9話
夜食を済ませ、自室の机で軽く今日の復習を済まし、一段落した所でその場で身体を伸ばす。ふと携帯が音を鳴らしたので手に取る。どっちからの連絡だろうか?
画面を見ると佑からメッセージ。
『今日は一緒に帰れなくてごめんね』
『気にしなさんなー』
『じゃ、おやすみ』
「……ふっ。くくっおやすみまでがはえーよ」
俺の言葉に返事をするかのように、ぽんっと猫のおやすみスタンプが送られる。
それを最後に俺も画面を消し、机に戻した。
―――今日は色んな意味で疲れた……。
眉間を揉み、瞼を落とし今日の出来事を振り返る。放課後の高垣と朱音のどちらもが、俺の心を揺さぶった。
一方は新しく出来た友達の言葉で、もう一方は昔からの親友の行動で。
勉強は少し出来る方なのだが、いかんせんこういった経験は皆無。高校生になって、周りの環境がこうも変わっていくものなのか。
―――悩んでいてもしょうがない。明日から切り替えていこう。
思わず溜息が溢れる。目を瞑っていたせいか、次第に睡魔が襲ってきたのでそのままベッドへ移動した。
☆☆☆☆☆☆
未だ眠気が残る中、いつも通り母が作り置きしている朝食を一人で食べ歯を磨き、制服に着替える。春とはいえ未だ朝は肌寒く、直ぐに未だ新品当然の紺色のブレザーに腕を通し赤のネクタイを絞めスクールバッグを肩に掛ける。
「いってきや〜す」
なんの変哲もない、見慣れた朝。
暫く歩いて、何時もの二人を見掛けた。これまたいつも通り佑の方へ駆け寄る。
「おはようさん!二人とも!」
「う、今日は勢い強くない?おはよう。ん?」
「おはよーヒロくん今日は普段より寝癖が凄いよ?」
佑は少し苦しそうにしながら、朱音と一緒に俺の頭を見て二人して苦笑した。そんな変な寝癖でも付いていただろうか。毎朝セットするの面倒だから凄くても放置するが。
「俺の頭なんてどうでも良いの!それより昨日の佑、遅くまで頑張ってたな」
「近いうち部活内で練習試合するから、皆で練習頑張ってるんだ」
「応援に行こうか?朱音と一緒に」
「目立つからやめてね。それに恥ずかしいし」
「えっ返事してないうちに断られた……」
若干食い気味に拒否した佑に唖然とした朱音。そんな二人を見て俺も自然と笑ってしまう。
これも何時もの日常。変わらない風景に朝から心が満たされる。
―――けれど、なにか物足りない日常。
☆☆☆☆☆☆
そして、今日も一通り授業が進み放課後。三日連続で高垣と放課後の人気の無くなった教室を共にしていた。
「それで、私のアドバイスは効いた?」
そしてやはり、高垣から話を切り出す。短い間なのに、もはや見慣れた光景と言えるかもしれない。そう思うと少し笑いが込み上げてきた。
「急に笑わないでよ。気持ち悪いわよ」
「おい、正論だが俺の心は硝子だぞ。繊細に扱え」
「あんたはこの程度大丈夫の筈よ」
相変わらず高垣からの毒舌パンチ。硝子の心に罅が入りかけたかもしれないが、何故か強度を保証されてしまった。下げてから上げるその手法に、一瞬だけ優しいと感じてしまった俺は間違っているのだろうか。
さて、昨日のアドバイスだったか。
「わからんかった」
「ふ〜ん?それで?何か言いたいことがあったからこうして私を呼んだんでしょ」
「お、高垣も俺のことを分かってきたんだな」
「いや誰でもわかるでしょ。調子に乗らないで」
今度は怒られてしまった。まぁ本気じゃないだろうけど。
まぁ結局考えて悩んでみて、それでも解らなかった。だから……
「その答えを知るために、今度こそ、あの二人が結ばれるよう動く事にする」
高垣が何を言ってきたとしても揺らがない覚悟を持って。
昨日見た、大切な二人の笑顔を通して、その先にあるものだろうと勝手ながら解釈した。
「……まぁあんたがそれでいいなら良いんじゃない?」
「……え?あれ?何か言ってくるもんだと思ってたけど」
「色々あるのよ。色々ね」
俺の決意とは反対に、高垣は素っ気なく思わせ振りな返事をしたことに、俺は呆気に取られてしまった。
高垣の考えている事が余計に解らなくなった。
「まぁちゃんと協力するから。見つかるといいわね、答え」
「え……あ、あぁ!!よし、今度こそやってやるぜ」
今しがた抱いた疑惑はすぐさま横にやり、嬉しさの余り思わず握手しようと手を差し伸べた。
「明日から宜しくな、高垣」
「よろしく、新藤」
高垣も手を差し伸べ握手してくれるかと思ったが。
―――俺の手は、ぺちっとはたかれた。
※思い付きと勢いで書いているため、今後話の内、矛盾点等を少し訂正する場合もありますが、流れは変えないようにします。申し訳ありません。
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