1話 夢
ここは…何処だろうか。一面、雪景色が広がった場所。目の前には大きな橋が架かっている。
その先に、ぼんやりと2人の男女の姿が見える。1人は、地面に剣を突き立て、1人は風になびく赤いマフラーを握り締め、こちらを見つめている。僕の側には、美しいブロンドの髪に、赤いリボンが特徴的な少女がこちらを見つめていた。さらに、僕らの近くには赤い光を纏った黒い大剣を握りしめた男性と、金髪の少女が2人。
さらに後方には、隻眼の大男と知的な雰囲気の女性、その後ろには軍服のような上着を着た学園制服の人が数人付いてきていた。
この全てを認識した途端、景色が完全な雪景色に変わる。周囲の人々は消え、立っているのは僕1人のみだった。この光景を見渡していると、ふと声が頭に響いてくる。
これは、世界の行末を決める物語。あなたは、いずれ選ばなくてはならない。思惑が交錯するこの世界で、選べる道はただ一つ。
この世界に干渉せず、彼らの可能性を信じるのか。世界の理に干渉し、愛する者と離れてでも恒久の平和を実現するのか。可能性を求め、共存の道を模索するのか。あなたは何を選びますか?アイン。
「さん!…おにいさん!着いたよ!大丈夫かい?」と言う声で目が覚める。僕は眠っていたようだ。視界が開け、目の前の荷物と街の雰囲気から、記憶が鮮明となる。そうだ、僕は今日ノーツコア学園の入学試験に来たんだった。
「す、すみません!すぐに降ります!」と僕は慌てて荷物を持って馬車を降りる。御者の方に礼を伝え、学園に向かうことにした。
あの夢はなんだったのだろうか…?それにあの声…世界の行末を決める…?どういうことだろうか…?
そんな事を考えながらフラフラと歩いていると、1人の少女に目が止まる。美しいブロンドの髪に赤いリボン…。夢で隣に立っていた彼女そっくりの姿に、僕は釘付けになってしまった。そんな僕の視線に気がついたのか、偶然か、少女は僕の方へ振り向く。そして、こちらに笑いかけてきたような…そんな気がした。すぐに彼女は人混みに紛れて僕の視界から消えてしまった。僕は夢のこと、あの少女のことを考えながらフラフラと学園に向かった。
学園に着くと、受付の職員の方が「入学試験を受験する方はこちらへー!」と手を振りながら呼んでいる声が聞こえて我に返った。考え事は後にして、早く手続きをしよう。
手続きを終えて案内された大きな教室に入ると、驚いたことにさっきの女の子が座っているのが見えた。声をかけに行こうかと思ったが、先生が入ってこられたので諦めて席に座る。
試験の内容は単純なものだった。3人1組で日が完全に落ちる前に10km先のゴールに辿り着く。これだけだ。ゴールに辿り着けるのか。そこまでの方法や協力の仕方など、全てが評価対象となる。
会場は、川沿いに広がる森林地帯が中心の様々な地形が混じった演習場だ。ゴーレムや比較的弱い魔物などがいる為、戦闘しながら進むことも必要だが、状況を見て臨機応変に対応しながら進んでいく事も求められるようだ。万が一ゴールに辿り着けなくても、そこまでの工夫なども評価するとの事であった。
武器を持たない受験者には厳しい内容だが、頭を使ってゴールを目指してくれという事だろう。逆に、攻撃に特化した能力を見出している受験者はかなり有利だろう。試験は3人1組でスタートされ、それぞれの協力なども加点対象だ。まあ、3人で頑張れって事らしい。能力の有無は組分けの選定条件にしていない為、能力を見出した者がいない組もあるとの事だ。まあ、その時はその時だろう。時間と場所が指定され、その場に集まった3人がチームだそうだ。試験開始は1時間後。急ごう。