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26話 遠征⑦ 最後の任務

星見亭


 「あ、皆おかえりなさい!あれ!ガイウスさんじゃないですか!お久しぶりです!」といつものように元気よくコリンさんが迎えてくれた。


 ガイウスはコリンに会釈し、「おう、久しぶりだなコリン。悪いがミーシャを休ませてやってくれねえか。疲れたみたいで寝ちまってよ」と腕の中で眠るミーシャを見る。


 コリンは優しく笑い、「ええ、もちろんです。使ってない部屋がありますので行きましょうか」と上階に手を向けてガイウスを案内する。


 取り残された僕達は、酷く暗い雰囲気だった。


 「これで…よかったのかな…何か方法があったんじゃないのかな…」と僕はポツリと呟く。


 「そんなもんがあったらこんな選択は選ばねえ。これが最善だったからやったんだ。そうだろ…」とフレッドが答える。


 「ええ。ですが、この先こんな事をしていく必要があるなんて考えたくもないですね…」とレイナもショックが大きい様子だ。


 「リックさん、どうなったのかな。ロイド君と同じで完全な消滅になっちゃったのかな…」とアリサも呟く。


 「さあな。ただ、俺たちはやるべき事をやったはずだ。そうだろ」とフレッドが返答し、皆は沈黙で答える。


 ガイウスとコリンが降りてくる。


 「お前達、大丈夫か。すまなかったな、こんな事をさせちまって。俺を呼んだことは本当に良い判断だった。だが、どうして俺がシリウスに滞在していると知っていたんだ?」とガイウスは不思議そうに尋ねる。


 フレッドはゆっくりと顔を上げ、「それは簡単だ。噂を聞いたのさ。ガイウスさんがシリウスで何かしてるってな。先生、ただでさえここじゃ有名人なのに1人で動いてたんだろ。てか、その調べ物が目的で一緒に来たんだろ。今回の騒動の話が出た時、もしかしたら先生の力が必要になるかと思って聞き込んだんだよ。知ってそうな人は皆口篭ったが、学生の立場を話したら答えてくれた。結果的に先生の居場所は突き止めてたって事だ。先生なら俺達よりミーシャさんの事を助けてくれる確率が高い。だから、奥の手として話をしに行ったってわけだ。こんな事を先生に押し付けてしまって本当に悪いと思ってる」と顛末を説明し、頭を下げる。


 「そうか…ああ、謝る事じゃないから気にしないでくれ。むしろ、この話を教えてくれてありがとうな。ミーシャと俺で終わらせる事ができて、本当に良かった。お前達が人殺しの業を背負うこともなく終われたんだ。リックに対しての最大限の手向ができたと信じてる。」といつもは見せない真剣な表情で淡々と答えてくれた。

 「それはいいとして、俺…そんなに噂になってたのか…?おかしいなあ。バレないように動いたし、話を聞いた連中は俺の馴染みで口を噤むよう警告したんだが…。はあ…まあ、不幸中の幸いか」とすぐに表情を緩め、いつもの調子に戻ってぶつぶつと不満を垂らしている。

 「ああ、そうだ。今回の任務、ご苦労だったな。明日は、シリウス奪還戦をやるんだろ?大きな任務で不安かもしれんが、その点は大丈夫だ。教官役は俺が引き継ぐし、ミーシャも明日には調子が戻るだろう。今回の一件から、信用できる人間はかなり限られる事が分かった。だから、この任務は少数精鋭。この6人でやる。もちろん、こちらの話は伝えずに前線に手伝いの要請もするがな。作戦は俺が立てる。お前達は連戦続きで辛いだろうが、最終任務だ。今日は休んで明日、突破しよう。いいか?」


 「はい!」と4人で答え、早々に部屋に戻る。そして、眠れない夜を過ごした。


 次の日。


 「おはようー。」と僕が降りると皆が揃っていた。


 「アイン、おはよう!調子はどう?」とアリサが声をかけてくる。


 「うん、大丈夫だよ。皆も大丈夫?」


 「うん。皆大丈夫そうだよ!あっちで先生が来るのを待ってるの」とアリサが皆の元に案内してくれながら答える。


 皆に挨拶して席に着く。コリンさんが用意してくれていた朝食をとりながら、ゆっくりと先生の到着を待った。

 食べ終わった頃に星見亭の扉が開き、先生が入ってきた。


 「おう!皆おはよう!調子はどうだ!今回の作戦は大変だぞ!」といつもの調子でガイウスが声をかけてくる。


 「先生。おはようございます。出発ですか?」と僕は淡々と答える。


 ガイウスは僕の反応を見て不満そうに「いつになく冷たい返事だなー。まあいい、そうだ。出発だ。準備はいいか」と答えた


 皆立ち上がり、真剣な表情でガイウスを見る。「はい、もちろんです。宜しくお願いします」と僕が答えた。


 ガイウスは少し口角を上げ、「そうか。じゃあ、北の街道に来てくれ。俺は野暮用を済ませて、ミーシャを連れてから行く。遅れるなよ」とだけ告げ、ガイウスは星見亭を後にする。


 フレッドが僕の肩をたたき、「よし。じゃあ、行くか。今回の遠征はずっとキツイ事ばっかりだ。さっさと終わらせて学園に帰ろうぜ」と荷物を背負って入り口に向かっていく。。


 その様子にふうっとため息をつきながら、「そうですね。遠征とはもう少し観光できるものと思ってましたのに。まあ、仕方ありませんね。任務は任務です。いきましょう」とレイナも続く。


 アリサが駆け寄ってきて、「アイン。それじゃあ、行こっか。お互い、無理しないでいこうね」と落ち着いた様子で側についてくれた。


 「そうだね。でも大丈夫だよ。今回は先生もミーシャさん付いてきてくれる。僕達の出る幕はないはずだ」とアリサに返す。まあ、簡単に行くわけないんだろうなって思いながら…



 シリウス 北 街道


 僕たちの到着に気づき、ガイウスが手を振る。「おう。遅かったな。待ちくたびれたぞ」


 「ガイウス…私たちはほとんど待ってないだろ…」と呆れ顔のミーシャも隣に立っていた。


 僕たちは早足で二人の元に合流し、「遅くなりました。4名揃ってます。作戦はどうなっていますか?」と尋ねる。


 ガイウスは口角を上げ、「そんなに俺の作戦が聞きたいか!いいぞ。今回の作戦は単純だ。前線側に陽動という名の防衛拠点奪還作戦を展開させた。まあ、簡単に言うならシリウス近くで戦闘してくれるように頼んだ。そのどさくさに巻き込まれないように、ここから東に進む。そんで、敵の勢力が弱まったはずの神殿近くを一気に駆け抜けていく。その後、俺が神殿前を確保。ミーシャと君らで神殿内を確保。全部終わる頃には戦闘音で前線のチームが合流。こんな感じだ!いい作戦だろ!」と自信満々に語った。


 「ガイウス…お前はホントに…作戦ってのはもっと不測の事態にも備えて万全に挑むものだろう…」と呆れ顔が止まらないミーシャ。


 「ミーシャは小さいくせに細かいなあ!大丈夫だ!なんせ俺達が付いてんだ!最前線でもないのに負けはせんよ!ハハハ!」と豪快に笑いながら、ガイウスが街道へ進み始める。


 ミーシャはその様子を眺め、「はあ…君らはあの筋肉ゴリラに続いたら大丈夫だよ。指示が必要なら私が飛ばす。油断はしないようにね。じゃあ、行こう」と後に続いていく。


 僕達も二人に続いた。


 先生の作戦通り、魔物の数は極端に少なかった。僕たちの右手側では大きな戦闘音が響いていたが、こちらのルート落ち着いたものだった。出てきても小規模の群れで、多くても10体もいないような魔物がまばらに出現していた。まあ、先生が通るだけで跡形もなくなったんだけど…


 そんな断続的な戦闘を続けながら、僕たちは侵攻していった。

 すると、神殿と思わしき場所が見えてくる。


 ガイウスは走りながら、「おお!見えたぞ!懐かしいな!あれがシリウスを祀る神殿だ。今回の目標だな!」と僕達に伝えてきた。


 僕はその光景に圧倒された。この更地に近い場所には不釣り合いな、大きな建造物がそこには鎮座していた。周りは廃墟と更地ばかりだというのに、その建物だけは大きな損傷も見られない。異質な光景だった。


 「ふふっ、驚いたでしょ。あんな大きな建物は都市の中でもあれだけだよ。信仰していたとはいえ、岩のためにあんなに大きな建物を建てるなんて、先人は凄いよね」とミーシャも話しかけてくる。


 「ええ。ですが、何故あの建物だけあそこまで綺麗な状態を保ってるんでしょう?」と僕は疑問を口にする。


 ミーシャはうーんと頭を捻り、「確かにねえ。まあ、岩の加護ってやつじゃない?それと、占拠されてから1年も経ってないからね。他の場所の損傷率が高いだけかもね」と答えた。


 皆と話しながら続いていると、先生が急に止まる。


 僕達も止まり、ガイウスの視線の先を見る。そこには、今までの任務で出会った腕がドリルのゴーレムが二体と棘亀が一体が徘徊しているのが見えていた。


 ガイウスは頭を搔きながら、「おいおい…。ああいうやつを前線メンバーに引っ張って欲しかったんだがなあ。まあ、神殿のとこにいる辺り、門番ってとこか?こりゃ、きつい戦闘になりそうだな」と斧を肩に乗せて溜息を吐いている。


 僕はガイウスの隣に立ち、「ゴーレムは僕達でも上手くやれば倒せた敵です。問題は亀の方ですね。あちらは、かなりの苦戦と消耗を強いられました。対策を練らないと厳しいかもしれません」と戦った時の情報を二人に話す。


 ガイウスはその情報に驚き、「そうか。あんな奴が任務のターゲットだったとはな。あんな奴らは普通、前線メンバーの精鋭が担当するような奴だぞ。よく対処できたな君らは」と褒めてくれる。

 そして、抗議している時のように腕を組み、「だがな。亀の対策は簡単だ。あいつは腹が弱いんだろ?それに、懐に入られた際の反撃方法も少ない。だったら、動きの速いやつを弱点の攻撃に選んで刻んでやればいい」と僕からの情報から、簡単な対処法を呟く。

 よしっと呟きながら、ガイウスは僕とアリサのほうへ向き、「まず、ミーシャとアリサ、アインで走り続けながら腹を斬り続けろ。奴はそのうち耐えられなくなって切り札を使うだろう。わざわざひっくり返ってくれるんだから、そこを俺が叩き割る。亀は終わりだ。」と指示する。

 後は…と言いながらフレッドとレイナのほうへ振り返り、「ゴーレムの方は俺とフレッド、レイナで受け持つ。俺がゴーレムの外殻を砕く。奴等は外側は岩だがヒビを入れるとそこが弱点となることが多い。もちろん、どこが弱点かは個体によるが、それは手数で補う。フレッド達は合わせてくれたら大丈夫だ。いいか?」と二人にも作戦を伝えた。


 全員が了承し、陣形を組んで攻略を開始する。


 偵察していた場所から一気に神殿方向に走り出す。


 徘徊していた3体はすぐに接近に気づき、棘亀が咆哮を放つ。その咆哮に呼応するように、地面から小型、中型の魔物が一斉に姿を現して飛びかかってくる。


 僕達はそんな光景を一瞥し、勢いを落とさずに接近する魔物を斬り伏せながら進む。


 埒が開かないと判断したのか、棘亀が前足をたたんで屈む。


 その様子を見たガイウスは咄嗟に「皆!散開!」と指示を飛ばす。瞬時に陣形を変え、それぞれが間隔を開ける。


  次の瞬間、棘亀の背中から幾つもの棘が発射される。僕らはそれを軽々と躱しながら加速し、一気に棘亀に接近する。棘亀は咆哮して棘を爆発させた。

 間一髪で懐に入り、僕とアリサ、ミーシャさんは作戦通りの戦闘を開始する。棘亀の腹部分を切り裂きつつ、足元にいる時間を最小限に斬り抜け続ける。棘亀は、痛みに唸りつつもとてもその巨体がしていい速さではない速度で位置を変え、一方的な状況を変えようとしてくる。しかし、僕達は連携しながら棘亀の移動に合わせ、懐に入り続ける。これによって次第に傷を増やすことができた。

 しかし、一筋縄ではいかなかった。棘亀は四本の足を強く踏ん張り、移動すると見せかけて空中に飛び上がる。そして、体を宙返りさせてきた。想定外の動きに、僕達は一瞬動きを止めてしまう。日の光を遮り、辺りが陰った次の瞬間、棘の雨が降り注ぐ。その光景に、僕は動きを完全に止めてしまっていた。


 轟音が轟き、地面が揺れる。僕がハッと気がついた時には、降り注ぐ棘の範囲外に出ていた。ミーシャさんがギリギリの所で僕達を拾って離脱してくれていた。後ろでは、僕たちが立っていた場所に針の山が出来上がっていた。


 ミーシャは困った顔で、「君たち、大丈夫かい?想定外の動きだったけど、止まっちゃダメだよ!常に考えて動き続けて。攻撃を受けたらひとたまりもないよ」とアドバイスをしながら周辺の警戒を続けていた。


 棘亀は針の山の後方に着地し、棘を起爆。範囲内には誰もいなかったが、とてつもない轟音と振動が轟く。周辺には余波の衝撃が走り、僕たちは受け流すために顔を覆う。

 衝撃が静まり、棘亀が僕たちを睨む。


 僕は顔を上げ、「ミーシャさん、助かりました。今度は失敗しません。付いていかせてください」と立ち上がりながら伝える。


 「私も大丈夫です。今度は失敗しません」とアリサも同様に立ち上がる。


 ミーシャは優しく笑い、「よかった。じゃあ、続けるよ!棘に注意して懐に飛び込むよ!散開して進んで!」と指示を飛ばして走り出す。

 散開して後を追う。僕たちの動きを見た棘亀はすぐさま棘を飛ばし、波状爆破を開始する。


 体を捻り、屈みながら飛び掛かる棘を避け、進む。後方では、地面に突き刺さった棘が小規模の爆発を繰り返していた。

 再び棘亀の懐に到着する。棘亀はすぐさま攻撃方法を切り替え、移動と爆撃を開始する。追いかけつつ、爆風や衝撃に注意しながら斬り刻む。何度かその攻防を繰り返した後、棘亀は大きく四肢を踏ん張る。


 飛び上がる攻撃の予兆が見え、「アリサ!亀の足に剣を刺して!空中で二人で攻撃して叩き落とすよ!」と目の前の棘亀の足に剣を突き刺しながら咄嗟に叫ぶ。


 アリサもすぐに意図を理解したようで亀の足に剣を突き刺し、頷く。


 次の瞬間、亀は跳躍する。僕達は空中に投げ飛ばされそうになるのを必死にこらえ、剣を離す。亀のさらに上空に跳躍した僕たちは、亀の足から剣が消失するのを確認し、自らの心臓に手をかける。剣を再び顕現させ、アリサに合図する。

 アリサも頷き、剣を構える。二人の渾身の一撃が、空中で止まった亀の腹を刻む。


 想定外の一撃に棘亀は苦痛の叫び声をあげながら、地面に墜落する。


 僕達は亀の腹に着地してすぐさま飛び退き、上空の大きな影に後を任せる。


 「二人とも流石だ!これでッ!終わりだ!」と金色の光を纏ったガイウスが、縦に回転しながら大斧を叩き込む。墜落の衝撃で陥没していた地形に更なる衝撃が加わり、周辺の地面に亀裂が走る。そして、衝撃波と共に一気に砕けた。衝撃が止み、砂埃が晴れる。その中央にはガイウスが立っていた。


 「よし!完璧だな!皆よくやった!」と沈黙した亀の腹の上で大斧を高らかに掲げてニコッと笑う。


 皆の歓声が上がり、一瞬の緊張の解れとこの任務の勝利を確信した。



 皆が合流し、神殿前に到着する。

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