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19話 報告と決断

 遠征予定日、僕とアリサは学園に戻った。そして、誰もいない教室で待つよう言われていた。


 「これは、叱られるのかなー…」


 「まあ、無茶しちゃったもんねー。特にアインは…」


 「だよねー…あー…」


 と話していると教室の扉が静かに開く。


 「やあ、数日ぶりだな。もう大丈夫なのか?」と言ってデュークが入ってきた。


 「デュークさん。はい。もう大丈夫です。フレッドから顛末を聞きました。あの時は助けていただいてありがとうございました。」と立ち上がってからデュークの方へ向き直り、深々と礼をする。


 「気にしないでくれ。元々俺たちが巻き込んだ事だ。こちらこそすまなかった。」とデュークも頭を下げる。そして、顔を上げたデュークの表情は、これまで見た事ないほど怒りを露わにしていた。

 「だが、死地に飛び込み、さらには自分を生贄に他を助けるという選択をした事については馬鹿なことをしたと言わせてもらう。どのような状況であろうと、その選択は勇敢だが愚かなものだ。君は、強大な敵を前にして、考える事を放棄したんだ。君は、周りの人間の為と言いながら自分の為に行動したんだ。周りが犠牲になるくらいなら自分がそうなると。それは、ある意味1番簡単な選択だ。後悔が残らない。だが、残された者達はどうなる。君がいなくなっていたら、3人はあの選択を生涯後悔する事となる。その重みが分からないわけではないだろう。アイン君、君はもっと仲間を信頼するべきだ。今回のように君が生きて戻れる保証はどこにもない。一人でではなく、全員で打開することを考えるんだ。一人では成し遂げられなくても複数人で考え、行動すれば結果は変わるかもしれないんだからな。もう一度これだけは言わせてくれ。こんな事は二度とするんじゃない」と厳しく、優しく、淡々とデュークは僕に言い放った。


 「はい…おっしゃるとおりです。僕は自分のために、三人の気持ちを切り捨てました。身勝手に、皆に生きてほしいと願いました…。その先、どんな苦しみを背負って生きていくのかを考えず。もう、こんな真似は二度としません。本当に申し訳ありませんでした」と僕は溢れる涙を隠すように、深く頭を下げた。


 「すまんな、言いすぎた。だが、俺の先輩はそうやって死んだんだ。あの人の口癖は、俺の部隊のモットーは全員生還。結果的に、あの人が隊長でなくなるまでの部隊の死者は一名だけだ。亡くなったのは、隊長ただ1人だ。この死が残した悲しみ、嘆きを今でも俺は忘れられないんだ…アイン、君はこのクラスでは類を見ない強さを見せたと聞く。だからこそ、俺の先輩のようにならないでくれ。残された者は自分達を呪ってしまう…永遠に消えない傷を残してしまうんだ」と悲しそうにそう言ってくれた。


 「ええ。心に刻みます」僕はきっと、デュークさん達のように強くないだろう。だけど、知恵を絞って全員を生還させる事。これだけは最期の時まで守ろう。そう、強く誓った。


 話が終わって短い沈黙があった後、教室の扉からもう1人の人が入ってきた。


 「デュークの話は終わりましたか?この人はこれだけは言わせろとうるさかったのです。復帰早々にこんな重たい話をしてしまって申し訳ございません。アインさん、アリサさん」と金髪の美しい女性が入ってきた。


 「いえ、デュークさんの話はもっともな事です。僕は間違いを犯しました。貴方が、僕を助けてくださったもう1人の最前線メンバー、アリアさんですか?」


 「ええ。私はアリア。アリア・セイントロードと申します。気軽にアリアとお呼びください。」


 「あの時はありがとうございました。アリアさんがおられなければ僕はここにはいられませんでした。本当に感謝しています」


 「いえいえ。元々はこの頭でっかちが危険な任務を依頼したのが悪いのですから、お気になさらないでください。ねえ?デューク?」ととんでもない圧をデュークにかける。


 身長にかなり差があるはずなのに、デュークさんの方が小さく見える…


 「ア、アリア?その話は前もしたじゃないかあー!こんな事になるはずじゃなかったんだってー!本当なんだって!ア、アリア!落ち着けー!」と拳を構えるアリアに怯えながら必死で言い訳する。


 「言い訳はいりません。やっぱり反省してないのではありませんか?もう少し教育が必要ですね…?」と目をギラギラとさせるアリア。


 「ギャーーー!アリア!もう許してくれー!」とデュークが叫ぶが、「ダメです♪」とニコニコのアリアが見下ろしていた。


 「あの2人ってフレッドとレイナみたいだね…似た境遇なのかな」とアリサにこっそり尋ねる


 「どうなんだろうね。2人とも似てるよね」とクスクスと笑っていた。


 「ん?楽しい話ですか?私も混ぜてください!」とアリアがこちらにタッタッと駆け出してくる。


 危機のさったデュークはゼェゼェと息を整えながらこちらをジト目で見つめていた。


 「はあ、お前達は何をやってるんだ…」と気づくとメード学園長が入り口に立っていた。


 「メード!聞いてくれよー!アリアが俺をー…!」


 「うるさいぞデューク。お前は戦士面してる時はまともなのに、何でこうなんだ…」と頭を掻くメード学園長。


 「アリア、久しいな。大事ないか。」


 「メード、久しぶりね。ええ、こちらは変わりないわ。デュークが馬鹿やったりしなければ…!」とギロリとデュークを睨む。


 「まあまあ、デュークは散々絞ったであろう。もう許してやれ。今回は彼も帰還できたのだからよしとしてやれ」と呆れたようにアリアに話す。


 「メードは甘いんだよー!今日こそは分かるまで教育してあげないとダメなんだよ!」とプクーッとむくれる。


 「はあ、相変わらず騒がしい奴らだな…まあ、そんな話はどうでもいい。アイン、アリサ、顛末を話してくれないか。」とメードは騒ぐ2人を横目に僕に目を合わせる。


 「はい。フレッド達からも聞いているかもしれませんが、一から話させていただきます」

 「任務に出て、僕たちは村の聞き込みを行いました。特にめぼしい情報も得られず、噴水の広場で休憩をとっていた時です。僕達は誰かに見られている感覚がしたんです。気づかない素振りを見せつつ視線に気を遣っていました。そして、視線が外れたと感じた瞬間にそちらを見るとその場を去る人影と赤いマフラーが見えました。明らかに怪しいその人物を尾行すると、村のはずれの洞窟に行きつきました。任務として確証的な情報を得るため、洞窟への侵入を決行。魔物を撃滅しつつ進むと、開けた場所にでます。そこで、赤いマフラーを首に巻いた女性が立っていました。話をしてみると、彼女は自分達を調査している存在を逆に調査しにきていた事と自分がゾディアックの戦士である事を示唆しました。彼女の発言と情報から、僕達はゾディアックの戦士であることの確証を得ます。彼女はその事実を知られたからには二度と調査に来れないよう、代償を背負ってもらうと言い放ち戦闘態勢となります。一瞬のうちに僕達は倒されましたが、仕留めようとはせず僕達に話す時間をくれました。その時に、僕は自分を犠牲にする選択肢を選び、三人を撤退させます。それを見送った後、彼女は僕を仕留めにかかりました。彼女の重い攻撃を数発貰い、僕は壁に叩きつけられました。そして、彼女は気を失いかけている僕に、こんな話をしていきました。ゾディアックにはそれぞれ、クイーンと呼ばれる右腕が存在する事。クイーンは心臓兵器使いを凌駕する力を得ることが出来るが、その代わりにキングに契約をすると。キングの命令は絶対でキングに不利益となる事は出来なくなる。その契約を終わらせるには、キングを仕留めなくてはいけない。クイーンはキング一体につき一体。クイーンは仕留めたとしても時間が経てばまた別のクイーンを契約するようです。クイーンを解放する方法はキングの抹殺のみ。と。彼女は話を終えると姿を消しました。彼女は、解放を望んでいるようでした。しかし、死にゆく僕にしかそれを伝えられなかったのかもしれません。この情報を知られることはキングの不利益となりえることでしょうから。実際、僕はアリアさんが来なければ生き絶えていた事でしょう。その後は皆さんが知る通りです」


 「そうか…クイーンか。デューク、アリア…これは…」


 「ああ…」


 「ええ、つまり…」


 「隊長は生きているかもしれねえな…」と絶望と喜びを混ぜた言葉を吐き出すようにデュークは言った。


 「どういうことですか?」と僕は緊迫する空気の中、尋ねる。


 「隊長はな…死体が見つかってないんだ。ある日、いつものように最前線で戦闘をしていると、一体の見たこともない魔物が姿を現した。そいつの力は尋常じゃなくて、部隊メンバーの全員でかかってもまるで歯が立たなかった。だから、救援を呼ぶとか色んな理由をつけて俺たちを全員撤退させた。隊長は1人でそんな化け物と戦う事を選択したんだ。そんで、俺たちが応援部隊を呼んで戻った時には、あの魔物も隊長もいなかった。血の一つも残ってなかったんだ。隊長は行方不明者。状況から見た暫定死とされた。だが、失踪からもう何年も経ってる。だから死んだとされているんだ」


 「つまり、誰も死を証明できない…?」


 「そうだ。隊長が跡形もなく消えたとしても、暴走や戦闘の痕跡が残るはず。だが、何もなかった。あの時の前線の魔物達は俺達を喰わなかった。だからこそ、何も残らないのはあり得ないはずなんだ…」


 「そんな…そうだとすれば、私達が見た女性と同等以上の強さを持つ人が敵になっている可能性があるって…事ですか…」


 「可能性の話だ。あいつが死んでから誰もあいつの事を見た事はない。可能性に怯えるなんて愚かな事だ。この話はここまでにしよう。2人とも、情報提供に感謝する」

 「デューク、アリア。お前達も最前線から離れすぎている。一度部隊に戻れ。話は終わりだ。解散」

 とメード学園長は思い詰めた表情で教室を出る。


 「すまん。俺たちも戻るな。これからの事については、ガイウスかレイナ達から聞いてくれ。後の奴らは遠征に出発しているはずだ」とデュークは言い残し、アリアと共に神妙な面持ちで教室を後にした。


 「とんでもない事に…なっちゃったみたいだね…」と張り詰めた空気から解放されたアリサがゆっくりと話しかけてくる。


 「そう、だね…。とりあえず、寮に行こうか。レイナがいるはずだ」と僕も席を立つ。


 寮に着くまで、僕達は一言も話さなかった。寮の近くに着くと、レイナが寮の前で待っているのが見えた。


 「アインさん、アリサさん!話は聞いてますか?」とレイナがこちらに歩いてくる。


 「うん。とりあえずレイナから今後の事を聞いてくれって言われたんだけど、どうなってるの?」


 「学園長達は私たちの遠征を延期しました。そして、シリウスに行く予定だった他の生徒全員を他の遠征先に変更させました。ですが、私達は希望するならシリウスに行けるようです。どうするのか決心が着いたらガイウス先生かメード学園長の元へ来いと。こちらの決定次第で、遠征を中止する事も遠征先を変更する事も出来るとの事です。とりあえず、現在は学園内に留まり休養しろと命じられています。フレッドも例外的にメンバーから外され、休養しています。4人でシリウスに行って欲しいって事なんでしょうか…」


 「そっか、分かった。レイナ、わざわざありがとうね。とりあえず今日はもう遅いし休もう。皆がどう考えてるかわからないけど、僕はシリウスに行く。明日の夕方、学園長に話をしにいくよ。それじゃあ」とそれだけを伝え、僕は2人を残して寮に入った。


 「そう…ですか…あんな事があっても、やはりアインさんは行くのですね…」


 「私も行くよ。レイナとフレッドはどうするの?」


 「アリサさんも行くのですね…皆、強いですね…私はあの戦いの後、ずっと怯えてしまっています。誰かを失う事が怖いんです。こことは違い、シリウスでは何度もあのような命の取り合いが待ち受けているのでしょう。そう考えるとどうしても決心できないのです…アリサさんはどうしてそこまで強くあれるのですか…?」


 「私はそんな大層な考えとかはないんだ。ただ今は、アインを失いたくないだけなの。アインはすぐに無茶しちゃうからね。私が付いてないと。いつ帰って来なくなるか分かんない…から…あれ…?何で涙が…ち、違うの…これは…」


 レイナはアリサを優しく支える。


 「アリサさんも怖いんですね…きっと、心の中では誰もが失う事を恐れています。でも、そうならない為に、支えられるように。怖いけど進むのですね…大切な人を失うのは辛いですもんね…」と優しくそう伝える。

 「私も…行きます。フレッドは言われた瞬間にシリウスを希望しました。彼は私が支えないといけませんからね。共に…頑張りましょう…誰も失わないために…」


 「うん。お互い頑張ろう。全員で帰れるように…」


 夕日が差し込む中、2人も決意を固めた。

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