35話 真実
塔に入ると、そこにはデュークとシャルロットが居た。そして、その2人の他にもう1人…。メード学園長の姿があった…。
デュークは傷だらけになり、気絶しているのかグッタリと座り込んでいるシャルロットとメードの間に立っていた。彼の手は、大剣を持ち上げる力すらも残っておらず、力なく地面を引きずっていた。
メードは杖を握り、瓦礫の上に立ちながら2人を見下ろしていた。
メードは僕達の到来を待っていたのか、姿を見た途端に笑って見せる。
「ふふふ。笑いが抑えられないわ。始末するはずだった奴らが揃いも揃ってゾロゾロと…。アリア、それに…アイン君。歓迎するわッ!アッハッハ」とメードが笑いながら杖を地面に突く。
次の瞬間、僕達の周囲に無数の歪みが現れる。
デュークさんの「避けろ!」という声が響くのと同時に、歪みからクリスタルで構成された岩の棘が無数に放たれる。
僕とアリアさんは即座に回避行動をとる。クリスタルが辺り一面に突き刺さり、一瞬の無が過ぎ去る。
次の瞬間、クリスタルは同時に破裂し、さらなる棘を解き放つ。僕達はその爆発と無数の棘に吹き飛ばされ、左右の壁に叩きつけられる。
視界が歪み、鮮血で鉄の味が口内を支配する。しかし、それを実感した瞬間に暖かい光が僕を覆い、傷を癒す。目の前でグッタリとしているアリアさんは、僕とデュークさんを優先して回復を施していた。
メードはその様子を面白くなさそうに見つめ、「アリア。やっぱり貴方の能力は危険ね。こうやって可愛がってやった奴らを治しちゃうんだもの。まずは、貴方から倒しましょうか」とアリアに狙いを定める。
デュークは咄嗟に地面を蹴り、メードに迫ろうとする。しかし、メードはデュークの方を横目に杖を振り、彼の頭上から先ほどよりも細い針のような形状のクリスタルを雨のごとく降らす。デュークは咄嗟に横に飛び、辛うじてその攻撃を避ける。デュークはすぐに体勢を立て直し、さらに距離を詰めようとする。しかしそれは叶わなかった。デュークが回避した場所の頭上にはあらかじめ設置されていたのだ。大型のクリスタルは、ふらふらと立ち上がろうとする彼の体に直撃する。デュークは地面とクリスタルに挟み込まれ、次の瞬間にクリスタルは破裂する。
爆発による煙が収まり、デュークが力無く横たわる。すぐさまアリアの治療が行き届くが、彼に体を起こすほどの力は残されていなかった。
メードは再び杖を掲げ、デュークの近くに無数の歪みを顕現させる。そして、ニヤリと笑いながら「アリア…。貴方が悪いのよ?デュークを治療するから…貴方のせいで、彼から死ぬの」と告げて杖を振るう。
杖の動きに連動し、歪みからクリスタルが顕現し、解き放たれる。デュークは立ち上がることも剣を握ることも出来ず、暖かな光に包まれたまま静かに地面に伏していた。
次の瞬間、デュークに刺さるはずだったクリスタルは悉くが砕け、彼の周りに散らばる。彼の側には、大太刀を片手に握った大男が立っていた。
デュークはその姿をゆっくりと見上げ、「あんたは…?そんなわけ…ねえよな…。シンさんなわけ…」と呟き、意識を失う。
大男はデュークの様子を優しく見つめた後、視線をメードの方へ移し、睨む。
メードは信じられないという表情を示し、杖を横に薙ぎ払う。メードの前に無数の歪みが生じ、そこからクリスタルが波状攻撃を仕掛ける。
男はその様子に動揺する素振りもなく大太刀を構える。そして、クリスタルが到達する寸前に一瞬太刀を抜いたように見えたが、彼は太刀を鞘に納める素振りを見せた。次の瞬間にはクリスタルの悉くが崩れ去り、メードに焦りの色が見えた。
「そんな事があるものか!どうしてアンタが生きている!シン・アーカイム!」とメードが叫び、咄嗟に撤退を開始しようとする。しかし、上を向いた瞬間にメードは絶望の表情で動きを止める。
全員がその視線を追って空を見上げると、塔の上から見下ろすもう1人の影が見えた。
塔に声が響く。「メード?私は難しい事は言ってなかったはずなんだけどねえ。シャルロットの抹殺。ただそれだけ。あの子はもう記憶を持ってない。そう伝えたはずだ。なのに、行動が遅いあまりにいらない手間が増えた…。だからこうやって手を貸してやったのに…。撤退?笑わせないでほしいね!」と強く言い放つ。メードはその言葉に震え、地面にペタリと座り込んでしまう。
声は続き、「アンタに与えた力、私が学園を乗っ取らない契約。私は優しくしたはずなんだがねえ。学園は私達の理想を害する。力を持ち過ぎた者はいずれその力に飲まれ、この島の癌となる。だからそういった芽を摘むために乗っ取ろうとしたのに、アンタは抵抗した。だから猶予を与えた。出る杭を打つという条件を満たすなら介入しないと。だけど、アンタは失敗を続けた。今期の有望な4人の始末。結果的に1人始末したようだけど、あの成果を出すためにこちらは2人失ってる。割に合わないんだよね。だから、私が直々にやるっていったのにアンタは渋った。私はそれも許した。けど結局こうなる。私はもう、アンタを信じないよ。メード。クイーンにした事を酷く後悔してる。前学園長はもっと立派だったよ」と言い放った。そして、次の瞬間とてつもない衝撃がこちらに響く。
衝撃が収まり目を開けると、メードの前にフードを深く被った女性がダルそうに立っていた。
彼女はメードに手を向け、赤黒い光を集める。次の瞬間にそれは解き放たれ、メードのいた場所は跡形もなくなるほど吹き飛び、塔に大きな穴を開けた。
しかし、女は手ごたえがないと言わんばかりに破壊した後を一瞥し、こちらに視線を向ける。そこには、大男に抱えられたメードの姿があった。
女は軽蔑の眼差しを向け、「その女を庇うのかい?アンタらに敵対するクイーンの1人を。私が命令すれば今すぐアンタの首を掻っ切るようなやつを」と告げる。
大男はその言葉に一切動じず、「お前は、誰に付いている。誰の事を思ってこの行動に至った?」と重々しい声で尋ねる。
女は笑い、「誰を思う?さあねえ、誰も思わない。私は私の思うがままに動く。アンタらには関係ない事だろうけどね」と返した。
「おしゃべりはここまで。さあ、アタシを見たんだ。死んでくれるかい」と女はフードを取る。
大男はメードを降ろして数歩進み、大太刀を構える。女はその構えを見て笑い、姿を消す。大男は動く素振りを見せずに構えを続ける。次の瞬間、大男は何かを感知して咄嗟に体一つ分左に動く。すると、先ほど立っていた場所の頭上から赤黒い波動が轟き、大穴を開ける。
そして、男は音も立てずに太刀を抜く。その勢いから出る斬撃が塔の壁を刻み、外壁を傷つける。その方向から、三つの波動が男の方へ放たれる。男は難なく回避し、波動は地面を大きく抉った。
女は先ほど立っていた場所に戻り、姿を現す。「へえ、やるね。まあ、アンタみたいなやつが居てほしくないから、こうやって動いてきたはずなんだがねえ。全く嫌になる。どうして人類は強くなろうとするのかしら」と軽蔑の眼差しで男を見つめる。
男はその言葉を聞き終わるより早く、音を立てずに地面を蹴り、女に迫る。
女は咄嗟に退き、男の神速の抜刀を回避する。縦に振り下ろされた大太刀は、触れていないはずの地面に大きな傷をつけた。男は女の避けた方向へ進みながら刀を振う、大太刀の絶妙な間合いと速度に翻弄されることなく、女は軽々とバク宙して回避してみせた。女は男の間合いから外れ、コートに手を突っ込んだまま余裕の表情を見せる。男はさらに突進し、美しい太刀筋で攻撃を仕掛ける。女はどれも間一髪で避け続けた。
男はその動きに合わせ、器用に太刀筋を変えながら戦っていた。そして、女の懐深くに達の剣先が届きそうになった瞬間、女は手を出して右手に溜め込んでいた赤黒い渦で太刀を飲み込み、人間の知覚速度を超えた速度で左手から波動をゼロ距離で解き放った。
男は咄嗟に体を屈め、その攻撃を回避する。しかし、渦に捕らわれていた大太刀は刀身が砕け散り、刀身の8割以上が損失していた。
男は後方に飛び去り、拳を握る。拳は微かな光を帯び、すぐさま男が消える。次の瞬間には女の背後につき、その拳を繰り出していた。
女は咄嗟に振り返りながら拳に波動を当てて相殺し、勢いで後方へ飛び去る。しかし、その速度よりも早く男は迫り、女が着地する前に正面からもう一撃拳を振るう。女は体勢を立て直さずに渦を展開して飲み込もうとする。しかし、展開した頃には男の姿はもう無く、彼は女の背後に立ちストレートを放っていた。
女は背後からの攻撃を直に受け、塔の外壁を突き抜けて谷の壁にめり込む。その姿を見届け、男は即座にシャルロットの元へ急ぐ。
男はシャルロットを抱き上げ、「悪いな。説明してる時間はない。来てもらうぞ」と優しく声をかける。辛うじて意識を取り戻していたシャルロットは状況が呑み込めていないようで戸惑いを見せていた。男は彼女を連れて去ろうとする。
その姿を見て、咄嗟にアインが「待ってください!シャルロットを何処に連れて行くんです!」と言い放ちながら、剣を握って突進する。しかし、男に振り下ろした斬撃は空を切り、次の瞬間には背後からとてつもない衝撃が襲う。アインは、初めにメードが立っていた瓦礫の積もった壇上の方へ叩きつけられる。
アインはボロボロになりながらも瓦礫の隙間から必死に手を伸ばす。しかし、伸ばした手は届く事なく、目の前で男と彼女は姿を消した。
アインは涙を流しながら地面に拳を突き立て、「クソオオオオオッ!」とただただ嘆く。その様子を、3人は悔しそうに見つめていた。
だが、余韻に浸る事を許さないかのように、コートの女は崩れた塔の外壁から姿を見せる。「お前ら、調子に乗るなよ…。あのクソ野郎は絶対に私が殺す。あれは生きてちゃいけねえやつだ。それに、お前らもだ…。1人ずつ叩き潰してやる…。メード如きに苦戦するような間抜けどもに、私の相手は務まらん」と手に赤黒いエネルギーを溜め始める。
アリアとデューク、メードはそれぞれの心臓兵器を構える。
女はその様子を笑い、「だから、意味ないって」と告げて地面を蹴る。その瞬間、アリアが螺旋の槍を解き放つが、女は容易く回避する。槍はすぐさま軌道を変えて女の背後から迫るが、女は宙返りして槍を地面に突き立てる。槍は霧散し、女は一瞥することもなくデュークに迫る。
彼はその行動を予見し、可能な限り最大の力で大剣を振り下ろしていたが、女の速度はその上をいく。デュークが剣を振りきるよりも早く、鈍い音が響く。彼は塔の外壁に埋まり、力無く地面に落ちる。
先程までデュークが立っていた場所に女は立つ。その周囲には無数の歪みが展開されていた。女は動くことなくクリスタルの発射を待ち、解き放たれたクリスタルの全てを軽々と殴り、蹴り砕きながら圧倒する。次の瞬間にはクリスタルは全て砕け散り、破片が女を照らす。そして、クリスタルの破片が地面に落ちるより前に、杖を構えていたはずのメードを谷の壁まで吹き飛ばしていた。
次の瞬間、アリアの黒氷の剣が氷の海を広げ、女の足を取る。瞬時に氷を砕こうと剣を突き入れようとした瞬間、アリアの背後に女が迫り、軽く首元を叩く。その瞬間、アリアの展開していた武器達は霧散し、力無く倒れる。
女はため息をついて瓦礫から這い出すアインの方を見る。「おい、お前。お前は、その力に何を見る」と尋ねる。
アインはその姿を睨みながら、「わからない」とだけ答える。
女はその回答を面白くなさそうに聞き取り、「そうか。アンタは弱い。そうやって絶望した表情を敵に向け、戦意を失っていなかったとしても。カプリコルの時のように全力でかかってきていたとしても、アタシには一撃も与えられんだろうね。その理由は、力に依存してるからだ。一つだけ教えてやろう。アンタが受け継いでいる力の正体。それは、ハインドゴーンの英雄。アスターの力だ。彼が紡いだ圧倒的な力。アンタはそれだけに頼り、力任せに振るっている。生前の奴は、圧倒的だった。その強さは、努力と信念からくるものだった。今のお前にはそれがない。私達サテライトが1番警戒するべき、1番初めに始末すべき英雄の力を持った少年。それを見逃すほどに、私はお前に可能性を見ない。お前は弱い。そのまま全てを失うといいだろう」と告げ、姿を消した。
残されたアインは、俯きながら女の言葉を噛み締めていた。




