41話(1)
愛とは何ぞや。高垣から語られたその意味を考えた。
だが結局の所、俺の中でいまいちこれといった答えはすぐには出てこなかった。そして高垣は千差万別と、こうも言った。ならば人それぞれで独自の解釈を持っているという事。
愛を解明するため、俺はアマゾンの奥地へ向かう事にした。
「なぁアマゾン……あ、蔵元」
「何故俺にアマゾンと呼んだのか弁明はあるか?もしかして俺の頭を見てからかってるのか?うん?」
現国の授業が済み、三限目の数学の休み時間で俺は前の席の蔵元へ聞いてみることに。
考え無しに口にした俺の言葉に蔵元は睨みを聞かせながら振り向く。
確かに坊主頭の蔵元に対して今の言葉は的確では無かった。
「済まんハゲ元」
「ハゲてねぇわ!スポーツ刈りじゃごらぁ!!」
「髪短かったらわざわざ乾かさなくて良いから楽だろ」
「めっちゃ楽だぜ。お前も―――」
「蔵元にとって愛とは何ぞや」
「お前何なん?」
蔵元の反応は面白いのだがこのままでは話が進まないと判断した俺は愛について話を切り出した。そんな俺を不気味なものを見る目で見てきた蔵元だったが、俺の言葉について考え出したようで『ん〜愛か〜』と上を向いている。
「ふっ迷える子羊の為に、この恋愛マスター蔵元が御教示しんぜよう。感謝しろ」
「因みに恋愛経験は?」
「無いに決まってんだろう。ギャルゲーなら百戦錬磨……」
「あ、昨日聞くの忘れてたけど新作どの位進んだ?終わったら俺に貸してほしいんだけど」
「まぁ聞け、いいか。まずはな―――」
流石蔵元。もしや経験あるのでは、と思わせておいてこの仕打ち。くっ沈まれ俺の右腕!!
だが蔵元がそう言った事で昨日佑がこっそり教えてくれた例のブツの事を思い出した。
とある恋愛シチュエーションゲームの新作のことだったのだが、以前なんてことない会話の内でギャルゲーとかやるぞ、とそういう話になったのだ。そのジャンルはしたことが無いなと、案外二人の為のシチュエーションを考える道具になり得るのではと思った俺は蔵元と一緒にどれが面白そうかと探したのだが、気になった物は新作でその時は未だ予約段階だった。この時、俺達の調べている物が気になったのか佑が声を掛けてきたのだが、その時は少し興味を持っていた程度だった。
最新作なら高いよなと諦めた俺だったが蔵元が正月のお年玉を削って買うぜ、とそう言った。そこまでするのかと驚愕したがまぁ蔵元だしいいか、と思ったものだ。『エロゲーって今の歳で買えるの?』と佑は呟いていたので念入りに全く違うものだと説明はしておいた。
頭を上げ言っている内容を聞き流しながら、仕方なく如何にも聞いてますという体を取って蔵元を見ているように見せかけて黒板を見る。日直が授業中に書かれた問題文を消している最中だった。
「特に清楚、そしてギャル、さらには幼馴染み、色んな……」
「ほう、詳しく」
次第にコイツ、新作を始めた影響か既に頭がお花畑に染まってやがると思ったところで俺にとって無視しては居られない単語が出たことにより先程とは違って改めて聞く態勢を作る。
そんな俺を見た蔵元はこれでもかという程に口角を吊り上げ、仕方無いなぁといった顔になり始める。殴りたいこの笑顔。
「えぇ〜どうしよっか「僕もしてみたいな〜」な……え?」
何故か勿体振り始めた蔵元の言葉を遮るように、突如誰かの言葉が俺達に掛けられた。
「み、宮本!?」
「宮本君……君にはまだ早いよこの話は」
「失礼な!僕だって高校生だよ!?そういうのも……盗み聞きみたいなことになっちゃってごめんだけどちょっと興味が湧いちゃって」
なんと、こんな会話に縁の無さそうな宮本君だった。
ちらちらと俺達を交互に見ながら様子を伺ってくる。
取り敢えず俺と蔵元は視線を合わせて、頷きあう。
体育祭のメンバー決めの際、視線だけで言葉が通じ合った俺達だ。きっと言いたい事は同じだろう。
「君は純情のままで―――」
「んじゃ土曜日、皆時間空いてたら俺んちで三人でやろうぜ。それまでプレイするのは我慢するからよ」
「え?良いの!?やった〜楽しみだぁ」
「ん?新藤は何て言った?」
「いや、何でも無い。それより三人でそのゲームするのはどうなんだ?」
何故か純情そうな宮本君に恋愛ゲームは早いんじゃないか、そう言おうとしたのだが俺と蔵元の意見は見事に割れた。蔵元の言葉に宮本君はぱぁっと花が咲いた様に笑顔になりそれを見て今断るのは忍びないと感じてしまった。取り敢えず言葉を濁して蔵元へ疑問に思った事を聞いてみることに。
ああいうゲームって、一人用だしそれに一人部屋に籠もりながら、具体的には親に見つからないようにするものじゃないのか?若しくはイヤホンで音漏れ対策など。
「いやいや、三人であーだこーだ言いながら話進めていくの面白そうだと思わないか?」
「「確かに」」
蔵元のその言葉に、俺と宮本君は揃って同意してしまった。想像してみると確かに、面白いかもしれない。ウンウンと目を閉じながら何度も頷く宮本君の姿を見て、俺も同じく頷く。
最近悩むことが多かったからこういった馬鹿な遊びはかえって良い刺激になるかもしれない。そう思う様にするとちょっとワクワクしてきた。
「なんなら泊まって行くか?その日は……徹夜しようぜ!!」
「「おぉ!」」
握った拳を突き出し徹夜宣言をした蔵元に対して俺と宮本君も同じく拳を突き返す。
ここに、恋愛ゲーム徹夜攻略チームが生まれた。
「明後日かぁ。楽しみだ〜」
「菓子とか買っていくぞ。何が好みはあるか?」
「お風呂とか借りてもご両親に迷惑じゃない?」
「大丈夫大丈夫!!そんな事心配すんなって」
ワイワイと土曜日が来ることを今から楽しみに話し合う。そして予鈴が鳴ったことにより次の授業の準備を始めるために解散した。
時間が経ちそして数学の教諭が来たことにより教室も次第に静けさが戻ってくる。
日直の号令により、数学の授業が始まった。
「では三十二ページを開いてください」
指定のページを開き、教科書に載っている公式を見つめながら、ふとこう思った。
―――結局、愛って何ぞや。
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たまにはこんな馬鹿な青春を。ほんの少し続きます。




