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3話 入学試験②


 気がつくと、僕は河原の近くで横になっていた。そして、目の前には心配そうに涙ぐんでいるアリサの顔があった。もうわけがわからない。


 そのままの体勢で「ア、アリサ?何がどうなってるんだ?」と尋ねた。


 「アインさん!目が覚めたんですね!よかった…お体はもう平気ですか?」と綺麗な瞳を輝かせながらアリサは僕に尋ねてくる。


 「う、うん。僕はもう大丈夫みたい。もう体も動かせるみたいだ。ところでここは?」


 アリサは安堵した様子で「ここは、あの魔物が現れた場所の近くにあった川の畔です。あの魔物を倒した後、アインさんをカールさんが心臓兵器で治癒してくれました。なので、アインさんの外傷はほとんどないはずですよ。詳しくは、カールさんが戻られた時に聞いてくださいね。でも、治ったように見えてもあんなに重傷だったんですから、今は動かない方がいいですよ」と話してくれる。


 確かに僕の傷が塞がっており、体も回復していた。どういう事かいまいちわからなかったが、カールが話してくれるだろう。それよりも、今はこの状況をどうにかしないといけない…。

 話を聞きながら自分の状態を考え直していた。僕は寝そべり、アリサの顔が目の前にある。首の後ろは柔らかくて暖かい感触が支えてくれている。つまり…僕は今、アリサに膝枕をされている…。これは幸せな状況なんだろうけど、恥ずかしくってたまらない。動かないでとは言ってたけど、到底耐えられなかった。すぐに僕は顔から火を吹くように真っ赤になってしまい、その顔を見られまいと咄嗟に「ご、ごめん!」と叫びながら飛び退いてしまった。


 アリサはその様子を笑いながら「気にしないでください。でも本当に今は休んでくださいね」と優しく言ってくれた。


 僕は、高まった心臓の鼓動と真っ赤な顔を隠すように下を向いて気によりかかっていた。



 そんな事をしていると、カールが水を汲んで戻ってきた。僕は気を取り直して、カールにも状況を尋ねる。


 「えーっとな。アインがぶっ飛んだ後、アリサが二本の剣であのトカゲを瞬殺したんだよ!凄かったぞ!そのあとすぐに俺はアインの状態を見に行ったんだ。でも、どうみてもアインはもう助からないような重傷の状態だったんだ。それでも俺はさ、これは何かの間違いでアインはすぐに目を覚ましてくれるって信じて無我夢中でアインに呼びかけてたんだよ。そしたらさ、ほらこれ。この腕にくっついてる弓?が出てきたんだよ。初めは訳わからなかったけど、これが心臓兵器ってやつなのかとすぐに気づいたんだ。でさ、今顕現するならこの状況を変えてくれるんじゃないかってこいつに手をかけてみたんだ。そしたらいかにも回復能力を持ってそうな輝き方をした矢がつがえられたんだよ!もしやと思ってダメ元でアインを射抜いたらみるみるうちに回復してったんだぜ。いやー驚いた」と話してくれた。


 僕はすっごく疑問だった。「なんで治癒の矢だって分かったの?」とすっごく不審げに尋ねる。


 「おいおい、助けられたのになんでそんな怖い顔なんだよー。いや、すっごい黄緑色に優しく光ってたからさ。こりゃ治癒能力のある矢だろってな。てのは冗談で、すぐにピンと来たことがあったんだ。俺の母さんはさ、治癒魔法を扱えたんだよ。昔はよく治療してもらってたし、あの時の光と似てたからさ。もしかしてって思って。まあ、試せる人もいなかったから一か八かだったんだけどな」とバツが悪そうに頭を掻きながら話してくれた。


 あれ?僕って一歩間違えてたら止めまで刺されてた?と思ったが、心に留めて「ありがとう。2人のおかげで助かったよ。2人とも命の恩人だよ」と頭を深く下げて2人に感謝した。2人は、当然のことをしただけだよと優しく笑いかけてくれた。



 カールが汲んでくれた水を3人で飲み、落ち着いた所でアリサに尋ねた。「そういえばアリサは心臓兵器を見出してたんだね。もう力の譲渡もしてもらってるの?凄いよね」


 「そうですね。心臓兵器は小さい頃に見出したんです。でも、誰からも譲渡はされてませんよ?」と困ったように首を傾げる。


 「でも、二刀で戦ったって言ってなかった?」


 「あ、そういうことですか。これはですね、二刀で一刀なんです。一つの剣が中央から2つに割れるんです。つまり、本来は一つの大剣なんです。私はそこまで身体が大きくないから、一刀の状態は戦いづらくって。だから普段から割った状態で戦ってるんです」


 「そうなんだ。アリサは戦いに慣れてるみたいだし、ほんと心強いよ!それに、あんな魔物にもすぐに挑めるなんてカッコいいよね!」と興奮気味に伝える。


 「ええ?そ、そうかな。でも、ありがとう…」とアリサは顔を赤らめながらこそっと呟いた。



 カール、アリサの2人が強力な心臓兵器を見出してくれていたおかげで、この後の探索はそこまで難しいものではなかった。信仰を再開してからもスタート時点と同じように慎重に進みつつ、避けられないゴーレムや魔物はアリサに倒してもらった。アリサが苦戦する事はほとんどなく、僕とカールは見守っている事がほとんどだった。


 ゴール寸前、日が暮れ始めた頃だった。背後から、大きな遠吠えが聞こえた。


 「アインさん、カールさん、ちょっと急ぎましょう。流石にもう戦闘で突破するのは時間的にも厳しいかもしれません。あの声の主は他とは違う感じがするんです」とアリサは険しい顔つきになり、先を急ぎ始める。僕たちも続く。


 しかし、試験は簡単なものじゃないと言わんばかりに、その声の主は目の前に姿を現した。というか、僕たちを後ろから飛び越えて目の前に降りてきた。声の主は、白い毛の巨大な狼だった。吹雪を纏い、こちらに鋭い敵意を放っていた。睨まれただけですくんでしまうよな鋭い目つきで睨みつけられ、僕は立っているのがやっとの状態だった。とてもアリサだけに頼ってタダで済むレベルの相手ではない強敵なのは火を見るよりも明らかだった。ただ、ゴールは白狼の向こう側で、日没までに到着しなくてはならないこの状況では逃げる選択肢は選べない。アリサは心臓兵器を召喚し、臨戦態勢を取ってくれていた。

 アリサは白狼の右前方から身を屈めながら突撃する。白狼は反応が遅れ、自身の左前足を刻まれる。白狼は小さく唸りながら後方に下がる。白狼は着地した瞬間、神速ともとれる速さでこちらに突撃してくる。一番距離の近かったアリサは抵抗することすらできずにその突撃を受けてしまう。

 アリサは空中に投げ飛ばされ、地面にたたきつけられる。すぐにカールの援護が届くが、ダメージが大きく体を起こすことすらままならない状態となった。

 しかし、白狼の攻撃はそれでは止まらなかった。付近が凍るような甲高い音が鳴り響き、白狼のほうへ振り返ると、白狼が天を見上げて吠えようとしていた。その声が轟いた瞬間、僕たちの立っていた地面一体が瞬時に凍結した。カールは足を捕られ、アリサは跪いていたために膝付近までが完全に凍結してしまう。


 「クソッ!マズいぞ!」と叫びながら、カールは持っていた手斧で足の氷を剝がそうとするが斧が耐久性で負けていた。


 僕の足元も凍り、白狼が近づいてくる。僕は、何もできずに立ち尽くしている自分に絶望した。白狼が目前に迫り、僕は視線を降ろして最期の時を待った。その瞬間だった。雰囲気が一変し、僕の周りから音が消えた。何が起きているのか分からず辺りを見渡すが、白狼の唸り声や吹雪の音、僕の心臓の音、2人の息を飲む音や足音、その全てが消え、僕の周りの全ての時間が停止したように感じられた。

 そして、僕を中心に周囲が燻るように滾りだす。足元の氷が消え、目の前には剣の形に成形された岩が突き立っていた。その剣は、噴火した山から溢れだした溶岩のように、いくつもの緋い線が脈打っていた。とても剣とは呼べないはずのその武器に手をかける。僕は、この武器を初めて見たはずなのに…とても懐かしく、馴染む感覚がした。


 岩剣を引き抜く。


 すると、止まっていた空間が元に戻りだし、間近に迫っていた白狼が、纏っていた吹雪を放つ。咄嗟に僕は岩剣でガードを行う。驚いたことに、この武器には先ほど僕自身から漏れ出たような炎熱の力の名残が見られ、迫りくる吹雪を完全に相殺した。白狼は攻撃が防がれた瞬間に飛び退き、氷のブレスを放つ。しかし、これも突き立てた岩剣には意味をなさなかった。僕は岩剣を構え、軽く地面を蹴る。すると、常人とは思えない力で突撃することができ、白狼の目の前に届く。咄嗟に、続けて攻撃しようとしていた白狼の鼻先に岩剣を叩きつける。白狼は不意の大きな一撃によって地面に叩きつけられる。隙を見せた白狼に対し、氷を砕き切ったアリサが突進して華麗な剣戟を叩き込む。不意の剣戟によって深い傷を負った白狼は、右前足を折りながらこちらを睨みつけている。その隙を逃さないように、僕はすぐに剣を握りなおして突撃する。しかし、不意に強烈な痛みが走り、体勢を崩してしまう。その瞬間、白狼は体を捻って硬い尾っぽで僕を地面に叩きつける。強烈な攻撃に一瞬意識が飛んでしまう。辛うじてすぐに意識を取り戻すが動けず、目の前の白狼がこちらにブレスを吐き出そうとした瞬間、再びアリサが白狼を横から切り崩しにかかった。

 かなりの傷を負った白狼は、僕に止めを刺さずにすぐに後ろに飛び退く。そして、煙幕のようにブレスを吐き出してそのまま撤退する。沈黙が訪れ、戦闘の終わりを実感させた。


 僕がその安堵を感じた瞬間、無理やり保っていた意識が事切れ始める。カールとアリサが近寄ってくる足音と心配する声が聞こえる。しかし、2人が辿り着く前に僕の意識は途絶えた。




??? 


 映像が終わる。映像を見ていた女性は眼鏡を外し、息を吐く。


 隣で見ていた男が「今年は豊作のようだな。メード。」と微かに口角を上げながら女性に話しかける。


 メードと呼ばれた女性は男の方へ視線を向け、「そのようですね。これからが楽しみです」と淡々と答える。


 「嬉しくないのか?有望な生徒がこんなにも入学しようとしているというのに」と男は意外そうな表情を浮かべながら訪ねる。


 メードは首を横に振り、「もちろん嬉しく思います。ですが、有望な生徒達は彼らに振り回される。壊されないといいのですが…。」と呟く。


 男は「ふむ」と呟き、「大丈夫だろう。今後の議会には私も参加する。今期の学園生徒会は実力者が揃っている。そう簡単に振り回させはせん」と淡々と返した。


 メードは「それは助かります。有望な人々を使い潰されるのは見ていられませんので」と言って立ち上がり、「それでは失礼いたします。また議会にて」と一礼して部屋を出る。


 男は映像の写っていた壁を見つめ、「ククッ。アイン・リーティス。まさかな…」と呟いていた。



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