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3話

 幼馴染みである佑と朱音は、数ある漫画、小説、ドラマでもド定番である家がお隣同士という付き合いから始まったそうだ。

 両家の親も大変仲が良く、どちらかの家へ遊びに行くと高確率で二人の母親が楽しそうにお茶会をしているのを目撃するほど。


 そして、隣家同士の二人は用事がない限りはほぼ毎日一緒に登校している。

 お互い無言で歩く後ろ姿も絵にはなるのだが、一方はお喋り大好きなうら若き女子なため、基本的には談笑しながら仲睦まじく歩いている姿を見る事が多い。

 それは高校生となった今でも変わらずである。


 自然と佑は車線側に、朱音の歩幅に合わせて歩く姿を見て今日も満足である。(後方保護者面)


 そんな二人へ少し自然と足早になりながら近づく。そして右肩にラケットバッグを背負っている佑の空いている肩の方に腕を組ませながら朝の挨拶をするのが俺達の日常である。


 ここで普段実践している登校時サポート術その1。

 ―――親友という立場であっても無闇矢鱈に彼女に触れてはならないこと。


 例え長年の仲であったとしても、好き勝手に男から触れられるのは不快に思われるだろう。ましてや好意を寄せているであろう相手の目の前だ。怒ろうにも怒れない状況を作ってストレスを与えてしまうのはこちらも不本意である。向こうからハイタッチを要求してきてもしてはならない。

 だから俺は必ず佑側の方に近付くようにしている。


「よ!お二人とも!!おはようさん」


「肩重いんだけど……おはようヒロ」


「お〜ヒロくんおはよう!今日も朝から元気だね。いつもの寝癖付きっ放しだけど後で直してあげようか?」


「止めてください死んでしまいます」


「どういう意味それ!」


 そんな光景を周りの生徒に見られてみろ。小学生の時ならいざ知らず、今でやってしまえばあっという間に噂になること間違いない。朱音の汚点を作る訳にはいかないし、彼氏筆頭候補の佑にも失礼だしな。


 いつもの挨拶が済み腕を引いた所でサポート術その2。

 ―――出会い頭にはこちらから軽く話題を提供し会話に花を咲かせるべし。


『今日の朝にさ〜』や『今日は天気が〜』と小さな事でも良いのだ。第三者が合流するとどうしても二人の会話が中断してしまう為である。

 その後には『何話してたんだ〜』と聞けばよっぽどの話で無ければ大抵は混ぜてくれる。


「あー今思い出したんだけど、現国の教科書忘れたわ……貸してくんね?」


「ふっ……同じクラスなんだから無理に決まってんだろう」


「たすくんの言うとおりだよ!無様に先生に怒られちゃえ!」


「授業直前で朱音の机から教科書抜き取ってやろうか?おん?」


「止めてよっ!?」


 ここぐらいで一先ずは終了。

 ちなみに朱音のたすくん呼びは幼少期代の拙さからの名残りであり、何度聞いても気が抜けそうなお間抜けな呼び方だがこれはこれで中々可愛い愛称である。

 俺は出会った当時からヨシくんでは無くヒロくん呼びだ。佑の事をたすくんと呼んでいる事から喜浩の浩の部分を呼ぶようにしたらしい。幼馴染みと親友とでは違う愛称の差に内心残念と思うどころかむしろ歓喜したものである。こう、あぁこの子はコイツの事特別な感じで呼んでるんだなぁ、といった、詳しく言語化出来ない幸福感?が湧いてくる。


 佑は俺の事はヒロ、朱音には名前呼びである。むしろ佑が現代パリピ(死語)風にひろピー、等と俺を呼んだ暁には『染まったのか。俺以外のやつに……』なんて言ってその晩は枕を濡らすことになるだろう。

 いや、待て。クールな顔でひろピー呼び。視点を変えてみればこれはこれでギャップがあって良いのでは?いや無理だな。


 さて、次は『何か話してたけど何の話?』開始。


「そういえば、さっきは何話してたの?」


「昨日の放課後、たすくんと一緒にヒロくんの事待ってたのに結局来なかったから何してたんだろうねぇって話してた」


「待ってたんだぞ。珍しく用事あったとか?」


 どうやら昨日の放課後での俺の話だったらしい。

 高垣との会話の最中に見えた光景は俺を待っていたが故のものだった。これといって約束とかしてなかったのに二人して待ってくれていたとは、親友として感動するぜ。


「あぁ、あん時な。高垣と話してた」


「詩織ちゃんと?お?なになに恋バナとかですかぁ?」


「ほー俺も興味あるな」


「……呆れた目でウケルって言われた」


「どういう状況だったのそれ?」


「秘密で〜す」


 お前らとの馴れ初めと夢を語ったら頭恋愛漫画と言われましたなんて恥ずかしくて言えない。

 もしかしたら高垣の方から朱音に伝わるかもしれないな。後で口止め用の賄賂を渡さねばな。


「そうそう。高垣と教室で話ししてたらさ、二人がそれぞれお誘い受けてたの見たけど、部活は休みだったん?」


「昨日は顧問が風邪で休んだらしくてな。自主練って事になって、ある程度練習したら解散になったんだ」


「うちの美術部も何時まで、っていうのが無いからね〜。昨日は気分も乗らなかったし先輩達も今日は終わり!って言い出したから早めに終わって皆を待ってたんだよ?連絡しても既読つかなかったし」


「おっすまん、その時はもう家に帰ってたわ。そんでメールは家に居たときに来たわ」


 佑はともかく、朱音に関しては相変わらずマイペースな様で何より。

 俺は帰宅部、佑はテニス部、朱音は美術部に入部している。登校時とは違い部活動時間がそれぞれ不規則だったりするので下校時は三人のうち誰かしらが二人の帰りを待つ事が殆だ。下校中に物騒な事も起こりうると考え俺と佑で朱音一人で帰らせないようにしているのもあるが。

 基本的には帰宅部である俺が二人を待つことが多いが、昨日みたいに用事があって遅くまで学校内に残る場合は二人で帰ってもらう事もある。


 昨日は二人共お話と見学それぞれに着いて行ったので、最後は二人で一緒に帰るだろうと思って一人で帰った。家に着いて煎餅を食べながらテレビを見ていると佑からは『何処居るの?』と、朱音からは『もう帰るからね!』とメッセージとお怒りスタンプが届いていた事に気付いて遅れて『すまん許せ』と返してその日は理由を聞かれることも無く会話は終了。


 そんな会話をしながら三人で仲良く登校。これが小学生時代から続くどこにでもあるような平穏な日常。

 そして、この先で変化するであろう二人の日常に胸が踊る。


「うわっヒロくんまた変な顔してる」


「変なって何?変なって。もうちょっとオブラートにだね……」


「ふっ」


「佑も鼻で笑うなよ。え?そんな変なの?」


 けれども。

 このぬるま湯のように浸っていたくなる日常が変わってしまうのを、心のどこかで不安に思う俺を許してほしい。

主人公はがばがば理論を発揮しています。

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