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57話

 俺に変な印象を言い放ってきたのは、まるで今の高垣を少し幼くした顔立ちの女の子。

 身長は本人より低く、髪の色は一緒の赤茶色であり高垣のボブカットとは違い肩に届かない位置で切り揃え後ろに小さいポニーテールを作り流している。

 並んで見れば直ぐ様姉妹かなと勘繰れた故に、見た瞬間に高垣にそう聞いてしまったのも仕方なきことだろう。


 見るからに一般的な中学の夏服を纏っているし歳下だとはっきり解るのだが、思い出したかのように歳上である佑へ何故か恨みがましい顔で敵視を向けていた。

 その様子がまるで大型犬に犬歯を見せる子型犬。そう、はっきり言うなれば雄雄しく鎮座するゴールドレトリバーを前に勇敢に挑むチワワのようだ。

 近所に居る妙に人懐っこいゴールドレトリバー元気かな。


 それにしても、高垣に妹らしき家族がいた事にも驚愕ものだが先ずはこの状況に俺が付いてけへん!!佑も何やらかしたんだ?


「私が言いたいこと、勿論分かってますよね」


「ごめん、そもそも状況がよくわからないんだけど」


 その構図のまま何やら一方的に問い詰めようとしている妹さん(仮)と、何のことか本当に分からないと言った雰囲気を醸し出す佑。


「詩織ちゃんそれ美味しい?あとあの子ってやっぱり」


「甘過ぎるからあげる。そういえば朱音には一度教えたことあるわね。見て分かる通りよ」


「そっかーありがとー!……うぇ!甘!」


「全部飲んでちょうだいね」


「えぇ……」


 その真逆、既に正気を戻した高垣と朱音は俺が上げたジュースの味について感想を言いあっていた。

 どうやら女子勢にはお気に召さなかったらしい。でもちょっとどんな味か気になるところ。


 てかさぁ、結局この子は妹さんなの?どうなの?


「しらばっくれるつもりですか……いや、もしかして思い当たる節が沢山あるからどれか分からないとかですか?」


「うーん。朱音、どう思う?」


「いやいやただの人違いじゃんそこ正そうよ。新藤さんって言ってたし」


「は?」


「それもそうか」


「え?俺?何で?」


「え?」


 埒が明かないと思ったのか朱音に尋ね、突然名前が呼ばれ返事をする俺、俺かと思って問い詰めた相手が人違いだったことにより呆ける妹さん(仮)


「俺、浅見 佑。どうぞ宜しく」


「春辺 朱音で〜す」


「お、お姉ちゃんの妹のた、高垣 茉莉(たかがき まり)と申します!この度は失礼な態度を取ってしまい申し訳ありません!お姉ちゃんがお世話になってます!」


「「こちらこそお世話になってます」」


「本当にすいません。あ、浅見さん?」


「気にしないで」


「それにしても、茉莉ちゃんって詩織ちゃんにそっくりだね〜」


「は、はい。よく言われます。か、可愛い……」


「え〜ありがと〜。茉莉ちゃんも可愛いぃ〜」


 互いに自己紹介が交われ、佑に対してキツイ言い方をしたことに罪悪感が募っているのか若干声が震えているが、礼儀正しい言葉と共に頭を下げた妹さん(確定)

 次第に雰囲気が緩み会話に。無表情の佑の顔を見て不安そうにしていたが、朱音の言葉に嬉しいと感じているのか顔を綻ばせた。朱音に揉みくちゃにされてるが。

 側で突っ立ったままの高垣(姉)は会話に一切入ること無く無言でその遣り取りを眺めている。


「なら、この人が……」


 今度はゆっくりと此方に振り向き、次に確信を得たようにそう呟いて佑に向けた視線を今度は俺に向けてきた。いや、何なら先程以上に睨みを効かせている。

 え、じゃあ何か。あの敵視も態度も、元々は俺が受ける筈だったやつなの?俺、何かやっちゃいました?


「あー、俺が新藤 喜浩です。宜しくな……高垣妹」


 目を向けられたので俺も自己紹介。この場に高垣(姉)も居ることから分かり易いように名前でと思ったが呼んだら呼んだでもっと怒りに染まるかもしれないと危惧してそう呼称したが問題無かっただろうか。

 取りあえず握手で何とか怒りが収まらないかな、と思い手を差し出してみたが……。

 相手が高垣の妹と知って態度が砕けてしまったのか、よくよく考えれば初対面の女子にするものじゃ無いと安直な考えを改め手を引っ込めようとした。


「馴れ馴れしくしないで下さい」


 何もしないだろうと思っていた妹さんからは意外なことに手でパシリと叩かれ乾いた音鳴り響く。

 そこまで本気のような叩きには見えなかったが、じわりとひりつく掌を眺める。


 周りでは『あわわわ』やら『……ワォ』、『茉莉……あんた初対面の人に対して何をしてるの』、『だってお姉ちゃんっ!』やらと少しざわついている。

 けれど俺は周囲の音を気にすること無く、その感触であることを思い出して『この姉にしてこの妹あり』なのだと只々実感していた。


「高垣。あ、姉のほうな」


「何よ」


「この子は、確かにお前の妹だ」


「何をもってそう思ったのか一度アンタの頭の中身覗いてみたいわね」


 いやだって、前に宜しくって手を差し出したらお前も俺の手を叩いたじゃんか。

 まんま一緒よ?今の遣り取り。姉妹ってことだな。




 ☆☆☆☆☆☆




『ここは人目にも付くし何時までもこの場に居たら先生に怒られるから、一旦学校を離れましょう』


 収拾がつかないと感じたのか高垣からそう言われ、あの場を離れた俺達。

 言われてから遅れて好奇を見るような視線に気付いたが、また変な噂になるのだろうか。

 いや、今回は大丈夫な筈だ。ただ喧しい、といった感じに目立っていただけと信じよう。


 そして今、先を先導する高垣姉妹に着いていく形で俺、朱音、佑で並んで帰路とは真逆の道を歩いていた。

 校門を過ぎて後日改めて、でも良かったのだが妹さんがどうしても俺に言いたい事と聞きたい事の二つがあるらしく、今から何処か落ち着ける場所に行くとのこと。


 校門を過ぎた直後に聞かされたが、どうやら今日はたまたま買物帰りの親が車で序にと塾通いの妹さんと高垣を迎えに来ているらしく、近くに停車したが中々来ない姉を心配した妹さんが校門前まで迎えに行ったら、家で見たらしい、以前遊びに出掛けた際に四人で撮ったプリクラに映っていた佑と朱音を見つけ佑を新藤だと思ってその場に駆けつけたのが事の始まりらしい。

 実際に高垣は妹さんには誰々と全く教えていなかったらしく、名前と顔が一致していなかった不慮の事故ではあるのだが何故俺に対してあんな態度を取ってきたのか聞けば、何やら俺が高垣に対して良くないことをさせようとしていると思われているらしいとの事。身に覚えがありませんね。

 でも一つ疑問が湧く。何で新藤って名前だけ知ってんの?

 そう聞いてみたが『後で話します』とそっぽを向かれた。恐らくその落ち着ける場所で、という意味だろう。

 でも高垣姉妹の方は車、俺達は徒歩だしそんな場所と言ってもどこに向かうのだろうか。


 肩を並べ歩く姉妹を見る。

 妹さんは姉の高垣の事が好きなのか、先程の俺に対する態度とは一変して何やら楽しそうに高垣へと話掛けていた。因みに高垣は短い相槌を打つだけで素っ気なく見えなくもないが、多分あれがこの姉妹の普段の姿なのだろう。

 むしろ高垣が『マジ〜?』やら『やばくない?』みたいな相槌を打ってたら泡拭いて即倒する自身がある。


「詩織ちゃんに妹が居るって聞いてたけどそっくりだったね〜」


「いや知らなかったけど」


「あれ、詩織ちゃんから聞いてなかった?もしかして私も言ってなかった?」


「初耳。ヒロは?」


「いや、俺も初耳だ……が……」


「何か思い出した?もしかしてどっかで聞かされてたとか?」


「いや、そんなことは無い筈なんだが……何か引っ掛かるな」


「ふ〜ん?」


 朱音と佑の会話を聞き流しながら、喉に小骨が刺さったような感覚に陥る。

 確か何処かで兄妹でも居るんじゃないかって思った事があったような。あれって何時だったか。

 思い出せそうで思い出せない。自分の記憶力の無さに情け無くなる。あ、ギャグになっちゃった。


「三人共、向こうのコンビニに私の親の車が停まってるわ。一旦話をするから赤に切り替わる前に此処渡るわよ。着いてきて」


 顔を顰めながら必死に思い出そうとしていると、前を歩く高垣から場所を指しながら声を掛けられた。

 道路を挟む形で建てられたコンビニの方へと向かう為、タイミング良く信号が青になっていた近くの横断歩道を赤になる前に全員で少し駆け足で渡っていく。

 もしや落ち着く場所ってコンビニ?


 コンビニへ辿り着けば駐車場には種類問わず数台停まっており、その中の一台、前向きに停車していた白の軽自動車の下へ姉妹は向かっていった。

 その車を見て、俺はやっとこさ何処で兄妹云々を思ったか思い出した。

 前に放課後で高垣と別れた時、帰路についていた俺の横を過ぎ去ったその車の後部座席で何やら二人分の影を見掛けたことがあったのを。


 今回と同じ状況であればあの時にも一緒に乗ってたのは妹さん。その時挨拶しておけば今回の誤解は生まれていなかったかもしれない。

 いやでも、その時は挨拶する間もなく車通り過ぎて行ったし。あれ、だとしたらあの時俺を見ているはずだが?そういえば運転してた母親が俺に向けて何か声を掛けていたな。


「お母さん、ちょっといい?」


 高垣はその車の助手席側のミラーを傷付けない程度にコツコツと叩き、それに反応して開いた中で待っていた親へ何処か申し訳無さそうに会話し始めた。薄っすらと聴こえる声の高さからして今回も母親のようだ。もうママって言わないのね。

 そして邪魔をしないように俺達三人は歩道側から見守ることにした。


 その会話の中でファミレス、という単語が聴こえたので高垣が言っていた落ち着く場所っていうのはファミレスのことらしい。それだったらここから近い所に一店舗あったよな。そこかな?住んでる地域が逆だから入ったことは無いけど。


 というか高垣さんや。なんか妙に恥ずかしそうにしてますけど、俺達が見てるからかな?この恥ずかしがり屋さんめ☆

 アッッ、すいません何でも無いです。そんな見ないで下さい。


「挨拶、したほうがいいよね」


「けど、なんというかこう……」


「来んなって雰囲気出してんぞあれ」


 少しそうした時間が経ってから、朱音がそう呟くが。

 俺達としては娘さんの友人として一言挨拶に赴きたいが、ジロジロとした目でまるで来るなと牽制しているかのような動き見せる高垣に俺達三人は立ち尽くす。


「まあ、挨拶する機会ぐらいあるだろ。このまま付き合いが続けば」


「それもそっか。取りあえずは何か言われるまではそのままで」


 ここは高垣の意思を尊重し、再び見守ることに。

 少しして会話が終わったらしく、高垣姉妹は邪魔になる鞄だけを車内に置いてそれぞれ財布だけを手にし、最後に母親に軽く手を振ってから此方へ戻って来た。


「それじゃあ行きましょうか、ファミレス」


 雰囲気的に母親が乗っている車に向けて三人で軽く頭を下げる。

 そうしてまた高垣姉妹と、今度は一緒に並ぶと言って妹さんの横に着いた朱音達を先頭に俺達は目的地のファミレスがある方向へ足を進めていく。


「……うっす」


「どうしたのヒロ?」


「んにゃ、何でもない」


 数歩歩いた所でなんか視線感じるな、と思い何となく高垣家の車へ振り向けば周囲はほんのり暗くなっているにも関わらずミラー越しにその視線の持ち主、高垣の母親とばっちり目があった。

 何なら手も振っているようにも見えたので此方も見えるように再び頭を少し下げた所で佑から声を掛けられたので何でも無いと答えながら今に和気藹々とした女子達の後ろに着いていった。

 高垣の母親について分かった事といえば、遠目で見ても分かる程にこの姉妹は母親似なんだな、ということだけだった。


 さて、妹さんは俺に何を言いたくて、何を聞きたいんだろうな。





「そういえばお姉ちゃん」


「何」


「今更になっちゃったけど髪がちょっと乱れてるよ?走ったりしたの?」


「あ、ホントだ。よく見れば何か枝毛みたいなのがちらほら……」


「は?……ええ、ちょっとね」

さて、何でしょうね。

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