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8話

 夕陽が降り始め、茜色の空から濃紫の空へ染め始める。

 校庭にある年季の入った木製のベンチに座りそれを見ながら、高垣に言われた言葉が何故か頭の中で反響する。


 ―――あなたは大切な物を見落としている。


 最後に高垣が見せた表情も合わさって、何をと考えれば考える程思考が袋小路に嵌っていく。

 物、者、モノ……語呂を変えてみたが、やはり解らない。

 合って数日の高垣に気付いたものであるのなら、他の人達も気付けるものなのだろうか。もしかしたら、親友の二人も……?


「しもしもー?」


「うっおあぁっ!?」


「お、やっと気付いたな〜?」


 唐突に肩を叩かれ背後から掛けられた声に素っ頓狂な返事が出てしまった。勢い良く首を振ると頬に何かを突きつけられた感覚。そして次に痛みが走った。


「ヘーン引っ掛かいだぁぁ!突き指するでしょ!?」


「いや、俺も結構痛いんですけど!!」


 涙目に俺の頬に付いたであろう左手の人差し指を右手でぎゅっと抑えている朱音。悪戯をしたかったのだろうが、思わぬ反撃をしてしまったようだ。何かすまん。


「んで、どうしたんだ?」


「ふーっふーっ!ん?私を待ってたんじゃないの?」


「お、いつの間にそんな時間か」


 どうやら考え込んでから相当時間が経っていたようで、気付けば周りにも下校する生徒の姿が。

 ここで家に直帰しなかった辺り、無意識に一緒に帰る習慣が身に付いているようだ。


「佑はもう少しかね」


「あれ?メール見てないの?先帰っててって連絡着てるよ」


 画面の映るスマホを此方に向け、軽くひらひらと振る朱音。見せようとしているのだろうが、そんな動かしたら見えるものも見えんがな。

 仕方無く自分のスマホの電源ボタンを押す。そしてロック画面に見える佑からのメッセージ。


「マジじゃん。残業?」


「いや、仕事じゃないんだから。ってそういうのはどうでも良いの!お腹空いたから早く帰るよ!」


「おー了解」


 ベンチを避け先に校門へと歩き出す朱莉を見て、グラウンドにあるテニスコートへと視線を向ける。柱に設置されている照明がコートを照らし、今もなお数名の生徒が動き回っており、よく見るとラケットを振っている佑の後ろ姿があった。

 大会でもあるのかねぇ、と思っていると、一旦打ち終わったのか振り返った佑と目が合った。

 思わずきょとんとしていたが、少し笑いながら此方へ手を振ってきた。それが嬉しくて俺も笑いながら手を振り返して踵を返す。

 なお、佑の笑顔を見れたらしき女子テニス部の悲鳴は聞かなかったことにしたい。


 ☆☆☆☆☆☆


「女子達の凄い悲鳴?何か嬉しそうな声が聞こえたけど何かあった?」


「さぁ。黄色い悲鳴ってやつだろ。知らんけど」


「ふ〜ん?」


 仄かに夕陽が差し込む歩道を歩きながら、校門にいた朱音の耳にまで届いたたであろう出来事の会話を適当にやり過ごし。

 そういえば、久しぶりに二人で帰っている事を思い出した。


「そういえば、こうやって二人で帰るのは何時ぶりだ?」


「中学の受験シーズンの時以来じゃないかな?ほら、始まった頃に私とたすくんで交互でヒロくんと帰ってた時」


「あー。勉強会開いてからずっと三人だったもんな。何か笑える」


「ンフフー。私達仲が良いからね!もはや家族と言ってもいいぐらい!!」


「はいはい」


 何か反応しろー!と適当に聞き流した俺の肩にぽすぽすと左手で握り拳を作り打ってくる朱音。人差し指はもう大丈夫なのかね?


「……あ」


「んー?」


 人差し指の事を思っていたらふと、先程考え事をしているのを思い出した。目の前で首を傾げこちらを見やる朱音にもわかるものなのか。


「あー、えっと、ん〜」


「んー?」


 ―――あなたは、大切な物を見落としている。


 聞こうとして、けれどそれ以上の言葉が喉から出てこない。

 何故だろうか。あの時見せた高垣の、こちらを見定めるような真剣な顔が頭を過ぎる。


「いや、やっぱ何でもない」


 これは、俺自身が考え、答えを出さなければならないものなのだろうか。考えに考え抜いて、それでも見つけられなかったその時は、誰かが答えに導いてくれるものなのだろうか。


「何か悩んでるんでしょ?」


「……」


「わかるもん。ずっとヒロくんを見てきたからね」


 先程の、子供の様な仕草を止めて俺の目を覗くかの様に顔を近付けてきた朱音。思わず顔を逸らそうと後ろに引っ込めようとしたが朱音は俺の両頬を両手で包み込んできた。


 ―――何だこれは。


 急な行動に、思わず固まってしまった。

 そんな俺を見て、朱音は微笑んだ。


「私ね、頑張るよ」


「何を……」


「いろんなこと。ヒロくんは教えませーん」


 そう言って、悪戯が成功したようなニヤニヤとした顔をしながら離れた。

 あぁ何だ、先程の失敗した悪戯のやり直しという事だろう。

 そう思うと同時に安堵した。こんな悪戯、心臓が幾つあっても足りないし、俺なんかに向けるものでもないだろうと。


「こら、そういう事はもっと相応しい相手にしなさい。誰に、とはあえて言わないが」


「いでっ」


 仕返しにと朱音の頭頂部にチョップをかます。

 しかめっ面を作った朱音は、足早に歩き始め、そして振り返った。


「楽しもうね!高校生活!」


「おう。佑も一緒にな」


 その時朱音は、これから先が楽しみだと、欲しいものを目の前にした子供のように、今までに見たことのない綺麗な笑顔を魅せてくれた。

 それを見て、俺はまたも夢想した。


(あぁ、やっぱこの笑顔の隣には、あいつが……)


 佑が先程照明に照らされながら魅せてくれた、柔らかくもクールな笑顔と。


 夕陽が降り、濃紫から星が見えるほどに暗くなり始めた今。

 そんな中でも煌めくような、向日葵の様な笑顔が、とても似合う。


 悩んでいたことを忘れていた事に気付いたのは、家に帰ってからだった。

※思い付きと勢いで書いているため、今後話の内、矛盾点等を少し訂正する場合もありますが、流れは変えないようにします。申し訳ありません。


ブックマーク、評価、いいね等ありがとうございます。

急に伸びてきて驚きました。何かあったんでしょうか。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 勘違い系のラブコメ?と思いますが、王道でギスギスしなさそうな、安心して読んでいけそうな雰囲気。 [気になる点] 主人公も、すでに幼馴染枠に入ってしまっていると言いたい。
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