29話 遠征⑩ 日常へ
次の日。
窓からの日の光が部屋を照らし始め、「んー…。朝かな…?」と目を覚ます。
今日でこの部屋ともお別れだ。荷物の片づけに部屋の掃除と朝からやる事を考えながら伸びをして、布団から出ようとする。
しかし、何故だろう…。何かが引っかかって布団を下げられない。
僕は布団の方へ視線を降ろす。すると、少女が隣で我が物顔で休んでいた。
僕は思わず二度見し、現実が受け入れられずに目を擦る。そして、もう一度少女の方へ視線を向ける。しかしそれは夢ではなく、スースーと寝息を立てながら眠るアリサの姿があった。
僕はひどく動揺しながら必死に記憶を探る。「ん?ん?なんだ?何があった?昨日?あ、あれ?」と独り言を漏らしながら、存在しないはずの記憶を妄想して頭を横に振る。
そんな大変な状態の僕に気づかず、当の本人は寝息を立てて休んでいた…。
僕は現実を逃避するため、(と、とにかくここから離れないとおおお?)と体をゆっくりと動かそうとする。
しかし、その瞬間に服が引っ張られて動けなくなってしまう。顔を引きつりながらゆっくりと振り返ると、完全に寝ているのに何故か彼女は僕の服を握っていた。
(え、ええ…どうすれば…)と半分諦めて天を仰いでいると、後ろから「んん…?」という声が聞こえてくる。
(あ、終わった…)と処刑を受け入れた囚人のように、全てを諦めてその時を待った。
当の本人は、「んん…朝…?」とのそのそと起き始めた。そして、彼女は自分が掴んでいる手を辿り、その持ち主の後姿を認識して首をかしげる。
「ん?あ、あれ?私…なんで…?アイン…??まだ夢の中なのかな…?」と頭が理解できない様子であった。
死を覚悟して処刑を待っていた僕は(アリサも混乱するって何で!どうなってんだ!)と山の頂上で叫ぶかの如く大声で心の中でつっこんでいた。
目を擦りながら少しずつ頭が覚めてきた様子のアリサがふいに、「あ、そうだ。私が来たんだった。ふあ~~。結局寝ちゃった」と納得しながら起き上がる。
僕はその言葉を聞き、恐る恐る振り返り「ん?アリサ?ど、どういう事かな…」と今にも切れてしまいそうなか細い声で尋ねる。
僕の問いかけに、あーー…。とバツが悪そうな表情となり、「ははは…えっとね…これは違うの。違うんだよアイン」と赤面しながら答える。
「え、えっとね。えっとね?聞いてね?今日、私はちょっと早めに目が覚めたの。学園で特訓してた時みたいに日が昇るより前のまだ暗めの時間ね?それで、昨日の丘であった彼の話をアインとしよっかなって思って…。起きてるかなーって思ってアインの部屋にこっそり来たの。そしたら、鍵がかかってなかったから、中に入って…。それで、声をかけようとしたらアイン寝てたから…。私も…ちょっとだけウトウトしてて…椅子に座ってると寒くて…ちょっと入らせてもらおっかなって…」と状況を説明しながら、アリサは少しずつ赤面して顔を覆って俯きながら話す。
僕は内心ホッとしながら、「そ、そうだったんだ。アリサ、あんまりこういう事しちゃダメだからね?もし他の人に見つかったらとんでもない事になるからね。後、僕もビックリするから…」ととりあえずアリサを叱る。
アリサも素直にごめんなさい…。と謝り、「こんな事初めてだよ…私、どうかしちゃったのかな…」と自分の行動に驚いていた。
僕は近くの椅子に座り、「まあ、僕も昨日の話はしようと思ってたし、良い機会だよ。まだ皆起きてくる時間じゃないし、ちょっと話そうか」とベッドの前で立っていたアリサに話す。
「うん。そ、そうだね」とアリサもこちら側を向いてベッドの端に座り、顔を隠すように布団に包まって僕の話を待つ。
僕はその様子を笑いながら、「さて、昨日の話だね。まず、セブンスについて。彼は、セブンスの継承者を探せと言ってた。彼の話ぶりを見るに、僕たちはセブンスの継承者を見極められるらしい。けど、僕たちは未だにそのような経験はないし、彼の仮説が正しくない可能性もある。それに、僕の今までの経験を顧みると、僕達はあの緋色に光る岩に触れる事でセブンスの力やその記憶を紐解くことが出来るんだと思う。だから、僕たちの当面の目標は自分たちの力を取り戻すことかなって考えてる。取り戻していくうちに他のセブンスたちの事もわかるかもしれないからね」と今後の方針を提示する
アリサも神妙な顔で話を聞き、時節頷きながら「うん。アインは学園の時も同じようなことがあったもんね。私は今回のシリウスでの一件が初めてだけど、ミーティアさん?と会う事もできた。でも、ミーティアさんはスピカの力の断片が顕現してるって話してた。私が取り戻せる力っていうのはあまり大きくないのかも。それよりも、私はミーティアさんが使命って言ってた託宣の巫女としての役割の方が重要なのかな。どっちにしても、過去の記憶とかの情報が必要だね。また、ミーティアさんに会えたらもっと分かることがあるはずなんだけど…。それと、アインはミーティアさんを知ってるんだね?どういう関係だったの?」と首をかしげる。
うーんと僕も悩みながら、「そういえば、話してなかったね。僕が引き出せたミーティアとの記憶…。話せる限り教えるね」と切り出す。
「ミーティアとは故郷…。地名はわからないけど、栄えていた場所だったみたい。そこにいた頃に出会ったんだ。記憶の中の僕は身分の高い人物じゃないと自称してたから、それが理由かわからないけど一人で毎日毎日特訓に明け暮れていた。僕は、どういうわけか手にしていた岩剣…。アステロイドと彼女が呼んでいた大剣を何とか扱えるようにしようって躍起になってたんだ。」
「そんなある日、僕の特訓していた敷地内の豪邸に彼女の姿が見えるようになった。彼女は見るからに貴族の家系の人のような、上品な振る舞いの女性だった。だけど、当時の僕にとってはそういう人が目に入る事は珍しくなかったようで何ら気にかけていなかった。彼女の事は気にも留めずに特訓をしていたある日、僕のもとに彼女は姿を現した。それが、ミーティアと僕との出会い。ミーティアは特訓する僕を近くで見守りながら話かけてきた。初めは関わることを渋っていたけど、彼女はめげずに外の世界の事をよく僕に聞いていた。僕はそんな彼女を無下にできなくて、特訓の合間合間に外の世界の話をしてたみたい。いつしか彼女は僕のもとに通うようになって、次第に特訓を手伝ってくれたりするようになった。僕も、次第に彼女との秘密の特訓を楽しみにするようになっていった。たまに、特訓を中断して街に繰り出したりもしたし、彼女は特別な人だとも感じていた。だけど、そんな幸せな時間は長くは続かなかった。ミーティアは突然、この地を去ることを僕に告げてきた。彼女は自らの身分を僕に伝えてくれた。彼女は、アーツ国王の婚約者として定められていたクリスタリア家の人間だと。僕は驚きよりも悲しみや寂しさを感じていた。そんな僕を見て、ミーティアは禁じられていた力の継承を僕に施した。それが、アトモスフィア。彼女は、そんな特別な力を身分の低い僕に与えてくれた。力を継承した後の事は引き出せていないけど、シリウスでの話を聞く限り、僕はそこから今の力を使うようになったんだと思う」とぼやけていた記憶を整理しながらミーティアの話をアリサに伝えた。
「ふーん。昔のアインはミーティアさんに惚れてたんだぁ。ミーティアさんの顔を何となく覚えてたから、学園で初めて会った時に私を見つめてきてたんだ!アインの趣味は昔から変わってないんだねえ」とからかってくるアリサ。
「違うって。第一、あの時ミーティアの事は思い出してなかったし、アリサの事は無意識に目に入って見惚れてたんだよ。僕は、アリサに一目惚れしたんだよっ」とできるだけ声量を絞って恥ずかしいことを伝える。
それを聞いて、調子に乗っていたアリサは顔を赤らめながら「えええ?そ、そうなの?だったら、ちょっと嬉しいな」と俯く。
「あはは…と、とにかく。昨日の話の続きだ。彼について。アリサは、あの人を知ってる?」
「んーん。知らない。だけど、あの人からは敵意を感じなかった。だから、今のところ味方…だと思ってるよ」と率直な意見を伝えてくる。
僕も腕を組みながらうーん…。と唸り、「そうだよねえ…。僕も今のところはあの人を知らない。でも、僕も今のところは味方だと思ってる。確実に信用するってのは早すぎる気もするし、ゾディアック達は狡猾なのも分かってる。だから、慎重にかかわっていくに越したことはないけどね」
アリサも納得したように頷き、「そうだね。あの人とまた会うかは分からないけど、次も味方とは限らないって私も思っておくことにするね」と賛成してくれる。
「うん、そうした方がいいね。それで、最後。これが一番重要かな。今回の遠征で気づいたことがあるんだ。リックさんの戦闘。神殿での戦闘。僕達の武器。これらには共通点があるかもしれない」
アリサは首をかしげ、「どういう事?皆、同じように心臓兵器を使ってるように見えたけど…」と意図がつかめない様子だった。
「見た目は同じだよ。違うのは、武器の抜き方。リックさんとミーシャさんが戦ってる時、ミーシャさんがリックさんに対して、「その剣、今どこから出した?」って聞いてたでしょ。あれだよ」
「僕達は無意識にやってたけど、心臓兵器使いは、心臓兵器を抜く時は必ず心臓に手を置いて抜くんだ。これは、丘の彼が言った、心臓が動かすってのに由来する。彼の言葉で直すなら、星の力を、心臓の力を着火点にして心臓兵器として顕現させてるんだ。だから、この動作が必要なんだと思う」
「けど、僕達は根本が違うみたいだ。ゾディアックやクイーン。セブンスは星からそのまま力を得ていると彼は言った。つまり、心臓を着火点にする必要がないんだ。だから、心臓から抜かなくていい。もちろん、出力を上げる為に心臓の力を巡らせて戦う事もしてるけどね。でも、それも普通の心臓兵器使いと違ってかなり負荷の低いものの可能性が高い。理由は簡単、心臓を動力にしないからだね。僕達は力を増幅させる事だけに使えてるから普段の負荷が低い。別の人の体に移ったり出来ないから実感はないけど、可能性は高いかなって考えてる。それで、この仮説から言える事は、心臓兵器使いの中で、敵かどうかを見分ける一つの指標にもできるって事だね」
「とりあえず重要なのは、心臓兵器を心臓から抜いているのか。そうじゃないのかって事だよね」
「そういう事。これから戦う人や新しく知り合った人の中で、心臓から武器を抜いていない人はほとんどの場合要注意ってことだね。ロイドはその辺を分かってたのか、自分の力を抜くためには必要なのか、心臓から抜いてたけどね。だけど、あまり理解してない人にはこの対策は効くはず。仮説だけど、覚えておこう」
「そうだね。確かに私達は心臓から抜かなくていいもんね」とアリサは手を前に出して剣を顕現させて試していた。
「うん。今までは気にしてなかったけど、これからは注意していこかないとね」
「そうだねえ…。ふあ~、アインったら難しい話ばっかりするから眠たくなっちゃった。もう少し寝てよう?」とアリサが頭まで被った布団の中から手招きする。
「はあ…学園の頃はもっとメリハリがあったのになあ…」と呆れ顔で近くによる。
アリサはむくれながら僕のスペースを開け、「最近は疲れてるんだから仕方ないでしょ!ほら、アインも寝よ!」とベッドに連れ込む。
横になり、「ほら、目を閉じて」とアリサに言われて僕も目を閉じる。すぐに睡魔が襲い、僕も眠ってしまう。
コンコン。ノックの音で目が覚める。
「おい、アイン!そろそろ起きろって!今日は学園に戻る日だろ。先生が待ちくたびれてんぞ」と呆れたフレッドの声が聞こえてくる。
遠くでレイナがアリサを呼ぶ声もする。
僕は、一瞬にして頭を回す。隣には、アリサがまだ寝ている。この状況を2人にバレるのは非常にやばくないか…!ど、どうする…!
と冷や汗が止まらずキョロキョロする僕を横目に、アリサも声に気がついて目が覚める。
アリサは先ほどと同様に完全に寝ぼけ顔で「んん…。何ー?どうしたの?」と僕に尋ねてくる。
僕はカタカタと震えながらアリサの方へ振り返り、「あー…えっと…2人が僕達を起こしに来てくれてる…」と恐る恐る状況を説明する。
アリサは動揺一つ見せずにゆっくりと立ち上がり、「そうなんだ。じゃあ、早く起きたことを伝えないとね…」と目を擦りながら扉に向かおうとする。
僕は咄嗟にアリサの手を掴み、「ちょっと待とうか!?アリサ?今、どこにいるか分かってるかい?!」と今のヤバさを説明しながら正面に立つ。
僕に言われてうーん?と立ちどまり、「んー?ん…?あ…」と状況を理解してアワアワとなりながら顔を赤らめる。「ど、どうしよう…アイン…」と完全に思考が止まってる様子になる。
「そ、そうだな…とりあえず、アリサはシャワー室に隠れてて…フレッド達には僕から説明して下で待ってもらうよ」と伝え、軽く身なりを整えて僕は扉を開ける。
アリサは言われた通りシャワー室に入っていった。
「お、おはよう…フレッド、レイナ…」とわざと眠たそうに挨拶する。
フレッドは腰に手を当てながら扉の前に立ち、「おはようさん。珍しいな、お前らが一緒に寝坊って。先生が待ってんぞ。準備はしてるよな?荷物下ろしといてやるから、シャワーでも浴びて出てこい。ほら」とフレッドが僕の部屋に入っていく。
「おいおい、お前あんまり準備してねえだろ…。まだちらほら散らかってんじゃねえか…。はあ、とりあえず俺が何とかしとくから突っ立ってねえでシャワー浴びて来いよ。お前寝癖すごいぞ?」と呆れ声で話してくる。
現状のやばさに立ち尽くしていた僕はフレッドの呼びかけで現実に帰還し、「あ、うん、そうするよ。フレッド、ありがとうね」ととりあえずシャワー室に向かおうとする。
扉を開けようとした瞬間、「あ、そうだ。タオルとか持ってないだろ。ほら。後、適当にこの辺綺麗にしとくから早めに出てこいよ」とフレッドがタオルを僕に投げ、部屋の片付けを始める。
もうそれどころではない僕は、「あ、ありがとう…」とだけ伝えてシャワー室に入る。
扉を閉め、シャワー室にいるアリサと目が合う。
「ど、どうするのー!今シャワー使われたら私びしょ濡れだよー!」と小声で怒鳴ってくるアリサ。
「だって、仕方ないじゃないかー!見つかってないだけ奇跡だよ!」と僕も小声で返す。
「おい、なんか言ったかー?」と脱衣場の扉を開けてフレッドが声をかけてくる。
シャワー室の扉をとりあえず押さえ、「な、何でもないよー!ハハハー!」と誤魔化す。
「とりあえず…アリサ、ごめんだけどこれ以上は無理だ。風邪を引くわけにもいかないし、正直に話そう。うん、そうしよう」とあきらめの表情でアリサを説得する。
アリサは首を横にブンブンと振り、「いやいや、ダメよ?バレたら何言われるか…」と冷静に拒否する。
「で、でも…」と困る僕を横目に、アリサは立ち上がる。
「タオル貸して?」と言い、アリサは寝巻きを脱ぎ始める。
アリサの急な行動に驚いて、とりあえず扉の方を向いて「な、何してるの!?え?え?」と動揺しながら話しかける。
すると背後から、今にも切れてしまいそうな糸のようにか細い声で「決まってるでしょ?2人でシャワーを浴びるの。ほら、アインも脱いで。私も後ろ向いとくから」と話してくる。
「わ、分かった…」と言われたとおり僕も服を脱ぐ。
2人で背中合わせになり、シャワーを浴びる。
「ふうー。気持ちいいね…アイン」と以外にも落ち着いたアリサの声がする。
「そうだね…。というか、こんな状況なのによく落ち着いてられるね…」
「私が落ち着いてると思う?ほら、感じる?私の心臓。もう破裂しそうなくらいドキドキしてる」とアリサがそう言った瞬間、僕の背中に柔らかい感触が触れる。
そして、その柔らかい感触の奥にはドキドキととても早い鼓動の音を感じることが出来た。
「ハハ…本当だね。この状況で落ち着ける人なんていないよね…」
「そうだよ…。まったく…。アイン、こっち向いて?」とアリサが僕の体に触って振り向かせようとしてくる。
僕は抵抗せず、そのまま振り返る。そこには、いつにも増して綺麗な彼女の姿があった。
アリサは振り返った僕の胸に耳を当てる。「ほら、アインもドキドキしてる。これは、この状況だから?それとも、私がいるからかな?」と小悪魔のように微笑みながら、僕の顔を見上げる。
「も、もう。からかわないでくれ…。早く服着て出ないと。皆待ってるから…ほら」とアリサを離れさせ、シャワーを止める。
「むー。アインったら…まあ、いいや。」と何故かご機嫌なアリサが僕をまた扉の方へ向き直させ、体を拭って服を着る音がしだす。
僕は脱衣場に先に出て、フレッドが置いてくれていた制服を着て身なりを整えはじめる。
シャツのボタンなどを整えようとしているとアリサが脱衣場に出てきていた。アリサは僕の状況をしっかりと見ずに、「着替えた?じゃ、でよっか」と急に僕の背中を押す。
「え?」と急な動きに驚いた僕は、そのまま扉を開けてしまう。
「キャアアアア!」と扉の奥でレイナの声が響いた。
「アインさーん!服はちゃんと着てから出てくださーい!」と顔を真っ赤にしたレイナが勢いよく玄関の扉を閉める。
すぐにフレッドの声が扉の前からする。「あちゃー…アイン…まさか裸で出たのか?玄関開けたまんまだったのはさっき言っただろう?全く…危機感のないやつだな…まあいい、しっかり身なりぐらい整えてから出て来いよ。それと、全く反応のないアリサも起こしてこいよ。まったく世話の焼ける奴らだぜ…」と呆れた声のフレッドがそう言い、外に出ていく。玄関の外ではレイナを説得しながらフレッドたちが階段を降りる音がしていた。
嵐が去り、「はあ…」とため息をついてうなだれる。
シャツが開いて若干半裸状態の僕は、身なりを整えながら「アリサ…僕の状況も見てから出ようとしてよ…」とアリサに向かってぼやく。
「アハハ…ごめん。私は着替えてたし、後ろから見たらアインももう着てたから…。早くした方がいいかなって…。でもでも、2人とも下の階に行ってくれたし、結果オーライだよね!私も今のうちに制服に着替えてくるね!それじゃ!」とアリサはバタバタと自室に戻っていった。
「はあ…」と僕はため息をつきながら立ち上がり、整えられた部屋を感慨深く眺めてからアリサの部屋に向かう。
アリサの荷物を一緒に運び、下の階に集まる。
完全に疲れ切っていた僕は、「あー…遅くなってごめんね…先生も待たせてしまってすみませんでした…」と頭を下げる。アリサも一緒に頭を下げる。
「ハハハ!気にするな!だがな、アイン!年頃の女の子の前に半裸で出るのはまずいぞ!状況次第じゃお前の立場が危ういぞー!」と冗談っぽく先生が僕に話してくる。
(もう話に尾ひれがついてる…。一応着てたんだけどな…)と内心思いながら「き、気をつけます…」と答える。
後ろでアリサは申し訳なさそうに視線をそらしていた。
「まあいい、全員聞いてくれ。今回は異例なことだらけだったが、遠征の目的だった任務は達成された。よって、これにて遠征は終わりだ。他の皆はもう数日前には学園に帰っている。だから、忙しなくて悪いが今から学園に戻る。アリアとデュークは用事があるとかって先に行っちまったが、ミーシャとコリンさんには礼を言っておけ。」
ガイウスの言葉に一歩前に出て、「はい。コリンさん、10日にも満たない短い間でしたが、お世話になりました。ありがとうございました!」と代表して感謝を伝え、皆も続く。
コリンさんは「いえいえ!またいつでもお越しください!お待ちしております!」と笑顔で答えてくれた。
続けてミーシャの方へ向き直り、「ミーシャさん。それと、おられませんがリックさん。お世話になりました。この遠征での出来事を心に刻み、これからの糧にしていきたいと思います。ありがとうございました!」と感謝を伝える。
ミーシャは優しく笑い、「ああ、君達もこれから大変だろうけど頑張ってね。私も君たちには世話になってしまった。リックにも、君たちの事は伝えるからな。また会える日を楽しみにしてるよ!」と腰に手を当てて見守ってくれた。
僕達は2人に見送られながら、静かに星見亭を後にする。
少し歩いたところで不意に振り返り、「だった数日間だったのに、とっても長く一緒にいたように感じますね。寂しくなります…」とレイナはしんみりしていた。
側を歩いていたアリサも「そうだね。でも、一生の別れって訳でもないから…寂しいけどね…」と慰める。
僕たちはお世話になった人達に挨拶をしてから、シリウスの前に待機していた馬車に乗る。遠ざかっていく景色を眺めながら、激動の数日を振り返る。
こうして、静かに遠征は終わりを迎えた。はずだった…。




