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22話 遠征③ 澱む空気

丘の景色を楽しんだ僕達は、一度星見亭に帰還する。


 星見亭に入ると、カウンターの中で書類を整理していたコリンさんが顔を上げ、「あ!おかえりなさいです!お怪我はありませんか?」と心配そうに出迎えてくれる。


 アインは頷きながらコリンの方へ歩き、「はい。皆無事で戻ってます。それと、リックさんの二つ目の依頼にあった花の回収が済みました。リックさんへの報告と受け渡しをお願いできますか?」と言ってスピネルをコリンに手渡そうとする。


 コリンはおおー!と自分の事のように喜びながら、「もう依頼を達成されたのですか!流石です!リックさんには私から報告致しますので、よかったら依頼者の方にお花を届けていただけますか?」と言ってアインにスピネルを返す。


 アインはスピネルを手に取り、「ありがとうございます。お花を届けるのは問題ありませんが、リックさんが届けたいのではないですか?あの病院にはよく足を運んでおられるという話でしたが」と首を傾げる。


 「その点は問題ございません。リックさんは貴方達に届けて欲しいと話しておられましたので。我儘を言って申し訳ありませんが、お願いできますでしょうか?」


 アインは納得したように頷き、「そういう事でしたら、僕達の方から依頼者へお届けしますね。コリンさん、ありがとうございます」とスピネルを大切にしまう。


 コリンさんは「いえいえ」と優しく笑い、「いえいえ、とんでもないです!では、お花の件、お願い致しますね!」と言ってこちらに頭を下げて、奥に行ってしまう。


 後ろで話を聞いていたレイナが、「じゃあ、お花の件はお二人にお願いしてもいいですか?私たちはもう一つの依頼の事などを再度聞き込んできますので」と伝えてくる。


 アインは頷き、「分かった。じゃあ、アリサと一緒に病院に行くね」と伝え、2人で病院へ向かう。



 病院に着き、リナの病室に向かう。


 ノックし、扉を開けると苦しそうな顔をしながら眠るリナちゃんの姿と心配そうに見つめるナタネさんの姿があった。


 アイン達はその様子を心配そうに見守りながら、「こんにちは…リナちゃんはどうされたのですか?」とナタネに尋ねる。


 ナタネは顔を上げ、「ああ、先日の学生さん達ですね。リナはこういう発作的な痛みが多いんです。心配ですが、見守ることしかできず…いつもはある程度で落ち着いてくれるのですが…」とリナを優しく見つめる。


 アリサはリナの近くでしゃがみ、「そう…なんですね…こんな苦しい事にずっと耐えてるなんて…」と呟きながら心配そうにリナの手を握る。


 アインはハッとポーチを探り、「そうだ、ナタネさん。依頼されていたスピネルを摘んできました。リックさんが僕達に届けて欲しいと話しておられたようで、その件で伺ったんです」とナタネにスピネルを手渡す。


 ナタネはそれを見て涙を浮かべ、「ありがとうございます…この花をこの目で見れたのはいつぶりでしょうか…」とガラスを扱うように丁寧にスピネルを受け取る。


 そのタイミングでリナの発作が落ち着き、「う…うん…。スーッ」と寝息を立て始める。


 ナタネは胸をなでおろし、「リナも落ち着いたようですね。よかった…。あの、よかったらお話を聞かせてもらえませんか?あの丘にはもう長く行っていないものですから」と涙を拭いながら尋ねてくる。


 アインは頷き、「ええ、もちろんです」と僕達は任務の一部始終を伝える。


 「そうでしたか。あの場所は少し変わってしまったんですね…あの丘は夫との思い出の場所なんです。とっても景色が良くて、最高の場所だと2人でいつも話していました。私たちが行っていた頃は、スピネルが一面に咲いていたんですよ」と懐かしむようにナタネさんが話し始めてくれる。

 「ですが、数年前からあの場所も危険になってしまって…家族との数少ない思い出の場所なので、リナにももう一度見せてあげたいのですが…そうもいかず。夫が、リナのお気に入りだったスピネルを摘んでくるようになったのはそんな頃からでした。そんな事を続けていたものですから、ある時突然返ってこなくなりました。それを聞いて、リナはあの丘に探しに行くと聞かずに1人で家を出てしまいました。その時、この傷を負った状態のリナを前線の戦士の方が連れ戻してくださったんです。その方がリックさんです。それからも、リックさんはこの子の事を気にかけてくださっているんです」とナタネはリナを見つめながら、悲しそうに話をしてくれる。


 話が終わった頃、「んん…?あ、あれ。私…寝てた…?あれ!お姉ちゃん達来てたんだ!」とリナが目を覚まし、僕達に驚く。


 アリサは「こんにちは、リナちゃん。調子はどう?」と優しく微笑みかける。


 リナは無邪気に笑いながら、「ん?私、元気だよ!」とはしゃぐように答える。


 アリサはその様子を優しく見守り、「よかった。そうだ、お母さんからプレゼントだって!」とリナの視線を誘導するように、ナタネの方へ手を向ける。


 リナは視線をナタネの方へ向け、「ほんと!?なになに?」と興味津々な様子で見つめる。


 ナタネは困った様子で手に抱えていたスピネルを見せる。リナの表情がパッと明るくなり、「わあーー!お母さん、それどうしたの!?」とナタネの手に握られた美しい花を見つめる。


 ナタネは微笑みながら優しくリナに手渡し、「これはね、お姉さん達が摘んできてくれたの。リナがとっても好きな花だからって」と説明する。


 リナは花の香りを楽しみ、「そうだったんだ!お兄ちゃん!お姉ちゃん!ありがとう!」とこちらに振り向き、とびきりの笑顔で感謝してくれる。


 アリサは幸せそうなリナをいとおしそうに見つめ、「リナちゃんが笑顔になってくれてよかった。とっても好きな花なんだよね」と答える。


 リナは強く頷き、「うん!このお花、とっても綺麗だもん!それとね、お父さんとお母さんとの大事な思い出のお花でもあるんだ。私がもっと小さかった頃に、一度だけ皆でこの花が一面に咲く綺麗な丘に行ったことがあるんだって!私はあんまり覚えてないけど、今でもこのお花は特別なんだ!お父さん達との大切な思い出なの!」と嬉しそうに話してくれる。


 それとね!それとね!とリナは興奮した様子で話そうとしたが、再び苦しそうに咳き込む。


 ナタネはもうっと困った表情を見せながらリナの背中をさすり、「リナ、嬉しいのは分かるけどちょっと休みなさい。お兄さん達はまた来てくれるかもしれないから。」と窘める。


 リナは残念そうに俯いたが、「分かった…お姉ちゃん!お兄ちゃん!よかったらまた来てね!その時は一杯お話ししよ!」とすぐに顔を上げて笑顔を見せる。


 アリサは優しく笑ってリナの頭を撫で、「うん。また来るね、リナちゃん」とナタネさんにも2人で礼を伝えて病院を後にする。



 アリサは満足そうな様子で「喜んでもらえてよかったね。思い出の詰まった大切な花だったんだねっ」とアインに声をかける。


 アインは「うん…。」と心ここにあらずと言った様子で空返事し、「でも、リナちゃんの昔の話。気になるな…あの傷、症状…あんな生きながらに殺すようなやり口をする敵がいるなんて…」と呟く。

 「一つ目の任務が終わった後、ちょっとリックさんに話を聞いてみようか。そんな敵の存在について。」とアリサに提案する。


 アリサも真剣な表情で頷き、「そうだね。敵の事は知らないといけないし、その敵の事がわかれば、治す方法もわかるかもしれないもんね」と僕の意見に同意する。


 「………」


 星見亭に戻り、レイナ達と合流する。


 星見亭に入ると、レイナが手を振りながら「あ、おかえりなさい。依頼者の方々、喜んでくださいましたか?」と声をかけてくる。


 アインは頷き、「うん。すごく喜んでくれたよ。感謝されるってすごい嬉しい事だよね。」と淡々と答える。


 レイナはその反応に首を傾げ、「そうですね。それはよかったです。ですが、何かありましたか?お二人は何か悩まれているようですが」と不思議そうに近づいてくる。


 アインはちょっとね…。と口籠るが、「うん。二人にも話しておくよ。」と僕はリナちゃんの症状と経緯を二人にも伝える。


 話を聞き、レイナは怒りと悲しみの混じった複雑そうな表情を見せ、「殺さずに苦しめる癒えない傷…ですか…そんな事をする魔物がいるのでしょうか…」と呟く。


 近くで話を聞いていたフレッドが「そういえば」と言って口を開き、「そいつかどうかは分からねえけど、レイナと情報を集めてた時に妙な話を聞いた。ファントムという存在について。やつは魔物か人かも分からねえ。こちらを殺せはしないがこちらもやつを殺せない。そう聞くとただの幽霊だが、やつは攻撃を仕掛けてくるそうだ。どういう事だと思う?」と問いかけてくる。


 アインはその問いに唸り、「僕達の話と合わせるなら、そのファントムというのは、リナちゃんのような症状を引き起こす原因の可能性があるかもしれないね。殺せないけど攻撃はしてくる。こちらも殺せない。じゃあ、攻撃する理由がない。それでも攻撃してくるという事は、それに意味があるって事だと思う。リナちゃんの症状に合わせるなら、苦しみを与える事。内面的に何かに損傷を与える攻撃…?」と思いついた事を口にしてみる。


 「可能性はありますが、ではそのファントムという者は何者でしょうか?人?魔物?」とレイナも続ける。


 「まあ、そんな訳のわからない芸当が出来るのは、魔物側だろうな。それも、稀有な能力を得たもの。例えば、クイーン…とかな」とフレッドが話した瞬間、場が凍った。

 「わ、悪い。あくまで可能性の話だ。だが、ない話じゃないはずだ。それと、そんな能力を持っていて殺せないってのはおかしい。何かタネがあるはずだ。ファントムの事、もう少し探ったほうがいいかもな」と慌てて続ける。


 「やめてください。その名を…口に出すのも…探すのも…」といつの間にか奥から顔を出していたコリンが震えながら声をかけてくる。


 いつになく思いつめた表情のコリンに驚き、「コ、コリンさん!?どうしたんですか!顔色が悪いですよ!」と全員で駆け寄る。


 コリンは暗い表情のまま「その話は、この都市ではいわゆるタブーなんです。ですが、リナちゃんと会ってしまったんですものね。気になります…よね…」とポツポツと話す。


 明らかに様子がおかしいコリンを支え、席に座ってもらう。


 レイナは慎重に「その話、聞かせてもらえませんか…?」と俯くコリンに尋ねてみる。


 コリンはしばらく口を噤んだ後、意を決したように顔を上げ、「先ほども言ったようにこの話はタブーです。ですが、街の人に聞いてしまって目立たれるのもよくないですね…。わかりました。お話しします。ですが、場所を移しましょう。アインさんのお部屋、使ってもいいですか?」と尋ねてくる。


 アインは頷いて立ち上がり、「はい。もちろんです」と部屋に案内し、全員でコリンの周りに座る。


 コリンは呼吸を整えるように息を深く吐き、「では、お話しします。ファントムというのは、この都市では都市伝説のようなものだったんです。簡単に話すと、嵐の夜、街を出てしまうと彼に狙われる。狙われたら最後、死ぬまで逃れられない傷を負うことになるという伝説です。皆信じていませんでしたが、数年前のある事件を境にファントムの伝説と似た症状を発症して戻ってくる人々が現れたんです。その症状を初めて発症したのが、リナちゃんなんです。リナちゃんは嵐の日、街を出てしまったんです。その後、リナちゃんの例を皮切りに似たような症状が流行り始めます。さらに、特に天気の悪い日でもない街中でも何故か発症例が出始めたんです。皆怯えてしまって、ファントムが出たって一時は騒然としたんです。それで、噂が飛び交って尾ひれがついて…。今ではもう何なのかわからないんです。ですが、最近は発症者はほとんど増えていないと聞きます」とファントムの一連の流れを話してくれる。


 アインは何かに気づいたようにアリサの方へ向き、「ねえ、アリサ。ナタネさんの話…覚えてる?」と尋ねる。


 アリサも同じことに気づいたようで、「うん。私もそこが引っかかったの。あの、コリンさん。ファントムの正体って何って言われてますか?」と尋ねる。


 コリンは困った様子で悩みながら、「ええっと…私の知る限りでは確証的な話はなくって、人だろう魔物だろうと色々と言われていますが…」と出来る限りの返答をする。


 アリサは続けて、「そう…ですか…コリンさん。リナちゃんを見つけたのはリックさんなんですよね。どのような状況だったか知っておられますか?」と慎重に尋ねる。


 コリンは首を横に振り、「いえ、あまり詳しくはありません。リナちゃんは嵐の夜、家を飛び出しました。当時、心配したナタネさんが必死に探し回り、色々な人に尋ねておられたそうです。その中にはリックさんもいて、リックさんは街の外を探すと飛び出して行ったそうです。その後、リックさんはボロボロのリナちゃんを連れて戻られ、今の病院を紹介されたそうです。これは、時の人となったリックさんの噂ですが…」と知っている限りを答える。


 アインは納得したように頷き、「そうでしたか。リックさんは凄い人ですね!嵐の中、リナちゃんを街に連れ帰ったなんて!普通の人なら到底成し遂げられない事でしょう」と大げさな反応を見せる。


 コリンさんも同意するように頷き、「そうですね。リックさんは優しいお方ですし、いざという時はああやって一番に動かれます。尊敬できる方ですね!」と明るく返事する。


 レイナはコリンの方へ向き直り、「コリンさん、話しづらい事を話していただきありがとうございました。この話は聞かなかった事にします。この話は私達がどうこうできる話ではなさそうですので」と真剣な表情で告げる。


 コリンは頷いて立ち上がり、「お力になれたなら幸いです。この話はよく思わない方の方が多いですので、胸に留めておいてください。それでは、失礼しますね。」とお辞儀をして部屋を出ていく。




 コリンが階段を降りる音を聞き届けた後、スッと窓の外に視線を向けて「さて…ミーシャさん。聞いておられましたか?」と声をかける。


 すると、驚いたようにミーシャが上から顔を覗かせた。


 アインは溜息を吐き、「はあ、開けますので入ってください」とミーシャを入れる。


 ミーシャは驚いた表情のまま、「な、なんで分かったの!?」と興味津々でアインを見つめる。


 アインは呆れた様子で「なんででしょうねえ…まあ、報告に行く時に付いてこられてるのに気づいたからですよ…」と伝える。


 ミーシャはそれを聞いて大袈裟に飛び退き、「ええーー!?そんな素振り見せなかったじゃんかーー!」と拗ねてしまう。


 アインは顔を片手で多いながら呆れたように首を横に振り、「そりゃ、付けられてても問題ないんですから放置しますよ…」と返す。

 「それで、何で付いてきてたんですか?」


 ミーシャはそれを聞いてすぐに切り替え、「君達は気づいてるんだろ?リックの正体。私は、ガイウスから事前に君達の護衛をお願いされてたんだ。何か不穏な空気があるから、君らを守ってくれとね。だから、今回は四人に対して二人の教官という異例の状態なのさ。それと、個人的にリックはおかしい気がしてたんだ。だから、協力してる。で、今答えが出たよね?アイン君?」と静かに尋ねる。


 アインは慎重に頷き、「はい…ミーシャさんがここに居る事で確信が持てました。リックさんが…ファントムなんですね」と静かに答える。その瞬間、全員に緊張が走る。


 フレッドは目を丸くして「アイン?お前、何言ってんだ…?リックさんは教官だろ?そんな訳…」と驚愕する。


 ミーシャは驚く素振りもなく頷き、「まあ、そうだろうね。私もそう思う。リックがおかしいと感じたのは、リナちゃんの一件の後なんだよ。リックはあの一件の後、よく前線を離れるようになった。初めはリナちゃんの様子を見に行ってるんだと思った。実際行っていたからね。だけど、違った。リックがいなかった日の次の日にファントムの症状を発症した人が出た事が何度かあった。偶然かと思ってたけど、そうじゃないんだろうね。それと、あの病院。あれはリックがかなりの額を支援している特殊な病院なんだ。あそこに入院している人のほとんどはファントムの症状を発症した患者。つまりは、リックは症状を見ていたんじゃないかなって…。そう…思えてならないんだ…」と寂しそうに、信じたくないと言わんばかりに口を噛み締めながら言葉を絞り出す。


 アインはミーシャの様子を不安に思い、「そうですか…これで確証はとれてしまいましたね…ミーシャさん、どうするおつもりですか?」と尋ねる。


 ミーシャはその言葉を無視するように立ち上がり、「君たちの知る事じゃないよ。私はやるべき事をする。これは、私達の問題だからね。じゃあ、失礼するね」と淡々と述べて去ろうとする。


 ミーシャの手を咄嗟に掴む。アインは真剣な表情で「だめです。僕達も行きます。ミーシャさんは今、この件の全てを背負ってしまおうとしてる。それは、あまりにも辛い事です」と声をかける。


 ミーシャは手を振りほどいて振り返り、「うるさい!君に何が分かるんだっ!これは私のっ!私達の問題なんだっ!」と強く非難するように言い放つ。


 アインはその様子を悲しそうに見つめ、「その通りかもしれません。僕達はリックさんの事もミーシャさんの事も何も知らない。ミーシャさんが背負おうとしている想いも本当の意味では理解できていないと思います。でも、それでも、ミーシャさんがその全てを背負わなくてもいいはずです。それは、これからずっと貴方の事を蝕み続けてしまう。ミーシャさんが知るリックさんは、貴方にそんな辛い事をしてほしいと願う人ではないはずです」と真っ向から伝える。


 ミーシャは「うるさいっ!」と言ってその言葉を一蹴しようとするが、「子供達が口出ししないでくれ!これは私達の問題なんだ!リックを…私の後輩を…吊し上げる事なんて…私には出来ない…出来ないよ…」と次第に弱弱しく言葉が濁り、その場に崩れ落ちる。そして、俯いた彼女の膝元には、ポツポツと涙が零れ落ちていた。


 アリサとレイナが駆け寄り、彼女の側に付く。


 アインはその様子を見つめ、「リックさんを止めましょう。リックさんの為に。リックさんは既に、かつてのあの人ではなくなってしまったのかもしれませんから…」と静かにミーシャに告げる。


 ミーシャはその言葉を聞いてアインを見上げ、「それは…どういう意味で言ってるんだい…?返答次第では私は怒ってしまうよ」と涙を拭いながら敵意を見せる。


 アインは慎重に言葉を選び、「リックさんは、ゾディアックの右腕。クイーンと呼ばれる存在である可能性が高いです。この可能性を前提にすると辻褄が合うんです。あんなにも優しくて思慮深い、先生やミーシャさんにも慕われた人が行ってきた非道。どこかのタイミングでゾディアッククイーンとなったあの人は、命令に従って冷酷に、忠実に任務を続けてきた。その過程で少しずつリックさんの心は壊され、いつしか元の彼とは別の誰かとなってしまった可能性があります。僕は、似たような境遇で精神を半ば壊されてしまっていた人を…知っているんです。」とロイドの一件を重ねながら、ゆっくりと伝える。


 ミーシャは静かに立ち上がり、「そっか…。君は、私よりもいろんな事を知り、経験してきたんだね。私も…リックはもう昔の彼じゃないと思う。だけど、それでもリックはリックだ。見た目も話し方も何も変わらない。隣に立つ態度も何もかもッ!そんなやつを違う人格、違う人間になってしまったんだと言われても納得できないじゃないか…ッ!だから、こうやって近くで見ていたのに…なんで…気づいてしまった私は、どうしたらよかったんだよ…!」と表情を歪ませながら、こちらに向かって拳を振り上げてくる。しかし、アインの胸に当たった拳には少しも力が入っていなかった。再び涙を溜め込んだミーシャは、静かにアインの方へ倒れてくる。


 アインは優しく彼女を支え、ベッドに座ってもらう。


 ミーシャは静かに俯き、「はあ…ごめんね。当たってしまって…でも、これでハッキリした。終わらせてやろう…。リックの所業を…。キングの討伐まで待つ事はできない。ゾディアックはこの場所にはいないし、最前線は拮抗して進展がないと聞く。なら、あいつが望むのは終わらせる事。私が、やるんだっ…でも、君達も手伝ってくれるんだよね…?」とか細い声で尋ねてくる。


 「はい。勿論です」


 ミーシャはそのまま頭を下げ、「ありがとう…でも、簡単に片がつく話じゃない。だから、一つ目の任務を終わらせた後。私はもう一度君達に会いにくるよ。その時までに作戦を立てておく。大丈夫、ちゃんと待つよ。だから、その時…協力してほしい…」と悲しそうに告げる。


 「頭を上げてくださいミーシャさん。僕達にできる事は手伝います。ですから、くれぐれも一人で動かないでくださいね。」と僕は念を押す。


 ミーシャは顔を上げ、「君は厳しいな…分かった…本当に君たちを待つ。作戦も考えておくよ。だから、君達はまずやるべき事を片付けてきてくれ」と力無く微笑む。


 「わかりました。約束です」と僕は手を出し、ミーシャさんもそれに応じて握手する。


 ミーシャは立ち上がり、「それじゃあね。私は戻るよ。また会おう」と窓からスッと出て行ってしまう。


 残された僕達には沈黙が残った…

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