18話 託された思い
目が覚めた時、僕はどこかの部屋のベッドで休んでいた。優しい陽の光が差し込み、側で僕の手を握りながら寝ている少女の姿がそこにはあった。
彼女はずっと泣いていたのだろう。目の周りが真っ赤になっていた。僕は彼女の頭をそっと撫で、窓の方を見つめていた。するとすぐに、「んん…」と声が聞こえる。お目覚めのようだ。
目覚めた彼女とすぐに目が会い、彼女は驚きと安心を同時に感じたような表情をした。
「アイン!よかった…本当によかった…」と彼女は僕の身体を優しく抱きしめ、涙を溢れさせながら何度もそう呟いた。
「アリサ、ありがとうな。心配させてごめんな。」僕はそれだけを伝えた。
「いいの。いいんだよ。アインがこうやって戻ってきてくれてよかった。貴方がいなくなったらと思うと、どうかしそうだった…もう、こんな真似は二度としないで…」と絞り出すようにそう応えてくれた。
「ああ、悪かった…」
そんな事を話していると、部屋をノックする音が聞こえる。
「はい。どうぞ」とアリサを僕からゆっくりと離し、横に座らせてから伝える。
入ってきたのはレイナとフレッドだった。
「アインさん、意識が…戻ったんですね…本当に…良かったです」と僕の側に来て涙を流しながらゆっくりと話してくれる。
「悪かったな…こんな無茶苦茶な事に巻き込んじまって…」と申し訳なさそうにフレッドは謝ってくれた。
「大丈夫だよ。元々危険な事は承知してたし、生きて帰れたからね。皆がデュークさん達を連れてきてくれたから生きてるんだよ。本当にありがとう」
「俺達は本当に大した事ができなかった。本当にすまない。」とフレッドはもう一度頭を下げてくれた。
「そんな、頭を上げて。それより、あの後の顛末を教えてくれないかな」
「ああ、そうだな。簡単に話すぞ。お前は俺達が戻った時にはかなりの重傷を負っていた。まともに動くことは叶わなかっただろうほどに。息も浅くなっていく一方で危険な状態だった。デュークが連れてきた最前線メンバーの一人、アリアさんが治療を施してくれたおかげで、ゆっくりだがお前の傷は治っていった。だが、アリアさんの治療が完了した後もお前の意識は一向に戻らなかったんだ。これ以上出来ることはないとアリアさんも申し訳なさそうに話してた。その後、デュークがお前をこの宿屋まで運んでくれたんだ。そこから2日が経ってる。つまり、今日は遠征前日だ。お前が倒れてからの顛末はこんなところだ」
「そっか。2日も経ったのか…皆、僕の為に残ってくれたの?ごめんね、ありがとう」
「そんな、当然の事です。私達が巻き込んでしまったのですから…」とレイナも申し訳なさそうに話す。
「じゃあ、遠征の準備をしないとね…。一度学園に帰ろうか」
「アイン、あんなことがあったばっかりなんだよ?遠征なんて何時でも行けるんだから、安静にしないと…」と心配そうにアリサが見つめてくる。
「いや、2日も休んだんだ。もう大丈夫だよ。さあ、ご飯を食べたら出発しよ、、おっと…」と動こうとした僕だったが、体に思うように力が入らず、アリサの方へよろけてしまう。
「ほらあ…こんな状態で動くのは無理だよ。とりあえず、ご飯作ってくるから大人しくしといて。ね?」と抱きかかえてくれたアリサが僕の顔を覗き込んでそう話してくる。
「わ、分かったよ…じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうね。2人もごめんね。後は僕の回復だけだから、2人は先に学園に戻っておいてほしい。事の顛末の報告と遠征日の調整をお願いできるかな」
「わかりました。では、近日中に必ず恩返しをさせてください。私に出来る事なら何でもさせていただきますので。それだけは約束させてください」
「俺も同じだ。改めて礼をさせてくれ。断らないでくれ、頼む。後の事は俺たちが処理しておくから、アリサの言うとおり今は休め。もう無理はするな」
「分かった。2人ともありがとう。宜しく頼むね」
「はい。では、お先に失礼します。ゆっくりと身体を休めてください。」とレイナとフレッドは礼をして部屋を後にした。
「それじゃあ、私はご飯作ってくるね。大人しくしてるんだよ!」とアリサも部屋を後にする。
静かになった部屋で、シャルロットとの話を思い出す。僕の失われた記憶は、とても重要なピースのようだ。演習での誰かの声もそうだし、僕には思い出さないといけない記憶があるみたいだ…なんとか少しずつでも思い出していかないと…
それと、これからの事も…最前線への進出。膠着状態を破る事。これが当面の目標だ。だけど、僕の今の力では前線でさえ力になれるか怪しい気がする。最前線ではシャルロットのような強敵も混ざるだろう。その全てを打ち果たして進むには強くならないといけない。あの緋い岩は僕の大剣の力を取り戻した。あの岩をもっと見つける事でさらに力を得られるのかもしれない。ずっと気になっていたシリウスという岩。あれもあの岩と同じなんだったら僕の力や記憶も戻るかな…
とそんな事を考えていると、扉が開いた。
「アイン、出来たよ。野菜を沢山入れた温かいスープだよ。これくらいなら食べられるかな」とベッドの横に座り、アリサがスープを隣の机に置く。
「うん、そのくらいなら食べれそうだよ。美味しそうだね。それじゃあ、貰ってもいいか…な…?」と手を伸ばそうとするとアリサに抑えられる。
「大怪我した患者さんは動かないで大丈夫です!はい、あーん。」とスープをスプーンで掬って僕の口に運ぼうとしてくれる。
「ア、アリサ?僕、自分でた…べ……」
「あーん。アイン?スープが冷めちゃうよ」
「はい…あーん」とそのまま受け入れる。恥ずかしくてアリサのいる方とは逆に目を逸らす。
「お、美味しいね。ありがとう…」とそのままアリサに伝える。
「よかった。でも、こっち向いて伝えてくれると嬉しいな…」と寂しそうに伝えてくる。
「い、今はちょっとそっちは向けない…かなぁ…」と赤面した顔を見られないように俯く。
「も、もしかして美味しくない?それともどこか調子悪いの?アイン?」と心配そうにこちらを覗き込もうとしながらアリサが聞いてくる。
「ち、違うよ。どこも悪くないしスープも美味しいよ!ただ、ちょっと待って…」と手でアリサがこちらに来るのを抑える。
「ん?ならいいんだけど。でも、こっち向いてくれないとスープ食べられないよ。ほら」と手を押しのけてこちらの顔を見ようと強引に身を乗り出してきたアリサに、急に振り返ってキスをする。
「はえ?」と状況が飲み込めずどんどん顔が赤くなるアリサ
「アリサ、顔が真っ赤だよ」とさっきより数段顔がさらに熱くなるのを感じながら、そう笑いかける
「も、もう!何よ!ほら、早く食べて!」と少しむくれながら、アリサが食事を手伝ってくれた。
その後、僕達は1日宿屋で休み、今回の件の顛末をアリサに伝えた。シャルロットの事だけを省いて…




