44話 天誅 ⑥ 襲撃
30分前
アインツマイヤー 中心街
私達はアトラさんとアキハさんの指示で地獄と化した中心街での救出活動を開始。指揮は第二αクラスのイースさんとテッチさんがしてくれている。
崩壊した家屋の下から声が聞こえる。その上には見た事もない魔物。私とソーンは心臓兵器を握る。
「アリサ。あの魔物は私が。家屋の下の方の捜索は任せるわ」と言ってソーンは地面を蹴る。私は頷き、武器を構えたまま後を追う。
家屋の上に立っていた魔物はソーンの接近にすぐさま反応して振り返る。四足歩行で狐のような顔を持つその魔物は、2つに分かれた尻尾を逆立てて彼女を睨む。体を捻り、尻尾を横凪にして斬撃を作り出し、ソーンを迎え撃つ。
ソーンはその攻撃に怯みもせずに直進し、かなりの速度で迫る斬撃を槍で相殺する。二尾狐は即座に体を翻し、尻尾を鎌のように逆立てて近接の姿勢をとる。
ソーンは狐に切り込む。狐は器用に尻尾でそれを防ぎ、見た目に反した力強い動きでソーンを弾く。彼女は数メートルほど後ろに後退してしまい、下を見つめる。すかさず追撃に飛び掛かってきていた狐の影が視界に入った途端に槍を蹴り上げ、見ていたかのような完璧なタイミングで狐を串刺しにする。
狐は力なく槍に重みをかけて動きを止め、ソーンはゆっくりと地面に槍を降ろして一度霧散させる。すぐさま背後に視線を送り、アリサが頷く。
アリサはすぐさま家屋の方へ向かい、子供の声を頼りに瓦礫を退けていく。すぐに子供の顔が見え、アリサは剣をサッと振るう。器用な剣戟によって子供の周囲の瓦礫が砕け、彼の拘束を解く。
アリサはぐったりとしている子供を抱え上げ、すぐさま後退する。ソーンはその様子を見届け、周辺の魔物の討伐に動き始める。
中心街から東側に逸れた小さな広場に着き、疲弊した人々の端に見える制服の青年に子供を預ける。
カールはすぐさまクロスボウを構え、優しい光で子供の体を包む。子供の呼吸がすぐに安定し始め、彼はふうっと息を吐いて顔を上げる。「アリサ、ありがとな。これでこの子も大丈夫だろう。後はあっちの本当のお医者さんに見せたらしっかり治療してくれんだろ。それより、大丈夫か?ソーンもそうだが連戦が続いてる。言ってくれればいつでも代わるからな」と心配そうにアリサに声をかける。
アリサは「うんん、大丈夫だよ」と言いながら首を横に振り、中心街の方へクルっと向きを変える。「じゃあ、行くね。一人でも多く助けないと。急がないと被害が広がっちゃう」
カールはその後ろ姿を見つめながら、「ああ、そうだな。でも、俺たちがくたばったらそれこそ終わりだ。気をつけるんだぞ」とだけ告げる。
アリサは頷き、サッと中心街の方へ向かう。
カールは心配そうにその姿を見つめる。背後に迫る視線を感じながら。
アインツマイヤー 中心街
アリサは戦闘音を辿ってソーンとイースに合流する。イースがアリサの到着に気づき、「おかえりなさい、アリサちゃん。こっちはソーンちゃんが一掃してくれたわ。でも、生存者はどこにも見つかってないわ」と苦い表情で伝える。
「そう…ですか。では、こちらはお二人にお任せしますね。私はランド君たちの方へ合流を・・・」と言おうとした時だった。崩れた家屋の近くを歩いている少女が目に入る。「イースさん!あの子!」と言って指をさす。
イースはすぐに目を凝らし、少女を捉える。「うん、見えたわ。ソーンちゃんもそろそろ偵察から戻ってくるし、私が保護してくるね」と言って少女の方へ向かい始める。
アリサはその姿を見届けた後に周囲を見渡し、他に見落としがないか捜索する。しかし、それを許さないと言わんばかりに戦闘音が響き、視線を戻す。その方向は、先ほどイースが向かった方だった。
少女の近くに辿り着き、「お嬢さん?大丈夫?」と優しく声をかける。
二つ結びの少女はパッと明るい表情で「うん!大丈夫だよ!」と返事し、「お姉さんは誰?」と無邪気に首を傾げる。
イースは優しい表情でゆっくりと少女に近づきながら「私はノーツコア学園の生徒よ。怪我した人達を助けてるの。貴方も皆さんのところに行きましょう?」と手を差し伸べようとする。
二つ結びの少女は「そうなんだ!お姉さんは良い人なんだね!じゃあ、倒さないと!」と無邪気に言いながらおもむろに両手を構え、振り下ろすような動きを見せる。
イースは即座に危険を察知して飛び退き、心臓に手を当てて金属製の鎖が連なって出きた鞭を顕現させる。
二つ結びの少女が振り下ろした手には金色の鎌を地面に突き立て、頬をプクーッと膨らませて「んもー。逃げちゃダメだよー。お姉さんみたいな人は倒さないとだめって言われてるの!良い人なら私が怒られないように倒されてよー!」と言って拗ねてしまう。
イースは言葉に囚われずに鞭を構え、少女の出方を図る。
「もう。お話もしてくれないのー?私を助けてくれるんじゃなかったの!」と言いつつ鎌を構えなおして地面を蹴る。
イースはそれに合わせるように扇状に鞭を横凪に振るう。しかし、少女は身を翻して軽々とそれを回避し、すかさず放たれた二撃目も姿勢を低くして避けてイースの懐に迫る。イースはすぐさま後ろに飛び退きながら鞭をがむしゃらに振るい、指を鳴らす。
少女は危険を察知して追撃を諦めて飛び退く。その瞬間二人の間には風が舞い、地面には鋭い剣戟のようなものが幾重にも刻まれる。
少女はその様子を見つめ、「お姉さん凄いね!強いんだ!」と無邪気に声を出す。そして、鎌を片手で握って姿勢を低くし、「でも、手札を全部見せちゃったらもう次はないよ?ごめんね!」と言って笑う。イースはその様子に嫌な予感を察知して後退しようとする。しかし、先ほどとは違い少女の姿が消え、背後に気配が飛ぶ。振り返る猶予もなく鋭い痛みが走り、地面に叩きつけられる。
イースはすぐさまふらつきながらも立ち上がり、少女を見つめて「あなたは、どうして…。」と声を漏らす。
少女は目を見開き、「お姉さん強いね!私の攻撃を受けて生きてた人、初めて見た!」と喜ぶ。「じゃあ、もっと遊ぼう?お姉さん!」と言い、地面を蹴る。
直進で迫る少女に対して、イースは咄嗟に鞭を大振りで振るって指を鳴らして大きな斬撃を発生させる。しかし、片手を前に出した少女はその手から金色の光が斬撃を放つ。二つの斬撃がお互いを相殺して風を巻き起こす。
少女は両手で鎌を構え、動きの鈍ったイースの首を狙う。イースはその様子を悔しそうに見つめていると、次の瞬間金属音が響いて少女が横に飛ぶ。
目の前にはアリサが立ち、「大丈夫ですか!?イースさん!」と驚きが混じった声で尋ねてくる。
イースはハッと意識を安定させ、「うん、大丈夫よ」と言ってアリサの隣に立つ。
アリサはその様子を横目に見つつ、「無理しないでください。イースさんは私が守ります。ソーンもすぐに来ます」と言って剣を構える。
砂煙が晴れ、少女がこちらに歩いてくる。「もう、酷いよ!どうして皆して私をいじめるの」と言いながら片手で鎌を握る。
イースは鞭を構え、「気を付けて、アリサちゃん。あの子の速度は普通じゃない。鎌の威力も魔法の斬撃もどちらも直撃したら致命傷よ…。」と苦しそうに話す。
アリサは剣を握りながら、「わかりました。イースさんは援護をお願いします。私が前に出ます」と言って地面を蹴る。
少女はその動きに反応して手を前に出し、金色の光を収束させる。そして、即座に形成された斬撃が地面を抉りながらランダムな軌道を辿りながらアリサに迫る。アリサはその攻撃を軽やかに回避し、少女の懐に迫る。少女は動揺一つせずに鎌を両手で握り、アリサの攻撃に合わせて振るう。アリサは動きを見ながら回避と剣戟を合わせて対応するが少女に攻撃が届くことはない。
そして、幾度かの剣戟を重ねると急に少女の攻撃の威力が上がる。アリサは突然の変化に対応できずに力負けしてしまい、剣を地面に叩きつけられてしまう。少女は不敵な笑みを浮かべながら飛び退き、いつの間にか準備していた金色の光を放つ。アリサの周囲には金色の光が蜘蛛の巣のように軌跡を残す。そして、少女がおもむろに指を鳴らすと、その光の輝きが増す。アリサは咄嗟に剣を霧散させて飛び退こうとするが、その範囲に呑まれてしまい離脱できる様子ではなかった。
次の瞬間、金色の斬撃がアリサの居た地点を中心に広範囲を無造作に切り刻む。少女はその様子をみつめ、「もう、また邪魔された」と不機嫌な様子をみせる。少女の視線の先には、傷ついたソーンとアリサが瓦礫の近くでぐったりとしていた。
ソーンはアリサの方を向き、「大丈夫?ごめん。遅くなったわ」と言って彼女の状態を見る。
アリサは辛うじて意識を保ち、「うん…。大丈夫。ありがとう、ソーン…。」と虚ろな表情で答える。
ソーンはゆっくりとアリサを降ろし、「ゆっくりしてて。後は私が」と言って少女を睨む。
しかし、彼女たちの前にイースが立ち「撤退して」と低い声で命令する。
二人は驚いた表情でイースの方へ視線を向け、「ダメです。私は戦えます。撤退するなら私が殿を務めます」とソーンが立ち上がる。
イースは振り返り、優しい表情で「大丈夫よ。私は先輩なのよ?先輩の言う事は聞くものなの。いい?早く行って?」とソーンを諭す。
ソーンは反論しようとしたが、アリサの様子を見て苦い表情になり、「絶対!戻ってきてくださいよ!」と言ってアリサを抱え、離脱する。
イースはその様子を見届け、「ありがとう、2人とも…。じゃあ、かわいい後輩の為に頑張りましょうか」と呟き、力強く少女を睨む。
三人の会話を見守っていた少女は立ち上がり、「お喋りは終わった?結局お姉さんが遊んでくれるんだ?」と言って鎌を握る。
イースは口角を上げ、「ええ。私が遊んであげるわよ」と言って鞭を構えながら地面を蹴る。
少女もそれに合わせ地面を蹴る。
幾度かの剣戟が響いた後、ドサッという鈍い音とジャラジャラと金属の小さな音がその場に響いた。




