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39話

「ヒロ、耳貸して」


「ん、何じゃラホイ」


 午前の授業が終わり昼食も終えた俺達四人は談笑していたのだが、佑から内緒話があるらしく片耳を佑へと差し出し待ちの姿勢を取る。


「例のブツ届いたって……蔵元がそう言ってた」


「何……だと……?」


 会話の中身は女子には聞かせられないものであった。

 なる程、この内容であればコソコソしなければならないのは理解したが今じゃなくて良くね、と言うのは野暮だろう。きっと、佑も今すぐ俺に伝えたかったに違いない。


 蔵元へ視線を寄越すと此方を見ていたらしく視線が合い、俺達に小さくグッドサインを送っていた。


「あ……あすまろ事件」


「あすまろ?何それ」


 そんな俺達の事を側で見ていた朱音は、ポツリとそんな事を呟いた。ワードに思い当たる節が無いのか高垣は聞き返している。


「ASMRの事だよ高垣さん。朱音はそれをあすまろで覚えちゃったんだ」


「朱音……アンタそんな風に言ってたの?」


「だってそのまま読んだら長いししかもあすまろって語呂可愛いじゃん!詩織ちゃんはあすまろって読まないの!?」


「読まないわよ恥ずかしい」


 朱音の間違った覚え方に佑は意味を訂正して高垣へ教える。それを聞いた高垣は呆れた視線を朱音に送り、朱音は心外だと言わんばかりの勢いで言い返す。


 ASMR―――自律感覚絶頂反応。一般的には「エーエスエムアール」と呼ばれている。

 簡単に言えば人が聴覚、視覚への刺激により脳がぞわぞわはわ〜ん、となる反応。例えると耳掻きの音だとか自然の中で流れる音や包丁のザクザク音だったりと種類は様々だ。


「いや、意味は分ったけど事件って何??」


「中学時代に流行ったんだよ。耳にふぅって息かけるの」


「……何となく分かったかも」


「試してみるか?とぶぞ」


「嫌よ」


 細かい事を言ってきた高垣に俺は適当に返事をする。すると高垣は嫌そうな顔をしてきた。果たしてその反応はされる事自体が嫌なのか俺にされるのが嫌なのかどっちだろうか。若しくは耳が弱点……なんてな。


「まぁ事件っていうか……佑が面白がって同級生達にしまくったんだ」


「ブイ」


「誇らしい事でも無いでしょうが」


 あれは酷かった。

 中学二年の時、たまたま女子達がワイワイと話していたそのフレーズを聞いた俺は壁ドンとは何ぞやと調べ、これはシチュエーションに使えるぞ!と思い更に深く調査した結果。壁ドンからの相手の耳元で甘い声で囁き赤面させるという技がある事を後日遠回しで朱音にしてみてという意味を込めて佑に教えたのが事の始まり。


 ―――何を勘違いしたのか最初の犠牲者は教えた張本人たる俺になった。場所も廊下でしていたためそのまま壁に追いやられた俺。そして対面した時の佑は目の奥で綺羅星が光っているかの如く楽しそうといった目をしていた。

 逃げようとした俺に佑は両手と教えていない筈の股下に足を差し込むといった行動まで移し退路を防いできた。


 このままではある意味やばい、そう思った俺は横でそれを見ていた朱音に助けを求めたが朱音は朱音で頬を赤らめぽーっとした表情で俺達を見続けていた。


 そして、ついに壁ドンは実行に移された。耳元で何かを囁かれ、最後に息を吹き掛けられた俺はズルズルと背中を引き摺らせながら尻餅を尽きノックダウン。

 その後の記憶は朧気だったが、微かに見えた朱音にも迫る佑の姿を見て心の中で『いけっ佑!』と応援したのを覚えている。

 気が付けば女子のみならず大半の男子までもが生きる屍となった。


 後に朱音にどうだったと聞けば只々擽ったかったっという残念な感想。クラスメイトは佑の興味が失せるまで犠牲となったのだ。


 後にこのぞわぞわっとする現象を調べ上げ朱音の言うあすまろ、もといASMR事件という呼称になりこれを教えた黒幕が俺だと判明し、皆からフルボッコにされ幕を閉じた。


「あの時のヒロくん、オンナにされちゃう!とか言ってたね〜」


「馬鹿じゃないの?」


「そう言っちゃう程にヤバかったんだって!俺意識飛んだんだぞ!」


 唇に人差し指を添えて過去を振り返る朱音とその内容を聞いて軽蔑の視線を俺に向ける高垣。

 しかしと反論してみたがはんっと鼻で笑われた。解せぬ。


「またしてあげようか?」


「やめろ!!」


「じゃ、ヒロが俺にしてみてよ」


「ファッ!?」


 佑の突拍子もないその一言に、俺は間抜けな声を上げるしかなかった。


「いいか佑。あれはそもそも異性の相手にするもので尚且つ男子なら格好いい奴が意中の奴に、女子ならヤンキーっぽい子が純朴そうな奴にやるから良いんだ!」


「恋愛漫画の読みすぎよ」


「高垣はお黙り!!佑、高垣にやるんだ!」


「殴られそうで怖い」


「あ……けしかけてごめんね」


「アンタ達は私を何だと思ってるわけ?」


「「俺達トイレに行ってきまーす」」


 高垣に馬鹿にされたと思われた俺は思わず佑に高垣へと理解らせてやろうと命令を出す程躍起になってしまった。しかし、俺と佑の漫才のような光景を見せられた当人はイラッときたのか眼光を鋭くして俺達を睨んでくる。その顔を見て二人で逃げの一択を選んだ。


 すぐ近くの扉を開き佑とトイレの方向へと歩を進め、廊下を少し歩いた所で高垣へ要件があった事を思い出した。佑へ先に行くよう指示を出し、今しがた出た所とは反対の扉から再度教室へ。

 何かしら会話の花が咲いてるのか談笑している二人の背中を見ながら、こっそり高垣の耳元へ顔を近付ける。


「高垣、放課後」


「ひゃんっ!?……っアンタねぇ!!」


「よろしく……くふっ。ひゃんって」


 朱音に聞こえないよう俺はぽしょりと要件を伝えたのだが、突然の事に驚いたのか普段とは似つかわしく無い可愛らしい反応を見せた高垣。

 一瞬で分かる程に耳が赤くなり、その耳をばっと手で隠し始め此方へ振り向いて来た。先程の鋭い視線から今度は射殺す様な視線に変わった所で肩をポンっと叩いてから俺は笑いを堪えながらそそくさと退散する。


 あの反応からして高垣は耳が弱点。覚えておいて損は無いな。使える時が来るかは不明だが。

 というか好奇心でやってしまったがまじで嫌がっていたらどうしようか。セクハラとか言われて訴えられないか?土下座で赦してくれるだろうか。


 それに何故やったのかと問われるだろうが、やってみたかったからやった、としか言えない。


「顔凄いよヒロ。何かあったの?」


「いや、何、でも……っ無いぞ」


「笑い堪えながら冷や汗かいてる……お腹痛いの?」




「くっ油断した……。アイツならノリでやりかねないの分かってたのに……」


「いいなぁ。何言われたの?」


「そんな物欲しそうな顔を私にしないで直接アイツに頼みなさいよ。それと、私をからかっただけよ」


「そっかぁ」


「ふふっ覚えておきなさい新藤君」


「わぁいい笑顔」

※思い付きと勢いで書いているため、今後話の内容、矛盾点等を少し訂正する場合もありますが、流れは変えないようにします。


ブックマーク、評価、いいね、感想、誤字報告ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  そうか‥‥‥高垣さん耳が弱点か‥‥‥。    中学時代に腐女子量産しまくってて草。  しかも発案者なのに受けというw  一番天然なのは主人公ですよねやっぱり。 [一言]  朱音もある程度…
[気になる点] ふと思ったんですけど体育祭編は34話で終わってるっぽいのにまだ「思い通りの体育祭......?」の章のままなんですか?(意図して章タイトルを変更してないのならすみません。)
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