9話 演習と勝者
演習場、北東方面
アリサ、レイナ、ルナは警戒しながら進んでいた。
レイナは後ろを歩く二人の方へ振り向き、「アリサさん、ルナちゃん、ここからは川が流れていて周りの木々も減ります。南東方面のメンバーとの鉢合わせも十分にあり得ますのでご注意ください」と優しく伝える。
アリサはその助言を受け入れるように頷きながら、「分かりました。レイナさんはこの場所に詳しいのですね。」と続ける。
レイナは「いえ、私はたまたま入学試験の際にここを通っただけです。一度通った場所であればある程度は記憶できるのですよ」と淡々と答えた。
3人はレイナが危惧した川の側に辿り着いた。
警戒する2人を横目に、「では、渡って先を急ぎましょー!」とルナが足を入れようとしたその時だった。
地面が紫色に染まり、川の水が大きく跳ね上がる。アリサは咄嗟にルナを抱えて後ろに飛び退く。レイナは攻撃された方角を見て「フレッド!」と叫ぶ。
フレッドと呼ばれた男性は下流側の中州に1人で立っていた。寡黙な印象の黒髪の男。
フレッドはレイナの声かけに応じず、大剣をこちらに向ける。すると、大剣は上下に分割され中央で紫色の玉を作り始める。そして次の瞬間、その玉から紫色のレーザーが照射される。
アリサ達3人は飛び退き、臨戦態勢を取る。
レイナは氷の障壁を展開して2人を範囲に入れる。「ルナちゃん、お願いしてもいいですか。フレッドは手加減して倒せる相手ではありません。気絶しない限界の火力で魔法を放ってください」
ルナは頷き、「わ、分かりました!やってみます!」と答えた瞬間だった。レイナが振り返ると、目の前にフレッドが飛び込んできていた。
アリサが咄嗟に割って入る。しかし、力負けしてしまい呆気なく吹き飛ばされてしまう。即座にフレッドは大剣の柄をレイナの腹部に当てる。レイナはその場で倒れこむ。フレッドは続けて大剣を振り下ろしたが、間一髪のところでアリサがレイナを抱えて離脱する。
ルナだけがフレッドの前に立ってしまっていた。フレッドは一瞥して大剣を振り上げ、ルナへ振り下ろす。
しかし、それよりも早く「私は!やられませんよー!」とルナが左手を前に出し、周囲を焼き尽くすほどの特大の火の魔法を放つ。
爆発の衝撃と光で周囲が見えなくなっていたアリサとレイナは、ゆっくりと目を開ける。そこには、倒れたルナだけが残されていた。
「ルナちゃん!」
「ルナさん!」
と2人が駆け寄ると、ルナは目を開け「やっと気絶せずに撃てたんですかね…んー、クリスタルのおかげ…?よく分かんないですね…」と話しながら目を閉じる。クリスタルが砕け、戦闘脱落となる。
そして、そこに草木を踏む音が聞こえる。制服の裾が燻っているものの、一見ダメージがほとんど見られない状態のフレッドだった。
アリサは構え、迎撃しようと構える。しかし、ゆっくりと歩いてきていたフレッドはよろめき、急に崩れ落ちる。
フレッドのクリスタルは割れ、同じく敗退となった。
組同士の戦闘が終わり、それぞれが先生の待つ丘への突撃を開始した。ガイウスは設置された砲台に火をつけまくり、こちらへ来られないよう迎撃していた。
「お、来たな!さあ、俺を倒しに来い!」と煽りながら満面の笑みで笑いかける。
最初にアタックを始めたのは南東の組、ランドとイジーだった。フレッドに言われて先行していた2人は、いち早く先生の近くに辿り着いた。
イジーは心臓兵器である短剣を構え、自慢の速力で一気に距離を詰める方針を選んだようだ。
ランドは、前腕の全てを岩に変える心臓兵器。防御にも攻撃にも使える巨大な腕を構えながら同じように突撃する。
イジーは回避しつつ、ランドは腕でガードしつつ進み、簡単にガイウスの元に辿り着く。
「ガッハッハ!やっぱこんな玩具じゃ話にならんよな。いいぞ、かかってこい。俺は心臓兵器を使わなくても問題ない。全力で来い」とまたしても煽っていた。
2人は目を合わせて頷きあい、先生に向かって走り出す。しかし、次の瞬間には2人とも宙を待っていた。地面に残されたのは、ラリアットポーズのまま鼻を鳴らすガイウスだけであった。
イジー、ランド敗退。
次にガイウスの元に辿り着いたのは、カールとソーンであった。2人を前に、ガイウスは同じように煽った。ソーンは先ほどの戦闘と同じように距離を詰め、ガイウスに猛攻を仕掛ける。しかし、ガイウスは槍先を避け、刃のない部分は全て体で受け流した。
ソーンは飛び退き、「そ、そんな!全部受け流された!?」と信じられないといった顔で立ち尽くす。
ガイウスは待ってましたとばかりに地面を蹴り、「隙を晒しちゃいかんな」とソーンに向かってタックルをしようとする。
即座に2人の間に風の矢を放つ。「先生、流石にそれはさせませんよっと」とカールは口角を上げながらクロスボウを構える。
ガイウスは咄嗟に身を翻し、矢を回避した。「おいおいカール。もう継承を済ませたのかー。色んな選択肢もあったろうに…。まあお前はハドーの物を選ぶ気がしたけどな」とカールに話しかけながら体勢を整える。
ソーンが再びガイウスに詰め寄り、先ほどよりも鋭い連撃を行う。それに合わせて、カールの矢も放たれていく。カールは、ハドーの心臓兵器の特性を活かし、矢の形状を玉のままにして放っていた。そして、ガイウスの近くに来た瞬間にガイウス目掛けて伸びる近接の指向性弾として用いた。
ガイウスもこれには驚き、かろうじて体を捻りながら避ける。しかし、ソーンがその隙を逃さずガイウスに一撃加える。
ソーンの一撃はガイウスの脇腹を掠めたが、クリスタルが割れるに至らなかった。ガイウスは一度二人から距離を取る。
「ふーむ。2人ともやるじゃないか。無傷で終われると思ってたんだがな。まあ、仕方ない。では、俺もサブウェポンで相手しよう」とガイウスが大斧を取り出す。そして、そのままカールに斧を投げつけた。
「先生!流石にそれは当たりませんって!」と回避したカールだったが、斧は容易くカールに直撃した。
軌道が変わったのだ。カールが避ける方向を予測して、ガイウスは事前に曲がるように調整して投げていた。そして、当たる確信があったのか、ガイウスはカールを見ずにソーンの元に駆け出した。そして、ゼロ距離まで詰めた瞬間、大きく足を地面に踏み込み、地面を軽く沈ませる。すぐさまバランスを崩したソーンから槍を弾き飛ばし、拳をソーンの目の前で止める。ソーンはそのまま降参する。
「これで後はレイナ君のところか。はてさて、どうなるか」と丘の頂上で腕組みして先生は待つことにした。
アリサ達は、ルナを安全なところに運んだ後にガイウスの元を目指した為、かなり遅れていた。到着した頃には日が落ち始め、一帯がオレンジ色に染まっていた。
「おう、来たな。後は君らだけだ。全力で来な」とガイウスが構える。
アリサは剣を構え、地面を蹴って距離を一気に詰める。
レイナも構え、アリサを援護する姿勢を見せる。
ガイウスも構え、「ほう、アリサ1人でどこまでやれるか見せてみろ」と口角を上げる。
「ええ!行きますよ!先生!」とアリサはさらに加速して距離を詰める。
アリサは得意の連撃でガイウスに挑む。しかし、ガイウスはそのほとんどを受け流し、全く攻撃を受け付けなかった。
アリサは苦い表情をしながら、「…ッ!なら、これはどうです!」と連撃の中に大剣状態の攻撃も混ぜることで変則的な攻撃を始める。この方法が功を奏し、ガイウスの守りを崩し始める。
アリサは(これなら、いける…!)と勝機を見出してさらに連撃を加速させる。ガイウスも流石に受けきれず、後ろへ飛び退く。
「なかなかやるな。だが、ここからだ」とガイウスが先ほどの大斧を取り出す。
ガイウスは、攻めの姿勢を崩さないアリサの攻撃をわざと受け止めて対応する。彼がアリサの攻撃に合わせて放つ一撃一撃は、生徒のそれを凌駕する大きな力であった。攻勢に出ていたはずのアリサはその力を受け止めきれず、いつしか防戦に回っていた。アリサは苦しい表情をしながら、ガイウスの一撃一撃を辛うじて受け流しながら対応していた。しかし、防戦にも限界が生じ始め、アリサに消耗が見られ始めていた。
レイナはその様子を見て、「大丈夫ですよアリサさん。これで盤石です。」とアリサに金色の光を施す。その瞬間、アリサはガイウスを押し返し始める。
アリサは自身の体が軽くなるのを感じていた。消耗していたはずの力も戻ってきており、心臓兵器の出力も大幅に上がっていることを実感する。
アリサは大剣を握りなおし、「レイナさん!ありがとうございます!先生、勝負です!」と地面を蹴る。心臓兵器を大剣の状態に変え、その上で二刀の時以上の速さでガイウスに畳み掛ける。
アリサの圧倒的なセンスと手数、そして跳ね上がった膂力にガイウスは押され始める。
ガイウスは苦しい表情で受け流しながら、「ぬ、ぬううう。2人のコンビがここまで手強いとはな…だがッ…!」と言い放ち力を込めようとする。
その時だった。パキッと音が響く。ガイウスはその音に敏感に反応して勢いを緩めた。アリサはその隙を見逃さず、ガイウスの大斧にもう一撃加える。次の瞬間、ガイウスの大斧が欠けて弾き飛ばされる。アリサはそのままガイウスに一太刀叩き込む。一撃でガイウスのクリスタルを砕き、膝をつかせた。
ガイウスは嬉しそうに口角を上げながら立ち上がり、「やるじゃないか…ここに就任してから数年、久しぶりに敗北したぞ…。アリサ、レイナ、君たちは課題クリアだ…」と二人に伝えた。
二人はその言葉を聞いて嬉しそうにハイタッチしていた。
ガイウスは、演習の終了を宣言して解散とした。その後は皆一様に朝まで熟睡した。




