2話 入学試験①
教室を出て、受験者達の波に飲まれながら校舎を出る。指定された場所は校舎から出て南東に見えるすぐ近くの場所のようだ。公社との距離から見て時間もなさそうだし、指定された場所に急ぐことにした。
スタート地点に到着した。少し急ぎすぎたようで誰もまだ到着していなかった。息を整えるため、試験開始まで近くの木陰で座って休むことにした。
すぐに1人の青年が来た。身長が高く、がっしりとした見た目だ。片手で扱えそうな斧を腰に下げていた。こっちに気づくと、「お、お前もここが指定か?」と笑顔で話しかけてきた。
「そうです。あなたもですか?」
「そうみたいだ。俺の名前はカール。宜しくな」
「はい。僕の名前はアインです。宜しくお願いします」と頭を下げる。
「挨拶から固いなー。まあ、気楽にやろうな」と僕の肩をたたきながら笑っていた。
その後、もう1人の子が来て僕は驚いた。夢で見たあの女の子が来たからだ。彼女は僕たちに近づき「アリサです。よろしくお願いします」と丁寧な挨拶をしてくる。僕とカールも名乗り、挨拶を返す。アリサは特に話しかけてくる事はなく、先ほどの事も気にしていない様子だった。こちらを見た気がしたが…気のせいだったのだろう。
数分ほどカールと他愛ない話をしていると、試験開始の合図である火の魔法が見えた。僕たちは南東の森側からのスタートだ。森は視界も足場もそこまで良い環境ではない。先生達の生成したゴーレムや魔物達の実力もわからない。慎重に進もうと声をかけ、2人とも頷く。
警戒しながら少しずつ森を進んでいたが、拍子抜けなことにこのルートには何もいなかった。先生方の話だと、ある程度敵と遭遇すると聞いていたのだが、運がいいのだろうか。カールも不思議なようで、「こんなに何もないもんかねえ」と首を傾げている。アリサは「運がいいのかもしれません。慎重に進みましょう」と落ち着いた様子で警戒を解かずに進んでいく。
すっかり気が抜けてしまった僕は、道すがらカールの出自について教えてほしいと言ってみた。「おう、いいぜ」とカールは話し始めてくれる。
「俺の生まれはアインツマイヤーの南西付近の村の出身なんだ。家の手伝いで木の伐採とか薪割り、動物の狩猟とか色々やってたんだぜ。だから、斧とか弓の扱いなら心得があるぞ。後、兄弟の世話もしてたんだ。弟も妹もいいやつでさ。家の手伝いをこっそり教えたり、森に秘密基地作ったりしてたんだ。でもさ、俺も15になったからって両親からノーツコア学園の入学を勧められたんだ。あんたは才能があるからってさ。断れなくて試験を受けにきちまった。アインはどうなんだ?」
「僕は、アインツマイヤーの北側の小さな村に生まれたんだ。居心地のいい場所だったよ。僕も、カールほどじゃないと思うけど家の手伝いとかをしながら勉強したり特訓したりしてたんだ。僕はね、最前線に行きたくてここに来たんだ。圧倒的な力を持った魔物達に勇敢に挑み続ける、皆の憧れ。そこに僕も立ちたいんだ。母さんはそれを聞いてどうしてか悲しそうだったけど、最後は僕の我儘を許してくれて試験を受けれることになったんだ。そういえば、アリサはどうなの?」と静かに聞いていたアリサに尋ねてみる。
アリサは、「それどころではなさそうですよ。ちょっと先に嫌な気配がします。すっごくこっち見てる気がしますし、話は後しましょう」と答えた。
アリサのその言葉にハッとし、周りを見渡す。しかし、何も気配などは感じられずいたって静かに感じられた。しかし、アリサの言葉に嘘を感じなかったため、アリサの発言に従って警戒を強めて身を屈め、辺りを窺いながら進むことにした。カールも同じ判断のようで、身を屈めた。
僕たちが警戒しながら進み始めてすぐだった。地面が揺れ、木々が押し倒される音がしてきたのは…。アリサが言っていた事は正しかった。僕たちの目の前に、事前に説明されたゴーレムや魔物達とは全く違う異形の存在が姿を現した。体躯は僕たちの3倍ほどで、背部は岩のようにゴツゴツとしている。顔つきはトカゲのようで、尻尾の先には丸い岩が付着していた。そして、その大きな顎にはゴーレムが咥えられていた。この一帯のゴーレムがいなかったのはおそらくこのトカゲのせいなのだろう。岩トカゲは僕たちの数メートルほど手前で停止し、こちらを睨みつけてくる。
戦う術のない僕は、様子を見つつ回避に徹しようと考えていた。ゆっくりと後退し、近くの木々まで辿り着けば振り切れると思っていた。2人も似た判断のようで、3人は岩トカゲの様子を伺いながら、隠れる場所のある3方向に後退し始める。しかし、岩トカゲはそんな事を許してはくれなかった。岩トカゲは顔をを自身の背中のほうへ向ける。その行動を隙と判断し、僕は後方へ走り出そうとした。
その瞬間だった。岩トカゲは勢いをつけて首を前方に戻し、咥えていたゴーレムを乱暴に投げつけてきた。後ろを向いたのは投げつけるための予備動作であった。僕と岩トカゲとの距離はまだ数メートルほどで、乱暴に投げつけられたゴーレムの残骸は人並みの速度では避けきれない速度と範囲となっていた。カールとアリサは左右へ後退していたため間一髪で避けたようだが、中央に立っていた僕は避けるすべがなく直撃してしまう。残骸が直撃してそのまま数メートル後方に吹き飛ばされ、僕は大木にめり込んだ。ここまでにも人並みには鍛えてきていたとはいえ、僕はただの人間だ。意識が朦朧としだし、視界も赤く染まる。もうダメかもしれないと意識を失いかけた時、両手に剣を持ったアリサが岩トカゲに突進していくのが見えた。しかし、僕の意識は途絶えた。