17話 初任務と選択
次の日。
「あー。お前達に残念なお知らせがある。ロイドが昨日の演習の後、退学した。理由は分からんが凄く意気消沈したようだ。敗北が悔しかったのかもしれん。去るものを止めるわけにいかんから、仕方ないことだ。残念だが、気を落とさず頑張ろうな」といつになく優しくそう告げた。僕達3人以外、偽装された情報と報告により、爆発とロイドの消失は隠蔽された。士気を下げる訳にもゾディアックの存在を明かす訳にもいかないなら当然の対応だろう。
「さて、湿っぽい話を続ける訳にもいかん。演習の結果を伝える。アイン、アリサ、レイナが最優秀。以下はロイド班、アリサ班、レイナ班が順位となる。異例の結果で申し訳ないが、まあ妥当な判断なはずだ」
「それで、遠征先の選択を頼む。まず、アイン、アリサ、レイナはシリウスへ行くようだ。次はロイド班のルナとハドー、イジーだ。」
「私は、オーブに行きたいです!」
「俺はハベルに行く。」
「兄さんと同じくバベルに行くっす!」
「分かった。次、アリサ班のカールとノマールだ。」
「俺はオーブに行くかな」
「俺はロベルトに行きます」
「了解だ。最後、レイナ班だ。フレッド、ソーン、ランド。どうする」
「俺はオーブに行く」
「私はハベルへ」
「そんじゃまあ、俺がロベルトか」
「オーケーだ。気を遣いあってもらって悪いな。まあ、その為の演習だったんだから仕方ないか。じゃあ、遠征はこのメンバーで行くことにするぞ」
シリウス:アイン、アリサ、レイナ
オーブ:フレッド、カール、ルナ
ハベル:ハドー、イジー、ソーン
ロベルト:ランド、ノマール
「以上だ。遠征は9日後。皆、準備を怠らないように。解散!」
いつにも増して浮かれ気分な教室の雰囲気に安心した。ガイウスはわざと話を選んだのだろう。ロイドのために、学園のために。
「おう2人とも。シリウスに行くんだって?わざわざ大変な所を選ぶとは物好きな奴らめ」とカールがいつものように話しかけてくる。
「いや、あれか?どっちかがシリウスに行くって言ったから付いていったのか?お前らお似合いだもんなー」とニヤニヤとアリサと僕を交互に見る。
「カール?それ以上茶化したら夜眠れないほどの痛ーいお仕置きが待ってますよ?」とニッコニコのアリサが応じる。
「あ、あーーー…何でも無い何でも無い。ハハハー…でもさ、何でシリウス?前線希望者だったかお前ら」
「まあ、事情があってね。でも、元々僕はシリウスの予定だったよ?前線には興味があるんだ」
「アインと同じで事情があるのもそうだけど、私もシリウスの予定だったよ?前線には行かないといけない理由があるの」
「あれ?そうだったのか。てっきりロベルトとか普通のとこを選ぶもんかと。話を聞くに、シリウスは行くこと自体が罰ゲームってくらい過酷で有名らしいぞ。気をつけてな」
「それと、シリウスは今悪い噂があるらしい。なんか、異様な強さの犯罪者が暗躍してるとかで、不審死とかも起きてるらしい。シリウス遠征は中止の噂があるくらいだ」とコソコソと話してくれた。
「そうなんだ。忠告ありがとうね、カール。でもまあ、中止なら仕方ないし、行くとしても慎重にやる予定だから気にしないでね。僕達は大丈夫だから!」と暗い雰囲気を明るくするようにわざと明るく振る舞った。
しかし、カールの話が事実ならゾディアックの連中がシリウスに紛れている可能性が浮上した。ロイドのように手のつけられないレベルの敵が複数対出てくるなら、僕達3人では限界がある。気を引き締める必要がありそうだな…
「そっか。まあ、くれぐれも気をつけてな。それじゃ、俺は用事があるからお先な。また明日!」とカールは走り去った。
「アインさん、アリサさん。ちょっと宜しいですか?」と静かに話しかけてきたのはレイナだった。フレッドも一緒だ。
「あの件です。庭園でお待ちしております。」とだけ告げ、去っていった。
「アリサ、いこっか」と期待と不安を混ぜながら2人で庭園に向かう。
庭園に到着し、レイナとフレッドの元に向かった。
「来てくださいましたね。任務の件です。シリウス近郊の村を調べろとの事です。相手はゾディアックの力を有している可能性が高く、戦闘は避けることが絶対とのことです。加えて、大型級の魔物の目撃例も確認されているようです。メインの任務はゾディアックメンバーの発見及び情報収集と大型級の魔物の討伐です。初回からかなり危険な任務のようですが、引き受けてくださいますか?」
「うん。僕でよければ参加させてほしい」
「私も、力になれるかわからないけど付いていくね」
「ありがとうございます。決行は今週末の二日間。4名で臨みます。では、当日は宜しくお願い致します。」
週末。任務決行の日。
「協力に感謝します。では、先を急ぎましょう。目的地はアインツマイヤーとシリウスの中間点の町です。遠征でも利用することになるでしょう。では、出発です!」と2頭の馬を連れたレイナが告げる。
「あのー、レイナ?何で2頭?」
「だって、こうでもしないとお二人で乗ってくださらないでしょう?私はフレッドと交代しながら行くので、アインさん達も同じように続いてください」
「えー?!レ、レイナー?!もうーー!」
「だったらレイナと私でいいじゃない!ほら、ほら!」
「あ、もう乗っちゃいました。ごめんなさいアリサさん!フレッド、出発して!」
「ああ…。すまんな2人とも、こういうのが好きなんだこいつは」
「あー、そっかあ…」と離れていく2人を見ながら呆然としてしまう。
「え、えっと。アリサ?一緒に行こうか。」
「しょうがないよね…もう、レイナったら…」と顔を赤らめながら僕の後ろに跨った。恥ずかしそうにしながら、僕に体を預ける。
「早く行こう?置いてかれるよ…」といつもとは違う小さな声で話してくる。
「そうだね。しっかりつかまっててね。」と後ろのアリサの熱に気を取られながら、慎重に追いかけていく。
数時間ほど進んだ先の村で休憩をとった。
「ふうー。なかなか遠いもんだね。まあ、半分以上進めたし後少しかな」
「そうですね。ちょっと飛ばし過ぎてしまいました。でもおかげでお昼頃には到着できそうです。とりあえずは休憩しましょう」
「そうだね。じゃあ、ごはんでも食べようか」と持ってきていたパンを食べ始める。
「ねえねえアイン。そのパン食べてみたいな!な!」と匂いにつられてアリサがよってきた。
「いいよ。ほら」とそのままアリサの口に近づける。
「はえ?その、ちょっとそれは…」とアリサは急に俯きだす。
「ん?欲しいんじゃなかったのか?ほら、食べちゃうぞ」
「少しちぎってから頂戴…」と俯いたままアリサが小声で話す。
「ん?ああ、分かった。はい、どうぞ」と言われた通りにしてアリサに渡す。
「ありがとう」と微妙な空気で休憩を過ごした。
落ち着いた段階でレイナが召集をかけ、目的地まで向かうことになる。
「今度は、アリサさんが前よ!アイン君、変なとこ触っちゃダメですからね!」と茶化すように告げてくる。
「おい、いらん事言ってないで早く出発しろ」とレイナの頭をチョップするフレッド。
「あたたー…分かりました!行きますよ…もう…フレッドは面白くないですね…」とむくれながら出発する。
「な、なんだったんだ…?そういうこと言われたら、どう掴まったらいいか分からなくなったじゃないか…」と僕はぶつぶつと言いながら考える。
「ア、アイン?早くつかまってくれないかな…?出発できないよ。」とアリサに催促される。
「と、とりあえずこうか?」と後ろから優しく抱きしめる。
「う…。へ、変な声出そうだった…大丈夫、これは普通…これは普通…」とアリサがブツブツと唱えながらゆっくりと出発する。
出発して幾らか時間が経った頃、アリサは唐突にこんなことを聞き始める。
「ねえ、アイン?アインってその、す、好きな人とかいるの?」
「急にどうしたの?そうだね、いるよ?」
「い、いいいいいるの!?えっと、それって誰なの?」
「それを言われてパッと答えられる人はいないんじゃないかなーハハハ…。そんなこと聞くならさ、アリサはどうなの?誰か好きなの?」
「へ?!わ、私?!私は…えっと…」と黙り込んでしまう。
「アリサも好きな人がいるのかな。それなら、早く想いを伝えたらいいのに。だってこんなに可愛い女の子に告白されたら、誰だってオッケーしちゃうよ?」
「ほ、本気で言ってるの?アインはそれでいいの?私が誰かと付き合ってもいいと思ってるの?」と明らかに不機嫌になる。
「い、いやー…だって、アリサが選ぶことで、僕が嫌がったりできる事じゃないし…もちろん、アリサが誰かと一緒になると寂しいと思うけど…」
「んー…!アインのバカ!もう知らない!こっから歩いていけばいいと思うよ!」と完全に怒ってしまう。
僕は何か間違えたのかな…?わ、わかんない…
そんなどんよりした空気の中、シリウス近くの村、トートへ辿り着く。村にしては規模が大きく、町といっても遜色ないレベルだ。穏やかな村に見えるし、大型の魔物の気配もなかった。本当にこんなところにそんなやつがいるんだろうか。
「アリサさん達も着きましたか。では、馬をそこに預けて、行きま…何かありましたか?」
「気にしないでっ!アインが悪いのっ。こんな人ほっといて早く行きましょうレイナ!」と馬に降りるなり、サッとレイナの方へ走って行ってしまった。
「アイン、アリサの機嫌を損ねたのか。女は怒ると怖いぞ。長く燻る前に早めに解決することだ」と悟ったようにフレッドが助言してくれる。フレッドも色々あったようだ。
馬を預け、聞き込みに出る。最近、普段見かけないようなな人物を見なかったか。特段大きな変わりはなかったかといった当たり障りの無いことを聞いていく。出会うことが出来た村人に尋ねても、大抵は同じような返答だった。人伝では異常はなし。だが、それなら依頼は出ないはずだ。
一通り歩き、町中央の噴水広場で休憩していた時だった。背後から視線を感じた。
「ねえ、皆。僕達の向きから見て、南南東の方角。視線を感じる気がする。皆はどう?」
「そうか?いや、見てる奴がいる気がするな。何者だ?村にいたやつか?」
「分からない。勘づかれたら情報が得られないかもしれない。振り向かないで、動きを待とう。」
「分かった」
「分かりました」
と4人に緊張が走る。
数分後、「視線が切れた。今だ」とレイナに振り返るよう指示する。すると、赤いマフラーがチラッと見えた。
「見られていたのは当たりのようですね。建物の影に入る赤いマフラーを巻いた人が見えました。追いましょう」
「ああ。手がかりがあるかもしれねえ。広いといっても村だ。逃げ場は多くないはずだ。」と追跡を開始する。
意外な事に追跡は容易だった。だが、辿り着いた先は村から少し外れた捨てられた洞窟だった。
「こんないかにもな場所があるとはな…入ってみるか。」
「待ってフレッド!洞窟の規模も敵の数も分からないんですよ!奴らの力を持った敵ならば、複数いた場合勝機もないかもしれません。慎重にいきましょう?ね?」と軽く怯えているレイナ。
「大丈夫だ。こんな事何度かあっただろう。問題ない。今回は助っ人もいる。多少の手掛かりは掴まないと洞窟だけじゃ意味ないだろ」
「それはそうですけど…。うーん…わ、分かりました…無茶するのはダメですからね!」
「当然だ。アイン達はどうする?」
「僕も行く。大丈夫、皆守ってみせるよ」
「私もいく。このおばかさんも、2人も守るからね」
「お、おばかさん…まあいいや。じゃあ、フレッドと僕で先頭を行こう。アリサはレイナの護衛件中衛で頼む。それでいい?」
「ああ。それで大丈夫だ。あまり離れすぎるな。守り切れなくなる。」とフレッドは恐れる素振りも見せず、洞窟に入っていく。
洞窟内はところどころ裂け目があり、陽の光が差し込んでいた。歩きやすい地形で、思ったより広めの通路だった為隊列の維持も容易だった。
恐れるほどには強くない魔物達と交戦をしながら奥に進み、大きく開けた場所に辿り着く。そして、レイナが見たという赤いマフラーを巻いた人物が中央に立っていた。
「やはり貴方達ですね。私達の動向を探っているという人達は。何のようでしょうか?」とお淑やかな口調と態度でその女性は話しかけてきた。
「貴方は、何故私たちを観察していたのですか?私達は休憩していただけだったのですが」
「質問に質問で返すのは感心しませんね。ですがまあ、お答えいたしします。見つめていたのは、先ほど申し上げた通り私達を探っている方々の仲間かと疑っていたためです」
「私達というのは?」
「それを申し上げる事はできません。ですが、ここまで来られたのですから貴方達は薄々気づいているはずです。私達の正体に。」
「ええ。ゾディアックの戦士達…よね…」
「やはり貴方達は感が鋭いですね。ゾディアックと呼ばれる我らが主の戦士。その1人でございます。ですが、そのことを調査されている方々であればタダで返すわけにはいきませんね。二度と私たちと関われないよう、1人や2人、仕留めさせていただきます。何かを得るには代償が必要なんですよ」と彼女は手を後ろに回し、ゆっくりと白と黒の短剣を取り出した。そして、膝を少し曲げ、こちらに傾く。次の瞬間、僕の目の前に立っていた。
「なっ…!」と僕は驚きなからも咄嗟に飛び退き、すぐに大剣を取り出す。
次の瞬間、僕のいた場所は切り刻まれていた事が分かった。僕の右腕と左足に軽い切り傷が残り、風が舞ったような感覚が残っていた。
彼女はサッと先ほどいた場所に戻り、「うーん。この程度ですか。前調査に来られた方はもう少し良い反応をされましたよ?まあ、すぐに亡くなられましたが。ですがまあ、一応言ったことは実行しますね。出来るだけ長く遊びましょう」と先ほどと同じように移動の構えをとる。
全員が構えていたが、全く目が追いつかない速さだった。気づいた時には目の前にいて、僕はとてつもない力で吹き飛ばされていた。他の皆も同様で、全員が地面か壁に叩きつけられていた。
全員を吹き飛ばした後、彼女は先ほどの場所に戻り何事も無かったかのように静かに佇んでいた。
「な…。化物かこいつは…」
「全く捉えられない…これが…ゾディアックの…」
「と、とにかく対策を講じなければ全滅です。どうしますか…」と苦痛の表情を浮かべたレイナが尋ねる。
短い沈黙があった。その沈黙には、どうすることもできないという答えでもあった。
僕は決意を固め、口を開く。
「レイナ、撤退の先導を。僕が渡り合って見せるから、隙を見て皆を…フレッド、アリサを頼めるか」
「は?おい待て。それはないだろ…俺たちはまだやれるはずだ…お前を見捨てろってのか…?」
「でも、今の一瞬で実力差は明らかなのは分かっただろ!こうして話す時間をくれているくらい、僕たちと彼女ではどうにもできない力の差があるんだ!誰かは残らないと皆死ぬ!彼女が求めるのは一人か二人の贄。誰か1人が残れば見逃してもらえる!僕は大丈夫だから行け!」
「絶対ダメ!絶対ダメ!アインが残るなら私も残る!絶対に死なせない!」と泣きじゃくりながら僕に手を伸ばすアリサ。
「アリサ、分かってくれ。これは、仕方ない事なんだ。頼む。」
「そ、そんな…嫌!ダメ!私は残る!フレッド!離して!」とフレッドに担がれながら、アリサは手を伸ばしていた。
「フレッド。行ってくれ…」
「クソ…すまない…すぐに援軍を呼ぶから持ち堪えてくれよ…」と悔しそうに下を向いて、フレッドたちは来た道を引き返す。
3人が見えなくなった後、彼女は口を開いた。
「いい選択です。貴方は自分の命という変え難い代償の代わりに彼らを助けたのですから。私の言葉を信じる選択をされた事も賞賛に値します。その決断力と勇気、昔の主様にそっくりでございます。ですが、選択されたからにはその代償は刻ませていただきます。お覚悟を」そう言い放ち、彼女は短剣を再び握る。
「貴方が話のわかる人で良かったです。普通は撤退なんて許さないでしょうから。ですが、僕が倒された後、貴方が皆を追わない保証はない。だから、全力で足止めさせてもらいます」と僕も大剣を再度取り出し、強く握る。
「では、お別れです。勇敢なお方…」と彼女は顔色も変えず、先ほどと同じように無駄のない動きで仕掛けようとする。
次の瞬間には、僕は壁に埋まっていた。
「ッ…!ガッ…」と溢れ出る血を吐き出し、僕は地面に伏す。
「あら、生きておられるのですね。頑丈なお方です。ですが、もう限界ですか?残念です」と彼女は数メートル先で静かに佇む。
僕は剣を杖代わりにして立ち上がる。朦朧とした意識の中で彼女を見つめようと目を凝らすと、次第に視界が歪む。そして、ある記憶がフラッシュバックしてくる。
「……様、最近ご無理をされているようですね。体を壊されては……根を詰めすぎないでくだ…。もし、貴方様に何かありましたら私も…」
「……様。私に…たいとおっしゃられ…ですか?私なんかで宜しいのですか…?」
「はい。今日からお世話にな……。シャルロットと申します。……様、よろしくお願いいた…」
「シャル。約束だ…俺は絶対に帰るから。だから、そう泣かな…兄さん達を支えて…頼んだぞ…」
視界が開ける。目の前の女性は、僕の知り合いなのか…?彼女は今にもこちらに向かってきそうな状態だった。そして、彼女が短剣を握った瞬間、僕は不意に口に出した。
「シャルロット…なのか…?」
彼女は僕の目の前に来ていた。首筋には短剣が当てられ、もう片方の探検は脇腹に刺さっている。しかし、その手はひどく震えていた。動揺を隠せないでいる。
「今、何とおっしゃいましたか…?」と先ほどまでとは打って変わって涙声で震えながら彼女は尋ねてくる。
「シャルロット…なんだね…?」
「どうしてその名を…?まさか…そんな…」と女性は両手の短剣を下ろし、驚いたように僕を見つめる。
「そうなんだね。こう言えば分かってくれるかな…僕は遠い昔、君と会っていたんだよね。」
「本当に…?本当…なのですか…?いや、そんなはずありません…貴方様は完全に消滅されたと…2度と転生はないとそう、伝わっているのです…戯言で惑わそうとしていますね…あのお方の名前を軽々と口にされるなんて…!」と混乱した彼女は距離を取り、再度僕に敵意を向ける。
僕は、敵意を表しながら震えるシャルロットに丸腰で近づく。シャルロットは敵意を向けているものの動かなかった。
そして、シャルロットを優しく抱きしめた。
「ごめんな、シャル。俺が、君たちを置いていってしまったから、こんな事になったんだな…兄さん達に全てを任せて…必ず帰るって、2人でよく行ったあの丘でそう言ったのにな…ごめんな…」と自分の物のように感じられる懐かしい記憶を辿り、少女を支える。僕は、自分でも驚くほどに涙をあふれさせていた。
「ああ…ああ…そんな…。本当に…本当に貴方様なのですね…」と彼女は短剣を落とし、僕に抱きつく。そして、溜め込んできた涙を全て溢れさせるように泣きじゃくる。
「ああ…私は、幸せ者です…まさかもう一度、お会いできるなんて…こんなに幸せを感じたのは何年前の事でしょうか…」
「すまない、シャル。辛い思いをさせたな…でも、これからはまたずっと一緒だ…こうして出会えたんだから…」と伝えた瞬間だった。シャルロットの表情が曇る。
「どうしたんだ?シャル」と心配そうに表情を見ようとする。
すると彼女は、優しく僕の体を押して数歩後ろに下がる。
「そうは…いかないのです。私は、かの戦争の後にゾディアックという存在に捕らえられ、配下となったのです…ゾディアックに捕らえられた後、長い間眠りにつきました。そして、目を覚ました時にこの短剣と力を授かりました。それが、数年前です。私の見た目が貴方様が知る見た目とほとんど変化していないのは、私は転生者ではないからです。あの時の私が、どういうわけかまだ生きているようなのです。そして、この力は契約です。尋常ならざる力を手にする代わりに、ゾディアックの配下となる物。これがゾディアックの戦士という存在のようです。ゾディアックの戦士には階級が存在しており、私はクイーンと呼ばれる立場、いわゆる右腕のような立場のようです。クイーンは一体のゾディアックにつき一体しか存在できず、クイーンとなった者はキングたるゾディアックに従わねばなりません。この契約はキングの消滅またはクイーンの消滅により解消されます。つまり、どちらかが消滅しなければ永久に終わらない主従契約なのです。今回の調査もキングに依頼され、単独で動いたことでした。あなた様と出会えたのは偶然だったのです。キングは私を使役し、絶対的な命令で動かします。ですので、今の私は貴方様のお側にいる事が出来ないのです…」と悲しそうにシャルロットは語った。
「そう…なのか…俺のせいだな…シャル達を守ると約束したのに、果たす事ができずにシャルを奪われたッ…!だが、今度こそ君を助ける…どれだけ時間がかかるかわからない。だけど、君を助けるよ。シャル。」と僕は決意を固めた。
「ありがとうございます。ですが、先ほど申し上げたとおり、私はゾディアックの配下でございます。いざという時は、貴方様の手で…ですが、そうならないと信じております。---様」と彼女は俯き、悲しみに暮れながら小さな声で話してくれる。
「必ず迎えに行く。時間はかかるかもしれない。それでも、今度こそ。必ず…助けるからな」と僕はシャルにもう一度伝えた。
「そのお言葉だけで私は満足です。本当にお会いできて良かった…」と泣いていたシャルは涙を拭い、短剣を納める。そして、丁寧にお辞儀した後に姿を消した。
僕は、壁にもたれかかり彼女の立っていた場所を見つめていた。
どれほどの時間が経っただろうか。入り口側の通路から、声と足音が聞こえてきた。
どんどんと近づいてくる足音を僕は注視していた。すると、入り口側から何人か姿を見せた。アリサ達とデューク、そして女神のような雰囲気を纏った女性だった。彼らは辺りを見回し、すぐに僕に気がついた。
彼らはすぐに僕の元に走り出した。聞き慣れた声が何度も僕の名前を呼んでくれていた。
しかし、彼らが僕に辿り着く前に僕は限界を迎えた。




