23話 遠征④ 手に余る強敵
沈んだ空気が支配する中、僕は話を切り出す。「よし。この件はミーシャさんが引き継いでくれる。だから、僕達は目の前の課題に集中しよう。レイナ、フレッド。もう一度1つ目の任務について得られた情報を教えてくれない?」
フレッドも頷き、「そうだな。ここで止まってても何も変わんねえ。明日、朝一番に亀を討伐しよう。集められた情報はレイナがまとめてくれてるぞ」と促してくれる。
レイナもハッとなり、「は、はい。そうですね…では、任務についておさらいしておきましょう」と動揺していた気持ちを切り替える。
レイナは気を取り直し、「えっと、湖の近くに発見報告のある大型の岩の棘を持った亀。これがターゲットです。亀と呼ぶのもなんですので、棘亀と呼称します。特徴は甲羅に生えている無数の棘ですね。それを飛ばしながら戦うようです。それと、棘の攻撃よりも厄介なのはその体躯に見合わない俊敏性のようです。陸上でも素早く動き、滑り、位置を変え続けてきます。そして、甲羅や体躯を用いた近接戦闘も行ってくるようです。気をつけるべきは棘による裂傷と俊敏な動きによる翻弄ですね。ペースを握られると手のつけようがないかもしれません。こんな所でしょうか」と棘亀についての情報を共有してくれる。
僕はその情報を聞いて頷き、「たくさん調べてくれたんだね。ありがとう。これで対策はとれるかな」と戦法を考えていく。
レイナ達の話を聞きながらじっと考えていたアリサが顔を上げ、「うん。こっちの戦術はなんとなく出来そうだけど、亀ってなると硬そうだよね。弱点とかってあるのかな?」と尋ねる。
レイナはうーんと首を傾げ、「それらしい情報は無かったですね。ただ、推論で考えるなら手足や首などの甲羅に覆われていない場所は比較的攻撃が通りそうですね」と答える。
その案を聞き、「じゃあ、フレッドの照射に頼ってみるのはどうかな。頭から尻尾までを貫くように射抜けば、大きなダメージが与えられるかもしれない。」と意見を述べてみる。
レイナは納得したように頷き、「それはいいかもしれませんね。では、棘亀戦ではアリサとアインさんが前衛。フレッドが私を守りつつ隙をつく中衛。私が後衛で指示を出します。これでいかがでしょう」と結論を出す。
フレッドも頷き、「そうだな。まあ、前の岩の野郎と同じで殴れば砕けんだろ。さっさと終わらせようぜ」と賛成している様子だった。
僕も席を立ち「そうだね。じゃあ、その案でいこうか。アリサもいいかな」と意見を聞く。
アリサも頷き、「うん、大丈夫。じゃあ、明日頑張ろうね」と言って席を立つ。
皆の意見を聞いた後、「ええ。では、明日の早朝に下の階で集合です。宜しくお願いします。」とレイナが話を締めて解散となった。
話の後、最後に出ていこうとするアリサに「アリサ、大丈夫か?あの話の後からずっと暗いけど…」と声をかける。
アリサは暗い表情のまま俯き、「うん…大丈夫だよ。ってのはちょっと嘘かな…。怖いんだ…こうやってクイーンって存在が身近にいると…。誰も信用できなくなっちゃいそうで…。背中を預けてる皆がもし敵だったらなんて…考えるだけで辛い事だよ…」と僕に体を預けながら、ポツポツと小さな声で想いを話してくれる。
僕は優しくアリサの頭を撫で、「そうだね…ロイドにリックさん…僕達は身近に経験しすぎてる。不安になるのも無理ないよ…。でも、これだけは言える。僕はアリサの味方だよ。それだけはハッキリしてる。僕はアリサが敵だったらなんて一度も考えた事ないよ。僕はアリサが常に味方だって、そう思い続けてる」と想っていた事をそのまま口にして伝える。
アリサは僕の顔を見上げ、困った表情で「アインって口に出しにくい事をポロポロ言うよね…聞いてるこっちが恥ずかしいよ…もう。でも、ありがとう。私もアインを信頼する。貴方だけは何があっても裏切らないってそう確信できるから。レイナやフレッド、学園の皆もそう思えるともっといいなって思うけど…」と返してくれた。
僕は頷き、「そうだね。少しずつ皆を知って、こうやって背中を預けられる仲間が増えたらいいね」と優しく返した。
アリサはそれを聞いて頷き、ゆっくり僕から離れて「うん。アイン、ありがとう。私部屋に戻るね」と手を振って部屋に戻った。
次の日。日が昇り始めた頃。僕達は集まっていた。
「皆揃いましたね。では、向かいましょうか。西側の街道に出て、道なりに進みます。その後、北側の方へ続く分かれ道に入り、少し進んだ場所に湖のある森林地帯があるようです」とレイナが順路を説明する。
フレッドがそれを聞いて立ち上がり、「よし、じゃあサクッと行こうぜ」と腕を回す。
皆も続き、目的地まで移動する。
街道を抜け、森林地帯に到着する。特に変わった様子はなく、静かだった。
静かな雰囲気にフレッドは首を傾げ、「本当にここにターゲットはいるのか?」と呟く。
「情報通りならいるはずです。とにかく、進みましょう。」とレイナは決意したように足を踏み入れていく。
僕達も続いていく。
とても静かな場所だったが、何か不穏な様子だった。森の奥に進むにつれ、不自然なほどに霧が当たりを覆い始めていたからだ。
緊張した面持ちで周囲を見渡していたアリサは、「おかしいな。ターゲットは見えないにしてもある程度の魔物の出現は想定されるはずだよね。なのに、一体もいないなんて…それにこの霧…なんか不気味だよ…」と明らかに不安そうなな表情を見せる。
僕もこの不気味な状態に違和感を持ち、「明らかに雰囲気が変だね。皆、レイナを囲んで陣形を取ろう。一定の範囲内で誰も見失わないようにお互いを見つつ警戒。異変があったら知らせ合おう」と全員に声をかける。
「分かった」
「うん」
「分かりました」
と3人はそれぞれ立ち位置を整える。
その時だった。周囲から急に視線を感じ始める。
僕は咄嗟に剣を抜き、「来た…!皆、構えて!囲まれてるぞ!」ともう一度全員に声をかける。
「了解!」と皆が構え、戦闘体制をとる。
霧の中から、何体かの小型の亀やゴーレムが姿を現す。
レイナはその様子を確認した瞬間、「来ましたね。陣形を維持して各個撃破しましょう。ターゲットではありませんので殲滅は必要ありません!消耗を避け、進みながら戦いましょう!」と全員に指示を飛ばす。
まず動いたのは1番前に立っていた僕の方だった。様子を見ていたゴーレム二体と岩のような見た目の小型の亀が二体の計四体が突撃してくる。
魔物をギリギリまで引きつけ、右手を突き出してくるゴーレムの攻撃を身を屈めつつ避け、飛び上がるようにゴーレムの右の脇腹から左肩に向けてを斬りあげる。体を削られたゴーレムは体勢を崩し、後ろに倒れていく。その様子を横目に、奥で動きだしたゴーレムの方へ視線を移す。奥に立っていたゴーレムは岩を削り取り、投擲してくる。僕は大剣を振り下ろして真正面から岩を受け止め、倒れていたゴーレムの真上で威力を相殺する。岩は重力に引き込まれ、倒れ込んでいたゴーレムの元へ勢いよく叩きつけられた。倒れていたゴーレムはその衝撃によりバラバラに砕ける。砂煙が立ち込め、視界が一瞬悪くなる。その瞬間を待っていたかのように小型の岩の亀が突撃してくる。岩亀は背中に生えた大きな棘を当てるように、背中を向けてアインに飛びかかる。僕はその気配を察知してガードし、勢いをつけて地面に叩きつける。その時、右側に氷の障壁が展開されてアインの意識外から攻撃を仕掛けてきていたもう一体の亀の行く手を阻む。
「アインさん!油断しないでください!ここはかなり敵の数が多いようです!」と後ろからレイナの声が響き、僕は障壁に阻まれて地面に落ちた亀の上から大剣で突き刺してトドメを刺す。
近くでバタバタとしていたもう一体の岩の亀に止めを刺し、前方を睨む。すると、先ほど岩を投擲してきたゴーレムが別の岩を持ってこちらに突撃してきていた。僕はゴーレムに向けて走り出し、鮮やかにすれ違いざまに斬り抜けつつ背後に回る。すれ違いざまの一閃により傷を負ったゴーレムは体勢を崩し、大岩を落として膝をつく。すかさず大剣を斬り下ろし、持ち方を変えてゴーレムの胴体に大剣を突き刺す。ゴーレムは機能を停止するようにバラバラと崩れ落ちていく。
前方に敵が居ないことを確認しつつ、「前方は開けたよ!皆、こっちに進もう!」と全員に声をかける。
アインが戦闘を始めた頃、アリサ、フレッドも同じく戦闘を始めていた。
アリサの方は、入学試験の際に倒した岩トカゲが二体とゴーレムが一体姿を現していた。
岩トカゲは牙を剥き出しにして突撃してくる。アリサはギリギリまで引きつけてからふわっとジャンプしつつ体を捻り、通り過ぎようとしていくトカゲの体躯めがけて二刀を差し込んで尻尾付近まで切り裂いていく。たまらずトカゲは悲鳴をあげ、ぐったりと地面に伏す。
その様子を見て怒り狂ったようにもう一匹が飛び上がり、岩の塊のついた尻尾をこちらに叩きつけてくる。アリサは咄嗟に飛び込んで来た方へ走り出し、トカゲの下を潜り抜ける。そして、奥で岩を切り出そうとしているゴーレムの元まで駆け抜ける。ゴーレムの眼前まで迫り、体勢が整える時間すら与えずにx字に斬り込む。ゴーレムは両腕を破損して体勢を崩し、前のめりによろめきながらもすぐさま体を持ち上げて直立の姿勢に戻ろうとする。アリサはそれを許さず、前傾姿勢となっていたゴーレムの背中に勢いよく飛び乗る。ゴーレムはその衝撃でバランスを崩して地面に這いつくばる。アリサは自分を覆う影に気づいて瞬時に飛び退く。次の瞬間、地面に倒れこんだゴーレムの元に岩トカゲの大きな尻尾が叩きつけられ、ゴーレムが粉々に砕け散った。
それと同時に、前方が片付いたというアインの声が聞こえる。地面に刺さった尻尾が刺さって身動きが取れなくなった岩トカゲの方へ軽やかにジャンプし、首筋を勢いよく切り捨てる。深手を負ったトカゲは短い叫び声をあげて地面に伏し、それを横目にすぐさまアインの方へ駆け出す。
フレッド側では、ゴーレムが3体姿を見せていた。
ゴーレムは3体とも突進を選び、フレッドの元へ走り出す。フレッドは引きつけたのちにギリギリのところで飛び上がり、中央のゴーレムの背後に着地する。着地するのと同時に、構えていた大剣をゴーレムのがら空きの背部に突き刺して斬りあげる。ゴーレムは腹部から頭部までが真っ二つとなり、そのまま倒れ込む。残りのゴーレムが振り返り、すぐさまフレッドに向けて拳を振りかざす。しかし、拳が到達するよりも早く、フレッドは大剣に闇属性を纏わせてリーチを伸ばした状態にして大剣を横一文字に斬り込む。範囲内にいた2体のゴーレムはたちまち崩れ去り、3体の砕けた岩の山が完成する。
息をつき警戒を続けていると、アインの声が聞こえてそちらに向かう。
四人で合流して包囲を抜けるために走り抜ける。すると、すぐに霧が晴れて気づけば湖の近くまで来ていた。四人が振り返ると、そこには霧はなく魔物の姿もなかった。
レイナは来た道を見つめ、「何だったんでしょうか?不思議な場所ですね」と来た道を見つめながら不安そうに呟く。
「まあ、目的地に着いたんだしいいじゃねえか。それより、あれじゃねえか?」と現在地から北東側をフレッドは指差す。
そこには、僕達の5倍以上の高さもある亀がどっしりと構えていた。周辺は踏みならされて平野となっており、移動による影響が伺える。甲羅から生える無数の棘も、聞いていたよりも何倍も太く、大きく見えた。
アリサはその光景を見つめ、「大きいですね…討伐するのは骨が折れそうです…」と圧倒されながらも負けるつもりはないといった様子を見せる。
フレッドは口角を上げ、「何、見た目がデカいだけだろ。動きが速いって話だがあの見た目だと限界もあるだろう。しっかり陣形を維持して仕掛ければ何とかなる」とやる気を見せていた。
レイナも頷き、「ええ。とりあえずあれがターゲットのようです。事前に話した陣形で仕掛けてみましょう」と準備を始める。
「うん。とりあえずやって見ないことには分からないよ。行こう」と皆を先導する。
森を抜け、踏みならされた地帯まで行くと、棘亀はこちらに勘づいて睨んでくる。
レイナはアリサに加護を渡し、「さあ、始めましょう!」と戦闘開始の合図をする。
アインとアリサは駆け出し、フレッドはエネルギーの充填を始める。
僕は並走するアリサに向かって「アリサ!まずは体勢を崩すよ!アリサの目の前の足に斬り込む!棘亀の左前足だ!合わせて!」と叫ぶ。
アリサは頷きながら、「うん!行くよ!」と剣を構える。
息の合った剣の軌跡が二本の深い傷を刻み、様子を見ていた棘亀は小さい悲鳴を上げてこちらに敵意を向けるように大きく叫ぶ。そして、四本の足を地面につけて頭側を下げる姿勢をとる。
次の瞬間、無数の棘がフレッドとレイナのいる方へ射出される。
すかさずレイナはフレッドの方へ近づき、加護から障壁に切り替えて厚みを重視した中型の障壁を展開する。
棘は2人の周辺の地面を抉り、近くに立っていた木々を斬り倒す。2人にも棘が迫り、障壁に当たった棘がジリジリと障壁を削りながら勢いを止める。
レイナはその攻撃を受け止め切れた事に安堵して息を吐く。しかし、次の瞬間一体に撒かれた棘が爆発して轟音と衝撃が響く。
爆発の余波が終わり、砂埃が捌けるとそこにはボロボロになりながらも何とか立っている二人の姿があった。
爆発が始まった瞬間、レイナは咄嗟に展開していた板状の障壁をドーム状に展開し直していた。しかし、範囲上強度が足りずに爆風が貫通してしまい、大きなダメージを負っていたのだった。
フレッドは右腕を抑えながら、「クソ…!俺達は大丈夫だ!ただ、戦うのは厳しいかもしれねえッ!」と苦しそうな表情で叫ぶ。
僕はその声を聞き取り、「無理しないで撤退して!二人がやられたら元も子もないよ!僕達が引きつけて、十分距離が取れたらこっちも撤退する!一度立て直そう!」と二人に向かって叫ぶ。
フレッドは頷き、レイナを抱えて離脱しようと動き始める。しかし、棘亀がそれを許すはずもなく、すぐさま第二波を放とうと構えをとる。
「やらせない!アリサ!さっきと同じ足を集中的に刻む!体勢を完全に崩すよ!」
アリサもその声に頷き、2人で叩き込める限りの連撃を足に加える。
その攻撃により棘亀は嫌がるように前足を上げて立ち上がるように体勢を変える。急な姿勢の変化によって暴発した棘がいくつか湖側に放たれ、大きな水飛沫を上げる。
その隙を見て2人は離脱を開始する。
僕は立ち上がった棘亀を見上げ、「まだ引きつけないといけないね!アリサ!腹の部分に大きな一撃を同時に加えて裏返すよ!いいかい!」と声をかける。
アリサは飛び上がった僕に合わせるように続き、「うん!いくよ!せーーの!」と合図する。
彼女の声に合わせて二人で最大限の力を込めて棘亀の腹に斬り込む。
大きな衝撃を受けてバランスを崩した棘亀はゆっくりとその巨体を裏返し、大きな音と振動を立てて倒れ込む。
その光景を見届けながら地面に着地し、「よし、僕達も離脱しよう!」とアリサに声をかける。
走り出そうとする僕を静止するように、「ダメみたい!あれを見て!」とアリサが叫ぶ。
僕が咄嗟に振り返ると、そこには足を体に引っ込め、ゆっくりと回転を始める棘亀の姿があった。そして、棘亀の甲羅が不気味に光り始め、地面が小爆発し始める。その衝撃を活用するように棘亀の回転は勢いと速度が上がっていく。
僕は最悪の事態を察し、「これは…まずいな!一帯が爆発と回転で更地になっちゃうぞ」と呟きながら頭を回す。どうする…。どうする…。このままだとこの一帯諸共跡形もなく消されてしまう…。何か対策を…。と考えていた時、心臓の鼓動が早まり、大剣が熱を持ったように熱くなる。
僕はその感触を感じた瞬間、「アリサ、離れてて」とだけ告げて勢いよく飛び上がる。
アインの握る大剣は刀身の全てが緋く染まり始めていた。周辺に陽炎が発生し、空気を燃やすかのように燻る。アインは空中で体を捻り、大剣を棘亀に向かって振り抜く。
次の瞬間、棘亀と近くの地面には一筋の緋色の軌跡が描かれ、その光が瞬時に強さを増して大きな爆発音と衝撃を起こす。少し後ろに撤退していたアリサは、光から放たれた衝撃を耐えるので精一杯だった。
衝撃が収まりアリサが目を開けると、そこには深く抉られた地面と棘亀の体だったと思われる部分が真っ黒に焦げて燻っていた。
アインは地面に降りて膝をつき、反動の激痛に耐える。「グウウウウッ…!この反動は…慣れないな…ッ」
我慢を続けていると、急に痛みが消える。目を開くとそこは、演習の際にも訪れた何処までも続く白い世界だった。
この世界唯一の異物である何かから「・・・ー!その力を使うのは・・・あなたの魂を・・ってしま・・・彼の想いを・・・いで・・・」と前回演習で聞こえてきた時よりも鮮明に誰かの声が聞こえてきた。薄らと見えていた物も、人の姿のようにぼんやりと形取っていた。
言葉を聞き終わると同時に目が勝手に閉じていく。もう一度開くと、目の前にアリサが覗き込んでいた。
アリサは心配そうに「だ、大丈夫!?すごい苦しんでたように見えたけど…」とそのままの距離で話しかけてくる。
僕の頭がその光景を処理するより早く、「わああ!近いよアリサ!僕は大丈夫。心配かけてごめんね」と咄嗟にアリサの肩を持って距離を空ける。
その態度を見て「何で離れようとするの!何か隠してるでしょ!やっぱり大丈夫じゃないんでしょ!」とムスーっとした表情になって怒る。
僕はその様子を見て逃れられないことを察し、「アッハハハ…。えっと、そうだね。この痛みについては正直なところよくわからないんだ。ピンチの時に急にあの力が使えるようになって、大きな力をあたえてくれる。でも、その反動にさっきみたいにかなりの痛みが伴う。使用する為の条件もこの反動の意味もよく分かってない、不確定な物なんだ。今わかるのはそれだけなんだ。」と知っていることを伝える。
アリサは真剣な表情で話を受け止め、力を抜くように息を吐いてから「そっか…アインもよくわかんないんだね。でも、さっきの光は訓練してた時に見つけたあの岩と同じに見えたよ。その辺が関係してるなら、伝承上では緋く輝いていたシリウスも何かありそうだよね。最後はあそこに行くんだし、何かわかるといいんだけど…」と呟く。
続けて、「あ、それとっ。その反動っていうの。どう考えても本来使っちゃいけない力を使ってるから起きてるんだと思うよ。だからね、あんまり使わないで欲しいな。その力が無くても、切り抜けられる事ってきっとあるはずだし、もし痛みだけじゃない反動が蓄積していたらいつか良くないことが起こると思うから。だから…」と俯きながら、ゆっくりと自分の思いを伝えてくれる。
僕はその言葉をしっかりと受け止め、考える。考えをまとめて頷き、「わかった。この力について分かるまで…。その時まで、僕はこの力を出来る限り使わないようにする。アリサの言う通り、僕には君や皆がいるんだもんね」と優しく答えた。
アリサは頷き、「アインは私が守るから。だから、無理しないでね…。約束だよ」と言ってアインの胸に頭を埋める。
僕は一瞬驚いたけど、ゆっくりとアリサの頭を撫でて見守った。
数分後。
「おーい!どうなったんだー!」とフレッドとレイナが走ってくる。
二人で座ってゆっくりしていた僕達は、立ち上がって二人の到着を待つ。
僕達の元に到着したレイナは、「はあ、はあ。棘亀は倒してしまったのですか!?と、というか、何が起きたのですか…?」と抉り取られた地面や黒焦げの残骸が散乱している状況に目を丸くしている。
僕は視線を泳がせながら「あー、えっと。これはねえ…」と言葉に詰まる。
フレッドはその光景を一瞥し、落ち着いた様子で「あれだろ。演習の時に少し出してた溶岩みたいな力。これがその本領ってわけか」と呟く。
レイナは首を傾げ、「そうなのですか?でも、あの時はここまでの火力は…」と不思議そうにフレッドを見つめる。
僕は咄嗟に2人の間に入り、「やだなーフレッド!二人で棘亀をひっくり返したらたまたま棘亀が自爆しただけだよ!僕はそんなとんでもない力は持ってないよ」と誤魔化す。実際、ひっくり返して爆発し始めたところまでは事実だ。
フレッドは僕の反応を無視して「ふーん。アリサ、そうなのか?」と尋ねる。
僕はがっくりと肩を落とし、「僕の話全く信用してないじゃないか…」と一人で呟く。
アリサはフレッドの質問に頷き、「まあ、アインが言ってる事は本当だよ。あの後、大きく立ち上がった棘亀に対して重たい一撃を入れたの。その衝撃でひっくり返って、背中の棘が暴発したみたいに爆発したの。衝撃が凄くて見てるしかできなかったけど、気づいたらこうなってたわ」と話を合わせてくれた。
フレッドはその話を聞いてほう…。と呟き、「そうか。あいつの弱点はひっくり返る事だったんだな。情報に加えて一応報告しよう」と真面目に返答する。
僕はよろよろとフレッドに近づき、「ねえ…僕も同じようなこと言ったよね…なんでアリサだと納得するのに僕のは納得してくれないんだ…」とボソッと呟く…
フレッドはジト目でアインを見つめ、「そりゃ、さっきの話し方が胡散臭かったからだよ。お前はまともな報告する時はあんな話し方はしないだろ。まあ、詮索はしないしアリサの言うことは正しいようだからこれ以上は言わん。ただ、あんまり俺たちを不安にさせるような態度は取らないでくれ」と胡散臭いものを見るように答えた。
「ご、ごめん。これからは気をつけるね…」と真剣に話を聞いてくれていたフレッドに達に嘘をついている事を心底申し訳なく思う。
僕は気を取り直し、「そういえば、二人は大丈夫だったの?」と尋ねる。
フレッドはああ、あの後な。と言って「結構後退してから気づいたんだが、俺達は治療系のアイテムを買ってたんだよ。それをレイナが思い出して使ってみたら、ゆっくりだが傷が回復し始めてよ。それで、戦闘できるくらいまで回復するのを待ってからこっちに引き返したんだ。そしたらこの状況ってわけよ。驚かしてくれるよな、全く」と顛末を簡単に説明してくれた。
レイナは話に出たアイテムを取り出し、「それにしても、この石は凄いですね。砕くと少しずつ治癒されていくなんて。シリウス周辺で取れる特産品の石、名前を血石と言うのだそうです。赤い石だからですかね?」と初めて使うアイテムに感動していた。
「そっか、とにかく無事で良かったよ。とりあえず任務は終わったし、戻ろうか。ここからが本番だよ…」と僕は真剣な表情で話す。
アリサも立ち上がり、「そうだね。とにかく街に戻ってミーシャさんと合流しないと。いつ痺れを切らしてしまってもおかしくないよ」と先を急ぐ事に賛成する。
レイナも頷き、「では、撤収しましょう。お二人はお怪我はありませんか?血石はまだありますが」と手にしていた石を見せる。
「ありがとう。けど、僕達は大丈夫そうかな。特段怪我もないよ。」とレイナに感謝を告げて先を急ぐ。
その後は行きと同様にほとんど魔物と遭遇する事はなく、昼頃には星見亭に戻る事が出来た。




