表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/54

31話 それでも前へ

 その場にいた全員が立っていられないほどの衝撃が轟き、皆身体を守る。衝撃が収まったと同時に、彼が立っていた場所に視線を送る。そこには紫色の淡い光と衝撃で深く抉られた地面が露わになっていた。



 私は、無我夢中で走った。最後に彼が立っていた場所に。彼が、居るはずだから。彼が…立ってるはずだから…。



 レイナは、無我夢中でフレッドが立っていた場所に走り出した。そして、彼がいた場所に立ち尽くす。ペタリと座り込む。顔を覆い、溢れ出る涙と絶望に打ちひしがれていた。


 涙を流しながら、「フレッド…いやだよ…あなたがいないと…私は…」レイナは想いを口にし続ける。


 そんなレイナの目の前に、残されていた淡い光が集まり始める。


 レイナは視界の端に移るその光に気づき、顔を上げる。その光景に驚きながら、目の前の優しい光を見つめる。淡い光は次第にレイナを抱きしめるように包み込み、そして霧散する。

 レイナは咄嗟にその光を捕まえるように手を強く握りしめ、その光を抱くように、胸に当てて俯く。


 レイナは…静かに涙を流し続けた。


 そんな彼女の様子を、僕達は爆心地の端から見守ることしかできなかった。



 どれくらいの時間が経っただろうか。数分だったか…。もっと長い時間だったか…。時が止まっているかのように、僕達はその場に立ち尽くしていた。

 そんな僕達の方へ、足音が響いてくる。その音でハッと現実に引き戻され、僕は音のする方へ振り向く。そこには左腕を失い、至る所に傷を受けたまま血石を抱えて走ってくるガイウスが見えた。


 ガイウスは到着するやいなや状況を確認する。レイナの姿や周囲の惨状を見て、手に握られていた血石をポトポトと地面に落としながら立ち尽くす。彼は「クソッ」と小さく呟き、俯いてしまう。


 僕もアリサも、かける言葉が見つからず、その姿を見て立ち尽くしてしまった。


 そんな時、ガイウスの後ろの空が煌々と輝くのが見え、視線を向ける。火が傾き始めた赤い空に、7つの大きな光が輝いていた。その光は、暗い夜空に不相応なほどに一際輝いて見えた。しかし、すぐにその光は失われた。何だったのだろうか…


 その光を見送った後、視線を戻すとガイウスがフラフラとレイナの元へ歩いていくのが移る。


 そこには、絶望の表情を浮かべながら立ち尽くしていたレイナの姿があった。


 「レイナ…すまない…。俺は、お前達を守ってやれなかった…教師として、お前らを生きて返す事が使命だったのに…本当にすまない」とガイウスはレイナを真正面に捉え、伝える。


 レイナはその様子を見送り、「先生が謝られる事ではありません。ですから、気に病まないでください」と淡々と伝え、ガイウスの隣を通り過ぎて歩いていく。

 僕達に目もくれず、レイナはフレッドが致命傷を負った場所に歩いていった。その姿を見つめていると、レイナは地面から一つの宝石を拾い上げる。それは、フレッドがたまに身につけていたネックレスに嵌め込まれていた小さな宝石だった。


 レイナはその宝石を見つめ、「いつも、なんだかんだ持っててくれたよね…私のあげたお守り…最後まで持ってないと…意味ないじゃない…」と呟きながら再び座り込む。その表情には明らかな絶望と悲しみが宿っていた


 そんなレイナの横に静かに座り込み、心配そうな表情でアリサが背中をさする。


 レイナはゆっくりと顔を上げ、アリサの顔を見ると安心したような顔でアリサに体を預ける。「ありがとう…アリサ…」と震えた声で言いながら、アリサの胸に顔を埋める。


 アリサはそんなレイナを優しく抱きしめ、頭を撫でていた。


 レイナはゆっくりと落ち着きを取り戻し、恥ずかしそうに顔を上げる。「ありがとう、アリサ。落ち着きました…」とアリサに伝え、ゆっくりと離れる。


 アリサは優しくその様子を見守っていた。


 レイナはその様子を嬉しそうに微笑みながら、手にしていた宝石に視線を落とす、「これは、昔私達が見つけた宝石をお揃いのネックレスにして、あげたものだったんです…。実は私も、水色の石のものを持っているんです」と制服のポケットから似たような石が嵌め込まれたネックレスを取り出して、こちらを見つめていたアリサに手渡す。


 レイナはアリサがネックレスを受け取ってくれるのを見届けた後、「2人で着けてたら恥ずかしいから持ってるだけってフレッドに言われて、そうしてたんです…。フレッドは気に入っていたようでたまに着けてましたが…」とポツポツと打ち明ける。


 アリサは受け取ったネックレスを見つめながら、「そうだったんだ。レイナはフレッド君と幼馴染って言ってたもんね。」と微笑む。


 レイナも優しい表情で宝石を見つめながら、「はい。フレッドとは昔からずっと一緒でしたから…。あんな様子でしたが、過ごした日々を大切にしてくれてたんです。フレッドは隠していましたけどね」と続け、昔を思い出すように空を見上げる。


 アリサもふふっと笑い、「フレッド君、ちょっと照れやな感じだったもんね。でも、私でも気づけるくらい本心が漏れてる感じだったし、レイナからしてみれば隠せてないよね」と続ける。


 「そうなんですよ。分かりやすい人ですよね」とレイナもつられて笑ってしまっていた。


 アリサは少し元気を取り戻したレイナを優しく見つめ、「じゃあ、その石はどういう経緯であげたの?誕生日とか?」と尋ねる。


 レイナはその言葉に反論するようにアリサの方を向き、「もう、そんなんじゃないですよっ。この石は、昔よく2人でやっていた、冒険の時に持って帰ってきたものなんです」と反論する。


 そして、少しだけ昔の話をさせてください。と呟き、「私とフレッドの住んでいた街は豊かな場所でした。元々は宝石なんかが出る坑道がいくつかあったのですが、鉱脈が枯れてしまっていました。私達がいた頃は、その立地から観光などを主軸に盛り上げていたようでした。そんな経緯で、もう誰にも使われていなかった坑道が近くにいくつかあったんです。ある日、そこを冒険するんだ!ってフレッドと入った事がありまして。子供にしてはかなり奥に進んだところでこの小さな宝石を見つけたんです。私たちは大喜びして持ち帰りました。フレッドは2つとも私にあげるって言ってそのまま帰ってしまったのですが、隠れて知り合いの方にネックレスにしてもらったんです。そのネックレスをお守りって言って彼にあげたのがこれだったんです」と懐かしむように石を眺めながら、ゆっくりと話してくれた。


 「ふーん?レイナったら大胆な事してたんだねえ。それで、フレッド君は何て言ってくれたの?まさか、告白とかしちゃったり?なんてね」とアリサは意地悪そうに笑う


 「もう、からかわないでくださいよー!」とレイナも悪い気はしてない様子でアリサを突いていた。


 「ですが、この石にはそんな思い出が残っているんです。ですので、これだけは持っておきたいんです」とレイナは優しく微笑んでいた。


 アリサも頷き、「そうだね。大切にしてあげてね」と言ってレイナに水色の宝石がついたネックレスを返す。


 レイナは二つの宝石を握りしめ、制服にしまって立ち上がる。



 すると、ちょうどガイウスとアインが近寄ってきていた。


 「2人とも、馬車を呼んできたから乗ろ?」とアインが優しく声をかける。


 レイナは、はいっと返事をした後に振り返り、笑顔で「アリサ、行きましょう?」と言いながら座り込んでいたアリサに手を差し出す。アリサもその手を掴んでゆっくりと立ち上がる。そして、アリサをガイウス達の方へ歩かせてから、頭を下げる。


 「取り乱してしまってすみませんでした。もう、大丈夫です…。彼を失ったショックは大きいですが、少しずつ…受け入れていこうと思います。ですが、他の皆にはこの事は伝えないで欲しいです。皆、気を遣ってしまうでしょうから…」と思いを伝えてくれる。


 ガイウスはその様子を悲しそうに見守り、「分かった…。彼の最期を知るものはこの場にいる者のみに留める。デュークやアリアにはいずれ話さないといけないが、俺からは出来る限り何も言わない事にする。」と真剣な表情でレイナに応える。


 アリサは優しく微笑み、「レイナ、私でよかったらいつでも頼ってね。レイナはすぐに背負いこんじゃうから」と伝える。


 「もちろん、アリサだけじゃなくて僕もレイナのために力になるからね。これから先も色んなことがあると思うけど、僕でよかったらいつでも頼って!」と僕も続けてそう答えた。


 「皆さん、ありがとうございます。頼りにさせてもらいますね!先生も、頼りにしていますよ!」とレイナは明るくそう笑いかけた。



 この騒動の後、ガイウスの指示でトートの近くにある小さな街、シュテルンに身を寄せる事となった。僕達が休んでいる間に、ガイウスは各地でやり取りをしていた。僕達は学園からの救援と前線からの復興支援を待った後、学園に帰還する。


 街に滞在していた間、レイナはずっと1人で宿に閉じこもっていた。アリサが声をかけに行くと笑顔で迎え入れて話をしていたが、その笑顔がレイナの悲しみを隠すための空元気である事は誰が見ても明らかだった。その後の学園への帰還の際、僕にも普通に話をしてくれたが、時節悲しそうな表情で誰もいない隣を見つめていた。



 あの一件の顛末については、レイナの想いを尊重して最低限の情報しか明かさないこととなった。後の事務的な処理はガイウスが行い、トートの復興には学園からの支援も行われることになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ