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Consider

作者: ゆき

大将。


それが私が辿り着いた場所だ。私もかつては一人の小さな兵士だった。そして、その小さな命を全力で仲間の為に、国の為に捧げてきた。自分の守るものの為には、逆に敵の命はたくさん奪ってきた。


疑念やためらいなど一つも持たずに。

多くの命を、常にこのたった二つの手で。


そして、その働きが認められ、私は比較的早い速度で昇進をしていった。仲間からはジョークの一つとして、知らない奴らからは陰口として同じことが言われた。


「あいつは人を殺すのが得意なんだ。」

「あいつにとって人の命は、物同然なんだ。」


昇進していくにつれ、私は戦場に足を下ろすことは無くなった。基地の中で、情報と図面を見ながら、戦場の動きを作っていく。今まで自分の手に染めてきた血を、現場の兵士たちの手に染めていくようになった。苛烈な戦局もあった。私は、常に冷静に戦場を見定め、命令を下し、隊を指揮していった。その結果、たくさんの勝利を納めることが出来た。

しかし、元来、戦争とは多くの屍の上に成り立っている。私が指揮した戦争でも、数々の兵士が命を落としていった。それでも、私は常に冷静に戦場を見ていた。


周囲の人間の陰口が強まっているのも知っていた。


「さすがの勲章の数々だ。冷血に人殺しが得意なだけはある。」

「敵だけじゃない、仲間の命ですら物同然なんだ。」


私の中では他人の命は物の数でしかなかった。私は多くの敵を殺すことを得意としてきた。

ただ、


私はそれ以上に、自分を殺すことが得意だった。


銃口を向ける時、切っ先を向ける時、爆弾のピンを外すとき、常に私の中にもう一人の自分が顔を覗かせていた。しかし、その「自分」と目を合わせると、目の前の敵の「人」が見えてしまいそうになった。だから、私は敵を殺す前に、常に自分の中で自分を殺してきた。そうしなければ、自分が殺されるか、仲間が殺されていた。私が安全な基地で指揮を執っている間、目まぐるしく動く戦場では、私の作戦の実行のために多くの兵士が命を落とした。それは常にリアルタイムで報告された。

しかし、彼らの命を「1」として切り替えなければ、判断が遅れ、また別の多くが死に、今までに亡くなった兵士の命が無駄になっていた。

私は、自分の小さな命を全力で仲間の為に、国の為に捧げてきた。自分の守るものの為には、命はたくさん奪ってきた。周囲が何を思おうと、何を知らなくても気にはならなかった。多くの戦場を共にした戦友であろうと、結局最後まで他者の心の内など知ることなんてできないのだから。


そうして、私は大将までたどり着くことが出来た。


そして、私は今戦場から遠く離れた自分の家の書斎の椅子から、霞みがちに、窓の外の穏やかな朝焼けを眺めている。腹部の出血は止まらない。少し前に、妻が撃った。妻はずっと黙っていて、引き金を引いた後も何も言わずに出て行った。構わない。結局、最後まで他者の心の内など知ることなんてできないのだから。


                                    (終)




                                   


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