる。「状況は?」と重たい口が開く。
私は頭の中で慎重に言葉を選びながら、「達成率は規定値を上回り、任務は達成されました。しかし、討伐対象で始末できたものは一人のみで、後は生存しております。」と答える。
テイルダムは興味がないと言わんばかりに「そうか」とだけ呟き、「後始末はいつものように。任せたぞ、議長」と続ける。
「はい。承知いたしました。」と返し、退室する。
テイルダムはそれを見送り、ため息を吐く。「使えん奴らめ…。彼らを指揮しながらこの程度の成果しか挙げられんとは情けない」
「まあいい。これで奴らも後がなくなった。さあ、尻尾を出せ。ポラリス。今度こそ貴様らを根絶やしにしてやる」と言いながらたった一人で不敵に笑う。




