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24話 遠征⑤ 不穏分子

「あ!おかえりなさい!皆怪我はない?大丈夫だった?」とコリンさんが出迎えてくれる。


 「ええ。おかげさまで皆無事です。でも、この任務は僕達が相手するレベルだったんでしょうか…」と皆疲れ切った様子でコリンさんに話す。


 「無事なら良かったよー!んー。依頼に関してはリックさんは大丈夫って言ってたけど、そんなに危ない任務だったの?」と何の疑いもなくコリンさんは聞いてくる。


 「ええ。正直、僕たちの手に余る強敵でした…。でも、リックさんは僕達の成長のためにあえて難しい任務を選んだのかもしれません。実際、力を合わせたら乗り越えられたのですから」


 「そっかー。大変だったよね。疲れてるだろうし、皆今日はゆっくり休んでね」とコリンさんが心配そうに僕たちに助言する。


 「ありがとうございます。とりあえず、任務完了となりましたので報告をお願いしても大丈夫ですか」


 「うん、分かった!伝えておくね。今日はこの後どうするの?ゆっくりするなら、ご飯の時に声かけるよ?」


 「ありがとうございます。ですが、ちょっと皆で散策に出ようかと。あまりこういう機会もないものですから」とコリンさんには誤魔化して伝えておく。


 「そうなの?疲れてるだろうし、無理しないようにね。でも、せっかくだし楽しんできてね!」と笑顔で答えてくれた。その後、コリンさんは作業があるとのことで奥へ戻って行った。


 「じゃあ、いこうか」と僕は真剣な表情で皆に声をかける。


 「うん」

 「はい」

 「ああ」

 といつになく緊張した面持ちで僕たちは星見亭を後にする。




 星未定を出た僕達は、街の中心部に向かいミーシャさんについて聞き込みをする。しかし、今朝から見ていない、見かけていないという返答しか返って来なかった。


 僕はこの状況に不安を抱え、「おかしいな…こんなにも人に見られないなんて事…あるのかな…もしかしてもう行ってしまったんじゃ…」と漏らしてしまう。


 すると突然、背後から「誰が行ってしまったんだ?」と聞き慣れた声が聞こえてきた。


 「ミ、ミーシャさん!?何処から出てきたんですか!」と驚いて咄嗟に飛び退いてしまう。


 「そんなに驚くことかい?君は面白い子だねえ。まあ、冗談はさておきだ。来てくれるかい」とミーシャは近くの宿屋を指差した。



 宿屋の一室を借り、中に入る。


 皆でミーシャの周りに座り、彼女を見る。


 「そう怖い顔しないでくれ。話は単純だからね。リックを待ちのはずれに呼ぶ。それで、私だけがリックに会う。話をしてみて、問題がなければそれでよし…」とそこでミーシャが俯く。

 「問題が…あったら…。その時は…私があいつを自由にする…。君達は見守っていてほしい。人殺しなんて学生に経験させる事じゃないからね…。手出しは絶対に許さない。いいかい?」と今にも泣きだしてしまいそうなか細い声で、全員に語りかける。


 ミーシャさんの顔を見つめ、「ごめんなさいミーシャさん。それはできません」とゆっくりと話す。


 ミーシャは驚き、「アイン君、どうしてだい…?」と話してくる。


 「信頼した人を、はいそうですかと殺せるほど人は簡単なものではありません。リックさんもミーシャさんもとてもいい人です。だからこそ、ミーシャさんはきっとこの選択を背負い、後悔してしまうでしょう。だから、僕も…僕達にも背負わせて欲しいんです。これから行うことは、きっと正解がない。そして、後悔の大きいものです。だからこそ、一人で背負わないでください。お願いします」と頭を深く下げてお願いする。


 「そういう事か…。ありがとう。でも、大丈夫…。私は、後悔してしまうだろう。けど、全部背負おうと思ってるよ。あいつは、私の部下だからね」と悲しそうにうつむいていたミーシャは、僕のほうを向いて無理に微笑む。


 「そうですか…。分かりました。ですが、不測の事態も考えられます。リックさんとの会談には僕達もついていきます。手伝うって約束しましたからね。何もなければいいですが、クイーンの一人の可能性がある以上、備える必要があります。それと、一つ策も打ちます。ミーシャさん、いいですか?」


 「うん、わかった。君たちの動きを私は制限しない。私の考えた大まかな作戦を伝えるね…」とミーシャは練っていた作戦を僕達に伝えた。




 街のはずれ。街道近く。


 「ミーシャさん。どうしたんですかいきなり呼び出して。いつもみたいにその場で話してくださいよ…」と不満そうにリックが歩いてきた。


 「そんなに言うかい?いいじゃないか、久しぶりに静かな場所で話したってさ。まあ、こんな人気のない場所に来たのは本当に久しぶりだけどね。」とミーシャはいつもの態度でリックに接する。


 「それで、話って何ですか?寒いんですから、手短にお願いしますよ」と不満そうにリックは頭をかいていた。


 ミーシャは深呼吸をして、覚悟したようにリックを見つめ、「ああ…そうだね…じゃあ、手短にいこう」と口を開く。

 「リック。君が…ファントムなのかい?」


 「ファントム…ですか。ミーシャさんがそんな都市伝説を信じているなんて驚きです。それに、そういう事を真正面からぶつけるなんて、いくらなんでも趣味が悪くないですか?」と苦笑しながらミーシャに答える。


 リックの返答に眉一つ動かさず、ミーシャはもう一度、「リック。真剣な話だよ。答えて」と淡々と話す。


 「はあ…こんな所に呼び出して何を話してこられるのかと思えば…。当然ですが、違いますよ。僕はずっと、病院でその都市伝説になぞったような症状を発症する人達を見てきました。あの人達が回復するのを祈っていたんですよ?そんな僕を疑うのは、たとえミーシャさんでも納得いきません」と不愉快そうにリックは答える。


 「そっか、そうだよね。ごめんなリック。疑って悪かった。じゃあ、最後に一つ。その剣、今どこから出した…?」とミーシャはリックを睨み、短剣を抜く。


 「おやおや、見えていましたか。流石ミーシャさんです。ですが、不穏分子には消えていただかなくてはなりません。申し訳ないですが、事故という事でここで息を引き取っていただきます」とリックは後ろ手に隠していたナイフをミーシャに見せる。


 「はあ…やっぱり当たりか…勘で言っただけだったのに…誤魔化してくれたら…これで終われたのに…何で…何でよリック…」とミーシャは静かに俯く。

 数秒の沈黙が過ぎ、ミーシャは覚悟を決めて顔を上げ、心臓に手を当てながら地面を蹴る。


 「来ますかミーシャさん。貴方の部下を、殺すんですか?」とリックは余裕の表情のまま、構えもせずにミーシャの接近を許す。


 「ああ、殺すさ。君はもう、リックではないからね。彼は、こんな事を望むやつじゃなかった。ましてやこんな状況を楽しむ男ではなかったんだよ!」とミーシャはさらに加速し、とてつもない勢いで取り出した短剣をリックの胸元へ突き刺しにかかる。


 「単調ですね。通るとお思いですか?」とリックは軽々とミーシャのナイフを受け止める。


 ミーシャは受け止められた瞬間にそこを起点として跳躍し、リックの背中に回る。そして、低く屈みながら振り返る。

 即座に反応してリックは背後のミーシャめがけてナイフを振る。しかし、そのナイフは空を切り、低い姿勢で構えていたミーシャが即座にリックの大腿部を切り裂く。続けてナイフの持ち手を変えて地面を蹴り、リックの脇腹を切り裂きながら彼の横をすり抜けて背部に回り込む。そして、リックが振り返るより早く、そのまま心臓を一差しする。


 リックは、心臓につきたてられたナイフに驚きの表情を見せ、「な…!流石、やりますね…」と声を漏らす。しかし、致命傷を負ったはずの攻撃に、彼は動じていなかった。


 ミーシャは危険を感じて飛び退く。


 その行動にリックは不気味に笑い、ミーシャのほうへ顔を向ける。「勘が鋭いですね!では、ここからが本番です!」と彼は自分が持っていたナイフを自らの心臓に突き立て、それを引き抜く。

 すると、先程までナイフだったそれは真っ赤に染まり、形を変化させる。ナイフだったものは、禍々しい槍へと変貌した。鮮血が滴り、赤く輝く槍を脇に抱え、平然と立っているリックの姿はとても人とは言えないものだった。


 「うう…そんな…」とその悲惨な状態の部下を目の当たりにしたミーシャは酷くショックを受けていた。


 「さあ、ミーシャさん。終わりにしましょう。この力を見た者を生かして返すわけにはいきません。」とリックは軽く地面を蹴り、その瞬間姿を消す。


 瞬きをした瞬間、リックはミーシャの背後に立っており、ミーシャの脇腹には槍が突き刺されていた。


 「ガハッ…クゥ…!」と声が漏れながらも必死に痛みを堪えるミーシャ。すぐに体を捻りながら切り返し、リックの方へ蹴りを入れて槍を引き抜く。体からはダラダラと血が流れ、苦痛で表情が歪んでいた。しかし、彼女は依然としてリックへ短剣を向ける。


 ミーシャに吹き飛ばされたリックは膝をつき、「ハハハ!やりますね!ですが、追いつけていないようですねッ!」と言い放つ。そして、そのままの体勢で地面を蹴る。リックの姿が再び消える。


 ミーシャは目で探すのを諦めて目を閉じ、五感を研ぎ澄ます。そして、おもむろに右後方に短剣を差し込む。

 すると、武器同士が当たったような甲高い音が響いた。そこには、槍を上に弾かれて驚愕の表情を見せれるリックの姿があった。


 「なっ…!見えていたのか!そんな馬鹿な!」と動揺し、取り乱すリック。


 その隙を逃さず、ミーシャは振り向きざまに足を上げて槍を地面に蹴り込む。そして、動きの一瞬止まったリックにナイフで攻撃する。


 胴体に深く刻まれた傷を凝視しながら、「ガァ…!グッ…」と声を漏らす。しかし、すぐにニヤリと笑い、ミーシャの右手を掴む。


 ミーシャはすぐに体を捻り、リックの右脇腹に蹴りを入れる。リックは傷ついた部分に強烈な一撃を受け、大きく怯む。握る力の弱まった瞬間を見逃さず、ミーシャは彼の近くを離れる。


 リックは脇腹を抑え、膝をつきながら地面に突き刺さった槍を握る。そして、槍を無理やり引き抜きながら周辺を無作為に攻撃する。


 ミーシャは様子をうかがいながら土煙の収まりを待つ。

 視界が開けると、そこにはかつてのリックの姿はなく、獲物を探すような鋭い目つきと垂れ下がるような姿勢、右手には槍、左手にはナイフ、体は血に汚れた獣のような状態の彼が立っていた。


 彼はミーシャを睨み、体を軽く前に傾ける。そのまま走り出し、無作為に槍を前に突き出す。

 圧倒的な速さに体が追いつかず、ミーシャは反射的な動きで槍を弾く。しかし、急な行動に体勢が崩れ、彼の左手のナイフが心臓に迫る。


 ミーシャはその光景に死を覚悟し、目を閉じる。しかしその瞬間、カンッと金属がぶつかる音がした。

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