16話 最強の力の正体と新たな仕事
アインツマイヤー連合会議
横長の机に有名な顔触れが揃う。各街の現統治者及び議長。ノーツコア学園長と言ったこの島のトップが座席前に用意された画面に映し出される。
一番奥の席に座っている白いスーツを着た若い男が咳払いをして立ち上がる。「お忙しい中お集まりいただきありがとうございます。では早速、会議を始めます。」と言って一礼する。
男は顔を上げ、中央に島の地図を表示する。全体の色は南西側に行くほど緑になり、東側に行くほど赤色に近づく場所が多くなっていた。「現在の状態です。依然として南西側のロベルト付近は治安、安全性が共に安定しており、穏やかな状態が維持されています。ですが、最近になって北西側のハベルでは無法者や魔物の進出が増え始め、一度は落ち着いていた状態がまた悪化し始めています。現在、彼らに依頼して事態の収束を目指しております」
「次に、中央。アインツマイヤー周辺は比較的穏やかな状態が続いております。アインツマイヤー北側の治安は特に安定しており、争いの形跡すら見られません。ですが、これは噂によるとアトラクタの活動が要因となっている可能性が高く、この地図上の情報すら正確かどうか不明とされています。」
と男が言った途端に一人の男が口を開く。「議長。分からないというのは困るな。我らはこの島を管理する立場だ。分からないことなどあってはならない。たとえアトラクタが活動していたとしても、部隊を出すべきではないかね?」
議長と呼ばれた白スーツの男は顔を上げ、「ロベルト代表、ヴァスト様。おっしゃる通りでございます。ですが、アトラクタが介入しているとなると偵察に出したところで成果は得られないでしょう。ですので、ハベルに向かわせている部隊が帰還次第、調査に派遣する予定です」と淡々と答える。
ヴァストは鼻を鳴らし、「それでは遅いのではないか?生徒会は出せないのか」とメードを睨む。
メードは立ち上がり、「はい。生徒会も現在東側で活性化している大型の魔物の対処に出撃しており対応できかねます。」と涼しい顔で答える。
ヴァストは「そうか。では、議長。できる限り早い事態の把握を目指せ」と渋々納得する。
白スーツの男は頷き、「ええ、もちろんです。では、報告の続きを。先ほどメード学園長が仰られていたように、現在、東側では至る所で大型の魔物の発生が確認されています。こちらは学園生徒会が対応しており、沈静化に向かっております。次に、北東側のシリウスでは戦力は拮抗しており、治安も安定と変化はありません。ですが、前回の会議の際にもお話した通り、ゆっくりと前線は下がりつつあります。こちらも手を打つ必要があるでしょう」
その話を聞いたとき、メードが手を挙げ「シリウスの件は学園にお任せを。近々控える学園の遠征にて結果を残すことでしょう。」と話す。
他の代表たちはコソコソと話していたが、白スーツの男が「静粛に願います。では、シリウスの件は学園にお任せします。最後に、南東側のオーブですが、こちらも大きく変わりありません。依然としてオーブが孤立した要塞として機能し、周辺の村を助けつつ共存しています。以上です」と言って席に座る。
会議室が静まったが、一人の女性が手を挙げる。「議長。作戦については。」
白スーツの男は首を横に振り、「オーブ代表、ティア様。問題ありません。私が指揮し、必ずや成果を上げて見せます。それと、これは別件ですが緋色の大剣使いが現れました。」と答える。
会議室がざわめく。ティアが「静粛に。議長。それは本当ですか?本当に彼の後継者が生まれたというのですか?」と驚きながら尋ねる。
白スーツの男は頷き、「はい。ですが彼はまだ覚醒段階ではありません。現在、我々の戦力はここ数百年の中で最高レベルです。ですので、彼の力を最大限高めた後に排除し、出来る限り力の封印期間を延ばそうと考えております」と答える。
会議室では、「それは危険だ!」「早く彼らを派遣しなさい!」「議長!君が出てはどうだ!」と口々に怒号が飛び交う。
白スーツの男は立ち上がり、「静粛に願います。これは決定した事項です。要らぬ討論をする必要はありません。ですが、異議を申し立てたいと仰られるのでしたらどうか、私の前に姿をお見せください。偶には面と向かって話すのもよいでしょう」と笑いながら話す。
会議室は一瞬で静まり、白スーツの男はため息を吐く「では、これにて会議を終わります。失礼いたします」と言って中央の地図の電源を落とす。
出席者たちも各々で回線を切り、次々と映像が消える。
全ての映像が消え、メードと白スーツの男だけとなった会議室で、男は「はあ、まったく。この無意味な会議は必要なのかね。口だけの無能たちを管理するのは本当に骨が折れる」と言って外を眺める。
メードは立ち上がり、「まあ、そう仰らず。彼らは一応協力者なのですから。それに、緋色の大剣使いなどという我らにとっての禁句のようなものを話したのですから、荒れるのも無理ありません」と男を宥める。
男は「そうだな。まあ、彼らの危惧もわかる。だが、この先我々の内何人が残れるかなど分からない。我らはセブンス達と違い、常に今が最高戦力なのだ。気を逃してはならん」と真剣な表情で答える。
メードは相槌を打ち、「では、私は学園でやる事がありますので、お先に失礼します。」と言って部屋を出る。
次の日、僕達は学園長室に伺う。
「失礼します」と3人で入室すると、ガイウス先生、メード学園長ともう1人立っていた。
紹介しよう。最前線メンバーの1人、デュークだ。
「宜しくな」と紹介されたコートの男は気さくに挨拶をしてくれる。
「宜しくお願いします」と困惑気味に返答する。
「さて、君達。ガイウスから聞いていると思うけど、ロイド君のことを説明してくれないか」と殺気を感じるほどの威圧感を出しながらメード学園長は口を開く。
僕は皆を代表して事の顛末を説明する。そして、静かに聞いていた3人は、ゾディアックという言葉に反応した。
「今、ゾディアックと言ったか?そう、言ったんだな…?」とメードは鋭い視線で再度質問する。
「ええ。確かに彼は敗北した時、そう言いました。ゾディアックの…っと。何かを言おうとしたようでしたがすぐに様子がおかしくなり、魔法の範囲攻撃が始まったのでその場を離れました。」
「そうか…ゾディアックか…やはり、抜け出しているのだな…」と神妙な顔でメードは呟く。
「ありがとう。その名が出たのなら君達にはなんの非も無い。クラスメイトの消失に混乱するだろうが、この話は他言無用だ。頼むぞ。」と3人に告げる。
「分かりました…1つだけ、質問してもいいですか?」
「ああ。まあ、見当はつく。ゾディアックの事だろう。最前線メンバー以外は知らない機密事項だ。だが、君たちが遠征先をシリウスとするなら、教えよう。」とメードは淡々と述べる。
「分かりました」と3人は同時に答えた。
「いいだろう。ゾディアックの事をあまり詳しく知られるのはよくない。奴らは狡猾で圧倒的だ。民間人にこの話が漏れれば最後、大混乱を招いてしまう。だが、あの力を垣間見た君達には伝えよう」
「ゾディアックとは、12星座を司る者達の事を指している。やつらは魔物を生み出す根源と言われている。アーツバルトの地下深くに閉じ込められ、長い間国王のアーツが地表への進出を抑えていた。アーツが没した後もシュバルツ、アスターの2人が引き継いだ。2人が亡くなる際、強固な封印を施したが長くは持たなかった。弱い魔物から少しずつ塔を抜け出し始め、地表に流れるようになった。次第に大型の魔物、さらには数体のゾディアックまでもが地表に出ている始末だ。地表に出たゾディアックの数体は仕留められ、残されたゾディアックは塔の中に戻ったか境界線付近で砦のようなものを建てて籠城しているとされている。これによって、いままではゾディアックによる被害は大きくなかった。だが、いつからかゾディアックの能力が流出し始めた。ゾディアックは、心臓兵器と同じような力を私たちに付与できる個体が存在する。その力は絶大で、並の使い手では相手にならない。しかし、その力には代償がある。かなりの確率の暴走。これは、見に余る力を得たが故の代償だろう。だが、稀にゾディアックの力を制御できるものもいる。これまで、何度かそういった類の奴とは遭遇したことがある。しかしながら、ゾディアックの能力者がこちら側に付いたことはなく、会話にすらならない連中も居た。だからこそ、ロイド君は珍しい例だ。こちら側に潜伏したゾディアックの勢力。最前線メンバーには可能性を考慮しろと伝えているが、まさか学園にも奴らの息がかかったやつが来るとは思わなかった。私たちにも非がある。若い君たちに酷な経験をさせてすまなかった」
「まあそういった経緯から、境界線を超えたゾディアックを見つけて排除する事を目的として情報を集めている。だが、めぼしい情報はほとんどない。私から話せることは以上だ。この事は他言無用で頼む。下がってくれ」
「分かりました。ありがとうございます…」と述べ、僕達は部屋を後にする。
「ちょっといいかな」と部屋を出て少し歩いたところで、レイナが急に僕達を庭園に誘った。
「ここなら、誰もいないですよね。はあ…フレッド、そろそろ出てきていいですよ…」と茂みの方へ声をかける。
すると、茂みの方からフレッドが顔を出し、こちらに歩いてくる。「ああ、気づいてたか…。まあ、デュークが来てたんだ。ゾディアックの話だろう。それで、なんのようだレイナ」
レイナは恐る恐るといった様子で口を開き、「フレッド。アイン達にもデュークさんの依頼を手伝ってもらわない?」と提案する。
フレッドは否定的な態度を見せ、「何言ってんだ、そんなの無理に決まってんだろ。第一、デュークが許さねえだろ」とレイナの言葉を突っぱねる。
すると、近くの茂みで草が揺れる音が響き、「いやー?そんな事ねえぞ?なあ、フレッド。お前、レイナのストーカーかなんかなのか?」とデュークがニョキっと出てくる。
フレッドは明らかに不機嫌になり、「何でいんだよデュークっ…!てか、ストーカーじゃねえよ。たまたまだ!」と反論する。
デュークはニヤニヤ笑いながらフレッドの方へ行き、「そんなわけあるか。レイナが心配で付いてきてたんだろ。お見通しだぜ?」とフレッドをつつく。
フレッドはデュークはの腕から逃れ、「やめろよ!それより、あんたの依頼をアイン達にもやらせるのか?」と服を整えながら尋ねる。
デュークも頷き、「ああ、説明しようか。いいか2人とも」と僕達に尋ねてくる。
「はあ。」
「ええ。」
と僕達はポカンとしていた。
デュークは頭を掻きながら、「あー、単純にいうとな。ターゲットを絞った魔物退治とゾディアックの調査を依頼してるんだ。2人には休日の際、遠出をしてもらって現地での情報収集と魔物退治を依頼している」
「さっきの話にもあったゾディアックの捜索。これには、ゾディアックの事を知っていて信頼できる人物しか頼れない。俺にはこの2人しかいなくてな。最前線メンバーはこういった仕事はなかなかこなせないし、最前線メンバーは異常な力を持ってるが故にゾディアックの影響下なのか判断がつかない。だからこそ、それぞれが信頼できる人材を集め、協力してもらってるんだ。それで、どうかな。力を貸してくれないか」と簡単に説明してくる。
アインは首を傾げながら、「え、えーっと話があんまり入ってきません…とりあえず、休暇中にデュークさんの依頼をこなせばいいって事ですね。ゾディアック関連の情報が取れればさらに良いといったところですかね」と困った顔で返す。
デュークは口角を上げ、「おー!話が早いな!そういう事だ!実戦経験にもなるし、遠征に選ばなかった場所にもいける。難しい依頼は託さないつもりだし、気が向いたらでいいから手伝ってほしい」と再度お願いしてくる。
僕は頷き、「分かりました。出来る限りやらせていただきます。アリサはどうかな。」とアリサの方を向く。
アリサも困った顔をしていたが、「え、えっと。あんまり頭が追いついてないんだけど、アインがやるなら付いていきます」と最終的には頷いてくれる。
デュークはうんうんと頷いてからこっちの方へ向き、「2人ともありがとな!調査に関してはフレッド達を通して話を渡す。参加するかどうかは任せるし、参加してくれるなら細かい日程などを伝えていく。こんな感じだ。最悪失敗してもいいし、気楽にな。それじゃ、またな」と言うだけ言い残して去っていった。
僕達は完全に取り残されてしまい、「な、なんだったんだ…?レイナ達はデュークさんの依頼をずっとやってきたの?」ととりあえずレイナに尋ねる。
レイナは首を横に振り、「いえ、そんな事ありませんよ。入学する1年ほど前、フレッドと私が心臓兵器を見出した後に頼まれるようになりました。簡単な任務を任せてくださったので、多くの都市や村を観光できました!もちろん危険も伴いますが、楽しいですよ!」と楽しそうに話してくれる。
フレッドは溜息を吐き、「はあ…一応任務なんだから真面目にやってくれ…」とレイナをジト目で見る。
レイナはプンプンしながら「真面目にやってます!メリハリを持って臨んでいるだけです!」とフレッドに反論する。
「ああ…そうだな…」とフレッドは呆れながら話を合わせていた。
フレッドは僕たちの方へ向き、「デュークも言ってたが、2人の任務は俺たちが依頼する。都合が悪ければ断ってくれて構わない。基本的に単独ではいかない。2人以上で任務は遂行する。まあ、そのうちわかるさ。話は終わりだ」と淡々と伝えてその場を後にする。
レイナはその様子を見送ってから、「フレッド、他人の前では冷たいんです。本当はもっと面白いんですけどね」とつまらなさそうに呟く。
僕はいやいやと首を横に振りながら、「十分面白かったけどね…フレッドのキャラが崩壊する音がしたよ…」と呟く。
「そうですか?フレッドはあんなものじゃないですよ!長年の付き合いの私が言うので間違いありません!」と何故か誇らしげに言い放った。
「レイナさんも十分キャラがブレてますけどね…もっとこう、真面目で近寄りがたいイメージなのかと…」とアリサは小さな声で呟く。
レイナはハッとなって顔を赤くし、「あ、えっと、その!フレッドの前だとこんな感じになってしまうんです。普段は授業の時のように普通なのですが…昔の私の性格ですね…直したんですけど…」とガックリとしてしまう。
その様子を見て慌てて「レイナさんを悪く言ってるわけじゃないんですよ!意外な一面だと思っただけですから!気にしないでください!」とアリサがフォローする。
「そうでしょうか…あ、もうこんな時間ですね。私も失礼します。あの話については他言無用でお願いします。それでは」と普段の調子を取り戻し、レイナもその場を後にする。
僕はレイナを見送り、「あー…何だかえらいことに巻き込まれた気がするよー…」とうなだれる。
アリサは腰に手を当て、「いいじゃない。アインってばあんまり学園の外にも行ってないんでしょ?旅に出れる機会なんてそうそう無いんだから、いい機会だよ!」と僕を励ます。
「そりゃ、朝から晩まで特訓してるんだから仕方ないだろ…アリサにも付き合ってもらってんだしさ」
アリサは僕の顔を覗き込み、「それ、言い訳だよね?私を出せば通用するって思ってる気がする!私は普通に時間を見て外出もしてるよ!アインが外に出ないだけでしょー!」とプクーっと怒った顔で話す。
僕は反論の余地なく「はい…そうです…」と反省する。
アリサはもうっと呟き、「まあ、アインと外に出れるなら任務も意外と楽しいかもね。機会が来たら一緒に行こうね」と優しく微笑む。
僕はその言葉を聞いてニヤッと口角を上げ、「アリサもレイナと一緒で観光と勘違いしてないー?任務ですよ任務!」と突く。
アリサはプクーッとむくれながら、「分かってますー!アインはちっとも分かってくれないんだから…」とそっぽを向く。
空気が悪くなったのを感じ、咄嗟に「あ、あれー…まあ、いいや。とりあえず、今日は部活行くの?」と話題を変えてみる。
アリサはそっぽを向いたまま、「んー。アインが行くならいかないーー!」と歩き出す。
僕は溜息を吐きながらアリサの方へ走り、「はあ…あー、今日はお財布が重たいから学食おごっちゃおうかなーーーー?」とわざとらしく独り言を漏らす。
その言葉を聞いて「ん…わざとらしい…。まあ、それで許してあげる!」と機嫌を直して学食の方へ向かった。
アリサの機嫌をマッチョコックパワーで直し、部活をして帰った。




