30話
学ランから体操服へ着替え、朱音と共にクラスの元へと戻る前。
その際に先程会った親二人は未だ同じ場所で何か話していたので軽く談笑、というよりは朱音だけが会話に混じり俺は先程の姿を実の母に見られた恥ずかしさを隠しきれず少し距離を離してだんまりを決め込んだ。
俺を一瞥して含み笑いを浮かべた母さん、許すまじ。
少しして朱音も満足したのか、二人に手を振って俺の元へ、そうして皆が待つテントの方へと歩を進めた。
「ヒロくんのお母さんにも見られちゃったね。セーラー服す・が・た」
「マジで来るとは思ってなかったんだが。やってくれたよお前のお母さんも。それと、勘弁して貰えませんか朱音さん。俺の心はボロボロだ」
「どうせ皆にも見られてる訳じゃん?だから堂々としておけば大丈夫!」
「何も大丈夫じゃないんですがそれは。というか堂々としてたらそれはそれで問題だろ。まるで俺が女物の服を着ることに慣れてるみたいじゃないか」
きっと大丈夫だよ〜、と足取り軽く呑気に言う朱音対して俺はますます足取りが重くなる。朱音の応援団時の格好は問題無いだろう。格好良かったとか称賛されるに違いないし。逆に俺は玩具にされるのが目に見えている。特に男子共にな。
「ふんふん。楽しいね〜。高校生活」
「確かに楽しく過ごせてはいるけど。まぁ俺は……いや何でもないわ」
「え〜?何?教えてよ」
「教えませーん」
言葉を濁した俺に頬を膨らませぶーたれた朱音を宥める。ここで二人が結ばれた姿とその先が見たいだなんて口が避けても言えない。それに俺がこんな事を考えていると二人が知ったらどんな行動を移すか想像が出来ないから。
「ほら、もうすぐ着くぞ」
「うん。ヒロくんは覚悟したほうがいいかもね。男子達がすっごい笑顔で待ってるよ」
「うっす」
☆☆☆☆☆☆
「新藤くぅん。ねぇねぇ今どんな気持ち?どんな気持ちぃ!?」
「殺すぞ蔵元」
「そんな事言っていいのかなぁ新どがぁっ!」
案の定人を苛立たせる顔をして問い詰めてきた蔵元に対して、イラッときた俺は蔵元の顔面を手で鷲掴み全力で指先に力を込める。食い込む感覚を感じながらも情けはしない。
「俺の顔が!イケメンに生まれ変わっちゃううぅぅ!」
「お前余裕あるだろ。もういっちょいっとくか?」
「冗談!冗談だって!へへっ似合ってたぜ新ごぉ!」
「記憶が飛ぶぐらい陥没させてやるよ蔵元ぉ」
俺にアイアンクローをされながらもイジる事をやめない蔵元にさらなる鉄槌を下す。痛そうにしているのだが口元は未だに吊りあがっておりニヤニヤしているのが解るほどだ。
「そ、そういえばあの服って誰から借りたんだ?」
「朱音」
「殺すぞ新藤!!」
「感情ブレブレじゃねぇか。こえーよ」
借りた相手が朱音と知ると否や俺の顔へと同じ様に手を広げ腕を伸ばしてきた。それを顔を少しずらして避ける。
数回程攻防を繰り広げた所で佑が近付いてきた。
「はいはい、そこまでだよヒロ。蔵元もイジるのはやめようね」
「……佑がこう言ってるから今回は見逃してやるよ」
「へへ、感謝感激雨あられだぜ浅見。新藤は覚えておけよこら。まぁ慣れてるから大丈夫なんだけどな。」
俺と蔵元のやり取りに佑が宥めてきたため仕方無く手を離す。
蔵元のこめかみには点々と赤い模様が浮かび上がっているが意外にも余裕そうである。野球部の仲間にでも同じような事を喰らっているのだろうか?
「まぁ、似合ってたよヒロ……ふっ」
「何で止めに来たお前が俺をイジり始めるんだ?同罪だ!おら!!」
「いだだだだだー」
言ってはならない言葉と鼻笑いをして来た佑に、本気では無いアイアンクローをかます……のだが、佑の声の調子を聞くにまるで堪えていない上に抵抗する素振りも見せない。
おかしいな。蔵元にやった程では無いにしろそこそこ力を込めているのだが?
ぱっと手を離して佑の表情を窺ってみる。一見いつもの無表情に見えるが、何故かそこはかとなく嬉しそうな顔をしていた。何で?
「ヒロと蔵元のやり取りを見てたら楽しそうだったから、混ざってみた」
「心を読むなよ。怖いぞ」
疑問に思っている俺の表情を読み取ったのか、佑はそんな事を言ってきた。
というか確信犯じゃねぇか。わざと笑ったのかこいつ。
「普段笑う事が少ないからマジで笑われたと思ったじゃねぇか」
「思い出し笑いしたのは本当。今も堪えてる途中だから」
「なら少しは顔を変えやがれよ」
よくよく佑を見てみれば、確かに肩がほんの少し揺れている。先程見たときは俯いていた程だったので、今は少し笑いが引いているぐらいだろうか。
「それより顔は大丈夫か?結構力込めたんだが」
「怪我は無いよ。ヒロの握力が思ったより貧弱だったから」
「安心したと思ったのに急に貶して来るじゃん。もしかして怒った?」
「怒ってないよ」
恐る恐る尋ねた俺に佑は気にしてないようで顔を横に振りながら答える。しかし何故俺の握力が馬鹿にされなければならないのか。コレガワカラナイ。
「ねぇ新藤君」
「げっ高垣」
俺と佑の会話に急に高垣が割り込んできた。そういえばさっきは柄にもなく爆笑していた高垣だ。どうせ俺を馬鹿にするに決まっている。
そう思って身構えてみたのだが、そんな俺を見て高垣は呆れる表情を作ることはなく、微笑みを作り始めた。え、怖い。
「周りに変な目で見られたわ。責任取りなさい」
「何馬鹿な事言ってんの?あれ自爆しただけじゃん。何なら俺を見て笑った責任取れよ」
「あんたが先に教えてれば心構えは出来てたのよ。どうしてくれるの?」
「責任転嫁が過ぎるぞ高垣ぃ」
微笑みを崩し少し御立腹になってふいっと顔を逸らす高垣。普段の調子を知るクラスメイトからすればあの姿は新しい一面に見えるのだろうが、高垣にとっては不本意だったらしく、原因である俺に責任を求めてきたといったところだろうか?どう考えても理不尽の一言に尽きる。
それに、あのままの姿を見せるようになればもっと友達とか出来そうであるのに、勿体無い。
「いや、高垣の素を引き出せる俺が凄いって事だな。うん」
「は?何巫山戯たことぬかしてんの?」
ギロリ、と横目で凍て付くような視線を送ってきた高垣なのだが、ここで怯える俺ではない。人は学習する生き物。こういった時の対応など既に考えている。
「高垣さんや」
「何よ」
「へへっさっきみたいに素を出していけば、彼氏の一人や二人すぐに出来ますぜんっ」
「余計なお世話よ」
煽てて機嫌を取ろうとしたのに、高垣は首に水平チョップを喰らわせてきた。
※思い付きと勢いで書いているため、今後話の内容、矛盾点等を少し訂正する場合もありますが、流れは変えないようにします。申し訳ありません。
ブックマーク、いいね、評価、感想、誤字報告ありがとうございます。
※もう少しでこの章も終わります。長い......




