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27話

「うえ〜まだヒリヒリするぞ」


「俺もだよ。何処かで仕返ししないとね」


 男子騎馬戦も俺の思惑通り?進み、今は皆で自陣のテントに戻り各々が自分の椅子に座り既に始まっている女子騎馬戦を眺めている。俺は未だに痺れる両手を冷やすようぷらぷらと揺らしながら、隣に座り俺と同じように片手を揺らしている佑に話しかけた。


「朱音のやつ気合入ってんなー。さっきのでスイッチでも入ったか?」


「さぁ、でもそろそろ決まりそうだけど」


 小柄な部類に入る朱音が騎手である為か、対面で構える朱音より身長の高い赤組騎手は上半身をすばしっこく動かす朱音に翻弄されその手を尽く宙に空振りさせているが、相手の攻撃が続くため朱音の方も攻め手に欠けており頓着状態。土台の皆も朱音が落ちないよう必死に騎手の体を支えているが女子の身体能力でこのままだと何時まで持つものか。


 男子よりは大人しい騎馬戦であるが、なんというか華やかさがあって見ることに飽きは来なさそうである。周りの皆もどうなることかとじっと騎馬戦の行先を見守っている。


 すると土台の先頭にいた高垣は皆に何かを指示をしたと思いきや、急に相手側に体を寄せ始め、不意を付く形で朱音が素早く相手の鉢巻を奪取する事に成功した。


「ブレインは高垣か。ナイスだぞー!その調子!!」


「高垣さんなら作戦上手く立てられそうだしね。頑張れよー!」


 俺と佑はたった今鉢巻を取ることに成功した朱音グループに声援を送る。こちらに気付いた朱音は笑いながらガッツポーズを送り返してきた。今は赤組が近くに居ないから良いけど戦場ではそれは油断禁物ですぞ!!


 俺と同じ事を思ったのか高垣が朱音に何かを言い、そして次の相手の元へと移動を始めた。


「春辺さんて何度見ても笑顔がめっちゃ可愛いよな」


「だよなー。まぁ会話とかすると結構見せてくれるけど」


「フフン。そうだろうそうだろう」


「何お前が誇らしげなんだよ!まぁ昔から仲良いらしいしな。新藤と浅見は」


 こちらに向けた朱音の笑顔を見た男子は改めてその可愛らしさに見惚れたらしく、コソコソと話し始めたのでそれを聞いていた俺もそれが誇らしく思い、代わりに返事を返したのだが新井から何故かヘッドロックを喰らってしまった。解せぬ。


「そういえば高垣さんは綺麗に笑うよね」


「え、いつも浅見みたいに無表情じゃんあの人。宮本はいつ見れたん?」


 今度は高垣の話になった。沖田が言うようにクラスに居るときは基本無表情の高垣だが、どうやら宮本君は見たことがあるらしい。確かに、高垣は可愛いというよりは小さく笑う様は綺麗な部類に入る。

 というか宮本君はいつ頃見たことがあるのだろうか。内容次第ではそれで高垣をおちょくってみよう。焦る高垣を見るのが楽しみだ。


「高垣さんの近くで新藤君が馬鹿やった時」


「新藤貴様!新井、そいつを処すんだ!」


「ぐえええぇぇっ!ギブギブ!?」


 宮本君の返しにより沖田の指示によって新井からの締め付けが倍増した。俺は悪くないのに何故だ!!


「ほら、馬鹿やってないで皆も騎馬戦見なよ。もう場面が動いてるよ」


 馬鹿をやっていた俺達は佑の一言に新井は俺から腕を放し、皆して騎馬戦の動きを見始める。

 既に先程の男子騎馬戦の時とは違い赤組が優勢になっており、1-B女子組は朱音グループのみで今は一対ニの形で相手と対面している。


「これは、無理かも。恐らく取られるね」


「あ〜厳しいなこれは」


 全体を見るからに白組の劣勢。そしてこのまま時間終了となればまた赤組が点数を巻き返す事になるが、騎馬戦が始まる前よりは点数自体は縮まっているのだ。圧倒的点数差になるならこの先やる気が少しは下がるかもだろうが、今はまだ体育祭が始まってばかり。幾らでもチャンスはあるし白組の先輩達もむしろ燃え上がって頑張るかもしれない。


 そう推測しているとやはり朱音達は二組相手に為すすべもなく鉢巻を取られ、その瞬間に終了のホイッスルが鳴った。


「さて、落ち込んでなければいいけどなぁ」


「そうだね。朱音なんか特に張り切ってたからね」


 俺と佑はお互いにこれから先の展開を予想し苦笑いを浮かべる。周りにいた男子達も俺達と一緒に女子組を待つとしよう。


 ☆☆☆☆☆☆


「負けちゃった……」


「ごめんなさいね」


 少し悔しそうに顔を歪める朱音と高垣。他の女子達も負けちゃったね、と言いながら二人と同じようにしている。白組が勝っていた状況だからか余計に皆勝ち越す気でいたといったところだろうか。少し暗い雰囲気になりかけどう励まそうか悩んでいたら、そこに救世主が現れた。


「ほらほら。まだ体育祭は始まったばかり!頑張るチャンスは幾らでもあるんだから、勝った負けたで落ち込んでたらきり無いよ!」


 ぱんぱん、と手を叩きながら落ち込み気味の女子達に活を入れ始めた前田さん。今日もおでこを光らせながら、彼女らしい励まし方を送っている。

 そういえば体育委員だったな前田さん。元気な姿はこういう時は頼りになる。


「そうだぜ皆。点数なんか気にせず楽しんだもん勝ちだぞ!」


 もう一人の体育委員である蔵元もニシシ、と笑いながら前田さん同様、女子達を励ましている。


「……そうだね。ちょっと難しく考えすぎてたかも。別にこれが最後ってわけじゃないし私達は一年生!我武者羅に頑張ってみるよ!」


 最初はうーんと唸っていた朱音だったが、二人の言葉に気持ちの切り替えが出来たのか代表して答えると、周りもそれにつられてそうだね、と言い出し見る見る内に表情が明るくなっていった。


「たすくんとヒロくんもゴメンね」


 てへへと苦笑いながら朱音は俺達にそう謝ってきた……のだが、そもそもの話だ。別に俺達は謝られるような事をした覚えがない。俺は佑が目立てるように出来たし、佑は鍛えた成果を発揮する事が出来た。万々歳なのである。


 そんな朱音を見てから俺と佑は目を合わせて頷く。そして二人して親指と中指で輪を作り、それを朱音に差し向けた。

 いきなりの事に朱音は目をはためかせたが、俺達に何をされるか分かったのかあわあわと慌てだし、このままだと逃げるだろうと思った俺達はすぐさま空いてる手で朱音の両肩を抑え逃げられないようにする。


「な、な、何で二人ともデコピン作ってるの!?」


「「ハイタッチの御返し」」


「へ?ハイタッいっだぁ!!」


 一応力加減をしているが、俺達は朱音のおでこへその指を解き放つ。ベチチッと鈍い音が鳴り予想より痛かったのか朱音は少し涙目になった。


「な、何するの!!女の子のおでこにこんな事をして!二人のそれめっちゃ痛いんだからね!」


「きつけの代わりですぅー。それにいちいちこんな事で落ち込んでんなよ。朱音」


「そうそう。朱音が落ち込むとクラスの雰囲気も悪くなっちゃうよ」


 良くも悪くも、昔からクラスの中心に居る朱音は周りに影響を与えやすい。今回がいい例だ。昨日から朱音のやる気に他の皆も当てられてたし先程のようにその逆もまた然り。まだ短い期間でこれだけ影響を与えられるのは偏に朱音の人懐っこい性格故だろう。

 俺達が小さい頃はこんなやり取りが何回かやったことあったなと懐かしい雰囲気を味わえたが今はこの先を見るべきだ。


「んじゃ、俺はトイレ行くから後はよろしくな」


「あ、逃げる気でいるねヒロ。させないよ」


 今はおでこを抑える朱音がこのあと文句を言いながら俺達に詰め寄ることは目に見えている。その対応と、ついでに朱音を慰める役目を佑にしてもらう為に席を離れようとしたのだが、俺の思惑に気付いたのか佑は俺に腕を伸ばし捕まえようとした。


「おっと。お前の動きなど親友の俺にはお見通しよ。さらばだ!!」


「ヒロくん後で覚えとけよ!」


「おほほほ。御口が悪くなっていますわよお嬢様」


 佑の動きを予想していた俺はにょろっと動いて回避する。ちょっと動きがイソギンチャクのようになって気持ち悪かったかもしれないが逃走を開始する。そしてやはり朱音は何かしら言おうとしていたのか、逃げる俺に口調が悪くなりながらもそんな台詞を言い放つ。どうせデコピンをやり返すぐらいだろうし気にする程では無い。


 ついでに未だ不機嫌そうな表情の高垣に近寄る。こいつが案外負けず嫌いというのは理解している。周りがなんと言おうと自分の中で解決しない限りは心のどこかで靄が掛かりっぱなしになるであろうことも。

 だからそんな事を忘れる様な言葉を放つことにした。慰めとかではなく、朱音同様に強めのハイタッチをかました御返しである。


「高垣すわぁ〜ん」


「……何よその腹が立つ顔は」


「貴女の笑顔、宮本君が綺麗な笑顔をするって言ってましたよ。良かったですね〜」


「……後で覚えておけ」


「言った手前あれなんだが、マジで何されるか分からんな」


 朱音と同じような台詞を吐く高垣に俺はこの後どうなることかと身震いする。失敗したかな。

 正直朱音の宥め方は熟知しているが高垣が俺に報復することで気が晴れるかどうかは分からない。まぁ後の事はその時の自分が何とかするだろうしいいか。


 さぁ、さっさとトイレに行きますか。俺が出る種目は午後に集まるし体力温存しなければな!

※思い付きと勢いで書いているため、今後話の内容、矛盾点等を少し訂正する場合もありますが、流れは変えないようにします。申し訳ありません。


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