21話 遠征② 任務開始
次の日。
「皆揃ったね。じゃあ、スピネルの回収から行こうか」と声をかける。
「ええ、難しい任務ではなさそうですし落ち着いて行きましょう」とレイナも準備万端な様子だ。
「ああ。早く終わらせよう」
と話しながら、僕達は星見亭を出て南の街道に向かう。
街道に到着し、荒野と豊かな草原の境目となっているこの場所を眺めた。
「すごいね。右と左でこんなにも景色が違うなんて。この感じだと、前線はかなり荒れてそうだね」
「そうかもしれないね。でも、こんな前線でも豊かな自然は残ってもいるんだよ。これって凄いことだよ思うな」と辺りを見て回るアリサが話してくる。
「確かに、本来ならもっと荒れててもおかしくないもんね。なんだったら、ここよりも西側が大きく荒れずにすんでいるのも、ここや最前線で頑張ってくれてる人達のおかげだね」と僕も話に応じる
「そうねだ。それに、この先は私たちもその役目を担っていくんだからなんだか感慨深いね」と空を見上げながらアリサは呟いた。
と話しながら街道を進む。
街道をある程度進み、事前に聞いていた地点から草原側へ道を外れる。街道近くは前線の人達が巡回もしているので魔物と会うことも少ないが、ここからはそうもいかない。
道を外れた途端、当然だけど魔物は増え、色んな手段をとってくる。気をつけないと…
「ここだね。この道を進んでいくと、この辺を一望できる丘に出るんだって。そこにスピネルはあるはずだよ」
「よし。じゃあ前と同じように俺とアインが前衛。アリサはレイナの護衛と中衛でいこう。今回はうまくやろうぜ」
「そうだね。慎重に進もう」
「ね、少し聞いてもいい?私がレイナの護衛するより、フレッドがやった方がいいんじゃない?私、近接系の武器しかないのにどうして中衛なの?」
「あー、それはだな…な、アイン?」
「え、えーっと…まあ、いいじゃないか!ね?」
「ええー?何?2人で何が合致したの?!レイナー!どういう事ー?」
「アハハ…2人が男の子って事ですよ。私たちに怪我してほしくないって事なんだと思います」
「あっちゃー…」とフレッドが顔を覆ってため息をつく。
「あー!レイナー!本当の事言ったら僕達がカッコつけたみたいじゃないかー!そうですよ!悪いですかー!」と僕も急なカミングアウトにオロオロしてしまう。
「なんだ、そういう事だったのね。私が力不足って意味かと思ってショックだったからよかった」とアリサは胸を撫で下ろす。
「いやいや、アリサが力不足ってそれは無いと思うけど…。演習でずっと優秀なアリサが…ねえ…」とフレッドに視線を送る。フレッドも「そりゃそうだ…」と呟いていた。
「そ、それならいいんだけど…。いざという時は私も頼ってよー?」
「もちろん!まあ、そうならないに越したことはないけどね」
「皆、お喋りはここまで見たいですよ。近くに何体かこちらを狙っているのが居ますね。フレッド、北東の方向の2体を。アイン、北西の方向の3体をお願いします。アリサ、念のため南側を見ておいてください。気のせいかもしれませんが念のためです。」
「了解!」
「ああ、行くぞ」
「はい!」
と2人は走り出し、アリサは後方にまわる。
フレッドは地面を蹴り、数メートル進む。すると、木々の影に蜘蛛のような見た目で前の二本の脚が鎌のような形状となっている魔物と対峙する。
フレッドは蜘蛛にそのまま突進し、迫り来る鎌を屈む事で回避して大剣で斬りあげる。蜘蛛が突然の一撃に怯み、仰け反った瞬間、体を捻り強烈な蹴りを繰り出す。
蜘蛛はとてつもない速度で近くの木に叩きつけられる。フレッドはそちらには見向きもせず、後ろから攻撃しようとしていたもう一体の蜘蛛に目掛けて充填していたエネルギーを照射する。攻撃しようとしていた蜘蛛はエネルギーを受け止めきれず、塵となる。
蹴り飛ばされた蜘蛛は、ふらつきながらも体勢を整えて怒り狂いながらフレッドに突撃する。フレッドは飛び上がって蜘蛛の突進をいなし、驚いて見上げながら動きを止めた蜘蛛に向かって大剣を投擲する。蜘蛛を貫通して地面に大剣が突き刺さる。蜘蛛は動きを完全に停止させ、絶命する。
「はあ、こんなもんか」
アインもフレッドと同様に指示された方角に走り、3体の小型の狼と遭遇する。
威嚇する狼に怯む様子を見せず、そのまま接近し、目にも止まらぬ速さで一太刀ずつ刻み込んでいく。
アインはオオカミの間を駆け抜け、3体目の狼を通り過ぎた瞬間、それぞれの狼は致命傷を負い倒れ込む。3体とも即死した。
「よし、大丈夫かな」
その時、後方を警戒していたアリサは異変に気づく。
「ま、まずいよ!地面が揺れてる!これって、大型の魔物の移動かもしれない!」と周囲を警戒しつつ皆に伝える。次の瞬間、その主は姿を現す。
木々を薙ぎ倒しながら、こちらに向かう大型の魔物の姿が視界に入る。その姿は、岩の塊のようだった。近づいてきたその魔物は、前腕が非常に発達しており、非常に太くなっていた。前腕部分から拳部分にかけて、大型のドリルのようになっている。体躯は四足歩行の時点で僕達の倍程度。立ち上がるとかなりの大きさのようだ。後ろ足は腕ほど太くなく、四角の岩が連なったような見た目をしていた。顔部分は顎側が狭く、頭側が広い台形のような形をしており、中央で上下に分かれてその中に目のような輝く石が埋め込まれている。
「こ、この魔物は不味いですね…!フレッド!アイン!こちらへ!大型の魔物の対処にあたります!」
「言われなくてももう来てるぜ。こいつは何もんだ?」
「僕も戻ってるよ。これは…斬撃主体では厳しそうだね…」
「そうですね。戦術は指示します。アインとアリサで注意を引いてください。フレッドはエネルギーの充填。私の障壁に飛び移りながら高度を確保してください。ある程度の高さになったら加護に切り替えますので、ありったけの力で頭部を射抜いてください。皆さん、いいですか!」
「了解!」
と応えた瞬間、僕とアリサは岩の魔物に突撃する。フレッドはエネルギーの充填の開始とともに、レイナの出す障壁に飛び乗り上空に上がっていく。
「アリサ、僕がドリルを引き受ける!弾いた時に上手く切り込んでみてくれ!効果があれば御の字。動きが少しでも鈍れば上々ってとこかな!」
「分かった!合わせるね!」とアリサは僕の数歩後ろに陣取る。
「よし、行くぞ!」
岩の魔物は、近づいてくる僕を視認するかのように目を輝かせて注視してくる。そして、大型のドリルを大きく振り上げ、凄まじい速度で振り下ろしてくる。
僕はドリルを間一髪のところで避け、ドリルが地面につく寸前に大剣で力一杯薙ぎ払う。
想定外の行動だったようで、ドリルの着地点が多少ずれ、僅かな隙が生じる。
「アリサ!」
「はい!」とアリサがそのまま走り抜け、後ろ足を大剣で斬り抜ける。
岩の魔物には軽い傷が線状に残ったが、大きな効果は与えられなかった様子であった。アリサの攻撃を気にも止めていない様子で、すぐに体勢を戻して僕に再度ドリルを突き込んでくる。地面を抉りながら、僕を突き上げるように攻撃してきた。
僕は後方へ飛び退く。しかし、ドリルは僕の後退速度よりも速くうなる。間一髪のところで大剣でガードしたが僕は上空に投げ飛ばされる。
「アイン!」とアリサが叫び、すぐに魔物のほうへ向き直って睨みつけ、二刀に変えた剣で魔物の両後ろ足を切り刻む。
「フレッド!そこから飛び上がって!」
「ああ!」とフレッドは魔物の真上に飛び上がる。
「アイン!姿勢を整えて衝撃に備えて!障壁で受け止めるからそのまま反転して魔物に一撃を!」
「分かった!」と投げ飛ばされた僕は瞬時に姿勢を整え、障壁を受け止める姿勢となる。すぐに僕の足に障壁の感覚が伝わり、空中で逆さに着地する。そして、その勢いを使って思いっきり足を曲げ、魔物の元へ突撃する。
ありさに気を取られてこちらを見ていなかった魔物の背中から左前足へ向けて斬り下ろし、着地する。大きく傷がつき、魔物はたまらず空を見上げて咆哮を放つ。
「フレッド!今です!全力で!」
「行くぜー!オラアアア」と、大剣に最大出力のエネルギを纏わせ、超大型の大剣と化した得物で、金色のオーラを纏ったフレットが魔物の頭部から背部にかけてを真っ二つに斬り下ろす。
フレッドが魔物の上に着地してすぐに飛び降りる。魔物は斬られた部分からずれはじめ、ガラガラと瓦解していく。
「よし、倒したな!」
「おおー!やったね!」とフレッドにハイタッチする。
「なんとかなってよかった…」とアリサは胸を撫で下ろし、息を整えていた。
「ふう…皆さんお疲れ様でした」とホッとした様子でレイナが皆に声をかけてくる。
「ア、アイン!大丈夫だった?怪我してない?」と息を整えたアリサが僕のところへ走ってくる。
「大丈夫だよ。直撃したわけじゃなくて、投げ飛ばされただけだからね。どこかに落ちてたら危なかったかもしれないけど、レイナが機転を効かしてくれて助かったよ。ありがとうね、レイナ。」
「いえ、上手くいってよかったです」
「よかったあ…心配したんだよ…?」
「アリサもありがとうね。アリサの援護なしだったらどのみち僕は危なかった。助かったよ」
「力になれたならよかったよ!アインも私に戦いやすいようにしてくれてありがとうね!」
「フレッドもいい一撃でした。流石の火力です」
「ん?ああ。まあ、レイナのあれがあったらこんなもんだ。俺の力じゃねえよ」
「またそうやって褒められると悪態をつく。悪い癖ですよフレッド」
「うるせえ。まあ、いい。終わったんだから先を急ごう。こんなのと何度も戦えねえぞ」
「それもそうですね。先を急ぎましょう」
その後も何度か小型の魔物と戦闘となったが、僕とフレッドで瞬時に倒していった。
目的地の丘が見え始め、全員が安堵した時だった。
丘の上に人影が見えた。大柄の短髪の人のようで軽装の甲冑を身に着けている。僕が気づいた途端、その人もこちらに気づいたようで、チラッとこちらを見つめ、すぐに姿を消す。
「ね。今誰か丘のところにいなかった?」
「誰かとは?私達以外に人はいないと思いますが…?」
「アイン、ちょっと疲れで幻覚でも見えてるんじゃない?丘の方ずっとみてたけど誰もいなかったと思うよ?」
「俺はそっちを見てなかったから分からん。だが、この辺は誰も近づけないって話じゃなかったか?」
「そうだよね。ごめん、見間違いかな。アハハ」
「もうー、アインったらしっかりしてよー?」と皆が笑い合った。
でも確かに、今人が…気のせいかな…
丘の上に辿り着き、話の通り咲いていたスピネルを回収する。
「すっごい景色だね!街が一望できるよ!街道も近くの村も!魔物が出る前は人が集まった場所なのかな!」と興奮して辺りを見渡すアリサ。
「とってもいい景色ですね。こんな場所を独り占めできるなんて胸が躍ります。少しここで休憩してから戻りましょう」とニコッと微笑みながらレイナもアリサと周囲を見渡す。
「こんな場所も残ってんだな。こういう所はこの先も残るといいんだがな」と2人を見つめながら思い詰めたようにフレッドが呟く。
「そうだね。ここを残すためにも、僕達は頑張らないといけないね」
「ああ。そうだな。それと、件の花はこれだな。回収しておこう」
「うん。やっぱり、そこまで多くは咲いてないみたいだね。群生地らしいんだけど、これも魔物の影響なのかな」
「さあな。まあ、落ち着いたらまた咲いてくるんじゃないか?全部終わったら、また全員で来てみようぜ」
と普段の生活を忘れ、最高の景色を気が済むまで楽しんだ。




