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★春辺 朱音 2

『何ぃ?算数を教えてほしい〜?……任せろ!明日!明日な!?ちなみにわからない所今教えて』


『俺はここがわかんなかった』


『ありがとう』


 ―――小テストで酷い点数を取った日。

 その結果が見つかればお母さんに叱られる。そう思ってもしバレてももう解ったから、と言えるようその日に彼に勉強を教えてくれるよう懇願した。翌日、たすくんと三人で約束通り教えて貰った。


『でかっ。やば、こっちくる』


『どうしよう!噛まれるかも!?』


『くっここは俺を置いて先に行け!!……フフ、言ってやっ『ワン!!』たわーー!?あぶぶぶ』


 ―――学校の帰り道、三人で帰路に着いていた時。

 私達の元へ、持ち手の居ないリードを地面に擦りながら走ってくる大型犬。自分達と近い大きさの犬が来たことにより焦る私の前を彼が背を向けて立つ。何かを言った最中に飛び掛かられ、後ろに倒れ背負ったランドセルがクッションになったことで頭を打つことは無かったが、元々人懐っこいのかベロベロと顔中を舐め回された。

 慌てながら飼い主の人が駆け付けた事でその場は収まった。


『お邪魔しまーす。おば……ママさん!佑と一緒に朱音のお見舞いに来ました〜。……ここが朱音の部屋か。ノックしてもしも~し』


『大丈夫?朱音の好きなプリンあるよ』


『う〜ありがと〜』


 ―――季節の変わり目に体調を崩し風邪を引いて学校を休み寝込んでいた日。

 夕方になっても引かない気怠さと寂しさにより憂鬱になっていた時。彼はたすくんと一緒にプリンを手にお見舞いに来てくれた。その場で私の様子を見た私はプリンは食べられないだろうと言い出して、冷蔵庫に入れれば良いものを代わりと言って目の前でプリンを食べられた私は食べ物の恨みは怖いのだと後日二人に教える事にした。


『良いか?包丁の握り方は、添える手は猫の手だ。そうそおおおい!?もうちょい指丸めて!お前んちの仔猫ちゃんみたいに!……昨日練習しててホント良かった』


『みうちゃんみたいに……こ、こう?』


『そうだ。……ちょっと男子ー、見てないで手伝えよ』


 ―――彼と同じクラスになって、家庭科の授業で一緒に料理を作る事になった日。

 私の危なっかしい手際に焦りだして、拙いながらも手本を見せて貰いながら他のメンバーと一緒に料理を作った。意外に彼が包丁を扱える事に私は色んな事に負けた気がして心の底から悔しかった。


『やっぱお前は笑顔が似合うなー、うん』


『んへへ〜。あいあと〜。私はヒロくんの笑顔好きだよ!』


『フッ。にひるな笑みと言ってくれ。佑とお揃いの……』


『今のそれは嫌い。たすくんと違ってヒロくんのそれは気持ち悪い顔になるから』


『まじかよ』


 ―――とある休日。たすくんは用事で来れなくて、二人で遊ぶ事になった。

 何時ものように待ち合わせ場所で、一人ベンチに座っていた彼の隣へ駆け寄ってから挨拶をして、自然に溢れた私の笑顔に対して、朗らかな笑みを浮かべて私の頬をむにむにと撫で回しながらそう言ってきた。私の歯に衣着せぬ言葉に彼は項垂れた。


 次第に、自分の感情を表に出して過ごすようになっていた。顔色を伺って踏み込む事を躊躇していたあの時の私とはかけ離れ少しずつ今の自分へと。


『最近とても楽しそうね。それに変わった。いい事だわ〜』


 いつかの夕飯時、その日の出来事を話していた私にからかう調子でお母さんにそう言われ、記憶を掘り起こして見れば確かに、と実感するようになった。


『ふっ……朱音も昔と比べ随分たくましくなったな』


『ヒロのお陰だね』


『馬鹿野郎お前照れるだろう馬鹿野郎。そういう佑もだよ。ほら、あの朱音みたいに笑顔笑顔〜』


ひゃひゃひゃ(ははは)


『お前は変わった様で変わらんな、俺が間違ってた。だがそれもお前の味があってヨシ!!』


『ヨシヒロだけに?』


 彼が加わったお陰で今の自分になる事が出来た。

 上級生になって、友達に囲まれた私のその様子を見た彼はうんうんと深く頷きながらそう言って、隣で返事をしていたたすくんに私にもしてたようにその頬を撫で回す。そんな遣り取りを見て、無意識に笑みを浮かべてしまう。


 授業中、休み時間、放課後、休日。見掛ければいつの間にか視線で彼を追い始める。

 けれどその時は、自分がそうする理由をまだ分かっていなかった。


 けれどはっきりとわかることは、幼い頃からずっと一緒にいた私達の関係を、幼馴染みというのだろう。

 友達というあやふやな枠では無く、お互いを熟知する特別な繋がり。




 そのまま中学に上がって、残念ながら一年時は三人ともがクラス別になった。けど前と違って気の合う友達が増えた事で寂しいという感情も無くなり。

 そして周りが『あの子はあの人が好き』、『ある人に告られた』と恋愛について騒ぐようになった。そしてある日の放課後、友達が揃ってこう聞いてきた。


『聞くけど、朱音ちゃんは結局どっちが好きなの?』


『へ?どっちって?』


『もうおどけちゃって〜。浅見君と新藤よ。昔っから一緒じゃない。で、どっち?この際教えなさいよ』


 そう言われ、頭の中で浮かぶのは……。

 けど、それが幼い頃からの付き合いからなのか、異性としてなのかはっきり答えが見付からなかった。


『えー。ん〜?』


『?はっきりしないの?』


『だって、小さい時から一緒だったから……居るのが当たり前って感じがして。どういう風に好きなのかって言われると』


 そう返した私を、呆れながら見た友達はテレビや漫画で見るような井戸端会議をする主婦達の様にこそこそと私に聞こえるように話し始める。


『あらあら聞きました奥さん?朱音ちゃんまだどっちが好きなのか自分でわからないみたいですわよ』


『まぁまぁ奥さん。一目瞭然なのに……これは自分で気付いてないパターンですわね』


『キャ〜』と、頬を抑え悶える友達。それに自分自身の事は一番解ってると思ってむっと返す私。


『その根拠は何?教えてよ〜』


『それじゃ教えてあげる。どっちをよく見てる?』


『見てる?』


『そうそう、目で追ってしまう〜って事』


『それなら……『お迎えに上がりましたよ〜』ヒロくん?』


 私達の会話に、帰り支度を済ませた件の彼が混ざり込んできた。友達二人は彼の姿に気付き、彼の方を向いてしっしっと手を払い邪険に対応し始める。


『女子会に入ってくんな』


『アンタは一生廊下で待ってなさい』


『え……お前らどうしたんだ急に。目を見開きすぎて怖いんだけど』


『『早くしろ』』


『怖!あ、もしかして朱音を取られると思って『『早よ出ろ』』はい、今出ますね。朱音ー。佑と廊下で待ってるからな』


『あ……うん』


 『恐ろしや恐ろしや』と言いながら教室に入ってすぐに退室した彼に、迎えに来てくれて嬉しいといった気持ち半分、あっという間の出来事に困惑半分になりながら扉が閉まった後も見続ける。


『あら、それ何ですかね〜?』


『まぁ、その手はどうしたのかしらね〜?』


『え?手?あ……』


 気付けば、無意識に彼の背に小さく手を伸ばしていた。指摘されてやっと気付きさっと手を机の下に隠す。自分で取った行動に恥ずかしい感情が湧き上がり思わず顔を俯かした。


『このままでは新藤が何処かの誰かに盗られちゃうかも〜』


『ヒロくんが……』


 おちょくるような口調で二人の名前を使って例えだした友達の言葉に、その光景を想像して、嫌な感情とそれを認めたくない気持ちでいっぱいになって、でも自分が彼に対してそう思っている事に気付いてまたしても恥ずかしくなる。


『『可愛い〜』』


 また俯いた私の頬を弄りながら笑いだす友達。

 ここから、違う意味で彼を目で追う事になる。




 そして、段々と自分の気持ちがどんなものか解っていくと同時に、少しして同学年に付き合った人達が出来た、と噂が立ってから彼は変わりだした。


『今日はちょっと帰り用事があるから、二人で帰ってくれ』


 この言葉を期に、彼は私達から離れるかのような露骨な態度を取り始める。最初は珍しい、何があるのだろうか、と疑問に思いながらも言われた通りにたすくんと二人で帰って……。

 夕陽で照らされる私達の影が一つ減る日が続く。


『明日朝早く学校行くから二人で行ってくれな〜』


 次の日も。


『今日は見たい番組があるから早めに帰るぜ』


 その次の日も。


『昼はちょっとな、勉強してるんだ。うん』


 一週間程経って、何かおかしい事に気付く。

 私にはどうしても私達とは別行動を取るような仕草に見えて仕方無かった。何時もの挨拶も、迎えも、別れの挨拶も、それらが全て変わって、私達にとっての当たり前が当たり前じゃ無くなっていくような気がした。

 話しかけてみても考え事をしてるのか上の空になる事が多く気の無い返事。

 何時もは私を挟んで両隣の二人のこの居場所さえ、彼は私の隣では無くたすくんの横を陣取る様になる。


 避ける姿を見て私の事が嫌いになったのか、それとも、考えるのは嫌だけど好きな人が出来たから、異性の私を避けるようになったのか。

 そんな事を毎日悩むようになって、でもどうすれば解決出来るのかも分からない。だから直接本人に何故、と問い質してものらりくらりと言い躱す。


 ―――解らない。


 終いには、彼は私達に対して親友、親友と頻りにそう言い出す。


 ―――何でそんな事を言うのか解らない。


 次第に落ち込むようになる私と、そんな私を理由を知らずとも大丈夫だと慰めるたすくん。そして、そんな私達の姿を、まるでそれが当たり前であるかのような、よく分からない表情を作りだす彼。


 たすくんに相談しようにも、自分の今の気持ちがバレそうで、幾ら幼馴染みでもそれが恥ずかくて出来なかった。

 けれど、たすくんもきっと今の私達の事について何かに気付いている。

 それでも、何があったのかを聞くことはしない。

 まるで私か彼が、言葉にするのを待っている。


 この関係を壊したくなくて、平気な表情を作ってその変わり始めた日常に妥協する。証拠に彼の私達に対する接し方は変わっても、周りには変わらなかった。

 ―――きっと私は此処で、はっきりとその感情を二人に口に出来ればよかったのだろう。


 遂には彼は私達を見ているようで、その目にはまるで別の何かを見ているようになった様な気がしたから。

 あの頃とは違い私達の手を取ることなく今度は置いていく気がしたから。


 前とは違って今度は離れないよう必死に彼の手を掴む私。

 けれど彼の心に触れる事を恐れた私は、未だその背中を引き止めないでいる。


 そして、私達のそんな関係を、何故か羨ましそうな目で見ていた子がいる事に、私は興味を示した。

 何処か彼の目に似ている、そう思った。

 だから声を掛けた。何かを変えられる、そう思って。

※思い付きと勢いで書いているため、今後話の内容、矛盾点等を少し訂正する場合もありますが、流れは変えないようにします。申し訳ありません。


ブックマーク、いいね、評価、感想、誤字報告ありがとうございます。


諸悪の根源である主人公の背中を見てから今に至るという内容。

何度も背中と描いてますが前話の行動により春辺は主人公の背中を通して心を見ようと必死になっているというのを書きたかったのですが伝わりますでしょうか?

これで次の描写に繋がったかな?所々矛盾点は修整します。

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