25話
雲一つない青空から太陽の日差しが差し込む、運動するにはもってこいの体育祭当日。
開会式が始まっていないにも関わらず、観客席やグラウンドの空きスペースには既に親、兄妹、校外の友達といった在校生の関係者で溢れ返っている。中にはやはり三脚を立て、息子、娘の奮闘をカメラに収めんとしている親が大半で他は紫外線対策をして見やすい位置を陣取っており、若者は自分達の学校との違いを探しているのか校内の構造をきょろきょろと観察している者を多く見かける。
暫くして屋外のスピーカーから無機質な音が流れ始め、次に放送係員の生徒の声で集合の合図が流れ、全校生徒がグラウンドの中央へ各学年順に整列を始める。
整列が整い次に朝礼台に立った校長先生はマイクの位置を調整して最初にハウリングが鳴ったりとしたスピーチを始め、次に三年生の二人組が学校全体で練習した時とは違った気合の籠もった声で選手宣誓を行う。
開会式も終わり、生徒達は各クラスのテントに向かう。開始直後には早速だがクラス代表男女一組が出る全クラス100M走があるため、選手は準備を終えたら待機所に行かねばならない。選手の二人が準備が整った所でクラスの皆から緊張するだろうけど頑張って、と激励を送って若干緊張で硬い動きをした二人を見送った。
「よし、やってやろうぜお前ら!!」
蔵元が全員に向けてそう言い放ち、『おー!』やら『気合入ったかも』と皆笑い、肩を叩きあう者や体を解し始めた者などクラスで一致団結しつつあり、初っ端から良い調子である。
「よっしゃ、俺達も頑張ろう」
「騎馬戦も少ししたら始まるし今のうちに軽くストレッチしようか。ヒロ、一緒にやろう」
二人でテントの外から出て、空いてるスペースでストレッチを行う。俺と佑がペアでストレッチをしていたのだが、少しして直ぐ側に朱音も近付き、何やら物欲しそうな顔で俺達を見ていた。
「私も騎馬戦でるから混ぜて〜」
「了解。まぁ軽くだから直ぐ終わるだろうけどな」
「それでもいいの!」
途中朱音も加わり三人で準備運動をすることに。ラジオ体操の要領で話をしながらしていたのだが、朱音が体をくの字に曲げて手を足に付けようとした時だった。
「誰か体押して〜。後ちょっとで手が付きそうなの〜」
手と足があと少しといった所でグググと体を曲げてそんな事を言う朱音のその言葉に俺とヒロは目を合わせる。どっちがする?というアイコンタクトを取る俺達だが、ここは勿論佑がするべきだろう。
「ヒロやってあげて」
「たす……え、俺?何でなん」
俺が言葉を放つ前に食い気味にそう言ってくる佑。
いやいや、佑君や。それは君がするべきだと俺は愚考致しますが。
「ヒロくんは〜や〜く〜!」
俺達の会話が聞こえていたのか、名指しでそう言ってきた朱音。
本当は佑にしてもらいたい所なのだが強引に代わってもらうのもな、と思い仕方無く俺がする事に。
「はいはい今行きますから。全く、仕方無いでちゅね〜」
「馬鹿にしないでよ〜!普段は足に届くんだから!」
朱音が言う通り普段は余裕で足に触れるところまで体を曲げられる筈なのだが、やはり緊張してるからなのだろうか。
肩に手を置き小さい力を少しずつ加え準備運動のサポートをする。
うむむむ。俺がしたいのはこういったサポートじゃ無いんだがなぁ。
「いたたたた!」
「あ、ごめんね」
☆☆☆☆☆☆
100M走はやはり先輩達が強く上位を埋められ、しかも赤組が点数を稼いでいった。次の二年生組の大綱引きでは白組が挽回せんと巻き返し徐々に赤組の点数へと近づく。
そして次、もうすぐクラス二組組、計三十組からなる男子騎馬戦が始まるため俺と佑含めたメンバーは待機所で談笑していた。その後ろでは朱音と高垣含めた女子騎馬戦の選手達も待機している。
ここで白組が一位を取ることで、挽回せしめたこのメンバーは注目を浴びることが出来るはずだ。
「佑、俺達の事は馬だと思え」
「うん、騎馬戦だしそうだね。それは今更だけどどうしたの」
「宮本君、仲田、新井。俺達は馬であり鹿なのだ」
「新藤君、頭でも打ったの?しかも何で僕だけずっと君付けなの?そろそろ理由教えてよ」
「気にしないでくれ宮本君」
「また!どうして!もっとフレンドリーに接してよ!?」
あの日、宮本君には申し訳無い思いをさせてしまったからな。罪悪感から君付けになってしまうんだ。練習中もずっと君付けで呼んでたし、理由は恥ずかしいから言わないけど。
話が脱線しかけたが今は説明をしなければ。
「それも追い込まれた獣の如くだ」
「つまりは俺達が馬鹿って言いたいのか新藤貴様」
「追い込まれたって点数でってことでしょ?それがどうしたの?」
「落ち着けお前達。もしここで俺達が一位を取って白組が巻き返せば……どうなると思う?」
「「……まさか」」
ゴクリ、と俺の思惑に気付いた沖田と新井。宮本君は俺の服を掴んで引っ張っており話を聞いていないが今は置いておく。計画に支障は無いのでな。
「俺達はヒーローになれる。その時が来た」
「ヒロだけにって事?」
「司令塔の佑はお黙り!!」
ギャグなんて言ったつもりは毛頭無い!確かに俺の名前に掛かってしまったけどもな!
「俺達は馬鹿みたいに体を動かして佑が点を稼ぎやすいように動く!!いいなお前達!」
「「へへ、やってやろうぜ」」
興奮に震える二人にはひじょ〜に申し訳無いが、これは騎手である佑に注目が浴びるチャンスなのだ!これを突破出来た暁には女子勢から視線を集められ、それを見た朱音はむ〜っっと頬を膨らませやきもきする筈だ。
しかもその状態で学年対抗リレーでアンカーを努める佑とバトンを渡す朱音を見る皆の衆。練習で見たことある生徒達は改めて、まだ見かけてはいないが観戦に来ている二人の両親とその他親含めてこう思うはずだ。
『あの二人、なんてお似合いなんだ!!』
ふははは。パーフェクトだ俺。
思わぬ展開に俺の心は今まで以上に燃えている。もしこれが二人にバレた際には潔く罪を認めよう。
沖田と新井がやる気に満ちた所で選手入場のアナウンスが始まった。三年生組から入場し続いて俺達も中へ。さぁ頑張ろうぜ佑、鉢巻は絶対に死守してくれよ。あと皆も頑張ろうな。
それと宮本君、いい加減服から手を離しなさい。もう始まるから。
★★★★★★
「あの馬鹿、こっちにまで声が聞こえてるの気付かないわけ?」
「あははは……赤組の人達が逆にやる気になってたね。白組に負けないようにって」
「新藤君って結構愉快な人だね。周りの女子達皆クスクス笑ってるよ?色んな意味で注目されるんじゃないかな」
「……む〜っ!!」
「朱音ちゃん、どうどう……」
※思い付きと勢いで書いているため、今後話の内容、矛盾点等を少し訂正する場合もありますが、流れは変えないようにします。申し訳ありません。
ブックマーク、いいね、評価、誤字報告ありがとうございます。




