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40話 天誅 ② 最強

 女性は微笑み、「迅速な動き、流石ですね。ここからは、学園生徒会が貴方達を援護します」とアリアに告げる。

 彼女の背後からは同じ制服を身に纏った4人が姿を現し、演習場と街の方へ二手に分かれて走り出す。


 「私は学園生徒会長、アストリアと申します。説明している時間はありませんので、状況だけお伝えします。上の彼は私が相手いたします。各地には第二学年のアルファクラス及び生徒会の生徒に向かっていただきました。アリア様にはこの場の魔物の対処、生徒の護衛をお願いいたします。ここは非戦闘員の方が多い。この場はお任せいたします。」とだけ伝え、彼女は身を翻し、手に持った槍を徐に男の方へ投げ飛ばし、刺剣を握って地面を蹴る。



 屋上で見下ろしていた男が反応を遅れるほどの音速で槍が顔を掠め、意識が逸れた男の肩に刺剣が突き刺さる。

 アストリアはすぐさま後方に飛び去り、刺剣を構える。


 男は埃を払うように肩を撫でて傷を癒し、「ずいぶん手荒な歓迎ですね。生徒会長様?」と全く動揺する素振りも見せずに腕を振って剣を取り出す。


 アストリアは音も立てずに地面を蹴り、一瞬で男に迫る。

 アストリアは、構えてすらいなかったはずの男に向けて神速の月を放つ。しかし、男はそれを直前まで引き付けたうえで軽々と弾く。彼女は勢いを流すようにクルッと転身しながら見を屈め、下段から男の胸元に目掛けて三度の連撃を放つ。

 男は動く素振りすら見せずに簡単に受け止め、片手で剣を振る。アストリアは持ち前のフットワークの軽さを活かし、軽やかに回避しながら反撃に転ずる。

 男は追撃を優先せず、まるで時間を稼ぐように剣戟を繰り返していた。



 アストリアは一旦距離を取り、「貴方達の目的は何です。どうして街を破壊し、魔物を放ったのですか」と淡々と尋ねる。


 男はその問いに落胆したように片手で顔を覆い、「はあ…。まあいい、君の強さに免じてその問いに答えよう。私たちがしているこの戦闘行為は、暇を持て余した人類に、共通の敵を作る事を目的としている。今回の作戦によって、人類は共通して私達を憎み、恐怖するようになるだろう。忌むべき相手を与えられた人類は、それに抗うために団結を始める。その過程で、長きにわたり続いてきた人類同士の愚かな争いを終結させるだろう。こうやって引き起こされるのは協調的平和。私達は、君達が平和に歩むためのキッカケを与えに来たのだよ」と淡々と答えた。


 アストリアは怒りを露わにし、「なんて身勝手な言い分ですか…!貴方方はそんな押し付けの為に、今を生きる人々を愚弄しているのですかッ」と反論する。


 男は残念そうにため息を吐き、「やはりそういう反応を示すのだな。残念だ。君は、「そんな事」と言った。では聞こう。君は、この島で起きている何の価値もない名誉や立場を奪うための争いや物資や時間、富を搾取され、飢えや喪失に苦しんでいる人がいる現状を知っているとしよう。君には何かができるか?」と尋ねる。


 アストリアは困った顔で悩み、「そ、それは…。私なら、全ての人々が平等に、限られた時間の使い方を選択する機会が得られるよう努めます。自分で選んで行動するということは強制されることではありません。そこに苦悩は生まれないはず。不満や不平も対話することで、助け合うことで解決することが出来るはずです。生活に必要な物資も、一握りの人間が搾取しなければ奪い合わねばならぬほど不足しているわけでもありません。私達はお互いに助け合う心をもって動くことが出来るはずです。恐怖から生まれる団結などがないと争いを終わらせられないほど、人類は愚かではありません」と答える。


 「クククッ。理想とは、空論とは素晴らしい。そうならないから、そうできないからこうやって格差が、弱者が生まれる。「人類は聡明で、互いを助け合える。私達が介入しなくとも理想を実現できるんだ」私達の元主人の最後の言葉だ」

 「だが、現実はそうならなかった。人類は欲にまみれ、争い合う。こんなにも知性に溢れ、品格を持ち、動物や植物を慈しむ種族がだ。今、聡明な人類は天敵と呼べる存在がなくなり増え続けている。恐れる者がない者はその中で価値を求め始め、愚かにも人類という天敵を作って戦い始めた」

 「このような愚かな行為を始めた根本的な理由はやはり、理不尽に奪い、淘汰する存在がいなくなったから。人類に足りないのはやはり、恐怖とそれによる団結だ。だからこそ、私達は介入する。美しく聡明な種族の存続を汚さないように。人類が優秀な作物を選別するように。我らサテライトは、人類を選別し、天敵となろう。人類同士が争わない、理不尽が支配した平等で美しい理想郷を形成して見せよう。」と男は淡々と演説した。


 アストリアはその演説を聞き、呆れる。「淘汰することで強制的に争いを無くそうだなんて正気の沙汰じゃない。貴方達は根本的に人類という種を理解していないわ。そんな切り口では何の解決にもならない。短期的な一瞬の為の平和ではない恒久的な平和を目指すなら、人類同士が対話して一つずつ争いの種を無くしていくしかないの。争えなくなったから平和になるのと、お互いが歩み寄ったから平和になったのでは根本が異なる。貴方達はそれを分かってないわ」と返した。


 男はその反論に失望したように項垂れる。「やはり、分かってもらえないのだな。私たちも元主人が仰った言葉を信じて待った。何千年も。だが、結果はどうだ。人類は天敵を作られても争い、力を持つものを淘汰しても争い続ける。私達はもう十分に待ったのだよ。だが、人類は理想へたどり着くことが出来なかった。だからこそ、私達の方法で平和を提供する。圧倒的な力に怯え、震え、ヒエラルキーのトップから引きずり降ろされなければ、人類はその愚かさを自覚できない。彼らの目を覚まさせ、真の結託へ至らせる。地位も年齢も性別も関係なく、人類であるというだけで安心しあう事ができ、信頼できる。そこに敵意など現れることはなく、お互いが歩み寄り、助け合う。そんな理想の状態へと進化させて見せよう」と演説し、武器を構える。

 「私達は君達を完膚なきまでに打ち滅ぼす。人類の戦力のほぼ全てを砕き、蹂躙する。同様に、非戦闘員も間引き、進化の種のみを残して文明を後退させる。そのために、君達を淘汰しよう」と言い放ち、男は地面を蹴る。


 アストリアは防御の構えを取り、迎え撃つ。しかし、男の速度はアストリアと同等以上で、その手数は防ぎ切れるものではなかった。


 男の攻勢を受け流す。右手に握られた銀の剣は、まるで踊るかの如く美しい奇跡をなぞりながら、私に迫り続ける。その一撃一撃は重たく、両手で相殺するように撃ち返すのが限界なほどだった。


 男は残念そうにため息を吐き、両手で剣を握って斜めに斬り下ろす。アストリアは受け止めようとしたが、速すぎる一撃に完璧な防御が出せず、まともに攻撃を受けてしまう。その一撃を受けた途端、アストリアは校舎を砕きながら広間に一直線に突き刺さる。


 広間に残って生徒達の護衛をしていたアリアは衝撃波に驚き振り向く。


 男がスタッと広間に降りる。アストリアは苦痛の表情を浮かべながら立ち上がる。

 「やるな。流石は学園1の実力者。最前線メンバーにも近い逸材だ。まあ、残念な事に今日死ぬんだがな」と言い放ち、地面を蹴る。

 男は、構えきれていないアストリアに向かって剣を振り下ろしにかかる。


 咄嗟にアリアが間に入り、黒氷剣と男の剣とが打ち合い衝撃を放つ。


 男は不快そうな表情を見せ、一歩後退してもう一度斬り込む。黒氷剣に叩き込まれた強烈な一撃は受け止めたアリアを吹き飛ばす。男は地面に転がるアリアを見下し、手を向ける。そして、魔方陣を展開して彼女に向けて解き放つ。その光は熱を帯び、貫くようにアリアの顔へ向けて一直線に照射される。


 その光が彼女を貫く前に、衝撃が逃げるように照射された光がY字に分裂する。「アリアさん。大丈夫ですか」静かな聞きなれた声がアリアの意識を引き戻す。「アイン…君…?」


 その言葉に、男は大きく口角を上げる。「来たか!アイン・リーティスッ!やはり、貴様が来る場所がここだという予測は外れていなかったようだな!」


 その言葉を遮るように、アインは男に迫る。男は簡単に彼の剣を受け止め、「なぜ邪魔をする?アイン。私は君を何度も助けた。私は君の味方だ。そうだろう?」と嘲笑しながら尋ねる。男は話をしながらアインに向かって連撃を始める。


 アインは男の剣を受け止め続けながら、「ええ。貴方には感謝するべき事が多くあります。ですが、今の貴方は、敵です」と返答する。


 男は剣を振り切り、アインを軽く吹き飛ばす。アインは地面に剣を突き立てながら勢いを相殺し、男を睨む。


 「敵か。残念な言葉でならない。昔の君の理想を達成するためにわざわざ目標をここではなく街に切り替えたというのに。君は彼に会ったのだろう?なら、私の理想が昔の君の理想と合致することが理解できるはずだ。大切な人以外いらないという大層な理想と」


 アインは首を横に振り、「僕が…彼が望んだのは…大事な人も、今を生きる人達も…全員を守る本当の英雄だ。彼は諦めてしまったんじゃない。達成できなかった理想を悔やみ、やり直したいと願っただけなんだ。僕は…彼のように。手に届く大切な人だけじゃなく、手に届かない誰かも含めて、全ての人を守りたいんだ」と決意の表情を見せ、男を睨む。


 男は笑う。「そうか!それは大層な信念だ!貴様が消えていた数か月はお前を大きく変えたようだ。私は嬉しいぞ。だが、その理想は達成されないだろうな!現に今、そうして守りたいと願う人々は死に絶えているのだから!お前がその理想に辿り着く前に何人の人類が死に、絶望の淵に落ちるのか見ものだな。まあいいだろう、そこまで言うならこの私、ゾディアック8の座。レグルスを倒し、その理想が成し遂げられると見せてみろッ!」と構える。


 アインは全身に力を滾らせ、剣を完璧な緋色に染める。「いくぞ」と呟き、地面を蹴る。同時にレグルスも地面を蹴った。


 二つの剣が交差する。先程とは違う、重圧的な衝撃が周囲を圧倒する。緋色の軌跡と銀の軌跡が交錯し、昼の広間を明るく染める。彼らの周囲には風圧と衝撃が放たれ続け、だれの介入も許さない圧倒的な威圧感が支配していた。

 剣戟が一際大きな衝撃派で止まる。アインが一歩後退し、レグルスが飛び上がって追撃を目指す。


 振り下ろされる剣に対して、アインは剣を構えて応戦する。地面が軋み、大きく崩れる。土煙が舞い、晴れた先で2人が睨み合う姿が映る。

 アインは剣を低く構え、レグルスは胸の前に構える。2人は地面を蹴り、アインは斬りあげ、レグルスは振り下ろす。

 剣同士が交わり、衝撃が轟く。2人は反転し、アインが振り下ろし、レグルスが斬りあげる。鍔迫り合いが続き、火花が散る。金属音が響き渡り、2人が後退する。


 男は「やはり残念でならない。君はまだその力を使いこなせていない…。もっと、本気で来い…。アイン・リーティス…。」と言い放ち、左手にもう一つの剣を取り出す。男は剣同士を打ち鳴らし、剣はそれに呼応するように、それぞれが赤と青の刀身へと姿を変える。

 「来い。私は君を殺す気で臨む。ここで死ぬなら、それまでだッ!」と言い放ち、地面を蹴る。


 アインは剣を握り直し、地面を蹴る。


 2人が交わり、再び衝撃が響く。男は徐に左手の赤い剣を振り下ろす。その攻撃を受け止めると、次の瞬間には逆手に握られた右手の青の剣がアインの腹を裂く。男は勢いのままに転身し、2本の剣を斬り下ろす。誰の目にも映らないほど、一瞬の剣裁き。アインが知覚する頃には、彼の体には斜めに2本の線が浮かび、鮮血が飛び散っていた。男は後退しながら赤い剣をアインへ放る。剣はアインの足元に刺さり、地面に魔法陣を展開する。信じられないと言わんばかりに目を見開くアインは、力無くゆっくりと跪く。彼が膝をついた途端、魔法陣が起動し火柱が昇る。 


 辺りが騒然となる。アリアは咄嗟に治癒の魔法を付与しようと体を動かしていた。しかし、その光が届いたかを認識する前に、彼は火柱に飲まれてしまった…。アストリアは男を睨み、槍と刺剣を握る。

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